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■夏の日の想い出・花園の君(8)

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『砂漠の薔薇』の歌唱部分は翌日5月15日から17日に掛けて録音作業を行った。
 
この曲はシンセサイザー演奏も大変だったが、歌も複雑である。4つのボーカルパートが指定されていたが、その4つのパートが有機的に絡んでいて、ひとつの単語を複数のパートで分担して歌ったり、和音の何音目を担当するかが1拍ごとに変わったりするなど難しい技法が使用されていた。
 
この複雑な曲を多重録音で録って単語がきちんとつながり和音がきちんと響くようにするのは非常に困難であるという判断から、応援を頼んだ。私とマリの他に、声がつながりやすいようにするため同年代の歌手として、XANFUSの2人に特別参加してもらい、私・政子・光帆・音羽の4人で歌ったのだが、収録前の練習に丸2日使って結局ボーカルパートだけで3日がかりの収録になった。多忙なXANFUSのスケジュールの合間を縫い、5月15〜17日の水木金を使用してこの作業を行った。
 
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「何か超絶難しい曲だ!」と光帆も言っていた。
「上島先生、こんな物凄い曲を書いてたのね、凄いよ。2008年なら上島先生が一番円熟していた頃の作品だね」と音羽。
 
「ちょっと、ちょっと」
「今の発言は誰も聞かなかったことにして」と光帆。
 
「これを歌える4人の組合せって、かなり限られるよね」と音羽。
「この曲の性質上、同年代の4人で構成する必要があるんだよね」と私。
 
「そうそう。年齢差1年以内だよね。2年は微妙。3年違うと、もう声が溶け合わない。そしてそもそも若い歌手でないとダメ。30歳4人並べても合わない」
と光帆。
 
「もちろん同性だよね」と政子。
「当然」と音羽。
「えっと、私良かったんだっけ?」と私が言うと
「冬ちゃんは変声期前に去勢したと聞いたから女の子と同じ」と光帆。
「えっと・・・」
「幼稚園の頃にはもう性転換してたという説もあるよね」と政子。
「へー、そうだったのか」
「そんな馬鹿な」
 
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「他に参加できそうなのはKARIONのいづみちゃんとか、map(エムエーピー)のカンナちゃんとかじゃない?」と音羽。
 
「いづみ」という単語に政子がピクッとする。
 
「AYAとかは?」と政子が言うが
「歌唱力不足」と音羽があっさり言う。
「ゆみは拍を正確に歌えないから無理」と光帆。
 
AYA本人には聞かせられない話だ。
 
「私、歌って良かったんだっけ?」と政子が不安そうに言ったが
「マリちゃんの歌は、もう既に、AYAのゆみちゃんとかKARIONの美空ちゃんをずっと越えてるよ」と光帆は言った。
「たぶん正確な歌い方するケイちゃんといつも一緒に歌ってるから自然と正確な歌い方が身についているんだよ」と音羽。
 
「AYAの拍の精度が悪いのは逆にいつもソロでしか歌ってないからだよね。コーラスは入ってるけど、コーラスの子たちはAYAに合わせてくれるもん。だからセッションセンスが鍛えられていない」
とも光帆は言った。
 
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この曲の収録が、このアルバム制作での山場とも言えた。
 

「でも上島先生は何でこんなややこしい歌い方を指定したんだろう?」
と政子が疑問を提示する。
 
「『砂漠の薔薇』、デザートローズというタイトルが全てを語っていると思う」
と私は言う。
 
「この曲は人間が歌っている感じじゃなくて、無機質な音感を求めたんだよ。砂漠の薔薇って、一見植物に見えるけど、実は地下水で侵食された鉱物の残存でしょ。この歌詞を見ても分かる。愛のように見えるけど、もう愛などどこにも残っていなくて、心が全て溶けて残りの硬い残存物が残っているだけ。だから抑揚とか感情表現を廃した歌が欲しかったんだよ。ボカロイド以上に機械的に仕上がったでしょ?」
 
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「でもこの曲、売ることを想定してないね」と音羽。
「ああ、完全に趣味に走ってる」と光帆。
「上島先生はだいたいそういう曲を私たちに歌わせるんだよ」と私。
「売れ行き気にせず実験ができるとか言ってたね」と政子まで言った。
 
