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■女の子たちの冬山注意(10)

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手術が終わって暢子が病室に戻ったのは17時くらいだった。何だかこちらを見て笑顔で手を振っている。
 
「大丈夫?」
「平気、平気。でも何だか雲の上を歩いているような感じ」
「無理しないようにね」
 
かなり痛がっていたようだったので炎症が進行していないか心配だったのだが、医師の話では、ごく普通の状態で、ごく普通に処理したということであった。虫垂炎はほんとに実際の状況が外からはわかりにくい。
 
「だいたい3〜4日で退院できると思いますよ」
と医師は笑顔で言っていた。
 

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暢子の負担にならないように、のんびりとしたペースでおしゃべりをして18時半くらいに、そろそろ帰ろうかということになる。それで病院を出るがもう旭川に戻る石北本線の汽車も長距離バスも無い。1泊して帰りましょうかなどと言っていた時、貴司から電話が掛かって来た。
 
「大変だったみたいね」
「うん、大変だった。あ、そちらどうだった?」
「勝ったよ」
「わあ、ウィンターカップ出場、おめでとう!」
「千里と一緒に東京に行きたかったけど」
「ごめんねー。やはりユニフォーム引っ張られても、足を踏まれても、しっかりゴールにボールを入れるような練習しないと」
 
「それはバスケの練習とは違うものという気がする。それで、そちらに沢山着信履歴付けちゃって御免。たぶん病院内では携帯切ってるとは思ったんだけど」
「ううん。問題無いよ」
 
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「そちらいつ帰るの?」
「今日はもう帰る汽車もバスも無いから1泊しようかと思ってたんだけど」
「僕の車に乗って帰らない?」
「車?」
「千里が今夜遅く帰るかもと思って、うちの先生に許可もらって車を借りたんだよ」
「レンタカー!?」
「そうそう。それで旭川まで走って乗り捨てる」
「誰が運転するの?」
「僕だけど」
「運転できるんだっけ?」
「免許持ってるけど」
 
千里はちょっと不安になった。免許を取ったのはもちろん知っているが、その後、たぶん1度も運転していないはずだ。
 
「宇田先生、運転できますよね?」
と千里はそばにいる先生に訊く。
 
「うん。運転するけど」
 
千里は中学生の時に一度宇田先生の車に乗せてもらったことがある。
 
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「じゃ、運転お願いできません?」
「いいけど。デートのお邪魔していいのかな?」
「そこは100%健全な男女交際ということで」
 

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貴司が病院まで運転してきたが、何だか凄いノロノロ運転で入って来た。その場で話し合って、宇田先生が運転席に座った。
 
「貴司、ここまで来るのにあちこちぶつけたりしなかった?」
「それはしてないよ。後ろから何度かクラクション鳴らされたけど」
「まあ、さっきの運転見てたら、クラクション鳴らしたくなるかもと思った」
 
それでカーナビに旭川をセットして走り出す。
 
「細川君、留萌S高校ウィンターカップ出場おめでとう」
と宇田先生が言う。
 
「ありがとうございます」
「これが高校最後の全国大会だけど、インターハイ出場2回、ウィンターカップ1回というのは輝かしい成績だね」
「まあ本戦で勝てたらいいんですけどね」
「全国の壁はまた厚いからね」
 
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夕食がまだだったということで、北見市内から出る前に何か食べて行こうということで、ファミレスに入り適当なものを取る。実は千里も宇田先生もお昼を食べ損なって、暢子が手術室に居る間にパンやおにぎりを食べただけである。
 
「細川君は大学進学?」
と宇田先生が訊く。
 
「いや、大学なんかに行く頭無いですから」
と貴司。
「まあ、あまり勉強とかしない性格だよね。でも行こうと思ったら入れてくれる大学はあるんじゃないの?」
と千里は言う。
 
「うちの父が2年後に定年なんですよね。だからあまり負担掛けたくない気持ちもあるんですよ」
「細川君はきょうだいは?」
「妹が2人です」
「じゃ、かなり遅くできた子なんだね」
 
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「ええ。僕は父が40歳の時にできた子供なんですよ。母とは1周り違う年の差婚なんですよね」
「ああ。年齢が高くなってから子供作ると、そのあたりが大変だよね」
 

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「就職するのなら、そちらの監督さんとは、行き先とか話し合ってる? 高校生を取る実業団は少ないけど、あることはあるから」
 
「まあ大学卒の《即戦力》を求める所が多いですよね」
「そうそう。選手を育てようという所は少ないんだよ。試合に出ない選手を養う気概のある運営者は少ないから、ベンチ枠からあふれたら即解雇だし」
 
