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■女の子たちの冬山注意(6)

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第3ピリオドになっても、相変わらず向こうはラフプレイをするし、かなり挑発してきたが、N高の部員は冷静だった。
 
午前中の試合で暢子は武村さんを封じ込めるため物凄い運動量をしていたので、さすがに体力回復のため第3ピリオドはリリカや夏恋を使い、暢子はずっと休ませていたのだが、代わりにキャプテンマークを付ける千里が、みんなを落ち着かせ、静かにゲームを進めて、着実に得点していく。
 
一度あまりにも向こうの挑発が酷いので、審判がゲームを停めてキャプテンの松前さんに警告した。それでさすがに向こうも少しおとなしくなるが、点差は確実に開いていった。第3ピリオドを終えて、48対60と点差は12点まで開く。
 
「主力、かなり消耗してるよね? 少し休む?」
と南野コーチが訊くが
 
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「いや、ここまで来たら、このまま最後まで全力疾走で行こう」
と暢子は言った。
 

第4ピリオドになると、急に相手のパワーが落ちた感じがあった。
 
「さすがに疲れたのでは?」
「なんかゲーム以外の所で消耗していた感じもあるね」
 
こちらは暢子は先のピリオドを休んだし、千里はありあまるスタミナを持っているし、他のメンバーは適宜交替しながらやっていたので、まだ体力には何とか余裕がある。それでも南野コーチは第4ピリオド後半は雪子を下げて、相手に気合い負けしない敦子をポイントガードとして使って試合を進めた。雪子は体力以上に精神的に消耗している雰囲気もあった。
 
結果的にはこの第4ピリオドはこちらのワンサイドゲームに近くなった。このピリオドだけ見ると 14対30とダブルスコアである。試合終了のブザーが鳴ると、松前さんが「あぁぁ」という顔をしていた。
 
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整列する。
「90対62で旭川N高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
試合が終わった後は、お互いにあちこちで握手などをしたし、松前さんは暢子・千里と握手をしたが、
 
「今年の冬休みも地獄の合宿だぞ!」
と部員たちに言っていた。
 
なお、この試合のラフプレイに関して、連盟はZ高校に厳重注意をし、始末書を提出させたようであった。特に揚羽を殴って一発退場になった選手と、第2ピリオドで5ファウルになった選手は次の新人戦で1試合出場停止の処分が課せられた。これに関してキャプテンの松前さんも責任を取って自主的に新人戦の地区大会を決勝戦以外出場自粛する旨表明して、連盟も承認した。
 

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この日は、とにかくメンバーの消耗が激しかったので、試合後は男子の試合も見ずに、ミーティングもせずに宿に引きあげることにする。
 
揚羽・リリカ・夏恋・睦子あたりが結構打撲を受けていたので、薬用効果のある近くの温泉に行かせた後、湿布薬を貼って休ませた。雪子は精神的な消耗が激しかったので、仲の良い蘭とふたりで「気分転換を兼ねて何か食べておいで」と言ってお金を持たせてタクシーに乗せて町に送り出した。
 
寿絵が
「みんなの面倒は私が見るから、暢子も千里も寝てて」
と言ったので、暢子は自分もあちこちに湿布薬を貼った後、布団をかぶって寝た。千里はスポーツドリンクを2本飲んでから、やはり寝た。
 

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千里が目が覚めた時、暢子はまだ寝ていた。時計を見ると8時だ。トイレに行った後、1階のロビーに降りて行くと、N高のメンバーが数人居る。
 
「男子の準決勝どうだった?」
「N高校負けちゃったよ」
「あらあら」
 
N高校は札幌Y高校と準決勝を戦った。昨年のこの大会決勝戦でN高校に勝ちウィンターカップ代表を射止めたチームで、今年のインターハイの代表にもなっている。N高校はY高校に2連敗だ。
 
「あぁ。負けちゃったの?」
とやはり今起きてきた風の敦子が言う。
 
「けっこういい勝負だったんだけど、最後は気力負けという感じだったよ」
と薫が言う。
 
「やはり今年の男子チームはそのあたりの根性が足りないよね」
などと敦子は言う。
 
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敦子にしても睦子にしても根性はチームでもトップクラスだ。
 
