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■夏の日の想い出・男の子女の子(9)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-01-13
アクアは3-5日の3日間名古屋・大阪・福岡とローズ+リリーの公演に出たが、大阪では雑誌社のインタビュー、福岡ではテレビ局の取材にも応じていた。本来は東京でするはずだったものだが、アクアが多忙すぎるので、雑誌社もテレビ局もアクアの行動日程に合わせてくれたのである。
雑誌社の方はローズ+リリーの公演の楽屋で、公演の衣装を着けたまま取材に応じたのだが、テレビ局の方は福岡の系列局スタジオに入り、局のスタイリストさんに衣装を選んでもらい、メイクまでした上で取材用の小スタジオに行くことになる。
ところが・・・・
「あのぉ、この衣装変だと思うんですけど」
とアクアは遠慮がちに言う。
「そんなこと無いと思うなあ。君すごく可愛いから、ごてごてした服より、こういうシンプルなドレスの方が似合うと思うよ」
とスタイリストさんは笑顔で言っているが、若干「駆け出しの癖にプロの私に文句言うのか?」という雰囲気もある。
ちょうどそこにコスモスが入って来た。
「アクアちゃん、着替え終わった?」
「こんなの着せられちゃったんですけど」
「ああ」
と言ってコスモスは頷いている。
「すみません。スタイリストさん、この子は男の子なので、男性用の衣装を着せていただけませんか?」
と頼む。
「え?嘘?」
とスタイリストさんは超絶驚いていた。
「でも女の子の下着つけてたけど」
「すみません。悪戯でそんなの着せられちゃったんです」
「でも男の子が女の子下着をつけてるようには見えなかったけど」
「それでみんな面白がってこの子に女装させたがるんですよ」
6日は朝一番の飛行機で東京に戻り、日中は『ときめき病院物語』の1〜2回目の撮り直し分を撮影した。院長と社長に絡む部分である。これが早く終わったので番宣用の撮影もすることになり、これが終わったのは夕方4時だった。
アクアはタクシーチケット(事務所から支給されている)で自宅に戻って、
「お母さん、お父さん、ただいま」
と言う。
アクアは花柄のワンピース姿であったが(自分のテレビ番組出演があったコスモスに代わって撮影に付き添ってくれた川崎ゆりこに着せられた)、この程度は田代の父母は全く気にしない。
「お帰り。大変だったね」
と母が言うが、ひとりである。
「あれ?お父ちゃん、まだ?」
「今日は大阪に研修で行ってるんだよ」
「ああ、そんなこと言ってたね!冬休みなのに大変だ!あ、これ博多で買ってきた。ふくやの明太子と通りもん」
「ありがとー。これ好き〜。あ、そうそう。彩佳ちゃん来てるよ」
と母が言う。
「え?ほんと?」
「お菓子の方は持って行って、ふたりで食べなよ」
「うん」
それで《通りもん》を持って自分の部屋に行くと、彩佳があぐらをかいて部屋に置いていたニコラを読んでいた(ニコラは龍虎の愛読書である。実は川南が毎月ここに置いて行っている)。
「待たせた?ごめん」
「ううん。雑誌読んでたから問題無い」
と彩佳は言っている。彩佳も今更龍虎が女の子の服を着ていても驚かない。龍虎のファッションの一部という説明を受け入れている。
「ちょっと着替えるね」
と言って龍虎はワンピースを脱ぎ、ポロシャツとジーンズに着替えた。下着はユニセックスなグレイのシャツと女の子でもフレアパンティとして穿けそうなミッキーマウスのトランクスである。彩佳は龍虎の着替えの様子をじーっと見ていたが、龍虎も気にしない。
「でも大変そうね〜」
「大変だったぁ。1月1-2日は挨拶回り、3日は早朝から岐阜県まで往復してから東京で会議、そのあと名古屋でライブに顔出しして、4日は大阪で取材のあと公演、5日も福岡のテレビ局で取材の後公演」
「龍、私の手の届かない所に行っちゃったみたい」
と彩佳が雑誌を開いたまま龍虎に言う。
「ボクはアヤとずっと友だちのつもりだよ」
と龍虎は座りながら言う。
すると彩佳は脱力したように
「そうね。友だちだよね」
