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■夏の日の想い出・花園の君(3)
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目次 8
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『Flower Garden』のアルバム制作の中で、最初に制作したのは『君待つ朝』
であった。1月頭のキャンペーンの時に公開した作品であるが、ローズ+リリーの「高校四部作」の延長上にあるフォーク系の曲なので、アコスティックギター3本で伴奏することにして、伴奏はスターキッズの近藤さん、ローズクォーツのタカ、そして私の3人で弾くことにした。
「ケイちゃんってギター弾けたんだ!」
といきなりタカに言われる。
「高校時代、ケイはひとりでギター、ベース、ドラムス、ピアノ、って弾いて音源制作してましたよ」
と政子が言うと
「へー!」
と言われる。
「そのギターはケイの自前?」とタカ。
「はい、そうです。ヤマハのFG730S。近藤さん(Gibson J-185)も星居さん(Martin D-28)も良いギター持っておられて、安いギターで申し訳ないですが」
「ケイ、東北には何度かそれ持って出かけたね」
「そうそう」
「でもケイ、エレキギターはギブソンだよね?」
「うん。SG Standard。でも使いこなせてない」
と言って笑う。
「ギブソンのエレキギターは高校時代に買ったんですけど、自分の技術が楽器に追いついてない気がして、震災後に東北にゲリラライブに出るのにアコギ買おうと思った時、自分の身の丈にあった楽器がいいなと思ってこれを買ったんですよね」
「ああ」
「でもギターのプロでも実はFGが好きって人は結構いるよ」と近藤さん。
「そういう話は聞きますね」
「ケイちゃん、そのギターで何か弾いてみてよ」とタカ。
「はい」
というので、私は『ルパン3世のテーマ』を弾いてみる。
「うまいじゃん!」
「充分、普通のバンドでギター担当になれるレベル」
「でも変わったピック使ってるね」
「鼈甲ピックです。ちょっと思い出の品なんですよね」
「へー」
「ケイ、思い出の品のピック使ってて折ったらどうするの?」と政子。
「ああ、オリジナルは大事にとってある。めったに使わない。これはそのオリジナルと同じものを自分で長崎で買ってきた品」
「なるほど」
次に作った作品は『間欠泉』という作品で上島先生から2008年12月に頂いた作品である。この作品はギター、ベース、ドラムス、ピアノ、サックス、トランペットという構成なので、ふつうにスターキッズに伴奏をお願いした。
「今回のケイちゃんの意図が少し分かってきた」
と近藤さんが言う。
「そうですか?」
「普通は編曲というのは、演奏するアーティストが存在していて、そのアーティストで演奏できるようにスコアを作る。ところが今回ケイちゃんがやろうとしているのは、まず曲が存在してその曲を活かすためのアレンジを考えて、それでスコアを書き、それに合わせてアーティストを招集するんだ」
「はい、そうです。毎回こんなことできないけど、今回はローズ+リリー5周年というのと、マリの完全復帰記念ですから」
「でもマリちゃんって、休養中ですとか言いながら、結構活動してたよね」
と七星さん。
「えへへ」
「でもこの曲、格好いいなあ」と鷹野さんが言う。
「2008年12月に頂いた作品なんです。『あの街角で』とカップリングして翌年春にリリースするつもりだったのですが、あの大騒動でリリースできなくなってしまって。返上するので他の方に回してくださいと言ったのですが、私たちのために書いたものなので、リリースまで何年かかってもいいと言われて」
「でも当時の私には歌えたかどうか怪しいな」と政子。
「この歌、けっこう難しい」
「うん、歌唱力を要求する歌だね」と七星さんも言う。
「これ、既に名声が確立しているような二大スターを共演させるために書いたような作品だよ。ケイちゃんもマリちゃんにも見せ場がある」
