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■夏の日の想い出・3年生の冬(4)

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「いや、本当はケイ先生と呼ぶべきところなんだけど」
「つい、ケイちゃんと言っちゃうね」
「『ケイ先生』はやめてください。そう呼ぶのは富士宮ノエルや坂井真紅(まこ)だけでいいです」
と私は焦って言った。
「じゃ、やはり、ケイちゃんで」
 
「でもケイちゃんはちゃんと『真紅(まこ)』と呼ぶんだね」と浦中さん。
「たいてい『しんく』と読まれちゃいますよね、あの子」
と言って私は微笑む。
 
「でね、今日ケイちゃんまで来てもらったのは、ローズクォーツの方針転換のことで須藤君から僕たちに確認を求められて、そういう話ならケイちゃんも入れて話し合うべきだということになってね」
と町添さん。
 
「方針転換ですか?」
と私は驚いて訊く。
 
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「説明します」
と言って、美智子は立ってホワイトボードの前に立ち、図を描いたりしながら説明を始めた。
 
「根本的な発想は『まがい物は本物には勝てない』ということなんです」
と美智子は切り出した。
 
「基本的にローズ+リリーはローズ+リリー、ローズクォーツはローズクォーツだと思うのですよね。それが去年の夏以来、発端は緊急事態に対処するためだったとはいえ、マリちゃんにローズクォーツの音源制作にずっと参加してもらっていたのですが、それをやったことで、ローズクォーツというのはローズ+リリーの拡大ユニットみたいに思われてしまった面があると思うのです」
 
確かにそれは私が過去に何度か美智子に言った点でもある。
 
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「『夏の日の想い出』などはそのお陰で売れた面が大きかったのではないかと思うのです。それまでローズ+リリーは2年間新譜を出していなかった。それでローズクォーツの新譜を聴いてみたら、マリちゃんとケイちゃんがツインボーカルで歌っている。これって事実上ローズ+リリーの曲ではないかと思われたと思うんです」と美智子の説明は続く。
 
町添さんと浦中さんが頷いている。
 
「でもその後、ローズ+リリーの方も『Long Vacation』を皮切りに『涙のピアス』
以降精力的に新譜をリリースするようになった。それでみんなそちらを買うようになって、『拡大ローズ+リリー』の方には興味を抱かなくなった。それで『起承転決』以降のローズクォーツはそんなに売れなくなった」
 
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「でも、『起承転決』以降のローズクォーツの音源制作にもマリちゃんが入っているからボーカル部分だけ見たらローズ+リリーだよね。それに、ローズ+リリーの伴奏はたいていローズクォーツがやってるし。実質同じものと思って、そちらも売れそうな気もするのだけど」
と津田社長。
 
「そのあたりは微妙な心情だと思うのですが、かつて菊池桃子がラムーを始めた時、ラムーは全く売れませんでした。菊池桃子が歌っているのに」
「うんうん」
 
「その手の事例ってかなりありますよね。どちらかというと拡大ユニットになって成功した事例の方が少ないと思います。みなさんお酒好きの方も多いかと思うのですが、純粋にウィスキーを飲むのと、ウィスキーをコーラで割ったのと、どちらがお好きですか?」
 
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「僕はロック」と上島先生。
「僕も昔はロックだったけど、さすがに身体にこたえるから水割り」と浦中部長。「水割り」と町添部長。
「僕はウィスキーは飲まないけど、チューハイより焼酎だけで飲みたいね」と津田社長。
 
「ケイは?」
「えっと、どちらかというとアルコール無しでコーラだけで」
 
「まあ、そういうことです」
「なるほど」
「ローズ+リリーのファンは、ローズ+リリーとしてリリースした曲を聴きたいんですよ」
 
「ライブなんかもそうだよね。例えばスカイヤーズとサウザンズのジョイントコンサートなんてやっても、それなりに客は入るけど、むしろスカイヤーズの単独ライブ、サウザンズの単独ライブを各々やった方がたくさん客は入る」
と浦中部長が言う。
 
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「そうです、そうです。つまり、各々美味しいものは混ぜちゃダメなんです」
「うんうん」
 
「ではどうするの?」
「取り敢えず、来週から始める予定の次のローズクォーツの音源制作以降、マリちゃんは入れずに、ケイちゃんだけのボーカルで行こうと思います」
「ああ」
 
