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■夏の日の想い出・花園の君(11)

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ここまでの演奏を全て仮ミックスして聴いてみる。
 
「何か物凄く華やかな曲になったね」
と近藤さんもヤス・サトも感心している。
 
「あとはミキサーの仕事です」
「これだけの楽器が鳴っている中で、歌声をちゃんと聴こえるようにしないといけないから、ミクシングはけっこうたいへん」
 
「それ冬ちゃんが自分でやるんだよね?その後のマスタリングも」
とずっと今回の制作に付き合ってくれていた麻布先生が言う。
 
「やりますけど、有咲手伝ってよ」
「いいよ。親友特別割増料金・豪華食事付きで」と有咲。
「うん、いいよ」と私。
「あ、食事には私も参加」と政子。
「うーん・・・・マリの食事代で予算オーバーしたりして・・・」
 
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「でも本当に、みなさん、お疲れ様でした」
「七星さんもサウンドチェックありがとうございました」
「私は好き勝手なこと言ってただけだけどね」
 
「でも今回、制作費が無茶苦茶掛かったんじゃない?」とヤス。
 
「シングルを14枚作るくらいの手間を掛けたからね」
「いや、実際シングル14枚作ったのに等しいと思う」
「いや、『砂漠の薔薇』と『花園の君』は各々それ1曲だけで普通のアルバム1枚作るくらいの手間と費用が掛かったと思う」
 
「ひょっとして大台(1億円)突破してない?」と近藤さん。
 
「大台は突破してません。予定している広報活動とかの費用を加えても突破しません。しばしばそういうとんでもない金額をつぎ込んだことを宣伝する作品もあるけど、ああいうのは実際は無駄な所にお金を掛けてるだけだよ」
 
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「ああ、そういうのは多いね。まあ僕もその手の無駄な金を掛けたアルバムには結構関わってきたけど」と麻布先生。
 
「後TVスポット打てば軽く億超えるけど、うちはスポット打つつもりないし。地道にFM局に売り込むだけ。長年やってるから全国のFM局のほとんどのDJさんと知り合いだから、それを利用させてもらう」
「ああ、それはいいよね」
 
「新曲キャンペーンも特にしない。今回発売直後に全国ツアーやるから、それがキャンペーン代わりになるので」
「なるほど」
 
「実は町添さんとも話し合ったんですよ。最近はDTM技術が発達してよけい低予算で少人数でちゃちゃっと作るようなアルバムがやたらと多くなってしまった。でもそんなちょちょいと作ったものって、消費者は敏感に感じ取りますよ。やはり、それなりの時間と手間を掛けてしっかり作るアルバムも必要だってね」
 
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「でもそれだけの予算をつぎ込めるアーティストはそう多くない。金が無いもん」とサト。
 
「特に旬なアーティストには少ないよね。長年やってて、さすがに実力が衰えかかったアーティストでは時々いるけど」と近藤さん。
 
「旬な人の場合、スケジュールの問題もあるんですよ。年間4枚シングル出して2枚アルバム出して、全国ツアーやって、他にもテレビラジオに出演してとかしてたら、じっくりとアルバム作るだけの時間的な余裕がないです。ローズ+リリーは音源制作しかしてなかったし、それものんびりペースだったから今回できた訳で、来年は多分もっとライブやってるだろうから、物理的に無理になります。つまりこういう作り方ができたのは、私たちの場合でも多分最初で最後です」と私は説明する。
 
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「今回みたいなのはバンドでも無理だよね。伴奏者を自由に編成できる歌唱ユニットにしか作れないアルバムだよ」とヤス。
 
「うん。だから、私とマリにやってみてごらんよと言われた。幸いにもこういう作り方するだけの資金が用意できたし」と私。
 
「あんたたちのサマーガールズ出版って、全然無駄遣いしてないみたいだもんね。音楽制作以外のこと何もしてない。税金も馬鹿正直に払ってるでしょ?」
と七星さん。
 
「ええ。会計士の先生からも何かに投資したりして節税したら?と言われたけど、あくまで私とマリの音楽活動を支えるためだけの会社だから」
と私。
 
「実はマリちゃんの食欲を支えるための会社だったりして」
「えへへ」
 
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「いや、さすがにマリの食費は経費では落とせません。それと今回の資金が出たのはやはり『天使に逢えたら/影たちの夜』と『A Young Maiden』がミリオン売れたおかげですよ。私たちはファンの人たちに支えられて活動してるんです。本当にありがたい」
 