と近藤さん。
「あの時先生はそうおっしゃってました。ケイちゃんもマリちゃんもスターだから、それを活かす曲を書いたって」
「この曲を聴いたらマリファンが騒ぎそうだ」
スターキッズにはあと2曲『ひまわりの下で』『ファレノプシス・ドリーム』という曲をお願いした。
『ファレノプシス・ドリーム』はフュージョンっぽい音作りをした。酒向さんの電子ドラム、近藤さんのエレキギターと鷹野さんのエレキベース、七星さんのウィンドシンセ(YAMAHA WX5)。そして月丘さんにヴィブラフォンを演奏してもらった。月丘さんは普段はスターキッズのキーボード奏者だが、元々はマリンバ弾きである。
『ひまわりの下で』は同じスターキッズの演奏でもアコスティック系の音作りをした。酒向さんは普通のドラムスを打ち、近藤さんとそれに私もアコギを弾き、鷹野さんはウッドベース、七星さんはフラウト・トラヴェルソ、月丘さんはピアノを弾く。これにまた香月さんに加わってもらいトランペットを吹いてもらった。
ローズクォーツにも2曲演奏してもらった。
『薔薇のささやき』はエレキギター・エレキベース・ドラムスという構成なので、マキ・タカ・サトにふつうに伴奏をお願いした。ヤスが暇そうにしていたので、マラカスを振ってもらった。
『百合の純情』は、アコスティックギターの音を入れる。タカと私でアコギを弾き、マキのエレキベース、サトのドラムス、ヤスのピアノと合わせた。
なおローズクォーツに演奏してもらう際にも、七星さんには立ち会ってもらい、全体的なサウンドのチェックをしてもらった。今回、七星さんにはアルバムの「サウンドディレクター」をお願いした。
「サウンドディレクターって何するの?」
「副調で演奏を見ていて、気がついたら色々言って欲しいんです」
「好きなこと言っていいの?」
「はい、好きなこと言ってください。私たちの音楽をいちばん理解していて、それで私たちにいちばん遠慮無く言ってくれるのは七星さんだから」
「それはいいけど、それだけでこんな凄い金額もらっていいんだろうか?」
「今回は曲ごとに演奏者の構成がかなり変わります。それぞれの曲の良さを最高に弾き出すためにそういうことをする訳ですが、その場合、誰かひとり全曲を統一して見てくれる人がいないとせっかく作った各々の曲がバラバラで統一感の無いものになる危険があるんです。だから七星さんの感覚で、ここはこういう感じにした方がいいとか、こういう音色の方がいいと思ったらそれを遠慮無く言って欲しいんですよね。そういう意味で今回のアルバム作りではこの仕事がいちばん重要なんです」
と私は説明する。
「よし。分かった。じゃ好き勝手なこと言うから」と七星さん。
「はい、お願いします」と私。
「七星さん、その金額で結婚式の費用出ますよ」と政子。
「えー!? 私まだ結婚する気無いよお」
この付近の音源制作作業は、他のレコーディングやライブの合間を縫って進めている。
お正月のキャンペーンが終わった後、『Rose Quarts Plays Girls Sound』、『言葉は要らない』の音源制作が続き、ローズ+リリーの名古屋ライブがあってライブの前は演奏する楽曲の練習でかなり時間を取られている。
そしてそれらのスケジュールの合間に、『君待つ朝』『間欠泉』『ひまわりの下で』
『ファレノプシス・ドリーム』『薔薇のささやき』『百合の純情』と収録が続いた。Flower Gardenに収録する曲はひとつひとつがシングル1枚作るのに等しい手間と時間を掛けている。
「冬、訊きたいことがあるけど」と政子は言う。
「何?」
「あんたさ、今年に入ってから何回正望君とデートした?」
「あはは、1度もしてないよ」
「冬、あんた、そろそろ捨てられちゃうよ」
「えーん、どうしよう?」
ところで政子は1月に中古のグロッケンシュピールをもらって以来、マンションの居間にそれを置いて、よく叩いていた。
「なんかこの音きれいだね〜」
「凄い高音だけど、耳障りにならないよね。きれいな音だよ」
「KARIONのCDをこないだから聴いてたんだけどさ」
「うん」
「8種類の楽器が使われてるよね」
