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■夏の日の想い出・3年生の冬(11)

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その日はお昼に東京でFM局に出て、全国放送の番組内で曲の宣伝をした。そしてFM局の入っているビルでローズクォーツ・ローズ+リリーの6人と美智子、氷川さん・加藤課長まで加わりお昼を食べたあと、埼玉県内の2000人キャパのホールに移動する。この会場で今回のキャンペーンは終了である。ここはキャンペーンの最後ということで、最初から大きな会場を確保していたのである。
 
まだ入場させる前、ステージで楽器などの設置状況を確認していたら、PA卓の所にいる女性と目が合った。思わず笑顔になってお互いに手を振る。私は彼女の所に歩み寄った。
 
「有咲、今日のPA?」
「ううん。まだ助手だよ〜。さすがに1年目ではメインは任せてもらえない」
 
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小学校の同級生である有咲は高校卒業後、専門学校で2年間音響技術を学び、昨年春に都内の音響技術会社に就職した。まだまだアシスタントということのようである。
 
「でも今日、ローズ+リリーのPAやると聞いて、ちょっと張り切ってきた」
「よろしくね〜」
などと言っていたら、メインのPAエンジニアがやってきて
「町田君、接続は終わった?」と有咲に声を掛ける。
「はい、終了しました」と有咲が答えるが、エンジニアさんは私にも気付いた。
 
「あれ、唐本君、久しぶり〜」
「ご無沙汰しておりました。麻布先生」と私は挨拶する。
「君も今日のライブの何かのスタッフ?」と麻布さんが訊く。
 
「いえ、出演者です」と私。
「あ、コーラス隊か何か?」
「いえ。メインのアーティストです」
「へ?」
「先生、この子がローズ+リリーのケイですよ」と有咲。
「えー!?」と麻布さんは驚いた様子。
 
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「・・・じゃ、君って、本当は女の子に見える男の子だったの?」
「そうですね。今はもう完全に女の子になっちゃいましたが」
「あ、もう性転換しちゃったんだっけ?」
「戸籍も女になってます」
「へー! 君のことはホントに女の子だと思い込んでいた」
 
「済みません。言って無くて。でも、有咲、麻布先生の会社に入ったんだ?」
「うん、やはり先生のコネで」
「私も有咲も、あの時期、だいぶ鍛えられたもんね〜」
 
「学校出てきたばかりの子は必ずしもすぐには使えないんだけどね。町田君も唐本君もあの時期、結構鍛えたつもりだったし。だから町田君が専門学校を卒業して仕事先を探していると聞いた時に、僕が戻るつもりでいた会社を紹介したんだ。それで帰国してからすぐ僕のメインアシスタントにしたんだよ。立派な戦力」
と麻布さん。
 
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「私の方は実は、あの後急にローズ+リリーで忙しくなっちゃって」
「ああ。なるほどね。凄く忙しいみたい、とは町田君から聞いてたけど」
 
「でも、私もあの時期鍛えてもらったおかげで、自分のCDとか音源制作する時、私が制作途中の仮ミックスダウンとかやってたりしますし、何度か最終ミックスダウンしたこともあります」
「うん。まあ、そのくらいしても大丈夫だろうね。音源のミックスダウンはやり直しもきくし」
「ええ」
 
私はしばしは有咲と麻布さんと昔のことで話をしていた。私がステージの方に戻ると、氷川さんが不思議そうな顔をしている。
 
「お知り合いですか?」
「ええ。私、高校1年から2年の時期に、今日のメインPAの麻布さんが以前いた会社でバイトしてたんですよ」
「えー?」
「助手の女の子は私の元同級生で、当時一緒にバイトしてたんです」
「へー!」
 
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「当時いた会社は潰れてしまって、その後、最近までアメリカにおられたんですけどね」
「ああ。あの業界も小さな会社が多いし、たいへんでしょうね」
「ええ」
 

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この埼玉会場でも、やはり横浜と同様に携帯電話か身分証明書で本人確認しながら入場させたが、横浜での混乱も受けてやり方を少し変えたので、幸いにもこちらは混乱もなく、比較的スムーズに入場ができた。しかし、午前中横浜で1曲余分に歌ったのが伝わっていて、前半のローズクォーツから後半のローズ+リリーに交替した時「君待つ朝〜」とリクエストが掛かった。そこで、こちらでもその曲をサービスで歌うことにした。客席の反応はとても良かった。後で氷川さんが「この曲、次のアルバムの中核にできますね」などと言っていた。
 
