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そして今日最後の時間帯、18:00からは次の2試合が行われる。
40 minutes − W07(フラミンゴーズ)
茨城TS大学 − W02(レッドインパルス)
この時点で千里は大いに意欲が減退していた。決勝で戦おう、スリーポイント女王争いしようと言っていた花園亜津子が、目の前でまさかの初戦負けしてしまった。
それで腕を組んでコートを見つめていたら、いきなり頭の上から冷たい感触がある。
「きゃっ」
と声をあげる。
広川キャプテンがペットボトルの冷水を千里の頭から掛けたのである。
「おい」
「はい」
「余計なことは考えるな。勝てばいい」
「はい!」
それで千里もスイッチが入る。
この日の試合では千里はひたすらスリーを撃った。2ポイントでもいいようなところでもわざわざスリーポイントラインの外側まで出てスリーを撃つ。それで試合が終わってみると1人で30点取っていた。大学生チームにダブルスコアで勝って準々決勝に駒を進めた。
なお、40 minutesも古豪フラミンゴーズを1点差で倒して勝ち上がり、準々決勝に進出した。2試合連続の僅差勝ちである。
これで明日の準々決勝はこのような組合せになった。
ジョイフルゴールド−サンドベージュ
東京W大−ビューティーマジック
40 minutes−レッドインパルス
ハイプレッシャーズ−ブリッツレインディア
1月2日のボニアート・アサドのライブが終わった翌3日、和実はボニアート・アサドのマネージャーの米長さん、TKRの山崎さんと3者会談をして、当面クレールでは土日限定でライブを実施することにした。ボニアート・アサドは学校の試験前の時期(2.18)を除いて土曜日の昼に登場することにし、また日曜日にはTKRの東北在住アーティストを呼んで無料ライブ(但し1ドリンク制)をさせたいというのである。
実はクレールのような条件でライブができる所が存在しないというのである。
普通のライブハウスだと、そもそも夕方から夜9時くらいの運用が多いが、セミプロのアーティストは交通の関係もあり、むしろ昼間やりたい(夜やると自宅に帰られなくなり翌日出勤できない)。ノルマ&バック制だとチケットを売らなければならないので無料イベントができない。貸し切りにすると無料でもできるが、結構な使用料金を取られる。正直、TKRが抱えているアーティストの多くは有料ライブをしようとするとチケットが10枚売れるかどうかも微妙なので、販促と割り切って無料ライブにした方が集客できて良いのだが、その場合、会場使用料がネックだったのだという。
「だいたいライブハウスの貸し切り料金って200-300人クラスの所で10万円くらい掛かるんですよ。公共のライブホールの場合も基本使用料は2万円くらいの所がありますが、楽屋使用料、ピアノ使用料、音響や照明の使用料とかを入れると結果的には6−7万掛かってしまうんですよね。ところがクレールさんは、楽屋も音響・照明もタダで使わせてもらえるし。逆にギャラまで頂いてしまって。それにあそこは普通のライブハウスよりずっと音響がいいですよ」
と山崎さんは言う。
「まあ音響や照明の設備の多くはケイさんのコネで安く譲って頂いたものですしね。それにライブハウスは一般にそういうのの使用料は取りませんよ」
音響に関しては、ケイ(冬子)から色々言われたからなあと和実は思う。
実は昨年9月に、だいたいの設計をした後で音響のことではやはり音楽家の意見を聞いた方がいいかもと思い、東京に出て冬子に相談したのである。それで客席の形を末広がりにし、天井を透かし天井にして、床にはスロープを付け、壁・天井・床に吸音素材を使用するという設計になった。
ついでに末広がりにした結果、建物の大きさまで変わった!
そしてその結果2階のレイアウトも変わったのである。
なお、スロープ床はテーブルを置いて通常の飲食店として営業する時は取り外す。そうしないと、そのままテーブルを置いてしまうと、テーブルの上に置いた物が転がり落ちる(あるいは滑り落ちる)からである!
