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■夏の日の想い出・誕生と鳴動(4)
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「ね、ね、ここのシーサーが両方とも男の子だったら、千葉に設置するのは両方とも女の子にしない?」
と政子が言い出す。
「うーん。どうだろう? 著作権者の意見を聞かないと。それにその前に青葉に聞いてみなければ」
ということで私はそのウタキの敷地を出たあとで青葉に電話してみた。
「ちょっと本人たちに聞いてみます」
などと青葉が言う。本人??
少しして返事がある。
「この子たちまだ小さくて性別ってよく分かってないみたいです。でも僕たちたぶん男の子だと思うなんて言ってますから、そのまま男の子にしておいてあげられませんか?」
「へー。まあ本人達の意志に反して性転換させちゃいけないね」
と私は答えて電話を切る。一体誰に訊いたんだ?
「そういう訳で男の子のまま」
と政子に言うと、
「つまんなーい」
などと言っていた。
「だけどあの接着した、おちんちん、3Dプリンタで作ったとは思えないきれいな出来でしたね。積層も目立たないし」
現在普及している3Dプリンタの多くはFDM(Fused Deposition Modeling, 熱溶解積層)という方式を採っていて、自由な成形ができるものの、積層した層の境目がきれいに分かる欠点がある。
「押出のノズルに物凄く細いものを使っているので、そもそも層が目立たないんです。その分プリントに時間が掛かりますけど。その上できあがったものを手作業でスムース化しています」
「ああやはり少し手を加えておられるんですね」
あのシーサーのコピーを作って千葉の神社に設置するという件に関してはヒバリは知っていた。そもそもどうもその話の提案者はヒバリだったように思えた。
「あ、石膏の型をプリントしてそこから実物を作るんじゃなくて、そもそも粘土を3Dプリンタでその形にしちゃうんだ?」
と木ノ下先生は驚いたように言う。
現在玉依姫神社に設置している狛犬の内、右手を挙げた黒猫のほうは実は左手を挙げた白猫の型を反転させた型を3Dプリンタで作り、微調整の上でその型から通常の工程で制作したものである。私もてっきりその方式と思っていたのだが、石膏の型をプリントするのではなく、直接作品をプリントするらしい。
「最近注目されている自由度の高いデルタ型プリンタならできるんですよ。多少自分で改造していますけどね」
「凄いね。しかし今回作ってもらった、おちんちんくらいのサイズならいいけど高さ50cmほどのシーサー全体を3Dプリンタで作れるものなの?プリント中に崩れたりしない?」
「普通の陶芸では粘土に水を混ぜたものを使うのですが、3Dプリンタで作る場合は水を加えていない硬質粘土を使うんです。それでかなり細かい造形もできるんですよ」
「ちょっと見てみたいね」
と木ノ下先生も言うので、全員で城間さんの工房に再度お邪魔した。
「プリントに時間がかかりますから、高さ5cmの1/10モデルで」
と言って、城間さんが自分で改造したというデルタ型3Dプリンタを作動させる。白い粘土がうっすらと積層されていく。確かにそのひとつひとつの層がとても薄いので、3Dプリンタ特有の階段状の積層痕がほとんど分からない。そして細いノズルを使用していることで、とても細かい作り込みができている。こんな細かい造形は熟練の陶芸家でなければできないだろうと思われるものが目の前に自動で出来て行っている。
私は3Dプリントは21世紀の産業革命ではないかと感じた。
「シーサーの全身スキャン自体は先日おちんちんの型取りに行った時、木ノ下先生が、念のため全身撮っておいてとおっしゃったので、やっておいたんですよ。あれ、新たにスキャンしようとすると大変だったんでしょ?」
と城間さんが言うと
「ええ。魂を抜いたり戻したりとしないといけないので」
とヒバリは言っている。
「こちらが昨日試しにプリントしてみた白い子の方です」
と言ってミニチュアモデルを見せてくれる。
「触ってもいいですよ」
というのでおそるおそる触ってみるが、しっかりした感じである。実際には崩れにくくかつ細かい造形ができるノズルのサイズや形を決めるのに結構試行錯誤をしたらしい。
「これに釉薬を掛けて、焼き上げるんですね?」
「そうです。焼くのは知り合いの登り窯を持っている陶芸家さんに頼んでいます」
「あれ?今プリントしているのは?」
「黄色い子の方ですね。生データですから、おちんちんの無い状態ですが」
「なるほど」
「データを詳細に検討していたのですが、やはり素人の方が接着しているので継ぎ目がわりと粗いんですよ。ですからこれを手作業でパソコン上で修正して本来の形を復元します。この作業にたぶん1ヶ月かかります。そのあとプリント自体は1体20時間でできると思います」
「20時間もかかるんですか!?」
「50cmの高さですからね。今プリントしているのはミニチュアなので1時間程度で仕上がるはずです」
「5cmでも1時間か・・・」
「細かい作業していますから」
「じゃプリントした後でたぶん1ヶ月くらい乾燥させてから焼き上げですよね?」
「そうなると思います。おちんちんは小さいから4−5日乾燥させただけで焼いちゃったんですが、大物はゆっくりと乾燥させた方がいいと思うので」
