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■夏の日の想い出・男の子女の子(8)
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目次 8
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「まあ、こないだそれを病院に行って確認されたね」
と私が言う。
「病院に行って何したの?」
と水上先生。
「アクアがあまりにも女の子にしか見えないので、一部の関係者が不安がって、本当に男の子なのかをお医者さんに検査してもらったんですよ」
「それどうやって検査するの?」
「お股の所とか、胸とか、お医者さんに見せました。あと、尿とか血液とか取ったし、MRIに入れられて色々検査されました」
と本人。
「何か大変そうだ」
「それで男性器は存在しないし、胸は女の子のように膨らんでいて、体内には子宮や卵巣があって染色体もXXで、ホルモンは女性ホルモン優位だと診断されたんでしょ?」
などと雨宮先生が言うので
「違いますよぉ」
と龍虎は反論している。
「一応ちゃんと男性器は陰茎も睾丸・陰嚢も存在するし、胸は女の子みたいに膨らんではいないし、染色体はXYで、体内に膣や子宮に卵巣は無く、前立腺が存在すると診断されましたよ」
と私はフォローする。
「なんだ。つまらん」
などと海原先生が言う。
「ただホルモン的にはまだ中性らしいです。やはり小さい頃にした大病のせいで、性的な発達も遅れているみたいですね」
と私は言う。
「だったら、今から女性ホルモン摂っていたら、凄く可愛い女の子になれるのでは?」
と下川先生。
「別に女の子にはなりたくないですぅ」
と龍虎は言っていた。
「え?でも君、将来は女の子になりたいんでしょ?」
「違います!」
この時、川南が
「今日は夜中から長時間車に乗って疲れたでしょ。このあと東京にとんぼ返りして更に名古屋にも行かないといけないし、大変だから滋養強壮剤あげるよ」
と言って、錠剤のシートを出し龍虎に渡す。
「ありがとう。これ何錠飲めばいいの?」
「3錠かな」
それで龍虎は、その錠剤シートから3粒、錠剤を取り出すと飲んでいた。水で流し込む。そして残りのシートは可愛いポシェットにしまっていた。
「川南、今龍虎に渡した薬は何?」
と千里が訊いた。
「DB-10だけど」
「それ何?」
と上島先生が訊く。
「プロゲステロン。黄体ホルモンです」
と千里。
「なるほどー」
と上島先生は言って笑っているが、またまた龍虎はキョトンとしている。
千里が苦笑しながら
「つまり女性ホルモンだね」
と言うと、またまた龍虎は
「え〜〜〜!?」
と言った。
「さっき卵胞ホルモン・エストロゲンのドリンク飲んだから、黄体ホルモン・プロゲステロンも飲まなきゃ」
などと川南は言っている。
「やはり君は女性ホルモンを飲みたいんだとしか思えん」
と夏恋は少し呆れたような顔で言う。
「まあ、エストロゲンだけでなく、プロゲステロンもちゃんと飲まないと、おっぱい大きくならないよね」
などと千里は言っている。
「ボク、おっぱい大きくなっちゃったらどうしよう?」
「おっぱい大きくしたいんでしょ?」
「まだ大きくしたくないです!」
と龍虎が言ったので
「『まだ』・・・ね・・・」
と言ってワンティスの面々はお互いに顔を見合わせて苦笑していた。
「加藤さんの意見は?」
と雨宮先生が訊くと
「僕としてはアクア君の声変わりはできるだけ遅くなった方がいいからアクア君が自主的に微量の女性ホルモンを飲むのは問題無い」
などと加藤課長は言っている。
「微量で済むといいわね」
などと雨宮先生は苦笑していた。
「ボク自主的に女性ホルモン摂っている訳ではないんですけど」
と龍虎が言うと
「嘘つけ!」
