■春シン(4)
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立石と俊美は金沢から七尾に向かっていたが、道はほんとに傷んでいてガタゴト道だったし、渋滞が凄かった。立石の実家は取り敢えず家としては無事っぽかった。俊美が挨拶すると、お母さんは
「素敵なお嬢さんね」
と凄い機嫌が良かった。
立石の実家は、電気は地震後20分くらいで回復したものの、水道が止まったままということだった。洗濯物だけのつもりだったのだが、両親はお風呂に入りたいと言ったので、金沢に連れて行くことにした。
それで荷室に洗濯物を積み、後部座席に両親を乗せ、金沢まで走った。
「としみさん、運転うまいのね」
とお母さんは言っていた。
来る時と同様、道の駅などで休憩し、その度に運転も交替した。でも帰路は両親も乗っているので、セックスはしなかった!両親が座っていて後部座席が塞がっているし(そういう問題ではない気がする)
それでほぼ1日掛けて金沢まで行き、立石のアパートで両親がお風呂にはいっている間に俊美が洗濯物をコインランドリーに持っていき洗濯した。コインランドリーは凄い混んでいた。
お父さんが入浴している間、お母さんはミスドを買ってきて食べていたらしい(俊美もお裾分けをもらった)お母さんが入浴している間はお父さんはビールを飲んでいたらしい。
「お前も飲まんか?」
「僕は運転しなきゃいけないからダメ」
サイゼリヤで食事してから、また1日掛けて七尾まで走り、両親と洗濯物を置いて、また1日掛けて金沢に戻った。計4日間のミッションだった。もちろん両親を降ろした後はまたたくさんセックスした。
そして地震から10日ほど経った日。今度は俊美の母から連絡があったのである。
「うち、地震であちこち傷んだけど、このまま住み続けるつもりだったんだけどさ、赤紙貼られちゃって」
「あらあ」
赤紙というのは、地震による損傷が激しく、倒壊の恐れがあるので、退避してくださいというものである。赤紙より軽いが損傷が大きかったり、隣の家が赤紙で、そこの倒壊に巻き込まれる恐れのある家には黄紙が貼られている。
「建て直しとかどうするかはゆっくり考えるけど、あんたん所に一時退避させて」
「うん」
この時は自分は姉のアパートにしばらく同居させてもらおうと思った、しかし母は言った。
「交通機関が停まってるから、あんたレンタカーか何か借りて迎えに来てよ」
それで俊美は立石に相談したのである。
「一緒に迎えに行こう」
「ありがとう」
そこで立石にまた迎えに来てもらい、ふたりで俊美の実家まで半日掛かりで走った。実家は見るからに危なそうだった。これは赤紙で当然と思った。
立石が両親に挨拶すると、ふたりともニコニコ顔だった。
それで両親を乗せて金沢まで走った。
母は立石の居ない時に俊美に訊いた。
「立石さんは、あんたが元は男だったこと知ってるの?」
「彼は知ってるけど、向こうの御両親にはばっくれておこうよと彼は言ってる」
「それがいいかもね」
「でもあんたいつ女の子になる手術受けたんだっけ?」
と母は訊いた。
姉は言った。
「この子、ちんちん切ったのは小学4年の時だよ、中学1年の時、テニスの大会で女子の部に出てるからね。あれって、ちんちん切ってから2年以上経過してないと女子の部には出られないんだよ、だから逆算すると小学4年生までに切ったはず」
「そういう規定があるのか」
「この子いつもスコート穿いてたし」
「セーラー服も着てた」
「5年生の鼓笛隊でもスカートのユニフォーム着てた」
どちらも試着しただけなのに。
「卓球始めたのは5年生の時で、まだ2年経過してないから男子の部に出た。その延長で卓球はずっと男子のほうに出てたね」
「ああ」
「この子パンツは小さい頃からずっと女の子用を穿いてたしね」
「スカートも普通に穿いてた」
「だからテニス部でスコート穿いたんだと思う」
「学習発表会で白雪姫の母親やってた」
あれは女子が誰もやりたがらなかったから、クラス委員に頼まれてやっただけなんだけど。岡安君スカート穿くの平気だよねとか言われて。
「中学高校時代にずっと女性ホルモン飲んでたから、おっぱい大きくなったね」
「ブラジャーは5年生頃から着けてた」
何か勝手なストーリーが作られてる気がする。その内、中学高校を女子制服で通ってたとか言われそうだ。(へー、そうなんだ?)
「お嫁さんに行けるようにヴァギナ造ったのはこの夏だと思う」
「それでぐっと女らしくなったのか」
金沢で、両親は当面俊美のアパートに滞在するが、俊美は立石のアパートに移動することになった!みどりの部屋はあまりに散らかりすぎて、とても同居不能だった。むしろ本人がどうやって寝てるのか不思議だった。
しかしそれで、なんと交際開始1月未満で同棲開始である!
