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■夏の日の想い出・花園の君(2)

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私はこのアルバム制作では、演奏陣にもこだわりたいと考えていた。
 
2012年にローズ+リリー「メモリアルアルバム」の最後のアルバムとなる『Rose+Lily after 4 years, wake up』の制作に参加してくれた、七星さん、近藤さん、ヤス、サトには、『Flower Garden』の制作にも参加して欲しいということをその時点で伝えていた。この4人は実は最初のメモリアルアルバム『Rose + Lily after 2 years』にも参加してもらっていた。そしてこの『after 2 years』に参加していたアーティストで、もうひとり私が声を掛けたのが、ヴァイオリニストの松村さんだ。
 
「蘭子ちゃんってかケイちゃんのCDの制作に参加するのは久しぶりだね」
と言って、松村さんはその要請を快諾してくれた。
 
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松村さんは『After 2 years』と『恋座流星群』に参加してもらっているが、実はそれより前にKARIONのデビューイベントで一緒になったことがある。
 
「その蘭子はこちらでは勘弁してください。蘭子とケイが同一人物というのは、一応内緒なので」
と私は笑って言う。
 
そのことを知っているのはKARIONの3人、畠山さんと津田さん、ゆきみすず先生、町添さんくらいであろうか。
 
「だけどあの美少女ヴァイオリニストがまさか男の子だったとは思いもよらかかったけどね」
「あはは、それも勘弁してください」
 
「でも私がヴァイオリン弾いていいの? スターキッズにもヴァイオリニストがいるし、だいたいケイちゃんは私より上手なのに」
「そんなことないですよー。それに実はヴァイオリン6台による演奏をするんです」
 
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「へー!」
 
『花園の君』のアレンジは雨宮先生が行ったものであるがヴァイオリンの音を多層に重ねてサウンドが作られている。他にもフルート、クラリネット、トランペット、トロンボーン、サクソフォーンなど様々な楽器が登場するが、ベースとなるのは、このヴァイオリン多重奏で、デモ音源制作の時は私がひとりで6回弾いて音を録っているが、その6つのヴァイオリンを微妙なタイミングで重ねるのに、雨宮先生はかなり手間を掛けてミクシングをなさっていた。
 
それで今回はセッションセンスの良い6人で一斉に演奏することで微妙なタイミングのずれを避けることとし、ヴァイオリンを、私と政子、スターキッズの鷹野さんと七星さん、松村さん、そして私の従姉のアスカの6人で弾こうという計画を立てたのである。
 
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この『Flower Garden』は、普通のアルバム制作のように、ミュージシャンをどーんと集めて次々と曲を演奏して収録するという作り方はしないつもりであった。まるで14個のシングルを作るかのように、ひとつひとつの曲をそれぞれに必要なアーティストに依頼して集まってもらい制作していくという方式である。そのため、実はこのアルバムの発売日は2013年7月と定めてはいたものの、音源制作は半年前の1月から開始したのであった。
 
様々な人を集めるので日程の調整が大変であったが、うまく集まれる日を選びつつ、全ての録音は麻布先生のスタジオで行い、麻布先生と有咲に録音その他の作業をお願いした。全ての録音の現場に立ち会ったのは、私と政子、麻布先生と有咲の他は、全体的なサウンドのチェックをお願いした七星さんだけである。
 
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麻布先生とは数年ぶりの再会だった。私は高1の春から高2の夏に掛けて麻布先生の勤めておられたスタジオで有咲と一緒にバイトしていたのだが、先生はローズ+リリー結成直後にスタジオの倒産を機にアメリカに行ってしまわれて、この12月に帰国なさったということだった。有咲は昨年春に、麻布先生のツテで、麻布先生が帰国後入社する予定の録音スタジオに入社し、12月までは色々な音響技術者さんのお手伝いをしていたのだが、麻布先生の帰国と共に、先生の専属主任助手になったということだった。
 
私と政子は1月の新譜キャンペーンが終わった後、麻布先生のスタジオを訪問し、今回のアルバム制作の計画を説明して、その長丁場の制作の音響・録音をそちらのスタジオを使い、麻布先生と有咲にお願いできないかと依頼し、快諾してもらった。
 
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「冬ちゃんは元々歌がうまい上に物凄く器用だったからね。実質僕の専任スタジオミュージシャンという感じだったね」
などと先生は当時を懐かしむように語った。
 
