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■夏の日の想い出・花園の君(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-06-08
 
やがて昼食が終わってお茶を飲んでいた頃に竹岡さんが、上司の加藤課長と一緒に△△社に来訪した。
 
加藤さんも槇原愛が大学受験前に半年間休養するという件は了承した。
 
「じゃ、私、大学受験頑張らなきゃ」と三千花。
「ところで愛ちゃん、どこ受けるの?」と竹岡さんが訊く。
 
「えっと、どこにしよう?」
「まだ決めてないんだ?」
「ってか、つい数時間前まで大学行く気無かったもので」
と正直に言っちゃう。
 
「まあ私立だろうね」
「うん、国立なんて絶対無理」
「でもあまり高い所にしないでね。入学金何千万とか言われても払えないから」
と知見。
 
「そういう所は居心地悪そうだからパス。庶民的な大学がいいなあ。音楽活動を考えると、ゆるい所がいいんだけど」
 
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「冬ちゃんたちの通ってる所は?」と知見が訊くが
「あそこは国立上位に入れる学力無いと行けないよ〜」と三千花。
 
「庶民的ってと、M大学とかかな。KARIONの3人とか通ってる」
と私が言うと、政子がムッとした顔をする。
 
「M大学にしても、かなり勉強しなきゃ」と三千花。
「いやだから、勉強のために休業するんでしょ?」
「そうだった!」
 

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休業前に出すCDの曲について検討する。
 
『灯りの舞』に関しては異論が出なかったし、加藤課長もイメージの転換を図ってファンを刺激するのは面白い試みだと言ってくれた。
 
『お払い箱』に関しては竹岡さんも否定的な意見だったが加藤課長は少し考えているふうであった。
 
「タイトル少し変えていいですか?」と加藤さん。
「はい?」
 
「『お祓いロック』というのはどうです?」
「なるほど」
「歌詞はそのままです。それで折角だからですね、これ以前から腹案として持っていたのですが、疑似バンド形式でやってみません?」
と加藤さんは言う。
 
「ほほお」
「愛ちゃん、ギター弾けたよね?」と加藤さん。
「ええ。あまりうまくはないですけど」と三千花。
 
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「アイドルが弾くんだから、上手さは要求されない。誰かベースの人、ドラムスの人で、アサインできそうな人いませんかね。できたら愛ちゃんより少し年上の女性がいいですけど」
と加藤さん。
 
「・・・それは多分ピッタリの人がいます」
「ほお」
「女の子3人で組んでバンドしてたんですけどね。CDは作ったことないのですが。それでギターでリードボーカルだった子が結婚するので辞めて、現在活動停止状態になってるんですよ。年齢はふたりとも23歳。今ファミレスのバイトで生活してます。ふたりとも実力は確かです」
 
「会ってみたいですね」
 
「仕事的にはとりあえず今回のCDで組むだけということでいいですよね?」
「取り敢えずそうしておいた方がいいと思います。今後のことはまた今後考えるということで。どうせ次のCDは来年の春にしか出せませんから」
 
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加藤課長は更に、槇原愛復帰後のスケジュールを新曲リリースとほぼ同時に発表してしまうことを提案した。それで来年4月下旬に新曲発売、ゴールデンウィークに全国ツアーという線で検討することになった。
 
『お払い箱』がジョークと思ってもらうためには確かにそういう枠組みの公表は必須であろう。
 

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3月30日。政子の両親が5年間のバンコク勤務を終えて帰国した。政子は結局20日から30日まではひたすら実家でピアノの練習をしていて、帰国した両親に『トルコ行進曲』を披露したのだが、その後4月2日までは実家に泊まったものの、3日からはマンションの方にずっといるようになり、ピアノもマンションの防音室内に置いている私のクラビノーバを使って練習していた。
 
「ここ数日ずっとこちらにいるね」
「だって、向こうでHしてたらお父ちゃんたちに聞こえちゃう」
「大きな音を立てなければ大丈夫だと思うけど」
「冬を責め立てた時に冬が悲鳴をあげたら、きっと何事かと思って飛んでくる」
「そんなに責めたてなければいい」
 
「いや、最近どうも冬を責めたくなるネタが多くて。そうだ!こないだ『柊』
なんとかいう名前の話が」
「えっと・・・」
 
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「私JASRAC検索してみたよ。なんかボロボロ登録されてるじゃん。ハードロックからアイドルからフォークからR&Bから演歌まで、幅広い。日付見ると私たちが高1の夏頃からローズ+リリー始める直前頃まで」
「うん、まあ」
 