と海原先生からまで言われていた。
この日はローズ+リリーの名古屋公演があるので、私は千里の車に上島先生・加藤課長と一緒に乗り、そのまま名古屋に向かった。政子は昼過ぎに風花がピックアップして、名古屋に連れてきてくれることになっている。
龍虎はいったん東京に戻って昼過ぎから『ときめき病院物語』の打ち合わせに出席する。そのあと新幹線で名古屋に向かうということだった。全く忙しい。1月1-2日は紅川社長・コスモスと一緒に各方面への挨拶回りをしたらしいし、全く休む暇もないようである。
本来は1月3日はアクアは休みになっていたのだが、12月29日の放送の反響が予想を大きく上回っていたためローズ+リリーの公演にずっと付き合うことになった他『ときめき病院物語』も、ここに来て、院長役の中年俳優さんが病気で降板し、急遽別の人が出ることになったことから、打ち合わせが必要になったらしい。
『ときめき病院物語』は、昨年秋の段階では、院長役が内海四郎さん、その子供の姉弟が、神田ひとみとアクアという配役で企画が作られた。
それで12月1日に収録された「これが性転換だ!」に看護婦の衣装を着せられて出演したアクアが
「ときめき病院物語で院長の息子役をしますアクアです」
と言ったのだが、そのナース姿があまりに可愛かったため、司会の古屋さんから「息子じゃなくて娘の役をしなよ」などと言われてしまう。
これに反応したのがこの番組の橋元プロデューサーだった。
実はその時、出演予定者にトラブルが起きていたのである。
アクアの演じる上原佐斗志の「姉」友利恵の役を演じて主題歌も歌う予定だった神田ひとみが11月末に内々に紅川社長に結婚して引退したいという意向を伝えた。
17歳のひとみが結婚というのは紅川さんにとっても想定外の事態だった。
紅川さんは最初激怒したものの、ひとみが真剣に謝り、違約金を払ってもいい。ただ、一度には払いきれないから10年くらいのローンにしてもらえば、などと言い、ひとみから連絡を受けて驚いて上京してきた両親、またひとみの結婚相手の俳優さんと、その両親、事務所社長も一緒に来て紅川さんに平謝りしたことから、紅川さんはその結婚を認めてあげることにした。
違約金は、俳優さんの事務所の社長が個人的に自分が払ってもいいと言ったものの、結局紅川さんはそれも勘弁してやることにした(向こうの事務所社長が肩代わりすれば、結局ふたりは結婚後、そちらに長期ローンで返済していくハメになる)。
それで神田ひとみの引退と結婚が12月28日、アクアのデビュー前日に発表され、3月1日に関東ドームで引退ライブを行い、4月に結婚式を挙げることも同時に発表された。
元々『ときめき病院物語』のキャラ設定では、
院長・上原(内海四郎)と、その高校時代の友人で会社社長の黒間(鞍持健治)がいて、
上原院長の子供が姉・友利恵(高3:神田ひとみ)と弟・佐斗志(中3:アクア)、
黒間社長の子供が兄・純一(高3:岩本卓也)と妹・舞理奈(中3:馬仲敦美)、
となっていて、友利恵と純一、佐斗志と舞理奈が各々同級生で、微妙に気になる関係。
ということになっていたのだが、古屋さんが言った
「アクア君、娘さんの役をしようよ」
ということばに反応した橋元プロデューサーはアクアに、院長の娘と院長の息子の二役をさせるという案を提示した。
最初、アクアに女役をさせるという話に難色を示した紅川さんであったが、元々が自分の事務所のタレントが配役に穴を開けてしまったのだから、あまり強くも言えない。それで男役もするのであれば、と譲歩した。
そこで設定の変更が行われることになった。
アクアの演じる佐斗志は中3のままなのだが、友利恵は高3ではなく中1とした。アクアは高校生を演じるにはさすがに若すぎるのである。それで姉弟から兄妹に変わったことになる。そして純一・舞理奈の兄妹も高2・中2に1歳設定年齢を下げた。