と言った。
龍虎は友だちで無ければ何なんだろう?と疑問を感じた。
紅茶も入れて持っていく。彩佳は砂糖たっぷりのミルクティーにし、龍虎は牛乳だけ入れて砂糖無しで飲む。
おやつを食べながらしばらくおしゃべりしていたら、母が来て言う。
「ごめーん。生徒の保護者さんから、相談したいことがあると言われたからちょっと行ってくる。もう暗くなってきてるから、彩佳ちゃんが帰るときは、龍、ちゃんと送っていきなさいよ」
「うん。ちゃんと送っていくよ。お母ちゃんも気をつけて」
と龍虎が言うと、母は車で出かけて行った。
その後、龍虎と彩佳は色々おしゃべりをしていたのだが、疲れが出てきたのか龍虎がつい船を漕いでしまった。
「疲れたんでしょ? 少し寝るといいよ」
「だったら、その前にアヤを送っていかないと」
と言って龍虎が時計を見ると18:10である。
「あ、もうこんな時間だもん。ついおしゃべりに夢中になっちゃって」
「実は今日はうち、両親居ないんだよ。ひとりじゃ寂しいから、もう少し居させて」
「だったら、ボクがアヤの家に8時くらいまで居ようか?」
「あ、それでもいいかな。じゃ9時まで居てよ。ご飯食べて、お風呂入るまで居てくれると嬉しい」
「いいよ」
それで龍虎は母に《彩佳を送ってくる。今夜は両親居なくてひとりで心細いと言うから9時くらいまで一緒に居る》とメールしてから一緒に家を出る。
2人の自宅の距離は400mくらいである。冬なのであたりはすっかり暗くなっている(この日の日没は16:42 日暮れは17:18 天文薄明終了は18:13)。
「あ、お月様が出てる」
「満月かな?」
「少し過ぎてる感じ。十六夜(いざよい)と言うのかな」
「十六夜(いざよい)、十七夜(たちまち)、十八夜(いまち)、十九夜(ねまち)だったかな」
「何かそういう日本の言葉って美しいね」
「思う!」
ふたりの家の間には他の子の家も数軒あるのだが、この日は誰にも遭遇しなかった。やがて彩佳の家に着き、彩佳が鍵を開けて中に入る。
「晩ご飯作るから座って待ってて」
「ボクも手伝うよ」
御飯はジャーの中に結構あるのを確認。ふたりで手分けして野菜を切り、野菜炒めを作った。
「包丁の使い方とか上手いよね。龍、いいお嫁さんになりそう」
「ボク、お嫁さんにはならないよ!」
「でも小さい頃、将来の夢は?と訊かれて、龍、お嫁さんって言ったことあるよ」
「あの頃はまだ良く分かってなかったんだよ」
「うふふ」
龍虎が小学1年生の3学期、退院して学校に編入してもらった時、クラスメイトに彩佳が居て、ふたりは何となく意気投合してよく一緒に遊んだ。あのくらいの年の男の子と女の子が仲良くしていると、からかわれたりしやすいものだが、当時誰もふたりをからかったりはしなかったので、ふたりは本当に仲の良い「女の子同士の友だち」みたいに遊んでいた。実を言うと、彩佳の両親は最初、龍虎のことを女の子と思っていた!
テレビをつけてバラエティ番組など見ながら、ふたりで一緒に御飯を食べる。その間にお風呂を入れておいた。
「茶碗はボクが片付けるから、その間に、アヤお風呂に入るといいよ」
「じゃ、そうさせてもらおう」
と言って、龍虎は茶碗を洗い始める。彩佳は着替えを取ってきてから
「一緒にお風呂入らない?」
などと龍虎を誘惑(?)したものの、
「そういうジョークって真に受けられたらやばいからね」
と笑って言っておく。
やがて茶碗を片付け終わって、しばらくそのあたりに転がっていた、ちゃおを読んでいたら、お風呂から彩佳が出てくるが、裸である。
「ちゃんと服着ないと風邪引くよ」
と龍虎が言うと
「龍って昔から、素っ気ないね」
などと彩佳は言う。
「アヤの裸も見慣れてるし」
「確かにお互い裸は見慣れてるね」
「まあ誤解されるから他人にはそういうこと言わない方がいいけど」
それで結局、彩佳はわざわざ龍虎の目の前で下着を着ける。
「これこないだもらった商品券で買ったぷりり」
などと言っている。先日の番組で賞品としてもらったウィングの商品券100万円分は、実際には長野支香に70万円分、母に20万円分渡し、残りの10万円分を彩佳に贈った(但し彩佳の母には贈ったのは1万円分ということにしている)。
