■春シン(8)
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なお、伏木の青葉邸付近、菓子神社付近も結構地面が傷んだのだが、千里は手の空いていた四国組を呼んで修復工事をさせておいた。それで煌たちはウィングライナー伏木駅から青葉邸へ、おなじみのアルハンブラ(フォルクスワーゲン・シャランのOEM)で運ぶことができた。
津幡姫は復旧工事に感謝して「お礼に性別を変えたい者は変えてやるぞ」とか「美女に変えてやるぞ」とか言っていたが、希望者は居なかった!でも、御守りの翡翠のペンダントを配っていた。
プールに関しては
津幡のプライベートプール→一般用プール(アクアゾーン)→青葉邸のプール→菓子神社のプール→フラミンゴのプール
の順に修理してもらった。
「長さが微妙に変わってしまうかも知れませんが」
「気にしない、気にしない」
なお、ムーラン伏木店長・佐藤純の実家は能登町にあり、今回の地震で崩壊したのだが、若葉から千里に再建してあげてという要請があり、1月下旬に再建した。(トレーラーが入れない小さな集落で、ムーラン建設の手には負えなかった)
森中樹音は、保護者代わりの信濃町ガールズ担当佐々木マネージャーを通して、進学予定の中学に女子制服で通学したいと申し入れた。中学ではこういう事例は結構あるので取り敢えず面談をした。
「君女の子にしか見えないね!」
と校長先生は驚いていた。それで、保護者から「女子制服選択届け」を出してもらうことで、女子制服での通学が認められた(礼音は届けとか出さずに、なしくずしで女子制服を着ている)。樹音はすぐに女子制服の注文をした。採寸してくれた人は樹音が女の子でないとは夢にも思わなかったようである。きっと彼は入学式のみならず小学校の卒業式にもそれを着て出席することができるだろう。
俊美は結婚式祝賀会の案内状を大学でクラスメイトや卓球部関係者に配った(いづれも主として女子)。披露宴ではなく祝賀会なので、招待状ではなく案内状である。
「服装も平服でいいから。御飯食べに来て。学割にするから」
「卒業式の後なのに」
「3月いっぱいまでは学割で」
「会費制っていいね」
「大学出てすぐ結婚って凄いね」
「実はできちゃった婚」
「へー、妊娠したんだ?予定日はいつ?」
「9月。避妊はしてたけど、失敗しちゃった」
「よくあること、あること」
「ただ祝賀会で私の性別の話題は出さないでほしいんだけど」
「OKOK」
立石も会社で配った。次長は女子の内定者にも送ったようである。
会費は内定者の分は次長がまとめて出してあげるなんて言っていた。
立石は俊美に言った。
「ね、としちゃんの実家の件だけどさ」
「うん」
「婚約指輪買う代わりにさ、その再建費用を出そうか」
「桁違いに大きな費用が掛かるよ」
「せめて頭金くらいでも」
「一応解体をしてもらった村山さんからパンフレットはもらったのよ」
と言ってもらったパンフレットを見せる。
「まだ30歳ちょっとの女の人だけど、建設会社の社長さんなのよ」
「へー。お父さんとかの後を継いだのかな」
と言って彼もパンフレットを見た。
「結構ここ安いのよね。日本中にたくさん森林を持っているらしい。森林はカナダとかノルウェーにもあるんだって。だから杉で3LDKが2000万円から、輸入材のSPFなら1200万からだって」
「安いね。SPFって合板か何か?」
などと言って立石はパンフレットをよく見た。
「ねえ、としちゃん、SPFだと120万からと書いてあるように見えるんだけど」
「え?まさか」
「だって数字よく見てみなよ」
それで俊美は再度数字の桁を数えた。確かに言われた通り120万円と書いてあるように見える。
「でも家が120万でできる?」
「いや合板とかでならあり得ると思う。家というより小屋になるかも知れないけど」
それで俊美は千里さんに電話してみた。
