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■夏の日の想い出・花園の君(6)

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5月5日。ローズ+リリーは仙台で今年3回目のコンサートを行った。この日も会場に1日に一般発売したPV集のDVDを持ち込んだら、ここでも持ち込んだ5000枚がきれいに完売した。
 
またこの日、ローズ+リリー第2ベストアルバム収録曲を決めるファン投票の最終結果が公表された。上位30曲はこうなっていた。
 
1.神様お願い 2.100時間 3.A Young Maiden 4.キュピパラ・ペポリカ
5.夏の日の想い出 6.雪の恋人たち 7.影たちの夜 8.ピンザンティン 9.桜色のピアノ 10.天使に逢えたら 11.坂道 12.あの夏の日 13.言葉は要らない 14.Spell on You 15.あの街角で 16.疾走 17.涙のハイウェイ 18.夜間飛行 19.私にもいつか 20.恋座流星群 21.遙かな夢 22.花模様 23.Long Vacation 24.サーターアンダギー 25.ネオン〜駆け巡る恋 26.若草の思い 27.ヘイ・ガールズ! 28.聖少女 29.破壊 30.ブラビエール
 
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大激戦だった。ミリオンセラーの『甘い蜜』『涙のピアス』が圏外に消えた。絶対的な1位.2位と思われていた『神様お願い』『A Young Maiden』の間に新しく発表された曲『100時間』が割り込んだ。
 
また健闘したのが『雪の恋人たち』『坂道』である。この2曲は2009年に公開されているが、元々「デモ音源を公開」しただけということで前回は投票対象になっていなかったのが、ファンからの要望に応えてこの2曲も投票対象に入れたところ、後半の投票数だけで上位に食い込んだ。
 
私たちは上位の16曲でベストアルバムを出すつもりでいたのだが、あまりに激戦であったこと、それから収録曲数を増やして欲しいという要望が非常に多く寄せられたことから、12曲入りのディスク2枚、つまり24曲でリリースすることにした。
 
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しかし24位のサーターアンダギーと25位のネオン〜駆け巡る恋はわずか18票差であった。そもそも21位から40位までの票差が1000票も無かったのである。本当にボーダーラインは激戦であった。
 

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「どうかした所なら、最終投票締め切り直前に再度中間発表して、投票券目的にCDを買わせるよね」
と七星さん。
 
私たちは仙台公演の後、打ち上げをしてから、数人でラウンジに行き、お茶を飲んでいた(一部の人はカクテル)。
 
「うん。そういうえげつないことはしないようにしましょうよ、と町添さんに言った」と私。
 
「町添さん、『うん、そうだね』と言ってたけど、本心は直前発表したかったんじゃないかなあ」と政子。
 
「それでなくてもTime Reborn, ベストアルバム, 花園の君 とアルバムの発売が連続するから、無駄なお金をファンに使わせたくないんだよね」と私。
 
「やはりケイちゃん欲が無い」と近藤さん。
 
「ケイちゃん、玉を取ってから無欲になったとかは?」と鷹野さん。
「ケイは元々無欲だったよね」と政子。
「その頃から実はもう玉が無かったとか」
「あ、そうかも」
 
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仙台ライブの翌日から『砂漠の薔薇』の収録に入った。これは2009年に上島先生から頂いた作品である。『間欠泉』同様に、リリースは何年先になっても構わないと言われて、ずっと預かっていた作品であるが、やっとこの曲を表に出すことができるようになった。
 
この曲はシンセサイザー前提の曲である。8種類のFM音源が使用されているが、上島先生は各々の音のアルゴリズムとパラメータを指定しておられた。
 
その音を設定した上でMIDIで演奏させると、砂漠に魔法色の風が吹いているような不思議な調べが聞こえてくる。恐らく上島先生はこの音のパラメータを作るだけで2〜3日掛けたのではないかと思った。
 