「だから僕は社員選手になりたいんですよね。普通の仕事もこなしてバスケの練習もするといった」
「ああ。全体的にはプロ志向が広がっているんだけど、プロ選手より社員選手を多く抱えているチームはまだまだあるから、条件の合う所を探すと何とかなるかも知れないね」
 

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「君たちって、若生(暢子)君から聞いたけど、結婚しているんだって?」
「はい。そうです。この携帯ストラップの金のリングが結婚指輪代わりです」
と言って千里が携帯を出すと、貴司も自分の携帯を出す。
 
「おお、凄い」
「どっちみちバスケット選手は結婚指輪を付けて試合には出られませんし」
と貴司。
 
「そうそう。だから僕も現役時代は付けてなかったよ」
と宇田先生。
 
「籍は入れたの? 確か君たち18歳と16歳だよね?」
と宇田先生が訊くが
 
「私が20歳になるまで性別変更できないんですよ」
と千里は残念そうに言う。
 
「ああ、そうか!」
「26歳と24歳になるまで私たちの気持ちが変わらなかったら入籍してもいいと細川のお母さんからは言ってもらっています」
と千里は言う。
 
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「なるほど」
「でも来年の3月でいったん結婚関係は解消かも」
「なんで?」
「貴司が多分関西方面に就職すると思うから」
「へ?」
 
その件について貴司は説明する。
「初期の頃、私も千里も自分たちの関係をずっと続けていくことに自信が無かったので、どちらかが北海道の外に出るまで夫婦であるという関係を続けようと言っていたんです。北海道と東京や大阪で遠距離恋愛を続ける自信が無かったので。でも僕は今はもし自分が道外に出てもずっと関係を続けたいと思っています。困難な道であることは認識していますが」
 
「浮気性の貴司がテンション維持できる訳無い」
と千里は、にべもない。
 
「それを今追及しなくても」
「貴司と交際始めてから、この4年半の間に浮気未遂は12回あったからな」
「よく数えてるなあ」
 
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宇田先生が楽しそうにしていた。
 

食事のあと、コーヒーなどを飲んで一息ついてから車に戻る。また宇田先生の運転で国道39号を走る。
 
が、遠別温泉をすぎたあたりで
 
「御免。睡魔が来たから少し休む」
と言って先生は車を脇に寄せ、助手席を少しリクライニングしてそこで仮眠を取る。北海道の道は物凄いカーブの連続の道と、果てしなくまっすぐの道があるが、このまっすぐの道というのは実に睡魔に襲われやすい。
 
車はエアコンをつけておく必要があるのでアイドリングしている。
 
「貴司、私たちも少し休もうか」
「そうだね。やはり試合で疲れているし」
 
それで軽くキスしてから目を瞑って睡眠を取った。
 

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千里がふと目を覚ますと、車は動いているが、運転席に座っているのは《きーちゃん》である。
 
『どうしたの?』
『あそこは今夜大雪が降るから、早めに石北峠を越えた方がいい』
『それで運転してるの!?』
『宇田先生、凄く疲れているみたい。これ5−6時間起きないよ』
『ね、ね、私も少し運転していい?』
『いいよ。千里の意識もこちらに寄せるといい』
 
それで千里は自分の精神を幽体離脱させて、運転席で実体化している《きーちゃん》に重ね合わせる。
 
『危ない時は注意するから、自分の身体で運転しているつもりでやってごらん』
『OKOK』
『既に雪道になっているから、《急》のつく動作をしないこと。急ハンドル、急ブレーキ、急アクセル。そういうのするとスピンして事故起こすから』
『分かった』
 
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『だけど千里、完璧に運転にハマったね』
『えへへ。だって楽しいじゃん。でもこの車パワー無いな』
『まあこのミラージュは東京で運転したヴィッツと似たようなクラスだよ。どっちみちスピードは控えめで。30-40km/h以下で走ろう』
『そんなに遅く?』
『雪道で50km/h以上出すのは自殺行為と思った方がいい。少なくとも千里の腕なら』
『むむ。了解』
 

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それで千里はミラージュをだいたい30-35km/h程度の速度でゆっくりと運転して石北峠を登っていった。町の近くではアスファルトの路面が出ていたがこの付近はもう完全に雪に覆われていて、雪道である。《きーちゃん》は千里に、既に出来ている轍(わだち)にタイヤを入れて走るよう言った。
 