そういう訳で、俊美は“新妻”になってしまった。毎日御飯を作り、彼にはお弁当も作ってあげて夜は毎晩セックスした。一応結婚式をあげるまでは避妊しようと言った。
でも御飯もお弁当も彼は「美味しい美味しい」と言って満足気であった。
俊美は母が、恋愛は“餌付け”だと言ってたなと思った。
成り行きで同棲を始めた日、立石は訊いた。
「としちゃん誕生日はいつだったっけ?」
「7月14日、パリ祭」
「じゃ誕生石はルビーか」
「うん」
「ちょっと宝石店に付き合って」
「ちょっと待って。まだ心の準備が」
「いいから」
と言って、彼は俊美を金沢市内のデパートの中にある宝石店に連れて行き、ルビーの指輪を買ってくれた。こんなのもらうなんて、嘘みたい!
「これはあくまでつなぎの指輪だから。プロポーズする時はあらためてダイヤの指輪を買ってあげる」
「分かった」
それは1〜2年先かな、と、この時は思った。多分彼もそのくらいのつもりだったと思う。
1月11日、真珠は赤ちゃんと一緒に退院した。赤ちゃんはクーハンに入れて邦生が持った。荷物は母や明恵などが持ってくれた。
真珠は4月5日までは産休である。
「ぼくが終わったから、次はあきちゃん妊娠していいよ」
「種の入手先が問題だな」
「サカタのタネじゃ売ってないよね」
「売ってたらこわいね!」
「きっと有名スポーツ選手とかノーベル賞学者のタネは凄い高い」
「大谷翔平の子供とか日本中にうようよ出来そうだ」
なお今月は災害復旧情報の報道のため『石川行こかな』はお休みで、霊界探訪もお休みになる。
1月18日、俊美は生理予定日だったが、生理は来なかった。地震とかもあったし、遅れてるのかなあ、と俊美は思った。
俊美の実家は倒壊して隣の家に迷惑を掛けると申し訳無いので解体することにした。千里さんにお願いして、中の荷物を町内の倉庫に移した上で解体した。費用は町から支給されるので、町から直接千里さんの会社に振り込んでもらった。
「新しい家も安く作るよ」
「少し落ち着いてから考えます」
一応パンフレットをもらった。
「へー、杉材で2000万円から、SPF材なら1200万からか。ほんと安いな。SPFって、どんな素材だっけ?」
(あのぉ、数字を1桁読み間違っていると思います)
1月下旬に学校が再開されると、貴京は金沢に戻ったが、代わりに貴京の母が輪島市に行き、炊き出しを手伝った。
(母が自分の車で輪島に行き、千里がランクルで貴京を連れ帰った:この頃は輪島への道は危険物を積んだ車以外通れるようになっている)
炊き出しは2月いっぱいまで続けた。万奈たちもそれまで留まった。
遙佳は後事を妹に託して富山に戻った。徳部は夏頃まで珠洲に居た。
奈那は徳部の部下の古石さんという女性に能登空港まで送迎してもらった。そこから先はウィングライナーで高校のある七尾まで到達できる。古石さんは、奈那のお母さんに、道がかなり酷いから普通の人にはまだ厳しい、と言っていた。彼女はラリーのライセンスを持っているらしい。
飯田から能登空港までは普通なら車で1時間程度で行くのだが、道が悪い上に渋滞するので2時間程度かかっていた。古石さんは悪路に強いランクルを持って来ていた。それでも合鹿の少し手前付近にはほとんど原野(げんや)かという感じの悪路があった。また道路の脇には動けなくなった車(多くは軽:道路の亀裂や段差を軽の小さなタイヤと弱いパワーでは乗り越えられなかった)が多数放置されていて、結果的に道が狭くなり、渋滞に輪を掛けていた。
(県は何度か道路を通行止めにして、放置自動車をレッカーで撤去した)
更に工事中で片側交互通行の箇所も多数あった。
ウィングライナーの一般の利用者が増えたことから、千里は各駅にトイレを設置すると共に、“防犯”のために各駅におキツネの子を1〜2人ずつ配置した。彼女たちは料金徴収とかの仕事はしない。ただ居るだけである。せいぜいお掃除とかをしている。変なこと(痴漢など)をしている奴がいたら、龍族の子とかを呼ぶ。彼女たちの報酬はもちろん油揚げである!
