■春シン(3)

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祖母はとんでもないことを言い出した。
「被災者のために炊き出しをしたい」
「はあ!?こちらが被災者なのに」
 
しかし実施することにした。1升炊きの炊飯器を持ち込み御飯を炊く。入れものと割り箸を備蓄場所から持ってくる。食材もそこから持って来た。貴京とシズカで一所懸命おかずを作り、食品パックに詰めて配布した。庭にテントを立て、「炊き出し実施中」の看板を立てたが、凄い列が出来た。家族分6食とか頼んだ人は、シズカが持ってあげた。
 
「あなた力(ちから)があるのね」
「私、元・男ですから」
「へー!性転換したの?」
「5年ほど前に手術を受けました」
「凄いね。やっぱタイとかで?」
「私は国内ですよ」
「へー。今は国内でも性転換手術って受けられるのか」
 
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輪島市内で水などを備蓄していた所には、こちらも〒〒テレビ救難所の看板を掲げ、猿岩の弟分の猿穴に見てもらい、給水と雑貨の配布をおこなった。猿岩とお互いに物資を融通しあったようである。山形や兵庫の備蓄場所からも少し持って来た。
 

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貴京の祖母の家は電気は太陽光パネルで自給される。水は大きな貯水タンクを設置し、“救難所”から給水車で持って来ていれた。
 
千里は適当なところで万奈たちに任せて引き上げたが、貴京は学校が始まるまで輪島市に留まった。万奈たちは御近所で瓦礫の撤去・危険な家屋の解体、ユニットハウスの設置なども進めたので、祖母の家の付近には住宅街が復活した。
 
また万奈たちは近くの発達障害者の作業所に水を融通し、逆にそこの利用者さんたちが炊き出しを手伝ってくれた。
「シズカさん、お菓子作っていいですか?」
「いいよー。材料は持ってこさせるから」
 
それで炊き出しの所には、お菓子も並ぶことになった。
 

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千里は前日から地中の“地電流”に異常が見られていたので、大きな地震が来る可能性があると見て、1月1日正午でウィングライナーの運転を中止していた。お陰で、転覆事故の類いを防ぐことができた。
 
地震直後から清川とその子分たちに走行路の点検・補修をさせた。その結果、1月2日お昼には南砺−伏木間、3日には富山−金沢間と伏木−氷見間の運行を再開できた。4日には羽咋まわりの津幡−七尾小島間も復旧したが、その先は自衛隊による道路啓開の作業をしばらく見守ることにした。
 

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朱雀林業の能登支店では、そろそろ仕事を切り上げようかと言っていた時に地震に遭った。
 
高岡司令室の“ゆい”が来て、全員の所在と安否を確認する。
 
「千里さん、よく全員の名前を覚えてますね」
「自分の部下の名前くらい把握してるよ」
 
何人か怪我した者はいたが、大きな怪我では無いようだった。
 
「このくらい唾でも付けときゃ治りますよ」
と能登組のリーダー、井中は言っていた。
 
職員宿舎は元々荒っぽい連中を収納するために作られているので丈夫で、びくともしていなかった。パイロット用住宅は建て直すことにして、元の住宅は少し離れた場所に移設した。管理人住宅は傷んだ箇所を数日以内に補修した。屋根は取り敢えずビニールシートを掛けておき、後で屋根を作り直した。移設した旧パイロット住宅も手が空いてから屋根を作り直した。
 
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樹木の乾燥用倉庫は荷崩れを起こして建物にも損傷が出来ていたが、新しい倉庫を建てて、そちらに移した。
 
ここは電気と水は自給しているので、こういう災害には強い。電気は太陽光パネルと風力で起こす。水は独自の貯水池をもっており、除雪した雪とかもそこにどんどん捨てている。貯水池の水を浄水して貯水タンクに貯める。“私設給水所”を設置したら三井地区の住人さんがたくさん来た。
 
また輪島市から仮設住宅の設置を頼まれたので1〜2月で100棟ほどの仮設住宅を建てた。住宅自体の再建もかなり頼まれ、多数の住宅の建て直しをおこなった。仮設住宅はSPFや国産樅(実はほぼタダで手に入る)、住宅の建て直しは主として飛騨杉や奈良杉である(一部余裕のある人は能登産の“あて”)
 