『えーん。この車、すぐ速度落ちるよ〜』
『無理しないで。雪も積もってるから25km/hくらいまでは落としてもいいよ。急ぐ車は勝手に追い抜いていくから』
『そんなに遅くしていいの?』
『後ろの車が追い抜きにくそうにしてると思ったら直線の途中とかで脇に寄せて停めて、後ろの車を先に行かせる』
『了解』
 
スピードは出ないものの結構なカーブがあるので何だか楽しい。千里はそのカーブを丁寧に走って行った。
 
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『こないだ私が教えたカープの走り方、ちゃんと出来てる』
と《きーちゃん》が言う。
 
やがて峠を越えると、下り坂の連続である。
 
『スピードが出る!』
『セカンドに落として。この道でブレーキ多用すると危険』
『分かった』
『カーブではブレーキ踏まないで。楽にスピンしちゃうから。カーブに入る前の直線で充分速度を落として』
『うん』
 

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やがて長いトンネルに入る。
 
『これ長いね』
『銀河トンネルだよ』
『銀河流星の滝の近く?』
『このトンネルを抜けた所から旧道に入っていくとあるよ』
『じゃ。もう層雲峡まで来たんだ』
 
『あ、まずい。千里自分の身体に戻って』
『うん』
 
助手席で寝ていた宇田先生が小さな声をあげる。どうも目が覚めたようだ。
 
「ん?」
と声をあげる。
 
「え?村山君?」
と先生は運転席を見て言った。車には宇田先生と貴司と千里の3人が乗っていて、女性は千里だけである。運転席に女性の姿があったら千里かと思うだろう。
 
《きーちゃん》が珍しく焦っているのが分かる。《いんちゃん》がくすくすと笑っている。やがて車は銀河トンネルを抜ける。そして《きーちゃん》は車を脇の少し余地がある場所に駐めた。
 
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「村山君、運転してるの?」
と宇田先生が訊く。
 
「どうしました?」
と千里は宇田先生が座る助手席の真後ろの座席から声を掛ける。
 
「あれ?村山君はそちらか。じゃ君誰?」
と先生が運転席を再び見た時、そこには誰も居なかった。
 
「・・・・ね。今、車動いてたよね?」
「え? 停まってたと思いますけど」
「村山君、ずっとそこに居た?」
「ずっと眠っていて、ついさっき目が覚めたというか少しボーっとしていたんですけど、もう少し寝ようかなと思っていたところです」
 
先生は手を額に当てて何か考えている。
 
「いかん。夢でも見ていたのかな。ちょっと外の空気吸ってくる」
と言って、先生は手を伸ばしてドアのロックを解除し、助手席のドアを開けて外に出ると、そのあたりでおしっこしている!
 
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ああ。男の人はこういう時便利だよね、と千里は思った。
 

宇田先生は外で深呼吸して少し体操してから運転席に戻った。
 
「あれ?ここは層雲峡だ」
「あ、結構近くまで来てたんですね」
 
「いや・・・。僕は石北峠を登る前に仮眠した気がするんだけど」
「そうですか? 私も少し寝てたので、よく分かりませんが」
 
ちなみに貴司はスヤスヤと眠っている。
 
少し行った所にコンビニがあったのでそこで休憩する。千里はトイレに行かせてもらう。貴司も目を覚ました。宇田先生は缶コーヒー2本とクールミントガムを買っていた。貴司はおにぎりとホットドッグを買っている。千里は暖かい烏龍茶にした。
 
「お客さん、どちら方面に行かれますか?」
とコンビニの店長さんらしき人が訊く。
 
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「旭川方面ですが」
「ああ。だったら良かった。石北峠が吹雪で通行規制が掛かったので、北見方面には行けなくなったので」
 
さすが《きーちゃん》!と千里が思ったら、《きーちゃん》はVサインをしている。《きーちゃん》が居なかったら、今頃は山の向こうで立ち往生しているところだった。(逆戻りして国道333号北見峠に迂回するか通行規制が解除されるまで待つしかない)
 

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一行は午前2時半頃に旭川に着いた。レンタカー屋さんで返却手続きをした後、タクシーで帰還する。貴司は千里と一緒に美輪子のアパートに入り、一緒のお布団で寝たが、疲れていたので何もHなことはしていない。
 
朝起きていったら
「あんた、いつ帰ったの?」
と美輪子に言われ、更に貴司が起きてくると
「貴司君を泊めたの?」
と再度言われた。
 
「純粋に睡眠を取らせてもらっただけです。今夜は何もしてません」
と貴司が言う。
「1発くらいしてくれても良かったけどね」
と千里。
 
「さすがに辛かった。今度してあげるから」
 

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