「アイドル歌手なんかには随分歌を教えていたし、作曲家が悩んでいたら旋律を提案してみたり、何度か作曲家さんがどうしても曲が浮かばないなどという時に、冬ちゃんが曲を丸ごと作ってあげたこともあったし」
 
「冬、凄い」と政子。
「だから『柊洋子』という名前がJASRACにたくさん登録されたはず」と麻布先生。
 
「あ、女の子名前だ!」
「ああ、その名前の件は後でね」
 
「楽器の伴奏とかもたくさんしてたよね。キーボード・ピアノはもちろん、ギター、ベース、ドラムス、とひとりで演奏して伴奏音源作っちゃったこともあったし」
と麻布先生。
「あ、そういうのは私も見たことある」
と政子。
 
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「三味線とか胡弓とかも弾いてたね」と有咲。
「あれ?冬って三味線弾けるの?」と政子。
「名取りさんだよね?確か」と麻布先生。
 
「いや、学習者名なんです。教授免許は持ってないです」
「でも冬、三味線持ってたっけ?」
「冬は三味線をギブソンのギターケースに入れてる」と有咲。
 
「えー!? ギブソンのギターケースに入ってるのはギターじゃなかったの?」
 
「えっとね。うちにギブソンのケースが3つあるでしょ? 青いテープ貼ってるのがギター(Gibson-SG Standard)、黄色いテープ貼ってるのがベース(同じく SG Reissue)で、赤いテープ貼ってるのは三味線だよ」
 
「知らなかった!ギブソン製の三味線なんてあったのか」
「いや、ギブソンは三味線作ってない。単にケースを利用してるだけ」
「なーんだ」
 
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「あと冬はヴァイオリンもよく弾いてた」と有咲。
「あ、そういえば冬ってヴァイオリンも弾けるよね。私が旅先にヴァイオリン持って行った時とか、調弦はだいたいいつも冬がやってくれるし」
と政子。
 
「中学の時に助っ人頼まれてアマチュア楽団で一度演奏したんだよ。それで覚えたの」と私は説明する。
 
「へー! それクラリネットを吹いたというのと同じ頃?」
 
「そそ。だいたい同じくらいの時期だよ。胡弓もね。私、胡弓とヴァイオリンはほとんど同時に覚えたから、相互に影響しあった感じ。だからついヴァイオリンで『越中おわら節』弾いたり、胡弓で『愛の喜び』弾いたりしてたよ。無意識に弾いてると頭の中が混線して混線して」
「面白いかも」
 
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そんな話を技術者控室で話していた時、若い技術者さんが入って来て
 
「処分する楽器、だいたいまとめましたが、みなさん、ご確認頂けますか?」
などと言う。
 
「処分する楽器?」と政子が訊くと
「ああ、古くなった楽器を年末に更新したんだよ」と麻布先生が答える。
「捨てちゃうの?」
「中古楽器を取り扱う所に売却する」
「ああ、なるほど」
 
それで麻布先生を含めて何人かの技術者さんたちがスタジオの裏手に見に行った。私と政子も何となく雰囲気でそれにくっついて行った。トラックが横付けされていて、確認したらそのまま荷台に積んで搬出する態勢である。
 
「あ、ギターがたくさんある」と政子。
「どうしてもギターは使用率が高いし痛みやすいね」と麻布先生。
 
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「あれ、そこにあるのは木琴かな?」
「うーんと、鉄琴だね」
「もしかしてグロッケンシュピール?」
「そそ」
 
「私何だかマリンバとかグロッケンとかシロフォンとか、そのあたりの区別がよく分からない」
 
「まず木で出来てるのが木琴で、金属で出来てるのが鉄琴。鉄とは限らないけどね。木琴で打つ板だけなのがシロフォンで下に円筒状の共鳴管があるのがマリンバ」と私は説明する。
 
「鉄琴で打つ板だけなのがグロッケンシュピールで、下に共鳴管が付いてて電気で羽を動かして音を揺らすことのできるのがヴィブラフォンだよ。実際にはヴィブラフォンはアルミニウム、グロッケンシュピールは本当に鉄で出来ている」
 
「この鉄琴は共鳴管が付いてるね」
「うん。共鳴管は付いてるけど、羽は付いてないからヴィブラフォンじゃなくてグロッケンシュピールだよ。音域の広いグロッケンは音量不足を補うために共鳴管が一部付いてるんだ」
 
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「へー。メタルフォンとかいうのは?」
「グロッケンシュピールの商品名。ゾノア社の商標だね。似た名前でメタロフォンというのもあるけど、これはヤマハの共鳴管付きグロッケン」
 