「来年1年生でド根性の男子が入ってくれば雰囲気変わるかも知れんが」
「来年4月から取り敢えず、可愛い女の子が1人男子チームに入るけどね」
と寿絵が薫を見ながら言う。
 
「そうか。女子が2人もいる男子チームになるのか」
「ああ。昭ちゃんは男性廃業までカウントダウン中という感じだよね」
「薫ちゃん、本人は否定しているけど、絶対女性ホルモンやってるか、去勢しているかだと思う」
と寿絵が言うと、薫は特に否定せずに笑っている。
 
なお男子準決勝のもうひとつの試合では留萌S高校が勝っていた。千里はこのまま貴司と一緒にウィンターカップにいきたいなと思った。
 
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「薫ちゃんも今日帰るの?」
「私と昭ちゃんは居残り。今夜も南野コーチと同じ部屋に泊まるよ。今日はみんな大変だったみたいだし、希望者はどんどんマッサージとか指圧とかしてあげるよ」
「お、よろしくー、薫」
 
「揚羽と夏恋の消耗が凄まじかったから、あの2人もやってあげて」
と千里が言う。
「OKOK。後で部屋に行って声掛けてみるよ」
「よろしく」
 
「まあそれに私が万一性転換して女子チームに入ることになった時のためにも、女子チームの試合見てはおきたいしね。それもあって残ることになったんだよ」
 
「ああ、それはぜひ性転換してもらいたい」
「昭ちゃんを拉致して強制手術という話なら眠り薬盛るくらい協力するけど」
と薫。
「ほんとにやっちゃおうかな」
 
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その日は9時から夕食となった。今日はスキヤキである。もっと早くでも準備できたのだが、試合に出たメンツがみんな消耗して寝ていたので、旅館側が待っていてくれたのである。町で蘭と一緒にステーキのフルコースを食べてきたという雪子はまた夕食でもたくさんスキヤキを食べていた。
 
「雪子、太るぞ」
「今日の試合だけで5kg痩せたと思うから、その補填です」
 
夕食後、薫はふつうに女子たちと一緒にお風呂に入って中でもたくさんおしゃべりをしていた。今日初めて女湯で薫を見た寿絵が
 
「どうしても付いてるのを見ることができない!」
と言っていた。
 
「寿絵ちゃん、まるで痴漢でもするかのように凄い視線で私を見てる」
「だって実は女であるという証拠をつかみたいもん。おっぱいは小さいけど、この乳首、男の子の乳首じゃない。女性ホルモンしてるんでしょ?」
 
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と寿絵は言ったが
「あ、この乳首は偽装〜」
と言って薫は胸に貼り付けていたニプルスを外して寿絵に見せる。
 
「偽物だったのか!」
「腕とかに貼り付けておくと彼氏を仰天させられるよ」
「仰天するかも知れないけど、その後が怖い」
 

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「でもやはり既に男性器は撤去してるんでしょ?」
「してないけどなあ」
「そのあたりを実物を見て確認したいんだけど」
 
「なるほど。他の女子は薫のおちんちんを見ようとしているが、寿絵は薫におちんちんが付いてないのを見ようとしてるんだ?」
と夏恋が言うと
 
「悪いけど少なくともおちんちんは付いてるよ。絶対見せないけどね」
と薫は笑って言っている。
 
「おちんちんは、ということはタマタマは除去済み?」
「付いてるよ」
 
「いや、おちんちんはという言い方が凄く怪しい」
「薫はやはりおちんちんもタマタマも付いてないんじゃないかなあ」
などと寿絵は言っている。
 
「それにこないだNNクリニックに薫が入って行くのを見たというのを聞いたんだけど。あそこって、性転換手術もしてるんでしょ?」
と寿絵。
 
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薫は目をつぶるように苦笑した。
「実は性転換手術してくださいって言ったんだけどさ、高校生はダメって言われて門前払い」
 
「ああ、やはり手術受けようとはしたんだ?」
「ということにしておいて、本当は手術を受けたということは?」
 
薫が湯船の中でしっかり両足を閉じているのを、寿絵は開けないかと手を掛けて押していたが、さすがに寿絵の腕力で薫の足を開くのは無理なようである。
 
「だって付いてないこと確認できたら、薫を女子チームに加入させられるし」
と寿絵。
 
「でも本当に性転換したら、さすがに数ヶ月入院だよね?」
「入院は1週間くらいだよ」
「あれ?そんなので済むの?」
「でも数ヶ月の自宅療養が必要。それだとインハイに行けない」
「やはり」
 