「じゃ今からお願いしてできあがるのは最速で9月上旬かな」
「そんなものですね」
「じゃ余裕を見て11月までにできるといいという感じでお願いできますか?」
「いいですよ」
「料金は先に前金で半額払いますので」
「それはありがたいです」
工房で1時間かけてミニチュアのシーサーが成形されていくのを見ながらおしゃべりしていたら、宮里花奈さんが来訪した。ここ数年、ローズ+リリーのステージ衣装のデザインをお願いしているデザイナーさんである。聞くと城間さんと同じ小学校の先輩・後輩の関係らしい。
「じゃ村山千里と城間安美さんがつながってて、城間安美さんと宮里花奈さんがつながってて、花奈さんの妹が陽奈さんで、宮里陽奈さんが私たちの知り合いで」
と政子は楽しそうに言う。
「こないだ青葉が言っていたデイジーチェーンだね」
と私も言う。
やがてシーサーのプリントが終了したので昨日プリントした子と並べて置いてみる。昨日プリントしたものは口を開いていておちんちんがあり、今日プリントしたものは口を閉じていておちんちんが無い。逆に元々おちんちんが付いていたところが欠損して穴が開いているが、その穴の形が何とも絶妙で女の子の割れ目ちゃんにも見えるのである。
「やはりこちらの子は女の子ということにしちゃおうよ。サービスでおっぱいも付けてあげてさ」
などと政子はまだ言っている。
念のため木ノ下先生が元々のシーサーの制作者の娘さんと連絡を取ってみたら、娘さんは思いがけないことを言った。
「実は最初、あの子たち阿形の子だけにおちんちん付いていたんですよ。でも焼きあがった後で吽形の子にもおちんちん付けちゃおうなどと言い出して。そちらはメスなのでは?と私も母も言ったんですけど、なんか良く分からない言い訳をして、別途作ったおちんちんを接着剤でくっつけちゃったんですよ」
「じゃもしかして吽形の子って、性転換して男の子になっちゃったんですか?」
「そうですそうです」
と電話の向こうで娘さんは楽しそうに言っていた。
「だからおちんちんくっつける前は、5mmくらいの幅の割れ目ちゃんがあったんですよ」
「へー!」
「後でくっつけたものだったからもろくて、取れやすかったのかも知れないなあ」
などと木ノ下先生は電話を終えた後で言っている。一応娘さんは、女の子にしてあげるのなら、それでもいいと言っていた。
「ひょっとしたら、あの子のおちんちんだけ発見できなかったのは、本来は無いものだったからかも」
とヒバリは言った上で
「実は青葉さんに託したシーサーの子供はあの黄色い子が産んだんですよ」
などと衝撃の事実を明かす。
「赤ちゃん産んだの?」
と政子が楽しそうに言う。
「じゃやはり元々が女の子なのでは?」
「本人は男の子の意識なんですけどね」
「FTMなのかな?」
と城間さんも考えるように言う。
「じゃさ、千葉に設置する子は、基本は女の子で作って、付けおちんちんを装着しておくというのは?私がリアルなのを寄進するよ」
と政子。
「それ警察からちょっと来いと言われるかも」
と私。
「だけど神社に陽型や陰型をたくさん奉納している所ってありますよね?」
「あります、あります。結構本土の方で友人と一緒に神社巡りしていると、ぎゃっと思うことありますよ」
などと花奈さんも言っていた。
その後、宮里さんが
「せっかくケイさん・マリさんがこちらに来ているなら」
と言って、彼女のアトリエにもお邪魔することになった。このアトリエを訪問するのは久しぶりである。
「今度のツアーにこれ持って行きません?」
などと言っていくつかの衣装を見せてくれる。
「この衣装の青いのがあるといいな」
などと政子が言う。
「じゃそれ明日にでも作ってそちらに速達で送り届けますよ」
「すみませーん」
その日は木ノ下先生の御自宅で早めの夕食に沖縄の料理を頂いた。政子はたくさん食べて、大満足の様子であった。その後、20:40-23:05 ANA478 (B737-800)で羽田に帰還した。
政子は機内で楽しそうに詩を数篇書いていた。見ると
『おちんちんが無くなっちゃった』
なんてのもある。
「これローズクォーツに提供してタカ子ちゃんに歌ってもらおう」
などと言っている。ああ、可哀想に。
「タカ子ちゃんも、そろそろおちんちん取っちゃえばいいのにね」
「それやると、麗さんが困るよ」
「精子保存しておけば子供は作れるし」
「セックスもしたいと思うよ」
「おちんちん無くてもセックスできるのに」
「みんながレスビアンじゃないからね」
「そう? 和実と淳さんもビアンだし、桃香と千里もビアンだし、エリゼとロンダもビアンだし、和泉もビアンだし、若葉もビアンだし」
「たまたま知り合いにビアンが多いのでは。ちなみにエリゼとロンダは別に恋人ではない」
「そうだっけ?」
一応お仕事をする気もあるようで今年のアルバム用と思われる
『その角を曲がればニルヤカナヤ』
という詩も書いている。なんか長い詩だ!?
「これ以前『出会い』でやったような通作歌曲形式で書ける?」
「まあ頑張ろうかな」
通常の歌は有節歌曲形式といって、同じメロディーを繰り返し演奏する「1番2番」のある形式を取るが、通作歌曲形式というのは、そういう単純な繰り返しが無く、全体を通して各部分にオリジナルなメロディーが付けられる。シューベルトの『魔王』などがこの形式である。
もちろん作曲家の手間はとっても大変である!
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