「それから、曲の構成でも、基本的にマキが書いた曲中心で行きたいんですよね」
「じゃ、僕は遠慮しようか?」と上島先生。
 
「いえ。マキの曲だけでは看板が無いので、やはり上島先生とケイちゃんに1曲ずつはお願いしたいです。それ以外をマキの作品だけにしようと」
「ああ、それがいいだろうね」
 
「来年夏くらいに考えているアルバムでも、やはり上島先生とケイちゃんは1曲くらいずつお願いして、残りはマキに頑張って書いてもらおうと」
 
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「それでかなりテイストの差が明確になるだろうね」
 
「ただ、Rose Quarts Plays シリーズの方は、マリちゃんのボーカル前提で企画したものなので、こちらは最後までお付き合いしてもらおうかなと」
「うんうん」
 
「ローズ+リリーの拡大ユニットではなく『ローズクォーツ』というユニットなんだということにした方が、ちゃんと売れると思うんですよね」
 
「なるほどね。ただ、ローズクォーツがまがりなりにも毎回10万枚前後売れてたのは、ケイちゃんたちの曲で、マリちゃん・ケイちゃんが歌っていたという面もあるから、元々のクォーツ色を強くした場合、今より売れなくなる可能性もあるよ」と津田さん。
 
「まあ、その時は仕方無いですね。でも、最初に私が言ったように、まがい物では結局本物に勝てないんです。《ローズ+リリーもどき》のバンドではこの先発展の可能性がないから、落ちていくかも知れないけど、ローズ+リリーとは切り離そうと」
と美智子。
 
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「実は昨年秋の段階で、ローズ+リリーとローズクォーツの路線が明らかに混乱しているからというので、ローズ+リリーはケイ自身が統括し、ローズクォーツは私が統括する方針にして、混乱を防ぐようにしたのですが、それをもっと徹底した方がいいかなと」
と付け加える。
 
「やり方は正しいと思う。ただ売れるかどうかはまた別。たぶん売れない」
と浦中さん。
 
「まあ、売れなかったら売れなかった時ですね。全てはマキ次第です」
と美智子。
 
「それで逆にローズ+リリーの伴奏の方は今後はスターキッズを中心に考えていこうかと」
「ああ」
「ほんとに分離する感じだね」
 
「今月23日のライブもスターキッズにするの?」
 
「春の沖縄シークレットライブは両者の合体ユニット、夏のサマフェスはローズクォーツ、先日の札幌突然ライブではスターキッズが伴奏したのですが、3つの録音を聞き比べて見ると、フォーク系・バラード系の曲は圧倒的にスターキッズがいいです。リズミカルな曲は甲乙付けがたいですね。どちらも魅力的」
「うん」
「クォーツの方はロックやフュージョンが身体に染みついているメンバーが中心なので、ノリの良さが魅力的だし、客席の反応を吸収した臨機応変なサウンドを聴かせてくれます。スターキッズの方はクラシックの素養のある人が多く、とても正確な演奏をしてくれるので、精密な歌唱をするローズ+リリーと美しい調和を見せます」
 
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「親子丼と唐揚げのどちらがいいか、みたいなもんだね」
と津田社長が茶々を入れるように言う。
「ああ面白いたとえ」
 
「それで今度の大分は前半をスターキッズでアコスティック、後半はローズクォーツでリズミカルにして、アンコールはケイのピアノのみにしようかと」
「ああ、それもいいかもね」
「両方連れて行くと、お金はかかりますが」
「ライブは基本的にはファンへの感謝、利益還元だから、気にすること無い」
「はい」
 

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「そうそう。来年のローズ+リリーのライブスケジュールなんだけどね」
と町添さん。
 
「これはまだどこにも出さないでください。この場にマリちゃんがいないので言ってもいいと思って言うのですが」
 
という町添部長のことばに私は微笑む。
 
「マリちゃんが6回くらい歌いたいと言っていたので6回で計画してみました。2月名古屋、5月仙台、の後は、8月の夏フェスは当然出てもらうとして、9月に《デビュー5周年記念公演》と銘打って横浜エリーナと大阪ユーホール。どちらも1万席売ります」
「わあ・・・」
 
「そして12月は福岡ムーンパレス。これで6回です。福岡は抽選売りにします。行きたい人がたくさんいるということを考えると、大きな会場が望ましいのですが、今須藤君からもあったように、ローズ+リリーのコンセプトを考えるとこういう3000人クラスのホールでのライブが捨てがたいのですよね」
 