この曲は、私とサト、ヤス、月丘さんの4人がそれぞれ2台の電子キーボードを使用して各々両手弾きで演奏した。
 
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シンコペーションが複雑だし強弱の付け具合も結構な考慮が必要だったので、4人で譜面をかなり検討した上で、最初に代表して月丘さんがメイン?パートを演奏して、それを聞きながらあらためて全員で演奏して録音した。そしてその録音を聞いて再度譜面の解釈の仕方に検討を加え、再度録り直す。
 
しかし絡み具合が複雑なので、なかなかきれいに合わせることができず、各々充分な個別練習をした上で、合同練習もたっぷりして、結局4日がかりの収録になった。
 
「これさ、ライブ演奏は無理と思わない?」
「まあ、誤魔化しながらなら何とか」
 

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『砂漠の薔薇』のシンセサイザー部分の収録は難しそうだというので5日間日程を取っていたのだが、4日間で片付いたので、5月10日(金)はお休みにすることにした。
 
私は収録が終わった9日の夕方、スタジオを出てから政子とふたりで新宿に行き、今日の夕食は何にしようかなどと言いながらお茶を飲んでいた。その時
 
「可愛い彼女たち、暇?」
などと声を掛ける女性が居る。
 
「おはようございます。雨宮先生ナンパですか〜?」と私。
「いや、君たちがあんまり可愛いから声を掛けただけ」と雨宮先生。
「おはようございます、雨宮先生」と政子。
 
「ケイちゃんは高校時代も会う度に可愛い格好してたなあ」と先生。
「やっぱりケイって、高校時代、かなり頻繁に女の子の格好してたのかな?」
と政子。
「少なくとも私はケイちゃんの男装って見たことないわ。実際、かなり先の時期まで、ケイちゃんは本当に女の子とばかり思い込んでいたし」
と先生。
 
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「やはりね〜」
「君たち仙台ライブはどうだった?」
 
「観客の人たちが熱狂してくれて嬉しかったです」と私。
「私は気持ち良かったです。また早く次のライブが来ないかなあ。まだ興奮が収まらなくて。裸になって踊り出したいくらい」と政子。
 
「まあ新宿の街の中で裸になって踊り出したら警察に捕まりそうね」
「だから我慢してます」
 
「裸になれる所に連れてってあげようか?」
「先生、それホテルというわけでは?」
 
「そうだなあ。ホテルにもふたりを招待してふたりまとめて逝かせてあげたいけど、まあどこかでヌード撮影とかでもいいよ」
「あ、やりたい、やりたい」
と政子が嬉しそうに言う。
 
私は頭を抱えた。
 

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雨宮先生のご友人が住んでいる伊豆大島に行こうという話だった。そこの御自宅の庭を借りての撮影ということ。すぐに飛行機の予約をして往復の座席を確保した。
 
私たちは翌日朝、撮影用カメラを持って調布飛行場に集まった。25分のフライトで伊豆大島に到着する。空港まで、御友人の人が迎えに来てくれていたので、その人の車で御自宅までお伺いした。
 
「親戚の家に3時間くらい行ってるから好きに使って」
といって出て行かれたので、私たちはヌードになって庭に出た。
 
「今日はお天気が良くて気持ちいい」
「素敵な陽気ですね」
 
初めて私たちがヌード撮影をしたのは2009年だった。その後、2011年はしていないものの、2010年、2012年とやってきて、今回が4回目である。毎回政子は楽しそうにヌードを撮られている。この撮影したデータは私たち3人の間だけで保管して、他人には見せないということを、お互いの信頼関係の上で決めている。
 
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「思えば、最初にヌード撮影した時はケイちゃんは本当はまだ男の子だったんだよね」
「ヌード自体は女の子にしか見えなかったけどね」
「2度目の時はもうタマは無かったですけど、あちらは付いてました」
「それでもやはり女の子のヌードにしか見えなかったけどね」
 
「前回が初めて本物の女の子になってからのヌードだよね」
「そうなんだよね。私、2009年、2010年、2012年のケイちゃんのヌードを見比べてみたけど、バストサイズ以外には違いが分からなかった」
「あはは」
 