「可愛いね」
と龍虎も平気で彩佳の下着姿を見ながら言う。
「龍もこういうブラとかパンティとかつけたい?」
「別に」
「でもあんなにもらってよかったの?少し自分でも使えば良かったのに」
「ボクは別に女の子下着は使わないし」
「それは酷い嘘だなあ」
と言ってから、彩佳は
「龍もお風呂入る?着替え出しておくよ」
と言った。
「それも他人には聞かせられない言葉だね」
と笑って言って、龍虎は
「じゃ、お風呂もらうね」
と言って、お風呂に入った。
ふたりは小さい頃から頻繁にお互いの家を訪問していたので、実はお互いの服が結構お互いの家に存在する。
髪と身体を洗う。お股を洗うとき、妙な違和感があるものの、気にしないことにする。湯船に浸かっていると、彩佳がわざわざ浴室のドアを開けて
「ここに着替え置いておくね」
と言う。
「うん」
と言って微笑んだ。
龍虎はバスタオルで髪と身体を拭くと浴室を出る。脱衣場には真新しいブラとパンティとキャミソール、それに可愛い膝丈スカートとブラウスに女の子仕様のセーターが置かれている。今まで着ていた服は無い。
が、この程度は予想していたので、平気でそのブラを着け、パンティを穿く。どうもわざわざ龍虎のサイズで下着を用意していたようである。龍虎はそれを着けながら「ああ、ボクやはり下着はこっちの方が好きかも」などと思ってしまう。男物の下着って楽しくない。女の子の下着をつけると身体が引き締まるような感覚なのである。パンティを付けた時のお股のラインも凄く好きである。龍虎の「もの」は凄く小さかったので、パンティを穿くとまるで付いてないかのように見え、その感覚が快感だった。
「あってもなくても大差無い気がするなあ」
などと独り言を言ってからキャミも着て、ブラウスを着てスカートも穿き、可愛いセーターも着ると、彩佳の部屋に行った。
「可愛い!」
と彩佳が言った。
「アヤも可愛いよ」
と言って、座り込み、ふたりは何事も無かったかのようにおしゃべりを続けた。
やがて8時の時報が鳴る。
「お風呂も入っちゃったし、帰ろうかな」
「もう少し居てよ」
「じゃ当初の予定通り9時まで」
「うん」
しかし疲れていたところでお風呂に入ったので、物凄い睡魔が襲ってくる。
「やはり少し寝た方がいいよ」
「じゃ帰ってから寝るよ」
「ここで寝てもいいじゃん。9時になったら起こしてあげるから」
「じゃ、そうしようかな」
龍虎は畳の上で寝ようとしたのだが、それじゃきついよと言われて結局、ふとんを敷いて寝ることにした。この布団は来客用だが、実は半ば龍虎専用である。他に彩佳の従兄が使うこともあるが、彼を泊める時は仏間に布団を敷く。しかし小学生時代に龍虎を泊めていた時はいつもこの部屋に彩佳の布団と並べて敷いていた。さすがに小学5年生の時に「男の子を女の子の部屋に泊めるのは良くない」と双方の両親が心配して以来、龍虎はここには泊まっていない。この部屋で寝るのは久しぶりであった。
龍虎はセーターだけ脱ぎ、布団の中に入ると目を瞑り、身体の緊張を解除した。龍虎はほんの1分程度で深い眠りの中に落ちていった。
龍虎は夢を見ていた。
学校の遠足だろうか。数人ずつのグループを作り、広場から出発する。地図とコンパスで道を確認しながら歩いて行く。峠まで来た時、遙か向こうの山の上でスーツを着た実の父・高岡猛獅と青い振袖を着た実の母・長野夕香が並んで手を振っているのを見る。
「あれ〜。お父さんとお母さんは死んだんじゃなかったっけ?」とも思うが、龍虎は地図で道を確認しながらルートに沿って進んでいく。
「今どこだっけ?」
と隣で彩佳が訊く。
「この地図の長坂(ながさか)と書いてある所」
「あ。それナゲシと読むんじゃ無いんだっけ?」
「ナガサカだと思うよ」
ふたりを含む5人のグループは、その長い九十九折り(つづらおり)の坂を下って行った。やがて角を曲がった所に体育館のようなものがある。
「ここで休憩しよう」
とリーダーの上島さんが言って、グループは中に入り、椅子が並んでいる所に腰を下ろす。
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