床交換という考え方は、当時冬子や千里たちが建設中であった体育館のフロアを、使用する競技(バスケかバレーかテニスか)によって交換する(タラフレックスというらしい)仕様にしたので、そこからこちらも考えたらしい。
スロープ床の設置・撤去は5人くらいの男性がいれば、1時間で設置できるし、30分で撤去できるというシミュレーション結果が出ていた。1月2日は疲れていたのでスロープにしなかったが、次はするつもりである。
そういう訳でクレールの客室は、余計な反響が起きず、広い空間で演奏しているように聞こえる響きになっているのである。
エヴォンは既存の建物を使ったので電気的に音響調整をしたが、こちらは建物の構造的に音響が考慮されている。騒音問題にしても、建物が完成した所で町内会の人たちを招いて、中で大音量でエレキギターを鳴らしても外に全く音が漏れないことを確認してもらい納得してもらっている。
この日の仙台支店での打合せでは、
「取り敢えずグランドオープンまでと、それ以降で条件を変えさせて下さい」
と和実は言った。
実は紺野君から2日のイベントについては「これでは採算が取れないよ」と苦言を呈されたのである。一応単純な収支では黒字になったのだが、本来なら計算に入れるべき《内輪》の人間の労賃まで入れると実は赤字であった。さすがに和実も今回はアバウトすぎたと反省したのである。
「グランドオープンした後でしたら、通常営業の中でのBGM演奏として演奏してくださる場合は、こちらの評価ランキングによって1000円から1万円程度の範囲でギャラは考えさせて下さい」
「それってノルマとかは無いんですよね?」
「ありません。うちは基本的に飲食店ですので、ミュージックチャージのようなものは想定していません。ですからあくまでお客様へのサービスとしての演奏ですね。だから逆にお客様に聞かせるレベルに到達していないアーティスト、またパフォーマンス内容がカフェには馴染まないものはお断りするかも知れません」
「なるほど、なるほど」
「取り敢えず、ボニアート・アサドの専用イベントは彼女たちが期末試験直前になる2月18日以外の毎週土曜日13:00-14:30にやることにして、日曜日の12:00-18:00くらいに、他のアーティストさんのジョイント・ライブができるといいかも知れないですね。実はこちらのクルーに女子大生が多いので土日でないとクルーが使いにくいんですよ」
「その場合、全部で何回できますかね?」
「今週からやるとすると、1.08 1.15 1.22 1.29 2.05 2.12 2.19 2.26 3.05 3.12 3.19 3.26 と全部で12回ですね」
「そのくらいやれるといいなあ。12:00-18:00というと、アーティストとしては5組ですか10組ですか?」
「それはお任せします。1時間場を持たせられるアーティストなら1時間、30分くらいが適当な人なら30分」
「30分持たせられるアーティストなら大量にいますから、声を掛けますよ」
「それで今回のイベントは採算を考えなさすぎといって経理担当から叱られまして」
と和実は言う。
「やはり、チャージを掛けられます?」
と山崎さんが訊く。
「これちょっとパソコンで計算してみたんです」
と言って、ノートパソコンの画面で計算表を見せる。
「この表の上の方が日曜日のイベントを想定したもの、下の方が土曜日のボニアート・アサドを想定したものです」
「なんかいい感じの数字が出ていますね」
と言って山崎さんはミニマムチャージ額と、ペイバック率の所を見ている。
「そういう訳で結果的には日曜のイベントは予想客数を100人としてクルー2人で乗り切れます。すると労賃込みのドリンク原価が293円になるので、販売価格を500円にした場合、ミニマムチャージが19300円、バランスラインが94人で、それに満たない場合は不足人数1人あたり207円のチャージをお願いし、越えた場合は1人あたり68円ペイバックできます」
「わりとペイバックが出ますね」
「ボニアート・アサドの場合は、労賃込みのドリンク原価は175円になるので販売価格を先日と同じ400円にしても、ミニマムチャージ22725円、バランスライン101人になります。これに満たない場合は1人あたり225円のチャージをお願いし、越えた場合は1人あたり74円ペイバックできます」
「さすがに1人あたり100円は出ませんでしたか!」
「すみません。この数字が限界です」
「いやいいですよ。こないだはもらいすぎた気もしましたから」
と米長さんも言っている。
「ちなみにこれはドリンクを提供するためのスタッフなので、それ以外にフードを提供するスタッフも出てきますから、多少の忙しさの増減はそちらをクッションにして調整可能だと思います」
「でもボニアート・アサドの方がドリンク原価が安くなるんですね?」
「クルーの稼働時間が短いので」
「あ、そうか!」
「それとたくさん来てくださるので、売上げが大きくなる効果もあります」
「なるほどー!」
「ボニアート・アサドについては学割を適用するという話にしてもいいですね」
「あ、その言い訳は使える」
「学生割引については、身分証明書で学生であることを確認しますか?」
と米長さんが言うが
「心が10代であればいいことにしましょう。心がおとなの人は自主的に500円払ってもらうということで」
と和実は言う。本当はいちいち身分証明書を提示させるなんて面倒くさいと和実は考えている。和実はアバウトな性格である。
「ああ、それでいいですね」
「心が10代なら10代扱い、心が女の子なら女の子扱いということで」
「昨日のイベントではけっこうそういう子がいたみたいですね?」
と山崎さんが言う。
「たぶん10人以上いましたよ。逆に心は男の子という子も私が気付いた範囲で3人居ましたね」
「まあ、そういう時代なんでしょうね〜」
と米長さんも言っていた。
「そういえば、ひょっとして、月山さんの共同経営者の方も・・・・」
「ええ。戸籍は男だけど心は女という人ですね。戸籍が男だから、私と法的にも婚姻しているんですよ」
「そうだったんですか!最初はふつうの女性かと思っていたのですが、途中であれ?っと思って」
「まあ女子トイレで悲鳴をあげられたことはないそうですけどね」
「へー。まあ心が女なら、女子トイレ使ってもいいんでしょうね」
「一応不自然ではない女の格好であればですね。見るからに男という格好で心は女だからと主張されても困りますけど」
と和実は言う。
しかし・・・淳が性別を疑われるおかげで、自分は全く疑われない!と和実はやや心に冷や汗を掻きながら考えていた。
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女子バスケット選手の日々・2017オールジャパン編(4)