「ケイちゃんにしてもマリちゃんにしても身体の線が全然崩れてない」
「節制してますから」
「マリちゃんはあれだけ食べるのに全く太らないのが不思議」
「消費してますから」
「ケイちゃんは、ホルモンバランスが変わってるはずなのに体形が変化してないのが不思議」
「ああ、きっとケイは幼稚園の頃から女性ホルモン優位だったんです」
「うん、そうとしか思えんよ」
 
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その日は天候が素晴らしかったので、私たちは気持ち良く撮影を続けた。庭に色々な花が咲いていて、政子は
「ここってFlower Gardenだ」などと言っていた。
 
撮影していた時風が吹いてきて、あじさいの花びらが政子の上半身に多数付着した。政子は取ろうとしたが「あ、待って。そのまま」と雨宮先生は言い、花びらの付いたままのマリの写真を撮った。私も撮った。
 
「花びらが付いてると、花の女王みたい」と先生。
「えへへ」
 
と言った瞬間、政子の表情が変わる。
私は荷物の中から紙とボールペンを出し政子に渡した。
 
「サンキュー」
と言って政子は詩を書き出す。しばし撮影は中止である。
 
「突然詩を書き出して、やめなさいとか言われたことない?」
と雨宮先生が尋ねる。
 
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「あんまり無いなあ。授業中とかにそれをやってもだいたい先生たち諦めてた感じだったから」
と政子は詩を書きながら答える。
 
「マリちゃん、ほんとに周囲の人たちに恵まれて育ったんだね」
と雨宮先生は感心して言った。
 
「ケイも女の子の服を着てて、脱ぎなさいとか言われたことほとんどないらしいです」
「ケイちゃん、ほんとに周囲の人たちに恵まれて育ったんだね」
 

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「でも私、ケイと一緒に居るおかげで、男の子から女の子に変わった人と随分付き合いが出来ちゃったけど、みんなそれぞれ傾向が違う感じで。考えてたんだけど、基本は男の子で女の子でいるのが好きな人とか、純粋に女の子でいたい人とか、そもそも女の子でしかない人とか、むしろ単なるファッションで女の子の服を着ている人とか色々いますね」
 
「そうそう。性のあり方って、ホントに人それぞれなんだよ」
「割と傾向が近いかなと思う、春奈ちゃん、鈴鹿ちゃん、唯香ちゃんとか見てても各々の傾向が微妙に違う気もするし」
 
「性別の生き方を変えた時期による差もあるよね。春奈ちゃんとか鈴鹿ちゃんは小学生の頃から女の子として学校に行ってて、中学は女子制服で通学してる。唯香ちゃんや私は中学高校6年間を男子制服で過ごしてる。トランスした時期が遅いほど、コンプレックスも大きい。雨宮先生も多分20歳前後からですよね?女装で人前に出るようになったのって」
「まあ、そんなものかな」
 
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「いや、ケイは中学から女子制服で通学してた疑いが濃厚」
「そんなことないって」
「だって、お姉さんに見せてもらった冬の中学時代の写真とか、セーラー服着た写真ばかりで、学生服着てる写真は1枚も無かったよ。入学式当日に撮った写真ってのもセーラー服着てたし」
 
「うーん。それはそんな写真ばかり撮られたからだよ。入学式は学生服で出てるけど、その後セーラー服を着せられたんだよ」
 
「なんか言い訳がましいね」と雨宮先生にまで言われる。
 
「だいたいその入学式当日の写真って、一緒に写っている男の子たちはみんな丸刈りなのに、冬は女の子みたいな髪型だったんですよ」
 
「あれは直前までうちの中学は男子は丸刈りだったから、ほとんどの子はもう丸刈りにしちゃってたんだけど、入学式の直前にその校則が無くなって、髪は自由になったんだよ。だから私は切らなかっただけで」
 
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「なんかそれ、すごーく、嘘くさい」と政子。
「うんうん。どう聞いてもそれ嘘。そんな都合のいい話がある訳ない」
と雨宮先生。
 
「本当なんだけどなあ」
 
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