「やはり冬って高1の頃既に女の子だったのね?」
「え、えっと・・・・」
「ふふふ。アルミの鎖がいい?麻のロープがいい?」
 
「マーサ、今日のピアノのレッスンは?」
「冬を責めてからやるよ。防音室は便利。夜中でも弾ける」
「実家も防音工事したから夜中でも弾けるじゃん」
 
と言ったら政子がハッという顔をしている。
 
「ん?どうかした?」
「ね、ね、実家でもさ。ピアノ部屋でHしたらお父ちゃんたちに聞こえないよね」
「まあそうかもね」
 
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「じゃさ、今度から実家に泊まる時は冬、一緒にピアノ部屋で寝ようよ」
「あはは」
「折りたたみ式の簡易ベッドでも置いておけばいいよね?」
「そ、そうだね」
 
「さて、それで今夜はアルミにする?麻にする?」
 

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4月に結成したローズ・クォーツ・グランド・オーケストラにも2曲『Flower Garden』収録曲の伴奏をお願いした。依頼した曲目は『プルメリアの虹』
『花のしおり』という曲である。
 
『プルメリアの虹』はポール・モーリアっぽいアレンジで、どちらかというとオーケストラが主体であり私とマリの声は楽器のひとつにすぎない感じである。
 
『花のしおり』は『アルビノーニのアダージョ』や『パッヘルベルのカノン』的な雰囲気のバロック風の曲で、まるで聖歌か何かを歌うように私たちは歌った。
 
この曲の練習をしていたら、ドイツに留学中だったはずの従姉アスカがやってきてヴァイオリンのソロを弾かせろと言った。
 
「いつ帰国したの?」
「昨日。それで何やら面白いことしてるって聞いたからさ。12月上旬までは日本にいる」
 
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「でも、この曲にはヴァイオリンのソロなんて無いけど」と私。
「追加してよ」とアスカ。
「君、どのくらい弾くの?」と指揮者の渡部さん。
 
それでアスカはバッハの『無伴奏パルティータ第2番シャコンヌ』を弾き出す。
 
この曲はヴァイオリンのことをあまり知らない人が聴くと、そう難しい曲のようには聞こえない。しかし実はヴァイオリンという楽器が持つ本来の演奏能力を明らかに超えた、超絶難曲なのである。玄人うけする曲だ。多数のセミプロからプロクラスのヴァイオリニストが並んでいる場ゆえにこの曲を選んだなと私は思った。
 
長い曲であるが、その場にいる全員が一言も発せないまま、アスカの演奏に聴き惚れていた。
 
演奏が終わると物凄い拍手。
 
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「ブラーバ!」
「すげー!」
 
渡部さんも驚いたようで首を振っている。コンマスの桑村さんは天を見上げている。鷹野さんなど「なんであんたみたいな凄い人がこんな所にやってくる?」
などと言っている。そういう楽団のみんなの様子を見て私は言った。
 
「アスカさん、アスカさんをこのオーケストラのソロ奏者に任命していい?」
と私は言った。
 
「あ、いいよ。半年限定なら、他の予定とぶつからない限り出てくるよ」
「ギャラ安いけど」
「あとで冬から個人的に搾り取るからいいよ」
 
そういう訳で私はスコアに急遽ヴァイオリンソロを書き加えて収録を行った。
 
「個人的に搾り取るって、どういうことするの?」
と政子がちょっと嫉妬したような目で言う。
 
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「大丈夫だよ、政子ちゃん。ベッドに誘ったりはしないから」とアスカ。
「年末の***コンクールに向けた練習に付き合ってよね、冬」
 
「時間と体力の許す範囲でね」と私は答えた。
「冬、ますます彼氏とのデートの時間が無くなりそう」
「あはは。今年前半に1回くらいデートできるかなあ・・・・」
 

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5月1日(水)。連休の合間のこの日は、ローズクォーツの10枚目のシングル『魔法の靴/空中都市』が発売されたほか、ローズ+リリーのPVを集めたDVD、そしてマリ詩集Vol.2『闇の風』が発売された。
 
PV集のDVDは年末の大分ライブで販売したら用意していた枚数が全部売れてしまい、買えなかった人やライブに行ってない人から「欲しい」という声が多数寄せられたので、会場で売ったのと同様1000円で売り出したものである。
 
ローズクォーツの新譜は上島先生の『魔法の靴』、マリ&ケイの『空中都市』、マキの『Doble Role』『Loverise』を収録したもので3月下旬に音源制作をしているが、今回、マキの作品に関して、テストを兼ねてサトとヤスに1曲ずつアレンジをしてもらった。また『魔法の靴』は上島作品なので当然下川編曲だが、『空中都市』も下川先生の所に編曲を依頼した。実際には2曲とも下川工房の峰川さんという21歳で音楽大学在学中の若い女性アレンジャーが編曲してくれている。
 