なお、この曲はあまりにも難曲であることから単語を複数の人で分担して歌うような部分を無くし、演奏も比較的一般的な音を使いシンコペーションも少なくして「易しく歌える」ようにしたイージーバージョン(下川先生編)も同時に収録した。しかしそのイージーバージョンでもカラオケで歌うのは大変そうと私たちは言い合った。
 

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『砂漠の薔薇』の歌唱収録が終わった翌日はワンティスの音源制作への勧誘候補として、nakaさんがギタリストとして出演するライブを上島先生・雨宮先生たちと一緒に見に行った。nakaの演奏を見て、上島先生も雨宮先生も惚れ込んだ。
 
「この人是非勧誘したいね。UTPでキャッチできる?」
「確認します」
と言って私は夢花さんに電話してnakaのスケジュールを確認する。
 
「20日の午後1番に生徒から送られて来た演奏データを取りに来社なさるそうです」
「じゃ、僕がその日そちらに行って勧誘するよ」
と上島先生。
 
「先生がわざわざいらっしゃるんですか!?」
「だって人を誘うのには本人のいる所へ行くのが当然」
「先生偉いです」
 
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「マリちゃん、ケイちゃんはその日は事務所にいる?」と上島先生。
「あ、えっと・・・」
 
「最近、あんたたちほとんどスタジオに入り浸りだよね」と雨宮先生。
「ええ。1月下旬から、ほとんどスタジオに通勤してる感じで」
と言いながら私は手帳を見る。その日はKARIONの音源制作の予定が入っていた。しかしそれはこのメンツの前では言えない。
 
「うーん」
と私が悩んでいると、雨宮先生が
「あ、ごめーん。その日は私がケイをリザーブしてたんだった」
と言ってくださった。
 
「あ、じゃ私がUTPには行っておくよ」と政子。
「そう? じゃお願いしようかな」
 
ということで、nakaを上島先生がUTPに来社して勧誘する場面は政子がひとりで目撃することになる。
 
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「でもさ、冬、最近UTPにあまり出てないんじゃない?」と政子。
「そうなんだよね〜。スタジオでの作業が大変だし。時間があったら卒論の作業してるし。結局4-5月は1度も出てない」
 
「UTPのスタッフから、顔を忘れられてたりしてね」
「まさか!」
 

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「雨宮先生、ありがとうございます」
と後で私は言った。
 
「あんたもよくやるね〜。『Flower Garden』無茶苦茶手間を掛けてるみたいだし。それと並行して今あちらのアルバムもやってるんでしょ?」
 
と雨宮先生。雨宮先生は私が水沢歌月であることを初期の頃から知っていたひとりである。ローズ+リリーが始まる前から私はKARION系の活動のことを先生には話していた。
 
「シングル2枚と並行です。あちらのユニットは7月に出すシングルとアルバム、11月に出すシングルを一緒に制作しておいて、卒論のための休業中にも1枚シングルを出すということにしているので」
 
「『Flower Garden』の残りは?」
「『あなたがいない部屋』『夜宴』『花園の君』です」
「いつ録る?」
「『あなたがいない部屋』『夜宴』は23-24日。『花園の君』は6月1日から3日の予定です」
 
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「現時点での『あなたがいない部屋』『花園の君』のスコアを見せて。少し調整したい。パートの増減はしないから」
「分かりました。帰宅したらすぐメールします」
 
先生の『花園の君』の新しいアレンジは、ストリングセクションのサウンドがかなり手を入れられ、ぐっと美しくなっていた他、管楽器の音が増えていた!パートの増減しないって言ってたのに!! 私は慌てて追加されているホルン、トロンボーン、尺八の演奏者を、知り合いで吹ける人に連絡して確保した。
 

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そしてその翌日5月19日(日)は槇原愛の新曲の歌唱部分の録音であった。シレーナ・ソニカのふたりにも出てきてもらい、今日はコーラスを担当してもらうことにする。
 