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氷見飛行場は滑走路に亀裂などができたが、1月2日の内には修復を終えた。
 

奥能登の玄関にあたる七尾市では、水の多くをはるばる100km離れた白山麓から運んできている“県水”に頼っていたため、水道が部分的にも再開できるまでかなりの日数を要した。
 
ムーラン七尾では当面のお菓子屋さんの休業を決め、取り敢えず1月いっぱいはパン屋さんだけを営業することにした。
 
大きな貯水タンクを設置し、パン屋さんと、人形美術館(七尾分館)、ウィングライナー七尾小島駅・神田あきら邸・ムーランホール七尾に水を供給した。
 
この水は実は七尾市の海岸そばに設置した貯水(造水)施設から持って来ているものである。“私設給水所”も設置したら、毎日凄い列ができた。パンもたくさん売れた。水が出ない中、パンはありがたい。
 
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パン材料の小麦粉・バター・牛乳などは、道路が超渋滞している中、若葉がヘリコプターを飛ばして津幡から運んだ。
(ムーラン七尾にはヘリポートがある:神田あきらの通勤用!に設置したものである)
 

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神田あきらと歌音は特に被害の大きかった、珠洲市・輪島市・志賀町に各1000万円ずつの寄付をおこなった。
 
青葉は珠洲市・輪島市・志賀町に3000万円ずつの寄付をした。
 
千里、若葉、ケイ、コスモス、アクアは各々、珠洲市・輪島市と石川県に1億円ずつの寄付をした。常滑真音と今井葉月も2000万円の寄付をした。ラピスラズリ、姫路スピカ、白鳥リズム、恋珠ルビー、立山煌、薬王みなみも「微力ながら」といって100万円ずつ寄付した。
 

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1月7日、ウィングライナーの氷見−いおり間、氷見南−氷見飛行場間、七尾小島−穴水此木(くのぎ)−能登空港間、桜峠−上町(かんまち)−合鹿(ごうろく)間および珠洲宝立(ほうりゅう)−飯田間が運行再開した。ムーランは県側の要請に基づき、不通になっている、のと鉄道の振替輸送をおこなった。のと鉄道の乗車券(定期券を含む)を持っている乗客を該当区間のウィングライナーに乗せた。
 
ウィングライナー自体には料金徴収の仕組みが無い(元々従業員を乗せるためのものである)ので、乗りたい人は、のと鉄道の切符を買って乗ってくださいと案内した。
 
実際にはノーチェックであり、利用者の良識に任せている。ほとんどが無人駅だったので、チェック不能であった(後でスタッフを配置した:後述)。一応各駅に切符回収箱を設置して回収した分は、のと鉄道に買い取ってもらったが、定期券はチェックのしようが無い。回収箱には結構な量の現金もはいっていた。自主的に適当な額をいれてくれたのだろう。
 
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のと鉄道が通ってない区間での利用者も結構あったようである。
 

真珠は予定日の1月4日お昼頃に陣痛が始まったが、赤ちゃんが出て来たのは5日に入って0:08 だった。
「もう死ぬかと思った」
と本人は言ったが
「このくらい安産の内」
と母には言われた。邦生もずっと付いていたが、お医者さんは
「旦那さん間に合わなかったね」
と言った。邦生は女に見えるので、お姉さんか何かと思われていた。でも赤ちゃんを真珠の次に抱っこさせてもらった。赤ちゃんは女の子で、未来と名付けられた。明恵・希望・双葉の“取材班”も赤ちゃんを
しっかり撮影した。
 
真珠の母は言った。
「でもあんた、ちんちん取っておいて良かったね。付けたままだったら先生や助産師さんたちに見られて恥ずかしかった」
「それ今言わなくてもいいじゃん」
 