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ローズクォーツの録音はそれまでUTPが年間契約で借りている新宿のスタジオで行い録音作業は須藤さん自身が行って、ミクシングとマスタリングはそのスタジオの技術者にお願いしていたのだが、今回私とタカの強い要請により『Rose Quarts Plays Girls Sound』の収録を行った、渋谷のスタジオで行い、録音作業は同アルバムの録音をしてくれた山形さんという人にまたお願いし、ミクシングとマスタリングも同スタジオのベテランミキサー新荘さんにお願いすることにした。
 
「だってこっちのスタジオはタダで使えるよ。録音も自分でやればタダだよ。ミクシング・マスタリング1曲2千円って、こんなに安くやってくれる所はなかなか無いよ」
 
などと須藤さんは言っていたが、私たちは
「それは素人の趣味の音源制作の値段です」
と言って強引に変えさせた。
 
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今回のシングルは前作10万枚売れた『ウォータードラゴン』の路線を引き継ぎ、全体的にフュージョン色が強くなっている。上島先生の『魔法の靴』にしてもマリ&ケイの『空中都市』にしても、1980年代のT-SQUAREを思わせるようなテクニカルなサウンドを作っており、ウォータードラゴンで好評だった私のウィンドシンセをどちらにもフィーチャーしている。この2曲は同じアレンジャーが担当したことで統一感が出た感じもあった。
 
ヤスがアレンジした『Double Role』はロック色が強く、私のアルトボイスを2つ多重録音してデュエットにしているが、やや歌い方を変えて『一人二役で恋人を翻弄する女』を演じさせている。シャウト的な歌い方も要求している。
 
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サトがアレンジした『Loverise』はむしろポップロック系のアレンジになっていて、私のソプラノボイスで優しく包み込むような歌い方をしている。ある意味では2010年頃の結成当時のローズクォーツのサウンドに近い作りである。
 
新曲発表会で4曲ともショートバージョンで演奏したが、記者さんたちは『Loverise』に対する反応が良かった。
 

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マリの詩集『闇の風』は昨年販売した『闇の声』に続くもので、マリが書いた「暗い詩」を集めた詩集である。『闇の声』より更にヘビーな作品を集めたが、昨年「疲れている人は買わないで」という注意書きを付けたら、逆に心の疲れた人ばかり買って行ったようだったので、今回はそういう注意書きは付けないことにした。前回同様、買って後悔した人には返金に応じるシステムとした。
 
表紙は昨年に続き私が、わざと怖そうな絵を描いている。また詩集の中にも私の絵を10点ほど入れておいた。
 
昨年の『闇の声』は増刷を重ね、この1年間で12万部も売れている。今回は最初から5万部用意したが、これが一週間で売れてしまい、即増刷するハメになった。
 
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私は和泉から頼まれたので、発売日の数日前に政子に「中田マリ」のサインもさせてこの詩集を1冊届けた。
 
「サンキュー。去年も読んでマリちゃんの多作さの理由が分かった気がしたよ」
と和泉は言った。
 
「マリ&ケイで発表している作品はいわば海に浮いた氷山の頂上部分だからね」
 
「いや、むしろここがマリちゃんのイマジネーションの源泉だと思う」
と和泉は言う。
 
「摂氏100度の源泉に直接触れたら大やけどするけど、人が入る温泉では40度くらいまで冷ましている。100度のお湯10Lに20度の水を30L足して、やっと40度になるけどお湯の量は40Lになってしまう。マリちゃんが多作なのは、普通の人が鑑賞できるレベルにするために、元々のイマジネーションを薄めているからだよ」
 
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「ああ、それは面白い解釈だけど、当たっているかもという気はする」
「私の源泉は多分50度か60度くらい」と和泉。
 
「60度の源泉10Lに20度の水なら10Lで40度になるから、できるお湯の量は20L。温泉の有効成分密度は倍かもね」
と私が言うと
「冬って口が巧いね」
と言って睨まれた。もう!直接ふたりを対談させたい気分だ。
 
「マリちゃんが速筆なのもそう。小さなイメージの源泉を希釈することで結構なサイズの詩になるから」
 
「マリは『急いで書き留めないとイメージがどこかに行っちゃう』とよく言う」
「小さな塊を捕まえてるから、見失うと見つけるのが大変なんだよ」
 
「そうそう。停まっちゃった時によくマリはその付近の空中を探すような仕草をする。たいていは何とか見つけ出して続きを書くけど、それを見つけ損なって完全に停まってしまった詩には本人でさえどうやっても続きが書けない」
「だろうね」
 
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「もうほとんど出来掛かっていた奴は、私が補作して完成させたこともあるけどね」
「たぶんそれは冬にしかできない。冬は詩の表面的な字句にとらわれずに、詩人が捉えたイマジネーションそのものを見てるから」
 
「マリが森之和泉さんによろしくと言ってた。カミソリの刃も付けようかと思ったけど自粛しておくって」
「あはは」
 

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■夏の日の想い出・花園の君(5)

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