「鼓笛隊が持ってるのもグロッケンだよね?」
「そうそう。ベルリラと言うけどグロッケンシュピールの一種。他に鍵盤型になっていてチェンバロみたいに弾けるタイプもある。音は少し違うんだけど、外見が似てるから、お互いに代用されることもあるね。それから鉄の板の代りに鐘を打つようになっているタイプがカリヨンというけど、これもグロッケンの仲間」
 
「カリオン?」
その言葉に政子がピクッとする。
 
「そそ。和泉たちのKARIONの語源だよ。カリヨンという場合、元々は4個の鐘を鳴らすようになっていたものが基本形。今は20個以上あるけどね」
「4個鳴らすからカリヨン?」
「そういうダジャレはあるけど、別にカリヨンは日本語じゃないから」
「何語?」
「ラテン語だと思う。マーサ、ラテン語はできなかったっけ?」
「今度覚えよう」
「マーサって一週間で新しい言語覚えちゃうよね」
「冬が一週間で新しい楽器覚えるのと同じだよ」
「そんな一週間じゃ無理だって」
 
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「冬はできるはずだけどなあ。でもそうか。いづみちゃんが演奏しているのがこの楽器か」
「うんうん」
 
政子は「ふーん」という感じでそのグロッケンを見ていたが、唐突にこんなことを言い出した。
 
「麻布さん、このグロッケンシュピール、買い取れませんか?」
「え?これを?」
「処分するんなら私が買ってもいいですよね?」
「あ、それはいいけど。というか、マリちゃんにならあげるよ。ね?いいですよね?」
と言って麻布さんは近くに居た所長さんに確認する。
 
「3000万円の契約頂きましたし、何でしたら新品のグロッケンを1台差し上げましょうか?」
と所長さん。
 
「ううん。私、なんだかこの子が気に入ったから」
「じゃ、それプレゼントで」
「わーい。冬、これうちの車に乗るよね?」
「ああ、大丈夫だよ」
 
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ということで政子は処分されかかっていたスタジオの古いグロッケンを引き取ったのであった。スタジオの若い人が車まで運んでくれた。スタンド一体型なので後部座席を倒して横にして収納する。また、おまけでマレットの割と新しいのを4本付けてくれた。
 
自宅に戻りながら助手席で政子が訊いた。
 
「でもカリヨンって4個の鐘という意味なのにKARIONは3人だよね」
「元々4人の予定だったんだよ。私もメンツに入れられてたから」
「あ、そういえば、秋にいづみちゃんと会った時、そんなこと言ってたね!」
「私が抜けちゃったから、仕方無く3人でデビューしたんだよ」
「そうだったのか」
 
「そのこと知ってるのは私とKARIONの3人と後は麻布先生くらい。他では言わないでね」
 
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「そんなの言わないけど、でもなんで辞めたの?」
「それは私が男の子とバレたら大騒動になるから」
「うむむ。その代わりにローズ+リリーが大騒動になったのか」
 
「ごめんね」
「ううん。でもいづみちゃんに冬を取られなくて良かった」
「別に和泉とは恋愛関係は無いけど」
 
「水沢歌月も森之和泉と恋愛関係無い?」
と政子は唐突に訊いた。私はドキッとした。
「無いと思うよ。和泉に聞いてる範囲では」
と私は冷静に返事する。
「ふーん」
と政子は意味ありげに微笑んだ。
 
「でもさ、冬って恋愛関係は無いとかいいつつ、女の子の友だちとかなり際どいことしてるよね?」
「そ、そうかな?」
「有咲ちゃんとか、若葉ちゃんとか、奈緒ちゃんとか、詩津紅ちゃんとか、リナちゃんとか、あと聖子ちゃんとかも、何かすごーく怪しい気がするんだけど」
 
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こういう名前のリストが上がるのが凄い勘だなと私は思った。
 
「聖子ちゃんの場合は、完全に向こうの片想い。私が女の子だということを認識してくれたら自然にそういう感情も解消した」
「他の5人とは?」
「詩津紅とは体育用具室やカラオケ屋さんでひたすら一緒に歌ってただけ」
「じゃ、他の4人とは?」
「リナとはお互いのあそこ見てるけど、幼稚園の時だから」
「ふーん。じゃ残りの3人とは?」
 
「マーサ、今夜たっぷりサービスしてあげるからさ」
「ふふふ。どういうサービスしてもらおうかなあ」
 

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