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「そもそも男性時代の筋肉が落ちるまでは、女子としての出場は認められないだろうし」
と薫。
 
「ああ、確かに薫の筋肉は男性的についていると思う」
と千里は言う。
 
「そうだっけ?」
という声が出るが
 
「サーヤの体つきを考えたら分かるよ。薫の体つきってサーヤの体つきに似てるでしょ?」
「それってホルモンの違い?」
「だと思うよ」
 
「サーヤって男性ホルモン飲んでいるということは?」
 
「飲んでないと思う。飲むとドーピングになるという問題もある。実際には飲みたくなることもあるけど、我慢すると言っていた」
 
薫が頷いている。薫もたぶん女性ホルモン飲むかどうかで悩んでいるんだろうなと千里は思った。
 
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「サーヤが上半身にも筋肉付いてるのは、上半身のトレーニングを普通の女子選手の倍くらいやってるからだよ。あの子、腕立て伏せなんて平気で200-300回するから」
「凄いな」
 
「実弥さん、レイプしようとした男の睾丸を握りつぶしたことあると言ってましたっけ?」
と雪子。
「いや、それはさすがに都市伝説」
と千里。
 
その噂は最初は千里が握りつぶしたという話だったはずが、どこかで留実子の話ということになってしまっているようだ。私もあの時はつぶしてやるつもりで握ったけど多分つぶれてないだろうな、と千里は思う。
 
「まあスチール缶なら握りつぶすけどね、あの子」
「スチール缶? アルミ缶じゃなくて?」
「アルミ缶なら誰でもつぶせるでしょ?」
「スチール缶をつぶせるなら、睾丸くらいつぶせそう」
 
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「でも千里さんは中学の時も女の子みたいな筋肉の付き方と言われていたような」
と雪子。
 
「うん。インターハイ前に私を診察した病院の先生は、この筋肉は女性的だから性転換後に付いたものと言っていたけど、実は性転換前も私の筋肉って女性的に付いていたみたい」
と千里は言ったが
 
「それは昨年の夏に性転換したという千里の嘘を信じた場合だな」
と寿絵。
 
「ああ。実際は小学生の内に性転換しているから、その後は女性的な筋肉の付き方をしていたということだよね」
と敦子も言っていた。
 

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「ところで昭ちゃんは?」
「今日は男性の泊まり客は、宇田先生・白石コーチと昭ちゃんだけだから、のんびりと男湯に入ってくると言っていたよ」
と薫。
 
今日男子の準決勝は千里たちの試合の後、16:30から行われていた。試合が終わったのは夕方6時近くなので、その時間にキャンセルされると、もう別の客は入れられない(キャンセル料も本来は90%取られる所だが女子が引き続き宿泊しているので今回はキャンセル料不要と言われた)。
 
「じゃ今、昭ちゃんはひとりで男湯に居るわけ?」
「だと思う。宇田先生や白石コーチは何か打ち合わせしてたし」
 
薫も千里も昨夜昭ちゃんが実は女湯に入ったのは知らない。しかし今日は女湯が混んでいるので、誰もいない男湯に入っている。
 
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「よし、拉致してこよう」
と暢子。
「えーー!?」
「寿絵、一緒に拉致しに行かない?」
「行こう行こう」
 
千里がやめとけば?と言ったのだが、ふたりはさっと浴槽からあがると、脱衣場の方に行った。
 
が、2−3分もするとそのまま戻って来た。
 
「あれ?昭ちゃん居なかった?」
「いや、参った、参った」
 
「まさか宇田先生が脱衣場に居るとは思わなかった」
 
「そりゃ先生だってお風呂に入るよ」
 
千里は少し考えるようにして言った。
 
「ね、暢子、男湯の方には、服を着て行ったんだよね?」
「まさか。服を着ていたら、浴室から昭ちゃんを連行できん」
 
「だったら、あんたたちまさか裸で男湯に行ったの?」
と川南が呆れたように言う。
 
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「先生が、ぎょっとしてた」
「そりゃ裸の女子高生が2人、男湯の脱衣場に入って来たら、驚くでしょ」
「最初、何が起きたのか理解できなかったりして」
 

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女の子たちの冬山注意(6)

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