「うん。よく桁を間違う人がいるんだよ。SPFなら2DK 80万円、3LDK 120万円くらいから作るよ」
「なんでそんなに安くできるんですか!?」
「うちはユニット工法の専門店なんだよ。お部屋とか台所とかトイレとかのユニットをたくさん量産してストックしていて、トレーラーで運んでって(建前)、現場ではそれを組み合わせてボルトで締めるだけで、家ができる。だから工期も基礎のコンクリートが固まるまでの一週間だけでいい。家自体は1日で組み上げる。人件費が掛からないから安い。元々の材木も自己所有林から切り出したものだし、九州には藺草(いぐさ)の畑持ってるし。私アルミ屋さんとかガラス屋さんにプラスチック工場も所有してるし、鉄鋼会社の大株主でそういうのも安く手に入るし。ユニットの製造もほとんどロボットがやってるから」
それで家を建てるなら建築士を行かせるよということだったので、次の土曜日に建築士さんに来てもらい、立石と俊美、俊美の両親に、みどりまで入れて打合せをした。それでSPF材より安い国産樅(もみ)材で3LDK 110万円で俊美の実家を再建する話がまとまった。国産樅は安いがSPFほど数は確保できないのでカタログには載せてないらしい。
俊美の父は言った。
「この予算で実家を建て直せるなら、お前達の新居も一緒に建てたら?」
「え〜!?」
それで金沢市郊外に小さな土地を買い、そこに3DK程度の家を建て、ついでにみどりも1年くらい同居することになった。俊美の妊娠中のサポート役も兼ねる。こちらもやはり国産樅を使い100万ということになった。金沢市郊外の土地は約40坪で1500万円の所を立石が見付けた。それで、そこの土地と2軒の家、合わせて約1700万円を住宅ローンで払うことにしたのである。立石の勤務先、俊美の就職予定先が中堅の会社なので、このローンをH銀行が引き受けてくれた。正確には家のローンと土地のローンを別々に組み、家のローン(2年)が終わってから土地のローンを返し始める。村山さんの会社の物件に関してはこういう2段階ローンが認められているらしい。
それで、まず2月中に俊美の実家が建て直されたが、見た感じ充分立派な家に見えた。
「安い材料で作ったようには見えませんね」
「国産樅は丈夫ですから。国内市場では結構高いのですが、うちは自己所有林にけっこう生えているので実は輸入材より安く手に入るんですよ。数としてはSPFほど確保できませんが」
「へー」
(しばしば“人間”にはとても切り出し困難な場所に生えている。千里はそういう林を多数買っている。なお原則として木を切ったら同じ本数以上の植林をする)
3月中に俊美たちの新居も建設されて、俊美達はそこに移動した。みどりもそちらに移動したが、ごみの処分が大変だった!両親と立石とで頑張った。俊美は妊娠中なので、あんたは休んでなさいと言われた。
「立石さん、ごめんね。こんなゴミだらけの所の片付け手伝ってもらって」
「いや友人の中にはもっと酷い奴もいますよ」
「やはり上には上がいるもんだね」
「下には下がと言うべきかも」
荷物自体は立石が軽トラを借りてきて運んでくれた。あれだけゴミが多いととても運送屋さんとかには頼めなかった。引越シーズンでもある。
2月中旬、礼音(立山煌)は頼んでいたJ高校の男子標準服を受け取った。その直後のことだった。彼がテレビ局でいつものように女性用楽屋で着替えていたら、坂出モナさんに声を掛けられた。
「きららちゃん、J高校に行くんだって?」
「はい、合格しました」
「あそこ私の出身校なのよ。私が着てた制服あげるね」
と言って頂いてしまう。
「ありがとうございます。でももう男子標準服作っちゃったんですが」
「だって、きららちゃん女子制服着たいよね。学校の公式行事とかでは男子制服着ても、普段は女子制服着てればいいよ。きららちゃんくらい女の子らしかったら女子制服着てても誰も文句言わないから。しっかり女子高生してね」
なんでみんなぼくが女子制服着たいだろうって思うの〜?