「そういう感謝の言葉を本気で言えるケイちゃんが好きだな」と七星さん。
 
「ローズ+リリーがUTP専属じゃなくて良かったと思うよ。須藤さんってやりくりが下手っぽいから、こういう大規模な制作をする資金は出せなかったと思う」と近藤さん。
 
「ああ、須藤さんって、目の前にあるお金は全部使ってしまうタイプだよね。松島さんがいなかったらとっくに倒産してる」
とヤス。
 
「いや、それより問題なのは、存在するお金で出来ることしか考えないこと。本当は何をすべきかを考えて、それに必要な資金を調達するという発想をしなければいけないのに」
と近藤さんは言う。
 
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「あの人スケジュールも作れないよね。基本的に行き当たりばったり。桜川さんがいなかったらダブルブッキング頻発してると思う。何度かゲッと思ったことあったしさ。早めに気付いたんで調整できたけど」
とサト。
 

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「で、ローズ+リリーさん、来年のアルバムの予定は?」と七星さん。
 
「名前だけ決めてます。『雪月花』です」
「ほほお」
 
「『女体化』って提案したけど却下された」と政子。
「伴奏してもらう人みんなに女装してもらうって案だったんだけどね」
「勘弁してよ、マリちゃん」とサト。
先日の『Rose Quarts Plays Girls Sound』でサトは女装させられて何度も警官に職務質問されたりしたので、参ったようである。
 
「まあ、普通に行きましょう。それで、女装してもらったりは無いですから、近藤さん、太田さん、月羽さん、七星さん、また来年も参加してもらえませんか? 手間も今回ほどは掛けないと思うけど」
「ああ、いいよ」とみんな言ってくれる。
 
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「じゃ今度のアルバムの最後に Mari and Kei will return in Snow,Moon,Flower.とか入れたりして」
「あはは、面白いですね」
 
「来年の制作する時は七星さんの苗字が変わってたりしてね」
と唐突に政子が言う。
 
「えーー!?」などと七星さんは言うが、近藤さんは何だか恥ずかしそうに俯いていた。
 

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『Flower Garden』で最後に収録した曲、『花園の君』の収録の前後で、私は実はKARIONのシングル『キャンドルライン』と続けて発売する予定のアルバム『三角錐』及び秋に発売する予定の次のシングル『雪のフーガ』の制作にも参加していた。
 
「三角錐」というのは三角形だけど四面体という何とも意味深なタイトルである。『雪のフーガ』及びc/w曲の『恋のソニックブーム』には久々に「5人目のKARION」
である穂津美さんにも参加してもらっていた。
 
和泉が、ローズ+リリーの方のアルバムの制作進行にもかなり関心を持っていたのだが、それまではまだ制作中ということで情報を出していなかった。しかしもう大詰めに来たということで、『花園の君』に取りかかる直前の5月下旬、そこまでの仮ミクシングの状態のものを和泉にだけ聴かせた。ただし今回は時間を掛けて制作しているので「仮」と言っても事実上最終ミクシングとの差はそう無いはずである。(『花園の君』は後で追加で聴かせた)
 
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「何これ?」
と最初の数曲を聴いた時点で和泉は言った。
 
「ん?」
「これって、アルバム作ってたんじゃなかったの?」
「そうだけど」
 
「これ、シングルを10枚くらい作ったんじゃない?」
「まあ、そのくらいの手間暇は掛けたね」
 
「普通、こんなアルバム作れない」
「活動しながらは作れないよ。まだローズ+リリーが本格稼働する前だから作ることができた。来年は無理」
「なるほどね。でも時間もお金も掛かってるよね、これ」
 