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俊美がダイアリーに赤いシールを貼った日。
 
8月3日、8月31日、9月28日、10月26日、11月23日、12月21日。
 
次に貼る予定の日
1月18日
 

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俊美は年内いっぱいくらい、あちこちの名前と性別の変更手続きをしていたのだが、最後の仕上げに運転免許証を変更の跡の無いものに更新しようと思い、12月下旬、準中型を取りに行った。普通免許を持っていれば準中型は一週間程度で取得できる。
 
年内に教習を終え、年明けに免許センターに行き学科試験を受けて新しい免許証を獲得した。
 
免許センターに行った時、大学の卓球部で一緒だった女子に遭遇した。
「岡安さんがお美しくなってる」
「恥ずかしい」
「前々からみんなで噂してたのよね。岡安さん、女の子になりたいんじゃないかって」
「そう?」
 
そんなふうに見えたのかなあ。
 
「だってスカート穿いてる所見た子何人も居たし」
 
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あれ〜?ぼくそんなにスカートで出歩いてたかなあ。
 
「左前のシャツよく着てたし」
 
それは単にお姉ちゃんの“通販失敗品”を押しつけられてただけなんだけど。
 
「手を握った感じが女の子だったから、きっと女性ホルモン飲んでるんだよとみんな言ってた」
 
え〜!?そんなの飲んでないけどなあ。
 
彼女は俊美の胸にも触った。
「だいぶ育てたね」
「そうかな」
「もう性転換もしたの?」
「戸籍も変えたよ」
「おめでとう」
 
やはり女になるのは、おめでたいことのようだ。
 

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俊美は地震のあった時、金沢市内のアパートに居た。物が落ちたりはしたが、無事であった。同じ金沢市内に住む姉のみどりも同様のようであった。両親の所は結構な被害はあったものの、『家は立ってる』という話だったので、きっと何とかなるだろうと思った。
 
4日になってから、立石から連絡があった。
「うちの実家の付近が水道停まってて洗濯ができないらしい。それで金沢はコインランドリー営業してるなら、洗濯物こっちに持って来て洗いたいらしい」
 
(実際洗濯物を金沢に持っていきコインランドリーに掛けた人は多かった)
 
「でもうちは父ちゃんも母ちゃんも免許持ってなくてさ、交通機関は停まってるし。僕に洗濯物取りに来て、コインランドリーで洗ってから持ち帰ってほしいと言うんだよ。でも道路はかなり渋滞してて、時間かかるみたいだからさ、としちゃん交替のドライバーで来てくんない?」
「いいよ」
 
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それで立石に自分のアパートまで迎えに来てもらい、助手席に同乗して彼の実家のある七尾市に向かったのである。
 
「私徹ちゃんの何だと言えばいいのかなあ」
「取り敢えず“友だち”だと言っておくよ」
「うん」
 
立石は、俊美が元男性だったことは両親には黙ってようよと言っていた。
 
ふたりは、途中の道の駅やコンビニなどで休憩しながら走った。休憩の度に運転交替した。ついでに道の駅では端のほうに駐めてカーセックスした。
「結局性転換手術受けたんだっけ?」
「内緒」
「まあいいや。戸籍上はまだ男なの?」
と訊かれたので、俊美は名前と性別が訂正されたマイナンバーカードを見せた。
「おお、凄い」
と言って彼は喜んで?いた。
「シール貼って訂正するのか」
「恥ずかしいよね」
 
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俊美が休んでいた日のアイゼンのバイトさんたちの会話
「例の温泉・性転換ワープだけどさ、それで性転換した人の2年以内の妊娠確率は80%だって」
 
(以前東京からのツアーで来ていて性転換してしまった中山の場合も2年後の2025年に妊娠することになる)
 
「でも性転換して妊娠できるわけ?」
「あれで性転換した人はちゃんと生理も起きるらしいよ」
「凄い」
 
「その卵巣ってどこから来るわけ?」
「さあ」
「睾丸が卵巣に変化するんじゃないの?」
「ああ、睾丸と卵巣って発生的には同じ物だよね」
「うん。原始性腺の外側の皮質が発達すると卵巣になり、内側の髄質が発達すると睾丸になるんだよ」
「それで卵巣が睾丸に変わったり睾丸が卵巣に変わることは稀に起きるらしい」
「すごいね」
 
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