[携帯Top] [文字サイズ]
■夏の日の想い出・コーンフレーク(6)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
「それでは次の曲ですが、今度の水曜日に発売予定のシングルのタイトル曲『コーンフレークの花』」
と私が言うと、ややざわつきがあるものの拍手をしてくれるので私たちは演奏を始めた。
40minutesのメンバーと上島先生・アルトさんは退場したのだが、入れ替わるように近藤うさぎ・魚みちるのペアがサンバの衣装を着けて上がってきて曲に合わせて踊り出した。
後からネットを見たら「ここでダンサーがストリップしないよな?と思った」という書き込みが随分あったが、むろんそんな過激な演出はしない。そもそも、そんなことしたら2度と呼んでもらえないだろう。
『コーンフレークの花』自体はごく標準的な8ビートの曲であるが、近藤・魚のペアは自由な雰囲気で踊り、これが曲調とあいまってとても良い雰囲気を醸し出していた。観客のノリも良く、手拍子も盛り上がっている感じであった。
演奏が終わってからマリがコメントをする。
「こないだの騒動は皆さん、ご心配掛けてすみません。記者会見でも言いましたけど、私は当面男の方とお付き合いするつもりはないですし、10年くらい先までは結婚するつもりも無いので、皆さんよろしくお願いします」
これに対して特に男性の観客から大きな歓声が上がる。
私も簡単なコメントをする。
「先日のマリの騒動には本当にご心配をおかけしました。マリは本当に無邪気なもので、それで男性に対して概して無防備で、それでマリと会話した男性は純情な心を持っている人ほど、マリに憧れてしまうこともあるようです。もしかしたらマリのファンの方にも似たような感じでマリに憧れてしまった人もいるのかも知れないなと私は思いました。でも実際には、マリは食べることと詩を書くこと以外にはほとんど興味を持たないので、普通の男性にはマリの恋人はまず務まらないのではないかという気もします。大学生時代にマリとデートした同級生の男の子は、まずレストランに行っていきなりマリがステーキを10人前食べたので度肝を抜かれ」
と言ったところで爆笑が起きる。
「そのあとドライブデートしたらマリは助手席でスヤスヤ眠ってしまって何も会話が出来ず、そのあとホテルに連れ込もうとしたら、ロビーでいきなり詩を書き始めて声を掛けても全く反応が無いので、だめだこりゃーと思って結局何もできないまま、マリを置いて帰っちゃったそうです」
これにもクスクスという感じの忍び笑いのようなものがあちこちから聞こえてくる。
「まあそういう訳でホテルの玄関まで連れ込むことに成功しても、まず何もできないのがマリですね。この話はマリの友人から聞いたのですが、マリに聞いてみたら『デートしたのは覚えてるけど、気づいたら居なかったよ』などと言ってました」
そんなことを私が言ったら、マリが茶茶を入れる。
「そういう私のプライベートなことをこんな所で話すのは良くないなあ。それなら、私は今度、ケイが小学2年生の時に、女の子のふりして女湯に入ったってのをバラしちゃうから」
「マリ、バラしちゃうからって、既に今言っちゃったじゃん」
「あれ〜〜〜!?」
ここで笑いが起きた所で
「次の曲は同じく今週発売のシングルから『虹を越えて』」
と私は言って演奏が始まる。
私たちはこの後、2013年のヒット曲『言葉は要らない』、今年春に出したシングルから『Golden Arrow』と歌った上で、ヴァイオリンチームとフルート組に入ってもらい『Flower Garden』から『花園の君』を演奏。更にそのヴァイオリンチームに加えて、七星さんと青葉のツインサックスをフィーチャーして『眠れる愛』を演奏する。そしてこの2曲の物凄いサウンドに観客が湧いた所でステージ後方に映像を投影しながら『影たちの夜』を演奏する。
この曲も七星さんと青葉のツイン・サックスで演奏を始める。ふたりのピンク色のサックスが可愛い。ところが途中まで演奏したところで、もうひとりそれと対照的なグリーンゴールドのサックスを持ってひとりの外人女性が入って来て一緒に吹き始める。
登場の仕方からして誰か有名人物のようであるものの、この時会場に居た人でこの正体が分かった人はあまり多くなかったようである。