結局、高2の純一と中1の友利恵、中3の佐斗志と中2の舞理奈が気になる関係ということになり、同級生という設定が消えた。純一を演じる岩本卓也君は実際には20歳、馬仲敦美ちゃんは16歳なので、設定年齢を下げるのもこのくらいが限界である。ちなみに神田ひとみは17歳であった。
しかしアクアが二役をやる場合、友利恵と佐斗志が同時に画面に出ないというわけには行かないので、結果的に誰かアクアと似た体格の子をボディダブルで使う必要がある。
プロデューサーは最初、アクアと似た背丈の男の子と女の子、2人のボディダブルを使う方向で検討し、密かに内々のオーディションをすることで、紅川さんと合意した。ところが実際にはこのオーディションは行われなかった。
コスモスがアクアとひじょうに似た体格の男の子をスカウトしてきたので、彼にボディダブルをしてもらうことにしたのである。
「で、男の子の側のボディダブルをするんだっけ?女の子側のボディダブルをするんだっけ?」
と橋元さんはコスモスに尋ねた。実は橋元さんは当初、西湖の性別が分からなかったのである。
「その両方をやらせるんですよ」
その言葉に橋元さんは少し考えたものの
「おお!」
と声をあげた。
「この子なら、男装も女装も行けると思いませんか?身長はアクアより2cm小さいだけなんですよ」
「そのくらいの身長差なら靴底の厚いのとか履かせたら、充分行けるね。ところで、この子は男の子?女の子?」
と橋元さんは言う。
「どちらだと思います?」
とコスモス。
「うーん。。。女の子でしょ?」
「外れ。男の子です」
「え〜〜!? なんか最近は女の子みたいな男の子が流行り?」
と橋元さんは参ったという顔をして言った。
元々が俳優一家なだけあって、西湖の両親、そして叔母である上野陸奥子も、西湖の芸能活動には理解を示してくれて、暫定的に§§プロの研究生としての契約を結ぶことになった。
それでアクアと西湖に、各々男子制服と女子制服を着せてみたのだが、二人とも、男子制服を着たら一応男子に、女子制服を着たらちゃんと女子に見える(正確にはアクアは男子制服を着せても男装女子中生にしか見えない)。
それで『ときめき病院物語』はこの配役で行くことになった。
ところがクランクインして最初の2回分の撮影(撮影は役者さんたちのスケジュールの都合で毎回2回分続けて行う)が終わった年末に院長役の内海四郎さんが癌のため入院するということになり、橋元さんは慌てた。
急遽シナリオライターさんとも打ち合わせた結果、社長役の鞍持健治さんが院長役に横滑り。新たな社長役には内海さんと同じ事務所の藤原重蔵さんをお願いすることになった。藤原さんは3月まで別のドラマの撮影が入っていたのだが、社長の出番を前半は減らすことで、何とか乗り切れるという判断になり同じ事務所の俳優さんのトラブルをカバーしてくれることになった。
それで1月3日は先日の撮影の一部を撮り直すことになったということで全員(西湖も含む)集めて打ち合わせをしたのである。
「僕間違って、鞍持さんに『お父さん』と言ってしまいそう」
と黒間純一役の岩本卓也君。
「そのあたりはお父さんに準じるくらい仲が良いということで」
「僕は間違ってアクアちゃんに『佐斗志』とか言ってしまいそう。ちゃんと『友利恵』と言わなくちゃ」
と新しく院長役をすることになった鞍持健治。
「いや、アクア君は友利恵でもあるけど、佐斗志でもありますから」
「あれ?そうだったんだっけ?てっきり女役をするのかと」
「女役もしますが、男役もしますので」
「そうだっけ?なんか僕も頭の中が混乱してきた」
鞍持さんは実は年内は多忙だったため、第1回の撮影冒頭に出ただけで、すぐ離脱していたので、アクアが男女2役をした所を見ていなかったのである。
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