またインターネット上にはウィングライナーに乗る時の“妥当な支払額”という表が公開されていた。のと鉄道や並行バス路線の運賃額などから推算したもののようであった。ムーランではコメントしなかったが、利用者は結構参考にしたようである。各駅には両替機も置いた。
ウィングライナーの“支払い目安”は奈那の通うN高校でも作成された。最初作った表をムーランの人に見てもらい、「高校生はこのくらいでいい」と少し割り引いた額に修正された。但し奈那はムーランのスタッフなので無料で利用できる。
ムーランとしては本当は全員タダで乗せてもいいのだが、それでは並行するバス会社が楽しくないだろう。
ムーラン七尾のお菓子部門は2月から再開された。奈那は頑張って水車饅頭(回転焼き)を作った。
ウィングライナーは1月29日からは能登空港−桜峠間も再開され、奈那の送迎場所は合鹿に変更された。更に2月12日には、合鹿−宝立間も再開されて、羽咋経由では金沢・富山から珠洲の飯田までがつながった。
それで奈那は2月12日からはウィングライナーだけで通学できるようになった。
最後の、いおり−七尾間は3月1日に再開された。
4月6日に、のと鉄道が全線復旧して振り替え輸送は終了した。しかしムーランでは道路や水道などの復旧作業にあたっている人たちは乗せ続け、年内くらいは一般の利用者も続いた。その後も若干の利用者は続いたようである。県は特にお年寄りは乗せてあげてと言い、ムーラン交通に補助金を支払った。この地域では震災に伴い人口が減って利用者が激減してバス会社が便数を減らしており(珠洲−金沢間の直行バスも無くなった)、住民はとても不便を強いられていた。特に車が使えないお年寄りは深刻である。
また珠洲市から、リゾート地の鉢ヶ崎海岸まで路線を延長してくれないかという話があり(最初から一般客の利用が想定されている)、のと鉄道の廃線跡地(JR西日本が所有している)を転用することにより、飯田−鉢ヶ崎が延長された。
ムーランでは、鉢ヶ崎のリゾートホテル内にベーカリーの支店を設置した。また飯田のレストラン・フレグランスに、ムーランベーカリーのパン工房を併設させてもらった。
徳部は2月14日には、奈那からも日和からもバレンタインをもらって、何だか悩んでいた。
徳部は日和の自宅が崩壊したと聞いて、氷見まで行って瓦礫撤去し3LDKの家を設置してやった。日和に頬にキスしてもらって舞い上がっていた。
日和は年末から東京でお仕事をしていた。花ちゃんから
「能登半島で巨大な地震が起きてるぞ」
と聞いて、母に電話すると自宅が崩壊したということだった。
1回目の地震で両親と祖母が、スマホとかだけ持って家を飛び出したので全員無事だったが、2度目の地震で完全に崩れてしまった。
取り敢えず避難所となっている近くの体育館にいき夜をすごしているということだった。日和自身は落ち着くまで東京に留まることにした。両親たちは夜が明けてから、自宅の崩れた跡から重要そうなものを取り出し、車で金沢市まで行って長男(日和の兄)空海のアパートに取り敢えず身を寄せた。但し父だけは仕事があるので氷見に戻り、避難所で暮らしながら会社に通った。
なお自宅崩壊に日和のヴァイオリンも巻き込まれたが、翌日両親が瓦礫の中から取り出してくれたので無事だった。ヴァイオリンはケースに入っていた。パソコンは日和が東京に持って行っていた。教科書やノートは失われたが、諦めることにした。辞書は新学期にあらためて買うことにした。電子辞書は東京に持って行っていた。
両親はこのまま金沢でマンションでも借りて、父も金沢の会社に転職しようかと言っていたのだが、祖母は氷見に戻りたいと言った。
自宅は再建するとしても半年はかかりそうなので(再建費は日和と妹とで出せるはず)、日和はこのまま東京の高校に転校しようかとも言っていた。
2月14日(実際には14日は仕事で忙しかったので前日の13日)、日和は“愛しの”徳部にバレンタインを贈った。千里が徳部の自宅に連れて行ってくれた。徳部はヌード写真とかを慌てて隠していた。
「徳部さん、これ」
「ありがとな。お前もあと1年で高校卒業だな」
(千里から高校卒業したらセックスしてもいいと言われているので、それを楽しみにしている)
「私もう高校やめるかも」
「何かあったのか」
「実は」
と言って、日和は自宅が地震で潰れたことを話した。
すると徳部は1日で家を再建してくれた。
「早く言えよ。すぐ建て直してやったのに」
「すみません」
それで母と祖母は4畳半で3人寝るという無茶な生活を終えて自宅に戻ることができた(兄もほっとしたと思う)。父も避難所から新しい自宅に移動した。もっとも食器とか家電品に寝具とかが全て失われたので日和が父に100万円渡して、新品で買い揃えた。本の類いは諦めた。日和も、いったん氷見に戻り、少なくとも3月いっぱいまでは氷見市の高校に在籍することにした。帰った時ちょうど学年末試験の直前だったが、何とか赤点は取らずに済んだ。1月〜2月前半に休んだのは、震災による特例としてレポート提出で出席に代えてもらった。4月以降のことは、また考える。
家の再建料金は120万円ということだったので日和がキャッシュで払った。
「1200万円ですか。安いですね」
「違う違う。120万」
「え〜!?」
ESFとか何とかいう安い材料を使っているので安くできるらしい。
(SPFだと思います。唐檜spruce・松pine・樅fir/北米にはこの混成林がよくあるので厳密には区別せずまとめてSPFと呼ばれる。朱雀はカナダの関連会社から輸入している)
「取り敢えずの家だ。落ち着いたらまともな材料で建て直すといいよ」
「そうですね」
「能登には“あて”(あすなろ)も沢山あるし」
「あて使ったらいくらくらいかかります?」
「設計次第だけど、この程度の家なら300万くらいかな」
「それでも安いですね」
「そうか?」
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春シン(4)