穂花をすっかり気に入った政子が大量のクーポンを積み上げる。
 
「穂花ちゃーん、プレゼント。マクドナルドのバーガー券たくさんもらったから、あげるね」
 
「わぁ! 食費が助かります!」
と穂花はホントに嬉しそうな声を挙げていた。
 
「ところで杏梨先生って昔は男の人だったという噂を聞いたんですが・・・」
と優香。
 
「そそ、杏梨はね、すごく小さい頃に性転換して女の子になったんだよ」
と政子。
「子供のうちにですか!?」
「うんうん。一説によると、まだ受精前」
「そんな時期に性転換できるんですか!?」
「精子の段階でY染色体だったのを電子メスで性転換手術してX染色体に変えたらしい」
「えー!?凄い!」
 
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『灯りの舞』から収録する。
 
三千花は元々ハードロックが好きな子であったし、民謡を唄う場合も『武田節』
『佐渡おけさ』など絶叫系の曲を好む子だったので、これまで激しい曲ばかり提供してきたのだが、いざ『灯りの舞』を歌わせてみると、こういう静かな曲でも充分な歌唱力を持っていることが分かり、私はあらためて、この子の可能性を誤解していたのかも知れないと思った。なにより民謡の基礎があるので長い音符をブレス無しで歌う力を持っている。
 
この子にこういう曲を歌わせようと思い付いた政子の慧眼が凄い。
 
午前中で収録が終わり、お昼にする。お昼は今日顔を出してくれていた△△社の飯田さんにお願いして「両手でやっと抱えられるくらいの量のパン」を買ってきてもらった。
 
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「ほんとに買ってきましたけど、鈴蘭先生ほんとにこんなに食べられます?」
と心配そうに言うが
「ああ、今日は鈴蘭がふたり居るから」
と答えておく。
 
そして政子と穂花のふたりで楽しそうにおしゃべりしながら、あっという間にその大量のパンをたいらげてしまうのを見た飯田さんが、呆気にとられていた。三千花もふたりのペースに驚くような顔をして、それでも5個くらいパンを食べた。私と優香はそのそばでマイペースで食べていた。
 
昼食後お茶を飲んで少しお腹が落ち着いた所で『お祓いロック』を収録する。この曲は実際に3人にギター・ベース・ドラムスを演奏しながら歌ってもらった。その臨場感を取り入れようという試みである。これまではロック系の曲ではあっても愛のボーカルはふつうに伴奏をヘッドホンで聴きながら歌のみで収録していたのだが、バンド形式で歌わせるのなら、こういう形で録った方がノリが良くなる。
 
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(ドラムスは電子ドラムスを使い、ギターやベースの音を含めて、歌収録用のマイクにあまり入らないように気をつける。微妙なタイミングのずれはミクシングの際に編集対応)
 
2時間ほどの練習を経て、喉を休ませるため、ティータイム(おやつ付き)を取ってから、本番収録となった。こちらの曲では多少の音外しは許容して、ノリの良さの方を優先した。
 
「軽食」を取ってから最後に『遠すぎる一歩』を収録する。この曲はやはり正確な音程で歌わないと映えないということで、伴奏音源をヘッドホンで聴きながら私がギターを弾き、優香のベース、穂花のドラムスと一緒に演奏しているのを背景に、愛の歌を収録した。この曲も今まで愛が歌っていた曲からするとおとなしめの曲だが、愛はとてもしっかりした歌唱を見せてくれた。
 
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全ての収録が終わったのは22時(高校生は22時までしか働かせられない)ギリギリであった。急いでスタジオから撤収したが、政子が
 
「穂花ちゃーん、焼肉に行こうよ」
 
と言って、飯田さんも入れて6人で郊外の個室のある焼肉屋さん(当然食べ放題)に行った。一応私と政子は時間差を付けて入退室した。ちなみに財布は私持ちである。なお、愛の母(友見)には焼肉に連れていく旨、私から電話を入れた。
 
音楽談義などしながら食べていたが、5分単位でおかわりを頼むので、専任で対応してくれたチーフさんが、心なしか顔がこわばっている気もした。愛も穂花や政子ほどではないものの、若さのパワーでかなり大量に食べていた。
 
 
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