最後のコーダを3人で競い合うように演奏して終了。
終わったところで私は紹介する。
「ポーランドのガールズロックバンド、Mixtory Anglesのバーバラ・スクウォドフスカさんでした!」
と言うと大きな歓声があがり
「バーシャ!」
と彼女の愛称でコールする声もあって、彼女も笑顔で手を振り、青葉と一緒に退場した。
なお、彼女が演奏したサックスは同じポーランドのバンドでこの苗場ロックフェスティバルに出演していたスウォートカ・ポクサというバンドの楽器を借りたものである。午前中にその話がまとまってマウスピースは七星さんが持っていた予備をあげて使ってもらった。
しかしグリーンのサックスがやはり珍しいので後から見るとネットで
「あれ、スウォートカ・ポクサのを借りたのでは?」
という書き込みが結構あっていた。
その後は『雪月花』から『Step by Step』を歌った後、再び青葉やフルート組にも入ってもらい、様々な楽器を入れた食の讃歌『ピンザンティン』で盛り上げる。ここで結構な人数がお玉や、お玉代りかと思われるスプーンや箸などを振ってくれた。
その後、スターキッズなど伴奏者が下がってから私は電子ピアノの前に座り、マリはいつものように私の左に立つ。そして私のピアノ演奏だけを伴奏にして、『あの夏の日』『ずっとふたり』と歌ってステージを終えた。
私たちがデビュー前の2007年夏に作った『あの夏の日』を歌った時、マリは懐かしそうな顔をしていたし、『ずっとふたり』を歌う時は目に涙を浮かべていた。
演奏が終わると私はピアノの椅子から立ち上がり、マリと並んで、両手を斜め上に掲げ、たくさんの拍手を送ってくれる聴衆に応えた。
演奏が終わってから私は『苗場行進曲』にナレーションを入れてくれた上島先生に尋ねた。
「先生も雨宮先生のお父さんの葬儀行かれますよね?」
「うん。もちろん。ワンティスは全員行く。龍虎も都合付けてもらえることになって田代のお父さん・お母さんと一緒に既に向こうに行っている。他のメンバーもだいたい夕方までに入るはず。僕はあれこれ義理があるから今日のラストまで付き合わないといけないけど明日の朝から駆け付けるつもり」
「ちなみにどういうルートでおいでになります?いったん新潟まで出た方がいいのか、あるいは東京まで行って東海道新幹線かなとか考えていたんですが」
「僕は新幹線を高崎で乗り継いで金沢まで行ってサンダーバードで敦賀まで行って、敦賀から先は誰か迎えをよこしてくれるらしい」
「なるほど!」
やはり北陸新幹線の開通でかなり交通状況が変わっているようだ。私の方は取り敢えず今日の予定が終わってから行く方法を考えることにした。
また上島先生にバーバラさんを紹介した。政子が通訳をしてあげる。
「Mixtory Angles、CDは全部持ってますよ」
「ありがとうございます。でも上島さんって本当に1人でやっておられるんですか?」
「そうですよ」
「うちの国ではきっと上島先生ってクローンが20人くらい居るんだという噂で」
「そんなに居たら、僕は全部クローンに仕事させて僕は休んでいたい」
などと先生は言っていた。
バーバラさんと政子のお父さんは新幹線がある内にということで、ラスト1つ前のジャムジャムクーンまで見て20時半頃会場を出、22:24の《Maxとき350号》で東京に戻ったようである。
私たちは最後までステージを見る。
苗場のGステージのラストを飾るマニアル・ガーデン(Manial Garden)の演奏が終了したのは23時ちょっと過ぎである。元々Manial Exs という名前だったのをメジャーデビューする時にさすがに勘弁してと言われてManial Gardenに改名したというバンドだが、インディーズ時代のCDがManial Exsの名前のまま結構出回っているようである。過激な名前に反して曲は概してムーディーで聞きやすいものが多い。かつてのシカゴなどを思わせるアダルトロック系である。
遅い時間帯に終わったので、今日はもう東京まで帰る人は居ない。
ローズ+リリーのスタッフにしても、KARIONのスタッフにしても、大半が今日は越後湯沢泊まりである(一部元気な人はこのまま明け方まで続く一部のステージを見ながら夜を明かしたようである)。
そして今日越後湯沢で泊まるメンバーで0時過ぎから打ち上げをした!