最後の曲『ピンザンティン』を、お玉を振りながら歌うと、やはり客席もみんなお玉を振ってくれる。とても盛り上がった状態で、この日のイベントを終えた。
 
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今日のイベントに来てくれた人は、既にCDを買っている人も多かったはずだが、それでも会場売りしたCDが、横浜と埼玉合わせてローズ+リリーの分約400枚、ローズクォーツの分約100枚が売れた。そのほか、出張販売に来てくれているピエトロさんの方もドレッシングがかなり売れたようであった。
 
また物販をした他の会場でも聞かれたのだが、年末の大分の会場で売ったPV集のDVDが無いかと尋ねる人も多く、これについては何らかの方法での再販売を検討することになった。
 
埼玉のステージが終わってから、私とタカと美智子の3人で★★レコードに行って、町添さんと会談した。
 
「今の所、ローズ+リリーの『夜間飛行』が初動40万、昨日までに70万。これは久しぶりにミリオン行くかも知れない」
「わあ」
「『夜間飛行』が格好良い!という声と『ピンザンティン』が面白い!という声が多い。個別でもこの2曲のダウンロードが圧倒的に多い。これは上島先生の闘争本能が刺激されるね」
と町添さんは言う。
 
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「でも多分、ハッピー・ラブ・ハッピーは結婚式とかでたくさん歌われますよ」
と私が言うと
「うんうん。それで定着するかもしれない」
と町添さんも笑顔で言う。
 
「それでローズクォーツの『ナイトアタック/ウォータードラゴン』だけど、初動は2万と、前作・前々作(初動3万)より低調なスタートだったのだけど、昨日までに8万に達している」
「へー」
 
「色々購入者の声とかを分析しているのだけど、やはりマリちゃんが参加しないなら、買わなくてもいいやと思った人が結構いたようで」
「やむを得ないでしょうね」
「それがキャンペーンで会場で聴いた人、FMの番組で聴いた人が『何だか格好いい曲だ』と思って、キャンペーン会場で売っているものを買ったり、ダウンロードしたりしたケースが、けっこうある感じ。須藤君の狙い通りだね」
 
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「ゴールド行きますかね?」
「行くと思う。行ってもらわないと困る。今回はキャンペーンに1000万掛けたしね。もっとも予算はローズ+リリーの方から出てるんだけどね」
 
私は微笑む。そのあたりは少し混同して使わせてもらったところである。で、ローズ+リリーの予算というのは、つまりお金を出しているのは結局、サマーガールズ出版、要するに私と政子だ!
 

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「あ、そうそう。これはケイちゃんだけに言っておこうと思ったんだけど」
「あ、僕は聞きません」とタカ。
「同じく」と美智子。
 
「うん。須藤君も星居君もよろしく」と町添さんは言ってから
「花村唯香が今月末に性転換手術を受けることになった。このことは当面公表しない」と言う。
 
「わあ、それは良かった。先月発売した新譜もよく売れてるようですからね」
「うんうん。その印税で性転換手術代が出たようだね」
「手術代高いですからね。ふつうの人は捻出が大変ですよ。手術した後しばらくはとても稼働できないし」
「一応、7月いっぱいまで休養させる予定。その後は本人の回復状況次第。復帰後はまた、エリちゃんとケイちゃんに曲をお願いしたい」
「ええ。こちらは大丈夫です」
 
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「手術後1ヶ月で活動再開したケイちゃんや、2ヶ月半で復帰した春奈ちゃんは例外中の例外だからなあ」
「スリファーズは、年末に緊急発売になった『女になった日』どうですか?」
 
「うん。ここでケイちゃんだけに話すモード終了。で、『女になった日』は予約が凄まじくて、初動で50万超えた」
「ひゃー」
「もう60万を越えてる。多分70〜80万くらい行くかな」
「凄いですね」
 

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新曲キャンペーンが終わった週末。私と政子はまたヴァイオリンとフルートを持ち、東北新幹線に乗った。福島駅で降り、南相馬市へ行くバスに乗る。
 
私たちはバスの中で先月福島に「ゲリラライブ」に行った時に、福島県の職員という方から頂いた地図を眺めていた。
 
警戒区域・計画的避難区域・帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域といった文字が記入されている。思うことは色々ある。
 