「ほほお」
「ギター、ベース、ドラムス、ピアノ、アルトサックス、トランペット、グロッケンシュピール、ヴァイオリン。但し初期の作品はトランペットが入ってなくて代わりにフルートが入っている」
「マーサ耳がいいね。ちゃんと楽器を聴き分けている」
「トランペットとヴァイオリンの音は区別付くよ」
「でもアルトサックスだと分かってる」
「サックスってアルトサックス以外にもあるんだっけ?」
「ソプラノサックスとかテナーサックスとかバリトンサックスとかあるけど」
「そうか。それは知らなかった」
「おっと」
「でもKARIONのホームページを見たらバックバンドの人って5人」
「うん。リーダーでギターのTAKAOさん、サブリーダーでサックスのSHINさん、ベースのHARUさん、ドラムスのDAIさん、トランペットのMINOさんだよ」
「よく知ってるな」
「旧知の仲だから」
「この他にグロッケンをいづみちゃんが弾くのね」
「そそ。いづみは自宅にマーサが使ってるのと同じシリーズのグロッケンを持ってて、それで練習してるよ」
「同じシリーズなんだ?」
「そうだよ」
「よし。いづみちゃんに負けないように頑張ろう」
「うん、頑張って」
「残りはサポート?」
「じゃないかな。毎回サポートの人入れてるんだろうね、ピアノとヴァイオリンは」
「ふーん。でも毎回同じ人がサポートで入ってるのかな?」
「さあ、最近は音源制作には関わってないから分からないけど」
「だって凄く音が溶け込んでるんだよ。何年も一緒にやっている人同士でないとこういう音にならないと思うんだよね」
「ああ」
「12月に招待券もらって冬と一緒にKARIONのライブ見に行った時は、グロッケンの人とキーボードの人とヴァイオリンの人に違和感があったし、ずっと以前に見に行った時も同じようなことを感じたけど、このCD音源でピアノ弾いてる人とヴァイオリン弾いてる人はずっと他のメンバーと一緒にやってる人だと思った」
政子は本当にこういう感覚が鋭いなと私はあらためて感心した。
「へー。もしかしたらスターキッズでの香月さんや宮本さんみたいな存在の人なのかもね」
「ああ!そういう感じの人か」
3月になってから『桜のときめき』『カトレアの太陽』といった曲を制作する。
『桜のときめき』はピアノ・ヴァイオリン・フルート・クラリネットという伴奏で、ピアノは高校の時の友人の美野里、政子のヴァイオリン、七星さんのフルート、私のクラリネットで演奏している。美野里はこの曲のピアノパートに指定したひじょうに複雑な音の進行を難なく弾きこなした。
「古城さんのピアノが凄い」
と七星さんが感嘆していた。
「美野里は今♪♪大学のピアノ科で1,2位を争う成績ですよ。コンクールの優勝経験も5度あるし」
「きゃー、誰かさんのピアノとは格が違うと思ったよ」
「個人名を出さない所が偉いです」
「いやー、差し障りがあるからさ」
「うふふ」
『カトレアの太陽』はピアノ2台による伴奏という形式を取っている。このピアノは私が1台と、もう1台は『謎の美少女ピアニスト』にお願いした。
彼女がスタジオに入って来た時、マリがびっくりして訊く。
「すみません、どなたでしょう?」
「謎の美少女ピアニストAです」
と彼女。
彼女はフェンシングのお面を付けていた。
「そのお面付けてここまで来たんですか?」
「それやると警察にちょっと来いと言われそうだから、このスタジオの建物の中に入ってから付けた」
「なるほど」
「私の古くからのお友だちなんだよ」
「メジャー・アーティスト?」
「そうだよ。たくさんヒット曲出してるユニットの人」
「へー」
ということで、私と『謎の美少女ピアニスト』穂津美さんとで2台のスタインウェイコンサートグランドD-274を弾き、伴奏を収録した。穂津美さんは「このピアノが2台並んでいる所初めて見た」などと言っていた。
演奏料はその場で現金でお渡しする。「サンキュー。じゃねー」と言って彼女は手を振ってお面を付けたまま出て行った。
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