ローズ+リリーとKARION合同の打ち上げで、伴奏者の人やプロダクション及びレコード会社の担当さんなども入れてだが、高校生の青葉たち高岡組3人と鈴木真知子ちゃんは最初の乾杯にだけ付き合ってその後は寝なさいということで部屋に帰す。ドライバーの佐良さんも急に運転することになった場合に疲れていたらまずいのでと言って乾杯(むろんサイダーである)にだけ参加して部屋に戻った。
40minutesの人たちも一部の人をのぞいて参加してくれたが、さすがスポーツ選手なので食欲旺盛である。政子や美空と食べ比べしている人もいたが、途中で「負けた〜!」と言っていた。
「でも40minutesの人達は身体を動かしているから入るんじゃないの?」
と小風が言う。
「ええ。昨日も昼間長岡市内の体育館を借りて2時間ほど練習しましたから」
と中嶋橘花さんが言う。彼女は神奈川県で高校の先生をしているらしい。
「さすが〜」
「いや、歌手・ミュージシャンのみなさんが毎日歌や楽器の練習をするのと同じで私たちも日々の練習ですよ」
「音羽と光帆は歌やダンスの練習もだけど、毎日結構身体も鍛えてるみたいね」
と和泉。
「でも私たちも少し身体鍛えた方がいいかなあ」
などと美空が言う。
「いや、実は40minutesというチームも元々『少し身体動かさないとなまっちゃうよね〜』とか『健康のために身体を動かそう』なんて言って始めたチームだったんですけどね」
などと秋葉夕子さんが言う。彼女は江戸っ娘の創設者のひとりである。
「そうそう。いったん現役引退した人ばかり集まって作ったから」
と小杉来夢(らいむ)さん。彼女は元Wリーグ選手らしい。
「それがまさか全国優勝まで行くとは思いも寄らなかった」
「まあ元プロとか現役日本代表とかまで入っていたら、そうなるのが必然という気もするけどね」
2時頃打ち上げは終わって部屋に引き上げる。ところが部屋に入って取り敢えず政子とキスした所で電話が掛かってくる。
「ああ、まだ起きてたね」
「千里!?」
「今、上島さんとも連絡取った所。今から舞鶴に行くけど、冬も乗ってく?」
「ちょっと待って。千里、今オーストラリアだかニュージーランドに居たのでは?」
そんな話をついさっき、40minutesの人たちともしたばかりである。
「行ってたけどさあ、雨宮先生ほんと無茶言うんだもん。私の親の葬式にも出ないでそれでもあんた私の弟子のつもり?あれこれバラしちゃうぞとか」
「それで日本に戻ってきたの?」
「とんぼ返り。終わったらすぐオーストラリアに戻る。今越後湯沢の駅前。これから上島先生を迎えに行くけど、冬、私の車に乗るならホテルの場所教えて」
「分かった。でも乗っていくのは誰々?」
「私が運転して、上島さんと春風アルトさん、そして冬まで入れて4人かな」
「だったら政子も一緒に乗せていい?」
「もちろん」
それで私と政子は七星さん・氷川さんにだけ連絡し、部屋の片付けなどは仁恵と琴絵にお任せして、着替え1回分だけを持ち1階まで降りて行く。やがて千里のインプレッサがホテルの前に停まる。
後部座席に上島先生と春風アルトさんが乗っていたのだが、上島先生が助手席に移動して、後部座席に左からアルトさん、私、政子の順に乗った。上島先生とアルトさんは前後の席になるので会話がしやすい。
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
夏の日の想い出・コーンフレーク(6)