しかし私たちはいつもゲリラライブに行く時と同様、無言であった。
 
原ノ町駅前でバスを降りた。
 
現在常磐線は南側は上野−広町間、北側は原ノ町−仙台間のみ運行(但し一部バスで代替中で2017年頃鉄道復旧予定)されていて、広町と原ノ町の間は復旧のメドは全く立っていない。ここから南には行くことができない。
 
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東京方面からここに来るのにも、北側の相馬市から回り込まないといけない。双葉町や大熊町には近寄ることさえできないが、南相馬市も南部の区域がまだ避難指示解除準備区域である。私は2010年10月にここに「ドサ周りライブ」に来た時のことを思い出していた。あの時は双葉町の公民館でも歌ったが、いつかまたあそこに行くことができるのだろうか・・・・
 
私はもう唄わずにはいられなくなった。
 
「ハアアーアイヨー、道の小草にヨ 米なるときはヨ
ハアアー 山の木萱にも ヤレサ 金がなるヨ」
 
「ハアアーアイヨー 月はまん丸だヨ 踊りも丸いヨ
ハアアー 主と私も ヤレサ 丸い仲ヨ」
 
道行く人が何人か立ち止まってこちらを見ている。政子がヴァイオリンケースを開けて、私が唄う相馬盆唄に合わせてヴァイオリンを弾き始めた。ヴァイオリンという楽器はギターなどと違ってフレットが無いので、民謡の音階にも合わせやすい。
 
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やがて政子のヴァイオリンは突然西洋音階の和音を弾きパッヘルベルのカノンになる。私は微笑んで歌い続ける。
 
「春の花、夏の海、秋の風、冬の山」
「甘い瞳、熱い吐息、揺れる袖、静かな閨(ねや)」
「その日君と出会った時から、僕の心は天空を舞い」
「鳥のさえずり、木々の葉擦れ、人のざわめき、雨の雫」
「全てが愛を語るようで、全てが恋を祝うようで」
 
一通り歌った所で私もフルートのケースを開けて政子のヴァイオリンに合わせて吹き出した。
 
やがてヴァイオリンは『荒城の月』を示唆する。物悲しげなヴァイオリンの響きを背景に柔らかいフルートの音色がメロディーを奏でて行く。
 
更に私たちは『花』『カチューシャ』と弾き『福島県民の歌』『I love you & I need you ふくしま』を弾いてから、最後に『神様お願い』を演奏して町中での突然ライブを終えた。
 
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最後の方は20人くらいの人が私たちを取り囲み、拍手もしてくれた。最後の3曲は一緒に歌ってくれる人が随分いた。途中で観衆の中に制服のお巡りさんが加わったので何か言われるかとも思ったのだが、最後まで一緒に聴き、拍手までしてくれた。私たちは聴いてくれた人たちにお辞儀をし楽器をケースに入れ駅に戻った。
 

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駅前で相馬行きの列車を待っていたら、ひとりの女性に声を掛けられる。
 
「もしかしてローズ+リリーのおふたりですか?」
「はい」
と私たちはにこやかに答える。この人の顔には見覚えがある。さきほどのライブを最初から聴いていたひとりだ。
 
「よくここまで来られましたね」
「この突発ライブは去年の5月から毎月東北のどこかでやってたんですけど、先月福島市に行って、偶然県庁の職員の方とお話をして、この区域に来たくなったんです。結局はこの南相馬市が私たちみたいな外部の者が来るには限界のようだったから」と私は言う。
 
「双葉町とかには双葉町の住人でさえ入れません」
「そのお陰で、ここに来るのに回り込まないといけないから大変。こちらの人たちも東京に出るの大変でしょ?」
「そうなんですよ!」
 
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「でもいつか必ず復旧しますよ。人間の力だって凄いんだから」
「ええ。私もそれを信じて頑張ります」
 
私たちは彼女と握手した。
 

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「来月はどこに行こうか?」と仙台行きの常磐線の列車の中で私は訊いた。
「3月11日は石巻、時間的に可能だったら鮎川にしない?」
「そうだね。じゃ2月11日は陸前高田」
「OK」
 
「一応、今度の3月11日でゲリラライブも、いったん終了しようか」
「うん。ここまで誰にもバレずに来たのが奇跡的だけど、あまり騒がれたくないしね」
「うん。こういうのって騒ぐべきものじゃないよ」
 
私たちは仙台に辿り着くまで、そのくらいの会話しか交わさなかった。
 

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