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「ありがとうございます」と私は言った。
 
「来年、大学を卒業したら全国ホールツアーとか、横浜エリーナ3日間とかやろうね」
 
「卒業したらマリも頑張ってくれると思います」
 

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「昔は、こういうなかなかライブ機会の少ないアーティストは、実際のライブの様子を撮影して、各地のホールで上映して、フィルムコンサートとかしてたね」
と浦中部長。
 
「ああ。外タレとかのよくやってましたね。結構な料金取って」
と津田社長。
 
「あと、テレビスタジオで演奏してもらってそれを放映して、スタジオライブとかもやってた。僕は昔、ミッシェル・ポルナレフのスタジオライブを見て胸が震えたね」と津田さん。
 
「まあ、今はyoutubeとかもあるし、有償でストリーミング配信とかすることもできますしね」
 
「映画を400円くらいで有料配信してますね。だいたいビデオをレンタルするのと同じくらいの感覚ですよね」
 
「ああ。そもそもローズ+リリーのライブビデオを発売すればいいのかも知れませんね。それ、できるようになったんですよね?」と浦中さん。
 
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「はい。9月に契約条項を見直しまして、できるようになりました」
と美智子。
 
「ライブ映像なら、高校時代の金沢と東京でのライブを撮影したものと、4月の沖縄に先日の札幌ライブを撮影したものがあるけどね」
と町添さん。
 
「高校時代のがあるんですか?」
「なんでも撮っておいたんだよ。音源は全て録ってあるけど映像は2ヶ所だけだけどね」
「へー」
「こないだちょっと見せてもらったけど、マリちゃんもケイちゃんも初々しい女子高生で可愛いよ」と町添さんは言ってから。
「こういうこと言うとセクハラになるんだっけ?」と言うが
「私もマリもその程度は平気です」
と私は笑顔で言う。
 
「今年のを使うなら札幌でしょうね。ファンが集まってくれたものの方がいいですよ」と私。
「うん。私もそう思う」と町添さん。
 
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「権利関係が難しいでしょうから、ノエルたちの出演シーンはカットしてかな」
と浦中さん。
「うん。商品化するなら、そうなるだろうね。あれもなかなか楽しかったけどね」
「あの子たち、トークのセンスありますね」
「特にしゃべるのうまい3人を連れてったからね」
 
「唯香は三枚目キャラを演じるのが好きだし、ノエルは話を振るのがうまいし。ノエルは、ふだんのライブでのトークも全部アドリブですよ。あの子シャイな性格なのに、ステージに立つと性格が変わって堂々としてるんだよね」
「スターですね」
「うんうん」
 

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「それから後1点、クレジットの変更をしようと思っているのですが」
と美智子は言った。
 
「夏の日の想い出なのですが、あのシングルは最初『ローズクォーツ 制作協力ローズ+リリー』としていたのですが、クォーツ側から申し出がありすぐに『ローズクォーツ with ローズ+リリー』に変更したのですが、むしろ『ローズ+リリー ft ローズクォーツ』に変えようかと」
 
「ほほぉ」
 
「やはり、あのシングルはローズクォーツの人気で売れたんじゃないんです。どう考えてもローズ+リリーの人気で売れたものなので、ローズ+リリーのコラボシングルと考えるべきではないかと」
 
「それが妥当かも知れないね」と津田さん。
 
「ただ印税分配を変更したくないので、JASRACへの登録はそのまま変更せずに、ダウンロードサイトの表示を変えるのと、次にもし追加プレスする場合、そのジャケットとパンフレットの表示を変えるだけにしようかと」
「うん、それでいいだろう」
 
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「このCDの演奏印税はそもそもマキ・タカ・サト・ケイ・マリの5人で5等分する特別な方式にしていたので、その分配比率は変えないつもりです」
 
「変えられたら、クォーツの3人が生活できないよ」と津田さん。
「ええ。そうなんです。ローズクォーツの作品の中でこれだけ突出してるから。この分の登録を変更して、減った分の印税を返してくれと言われたら困っちゃいます。彼らの生活は保証してあげないと」
 
と美智子が言った時、上島先生が何かを考えるような表情を見せた。
 
 
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夏の日の想い出・3年生の冬(4)

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