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■夏の日の想い出・誕生と鳴動(2)
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2012年8月3日に私たちは『ローズ+リリー・メモリアルシリーズ』の3作目となる『Rose+Lily after 4 years, wake_up』を発売したが、このアルバムには『ローズ+リリー・ラスト・メモリアル・アルバム』という仮題を告知していた。そのタイトルについて、先に発売されたシングルの発表記者会見の席で私は記者に
「ローズ+リリーのアルバムはもうこれ以上作らないという意味でしょうか?それとも別のシリーズが始まるのですか?」
と尋ねられたので
「この後は通常のアルバムになるという意味です。発売時期は決まっていませんが、『Flower Garden』という仮タイトルだけ決まっています」
と答えた。
この『Flower Garden』は2012年夏頃から実際に制作準備に取りかかり、具体的な制作は2013年1月から6月まで半年掛けて行っている。この半年間、私たちはそれ以外の仕事をほとんどしなかった。
このアルバムを発表した時の記者会見で「来年のアルバムの予定は?」と尋ねられた私は「名前だけ決まっています」と答え『雪月花』という名前を発表した。この時はほんとに名前しか決めていなかったのだが、その後少しずつ計画を進める。そして2014年の春のツアーをしながら詳細を詰め、5月頃から少しずつツアーの傍ら制作に取りかかり8月の発売を予定していたのだが、ここで複数の友人からの助言に基づき、私はこの発売日を大幅に延期。12月に発売することにして、ここまでの制作作業をいったんリセット。7月から11月まで他の仕事を一切入れずにアルバム制作に専念して、アルバムの完成に漕ぎ着ける。
おかげで『Flower Garden』が国内で190万枚、海外で40万枚を売ったのに対して『雪月花』はそれを上回る国内220万枚・海外120万枚(2015年4月末現在)ものセールスをあげた(余波で『Flower Garden』の国内累計売上も200万枚を突破した)。
ローズ+リリーの音源が国内で200万枚を超えて売れたのは『神様お願い』以来のことだが、『神様お願い』は売れた枚数を公開しない契約になっているので、公式にはローズ+リリー初のダブルミリオン音源ということになった。
(次に200万枚を突破するのは2018年8月に発売した『Bridal Wind』である)
私は『雪月花』を発売した時、次のアルバムの名前を発表しなかった。記者から質問はあったのだが「まだ未定です」とだけ答えた。
やはり『雪月花』の名前と発売時期を事前に言っておいたのが、その後のスケジュールの変動もあり、期日を守ることができなかった反省もあったのである。ただ内心、アルバムタイトルとして考えていたものがあった。
「『The City』か。また英語のタイトルで行くんだ?」
と前田さんは言った。
その日、私は今年のアルバム制作に関する企画会議をしていた。出席者は私と政子、サマーガールズ出版代表として秋乃風花、サウンドマネージャーとしてスターキッズの近藤七星(旧姓宝珠)、UTPの大宮伸幸副社長と松島花枝制作部長、△△社の月羽涼香(旧姓甲斐)、○○プロの前田春臣制作部長、そして★★レコードの町添幸太郎取締役制作部長・加藤銀河課長・氷川真友子主任というメンツである。
なんか11人もいる!?
数十億円のビジネスの話なのでやむを得ない構成なのだが、私の本当の味方は風花、七星さん、氷川さんくらいなので、私も結構内心は冷や汗を掻きながらこの会議に臨んでいた。
「『Flower Garden』『雪月花』で自然の美を歌ったので、今度は一転して都会の中に潜む様々な心象風景などを歌いたいと思いまして」
と私は説明する。
「どうなんでしょうね? 自然を歌ったものが続けてうけたんだから、また更に自然を歌ったほうが固定ファンが付くのでは」
などと松島さんが言う。
当然出てくるはずの意見である。
「しかしそれをやっていると、そういう歌しか歌わないユニットということになってファン層が固定化してしまう。まだまだ色々な可能性を追求してファン層を広げていったほうがいいんじゃないですかね」
と前田さん。
同じ事を言っているのに結論が真逆になることが面白い。しかし前田さんの立場からこういうことを言ってもらうとこちらはかなり助かる。
こんな感じの話し合いを2時間ほど続けて、ようやく基本的な制作方針が了承されたのが2月初旬のことであった。
この会議をやった時期は、私はちょうどKARIONの全国ツアーをやっていた。その福岡公演に行くために飛行機に乗っていたら、ちょうど§§プロの紅川社長と隣り合わせの席になる。その場で紅川さんは、実はここ数ヶ月目立った活動が無くファンの間から心配する声が出ていた同プロの明智ヒバリが鬱病を発症して実家近くの病院で療養中であるという話を聞く。