「編曲作業を始めたのが1年前。録音を始めたのが1月」
「費用もふつうのシングル作るのの10倍掛かったでしょ? 2億越えてない?」
 
「8桁(1億未満)だよ。まあ、この後広報費とかが掛かるけど、それ入れても多分通常シングルの4〜5倍くらいかな。スタジオは実際に使う使わないと関係無く半年まとめて借りたから安くしてくれたし、演奏者は友だちとか知り合いとかばかりだから、演奏料も特例になる場合(アスカと美野里,XANFUS)を除いては1日10万しか払ってないし。だから直接原価は5000万も掛かってない。編曲は自分でしたから編曲料も0円だしね」
 
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「冬は自分でいろんな楽器ができるから、それで済んじゃう面もあるよね」
「まあね。私とマリにも報酬を払わなければならないとしたら、それだけで4000万以上払う必要があったろうね」
「そうか、その分が安く済んでるんだ」
 
などと言いながら和泉は更に音源を聴いていたが『夜宴』まで来た時に「ん?」
と声を出す。
 
「どうかした?」
「少し素人っぽいグロッケンが入ってるなと思って」
「さすがグロッケンには、うるさいね」
 
「・・・もしかして、これマリちゃんが打ってるの?」
「まあ、マリに弾かせるんでなきゃ、このレベルの奏者には依頼しないよね」
 
「マリちゃん、グロッケン練習してるの? これ1〜2日練習して打ったという雰囲気じゃない」
 
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「この1月から始めた。だからまだ4ヶ月だよ」
 
「ふーん」
「ちなみに自宅で練習に使ってるのは和泉が使ってるのと同じシリーズの奴。こちらが一世代前だけどね。中古で処分されようとしていたのを引き取ったから」
「へー・・・」
 
「ああ、目が燃えてる、燃えてる」
 
和泉は苦笑して言う。
 
「冬さぁ」
「なあに?」
「時々思うけど、私とマリちゃんを意図的に競争させてない?煽られてる気がする」
「ふふ。ライバルなんでしょ? 詩人として」
「まあね」
 
「そして私と和泉は歌手としてのライバルだよ」
「それはそうだ」
「私が歌手として、緊張感を持って『負けないように頑張ろう』と思う相手は和泉以外いないもん」
「それは私もそう思っている」
 
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「だから、和泉はある意味でローズ+リリーの第3のメンバーなんだな。和泉がいるから、私もマリも頑張れる」
「面白い解釈だね。じゃ、マリちゃんは6人目のKARIONだな」
「うふふ。お互い切磋琢磨していこうよ」
「うん」
 

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6月5日(水)。ローズ+リリーの2回目のベストアルバム『RPL投票計画』が発売された。2枚組になってしまったため価格が5800円になってしまったので、私とマリのミニ写真集をサービスで付けた。初版分にはおまけのCD-EXTRAにその写真集のデータと2013年6月から2014年7月まで14ヶ月分のカレンダー付きローズ+リリー壁紙を収録した(CD-EXTRAの音声部分にはマリのヴァイオリンと私のフルートによる『帰郷』を収録)。
 
特にキャンペーンなどはしないつもりだったのだが、◇◇テレビの響原さんからお声が掛かった。◇◇テレビでは、7月からローズクォーツに素人歌番組の伴奏をさせることになっているので、それの周知も兼ねて、1時間枠を取るから、まとめて演奏しませんか? という話であった。
 
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政子に「こんな話があるんだけど」と言ったら「出てもいいよ」などと言うので私たちとローズクォーツで演奏することにした。アルバムに収録した26本の曲を45分の枠で生演奏する。1曲平均1分43秒である。曲によってはAメロBメロサビまで演奏できないものも出てくるので、私とサト・ヤスの3人で譜面を検討して各曲の演奏方法を決めた。七星さんにタイムキーパーをお願いし、各曲が演奏を終えなければならない時刻を10秒以上超過したら合図してもらい、七星さんの合図があれば、区切りの悪い所でもその曲を中断して次の曲に行くことにした。
 
前日に実際に番組で使うスタジオでリハーサルをしたが、七星さんの中断サインは5回出た。
「何か結構慌ただしかった」
「まあ最後はケイちゃんの緊急対処能力頼りだな」
「うん。ケイちゃんが居れば何が起きても対処してくれる」
「誰かが途中で性転換しても何とかするよね」
「どういう状況ですか!?それ?」
 
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夏の日の想い出・花園の君(11)

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