2月、彼はまた“きらら”ちゃんモードで、カレーのCM、コロンのCMにも出た。
「コロンのCMなんて女の子でなくていいんですか?」
「きららちゃんは女の子だし」
「そんなあ」
ところで“きらら”は昨年秋、『銀座アルジャン亭』という単発ドラマ(主演は松原珠妃さん)にウェイトレス役で出演したのだが、このドラマが好評だったため、4月から2クール(半年)、連続ドラマとして放送されることになった。それで主演の松原さんの推薦で“立山きらら”に単発ドラマ同様ウェイトレス役で出てほしいというオファーが来たのである。
普通ならお断りするのだが、松原珠妃さんの推薦では無碍には断れない。それで、ゆりこ副社長は“セリフ無し”という条件でこのオファーを受けたのである。
「え〜?レギュラーでウェイトレス役なんですか?」
「セリフ無しというのを条件にしてもらった。表向きは声で男とバレるからということにしている。でも本当は声で女の子とバレるからだね」
「えーん」
「君は喉仏が無いから声を出さない限り普通に女の子に見えるからね」
それで、“立山きらら”がとうとうドラマにレギュラー出演することになってしまったのである。
「社長に許可取るから女子制服でテレビ局入りしてもいいよ」
「男子制服を着ます」
H南高校では2月19日(月)から学年末試験が始まったが、吉川日和(入瀬コルネ)はその直前16日(金)から学校に復帰した。
14日に自宅の場所に仮の住宅が設置されたということで、日和は15日に東京から戻ってきたらしい。1月と2月前半の授業を全く受けてないが、高田晃が教科書を貸して試験範囲も教えてあげたので、何とか赤点は取らずに済んだ(日和本人の教科書やノートは地震による自宅崩壊で失われた。でも東京にいる間もベネッセはすっとしていたらしい:ベネッセの教材が送られて来たのを母が転送してくれた)。
そして震災による特例として休んだ日の分はレポート提出で出席に代えてもらったので、成績表の上では欠席日数ゼロになった。これで日和は無事2年生の課程を修了できそうである。東京の高校に転校するにしても4月から3年生になることができる。(徳部のお楽しみの日も延期されずに済む)
2月23日(金)、2ヶ月ぶりの『霊界探偵金沢ドイルの北陸霊界探訪』では、能登半島地震の犠牲者に黙祷を捧げた上で、被害と復旧の状況、1月5日に生まれた真珠の赤ちゃんの報告、定点観測、などが行われた。珠洲市や輪島市で復活した住宅街などもレポートされた。
菓子神社付近の液状化でぼこぼこになった地面の様子と、復旧工事が終わり、きれいに平らな路面になった様子も映された。
ついでに今にも落下しそうな幸花のアパートも映された!(後日倒壊した所も映した)
地震直後の人形美術館の様子なども伝えられていた。
「人形美術館は無事だったんですか?」
「門柱が倒れて、門から本館への道がぼこぼこになっただけです。本館は無事です。ウォーキングドールのマリアンが座り込んでいたのを起こしてあげた程度ですね」
「凄い耐震設計になってるんですね」
「いえ、人形美術館は耐震ではなく免震なんです」
「すみません。よく分かりません」
「建物の地震対策には耐震・制震・免震という3つの考え方があるんです。戦後間もない頃に多数建てられた住宅(木造軸組構法)は耐震、つまり家を丈夫に作って(剛構造)、ひたすら地震に耐えるという考え方で作られていますが、限度以上の揺れには耐えられない。阪神大震災とかでもこのタイプの家が軒並み(のきなみ)やられたんです。現在ではこの工法は禁止されています」
「制震というのは、“柳に枝折れ無し”みたいに、家を逆に柔らかく作って(柔構造)、地震が来たら敢えて建物を揺らすことで地震のエネルギーを吸収するという考え方で、古いお寺や神社、現代の高層ビルなどはそういう考え方で作られています。だから神社やお寺は阪神大震災でも多くが無事だったんですよね。1970年代から広まった2×4(ツーバイフォー)(木造枠組壁構法)もこの考え方です」
「東京駅とかが2×4的な考え方で作られていると言ってましたね」
「ですです」
「昔の家って土壁でこれは地震で崩れてしまうけど、崩れることによって地震のエネルギーを吸収する仕組みになっていたんですよね」
「大胆な考え方ですね」
「土壁なんて崩れた土を集めて再度水で練って塗り直せばいいし」
「なるほどー」
「五重塔の真ん中にある心柱(しんばしら)とかも、あれは地面には着いてなくて塔のてっぺんからぶらさがってるだけで、長い間その役割が謎だったんですが、実はあれもそれが揺れることで地震のエネルギーを吸収する意味があったんです」
「ほほお」
「だからスカイツリーにも心柱が入ってますよ」
「高層マンションには欲しいですね」
「そして免震というのは、そもそも地震の揺れを建物に伝えないようにできているものです。戦前に作られた昔の家って、基礎の上に乗っているだけで、基礎と繋がってないんです。だから、基礎だけが揺れて家はそれほど揺れない」
「人形美術館は“浮島(うきしま)構造”といって水の上に船のように浮いている構造になっています。地震波で主振動を起こすS波は水の中を通過できないので、揺れが伝わらない。だからそもそも揺れないんですよね。こういう構造にするには、ある程度広い土地が必要ですが、小さい家でもゴムなどのダンバーを置いてその上に家を建てるなどの手法で免震に近くすることができます」
「ああ、ダンバーの入っているマンションとか最近時々ありますね」
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春シン(8)