社長はそのヒバリの様子を見に行くという話であったので、私はその日のライブが終わった後、紅川さんに連絡して様子を訊いてみた。
するとヒバリが「コスモスを見たい」と言い出して、この時期にコスモスが咲いている沖縄の宮古島に行ったこと。そこに紅川社長の実家があるので、しばらくそこで静養させることにしたことを聞いた。
「宮古島って今頃コスモスが咲くんですか?」
「面白いでしょ。正確には宮古島の隣にある橋で結ばれた小島・来間島(くりまじま)にコスモス畑があるんだよ」
「凄いですね。本土とはかなり花の季節が違うんですね」
「まあ気候もまるで違うからね。ここは良いところだよ。冬ちゃんももし心が疲れたようなことがあったらおいでよ」
「そうですね。その内、お邪魔させて頂くかも」
と私はその時はそんなことを言った。
私が実際に宮古島に行き静養することになるのは4年後のことである。
最近完璧に私は外れてしまったのだが、ローズクォーツはまた今年も新しい「代理ボーカル」を迎えることになった。昨年4月からこの3月まで1年間代理ボーカルをしてくれたOzma Dreamに代わって、今年4月から来年3月までの1年はミルクチョコレート(千代子と久留美)が代理ホーカルをしてくれることになった。
《ローズクォーツOM》から《ローズクォーツCM》に変わることになる。
彼女たちはまた私の古くからの知り合いである。KARIONのデビューCD『幸せな鐘の調べ』で、コーラスを務めてくれたのだが、ふたりはこの音源制作で知り合ったことから親しくなり、ユニットを組むことになったのである。
代理ボーカル交代記念で両方のボーカルが参加したシングルを発売している。ローズクォーツ15枚目のシングルで曲目構成はこうなっていた。
『アイアン・ランナー』(マリ&ケイ作詞作曲)Vo.Milk Chocolate
『恋の休日』(上島雷太作詞作曲)Vo.Ozma Dream
『アウト・オブ・ライン』(Two Voice作詞作曲)Vo.Milk Chocolate
『フェアリー』(目時晴子作詞・木崎礼佳作曲)Vo.Milk Chocolate
『だから言ったのに』(マリ&ケイ作詞作曲)Vo.ケイ(Overdub)
1曲だけ私が歌ったので、私は2月に半日だけ時間を作ってスタジオに入りボーカルパートを吹き込んだ。今回、クォーツの面々とはスタジオで全く会っていない。全部タカたちにお任せである。例によって全体の管理は大宮副社長が自らやっている。
4月中旬、私が自宅マンションで夜食に政子の要求でカツ丼を作っていたら、その間、裸で!ソファに寝転がってテレビの番組表を見ていた政子が、突然「わっ」というので、こちらがびっくりする。
「何?何?」
「ゴジラがWOWWOWで放送されるのよ」
「ああ、去年のアメリカ映画?」
「そうそう。去年の夏は忙しくて見に行けなかったもんなあ」
「まあ鋭意アルバムの制作をしていたからね」
「予約しておこっと」
と言って政子がチャンネルと日付のメモを書いて私に渡すので、私がその予約操作をした。ここで政子が操作をしようとすると、しばしばチューナーがダウンする。静電体質の人というのは困ったものである。
そして私がその操作をして夜食作りの方に戻った時また唐突なことを言い出す。
「ね、ね、千葉の青葉んとこにさ」
「ん?」
青葉んとこというのは、たぶん青葉が設置した玉依姫神社のことかなと私は思った。
「狛犬ちゃん作らない?」
「狛犬ちゃん代わりの招き猫ちゃんたちがいるじゃん」
「でもあの子たち、お社のそばにいるじゃん。鳥居のそばにも何か居ていいと思うんだよね」
「ああ、確かにね」
「ゴジラとムートーを置いたらどうかな?」
「喧嘩するのでは?」
「そっかー。あ、じゃムートーじゃなくてモスラだったら?」
「過去にゴジラとモスラが戦った映画もあった気がする」
「そうだっけ? それどっちが勝ったの?」
「さあ、見たことないから」
実際にはゴジラとモスラ親が戦いゴジラが勝ったものの、モスラ子が孵化してゴジラを撃退するのである。
「でもモスラとゴジラなら、話し合えば仲良くできないかな」
「どうやって話するか知らないけど」
「よし、やはりゴジラとモスラで行こう」
「でもそれ著作権使用料払わないといけないよ」
「いくらくらい?」
「うーん。数百万円要求されるかも」
「うっそー!」
「その前に、そもそも許可がおりないかも。イメージを壊すようなものって許可されないんだよ」
「うむむ。ゴジラのそっくりさんのドジラとモスラのそっくりさんのモスガバとかでは?」
「著作権で食べさせてもらってる私たちが、そんな著作権をないがしろにするようなことしちゃいけないよー」
「うーん。めんどくさいなあ。ちょっと青葉に訊いてみよう」
「こんな時間に電話するの〜?」
今は夜中の12時過ぎである。
「青葉なら起きてるよ」
それで政子は青葉としばらく話していたが、青葉が政子のことばを理解できたかどうか、私はいぶかった。政子が話している内にカツ丼が出来たので言ったら、それで政子は電話を切って、夜食を食べ始めた。
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