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■夏の日の想い出・種を蒔く人(4)

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「一見★★系が勝利したようにも見えますけど、結局は村上さんが社長、佐田さんが副社長になる意味は大きいです」
と氷川さんは言った。
 
「営業方針が変わるでしょうね。似鳥さんは一応★★系ではあるけど、上からの命令には逆らえない人だから」
と私は言う。
 
「ええ、それもあって心配です。そうなってくると町添がどうしても孤立しがちになるだろうから、そこに加藤が次長で入るのは町添としても心強いと思うんですよ」
と氷川さん。
 
「ですね。この状態では町添さんひとりでは制作の具体的なことまで頭が回らないだろうから、それを加藤さんに助けてもらえば、何とか品質の維持やアーティストの管理もできるのではないでしょうか」
と私。
 
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「まあ私たち一般社員はそれを期待しているんですけどね」
「そうだ。氷川さんも係長になるんでしょう?」
 
「どさくさ紛れに加藤から言われました。係長といっても部下がいる訳ではないし、それに私ローズ+リリーのことしかしてないんですけどね。まあ私の一存で決済できる金額を大きくするために係長にしてくれるみたいです。それだけ責任も大きくなりますけど」
 

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「誰が今回の事件を仕掛けたのかってんで、犯人捜しも行われたみたいね」
 
とその日、音羽と光帆のマンションを訪れた私に音羽は言った。
 
「やはり誰かが雑誌社にリークした訳?」
「だと思うよ。今浮上しているのはMM系内部の勢力争い」
「そんな話が?」
 
「例のキスしている写真は、MM系の社員が集まって激勝さんのおごりで村上さんの社長就任、佐田さんの副社長就任の前祝いをしていた時のものらしい。女装レイプ大会とか凄いことやってたみたいでさ。村上さん・佐田さんも出席している中で」
 
「何それ?」
と私は顔をしかめる。
 
「雑誌社が入手した写真には村上専務がスカート穿いてお化粧した男性社員と結合しているなんていう物凄い写真もあったらしいけど、雑誌社としてはニュース価値が無いと考えて女優との全裸緊縛キス写真だけ出したみたい」
 
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「うーん・・・」
 
「そういう場で撮影されたものだから、撮影したのはその時居た誰かとしか考えられないと。ホテルに入って行く所の写真も、その宴会の後で2人がホテルに行った時のものだから宴会の後尾行して撮影したのだろうと」
 
「なるほどねー」
「それで犯人と疑われた人が数人、★★レコードを退職したみたい。あと、村上専務にレイプされた男性社員には100万円渡して退職願を書かせて地方のイベンターに移籍させたとか。本人もそんな写真が流出したら嫌だから従ったみたいで」
 
「それは酷い。しかし要するにMM側の自爆か」
 
「MM系といっても一枚岩ではない。村上さんとか黒岩さんはMMレコード創業者の無藤定さんに育てられた人材。でも佐田さんは無藤定さんの相棒の河内さんに心酔していた人。つまりMMレコード系自体に無藤系と河内系があるんだよ。今回の事件はその河内系の誰かが、無藤−村上系にダメージを与えてあわよくば村上さんではなく佐田さんを次期社長に据えようとしたのが影響が大きすぎたのではないかと」
と音羽は語る。
 
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「会社員って何か大変な仕事だね」
 
「全く全く」
 
「しかし、男性社員を宴会の場でレイプして喜んでいるような人が★★レコードの次期社長になるわけ?」
と私は困惑しながら言う。
 
「なんか気が重いね」
と音羽は言った。
 
「私は正直村上さんより佐田さんの方がまだ先見の明がある気がするんだけどね〜。もっとも今回、佐田さんは本人が女装して、若手男性社員が佐田さんのスカートの中に頭を突っ込んで舐めていたらしいけど」
 
私は顔をしかめた。なんて宴会をやっているんだ。
 
「ね、それマリファナとかやってない?」
「あやしいよね」
 

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音羽と★★レコードの問題から始まって、最近のアーティストの動向などを話している内に、音羽がトイレに行くのに中座する。それで私がしばらく待っていた時、後ろで忍び足のような音がした。
 
何気なく振り向こうとしたのだが、後ろから忍び寄った人物はいきなり私に飛びかかってくる。
 
「わっ」
と声をあげるが、向こうは私にキスして舌まで入れてくるし、スカートの中に手を突っ込んでパンティを下げ、いきなりあそこを揉み始める。
 
「ちょっとやめて!」
と私が相手の口から何とかこちらの口を離して声を出したら、その人物は「へっ?」と声を出してこちらを見た。
 
「冬!?」
「美来?」
 
「ごめーん。織絵と間違った。来てたんだ?」
「織絵はトイレに行ってるけど」
 
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そこに音羽がトイレから戻ってくる。
 
「あんたたち何やってんの?」
と音羽。
 
「ごめーん。オリーと間違った」
と光帆。
「まあいいけど、ミルル、取り敢えず服着たら?」
「そうする。冬、私のちんちん見たのは忘れてね」
 
「ああ、最近みんなの性別がだんだん分からなくなって来た」
と私は言った。
 
「そうだ。冬も『アクア様に去勢手術を受けさせよう』運動に1口乗らない?」
 
と光帆はそのあたりに落ちていたガウンだけ羽織って言った。ちんちんはまだ先端が見えてる!
 
「そんな運動があってるんだ!?」
と私は呆れて言う。
 
「だってあの子のボーイソプラノが失われたら世界の損失だよ。ここはみんなの総意でぜひ去勢手術を受けてもらおう」
と光帆。
「既に署名が20万人集まってる」
と音羽。
 
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「凄い!」
 
「小風とか富士宮ノエルちゃんとかも署名してくれたよ。松浦紗雪さんとマリちゃんは発起人に名前を連ねてる」
 
「なるほどね〜」
 

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ネットで『アクア様に去勢手術を受けさせよう』という運動が広まり、署名募集サイトでの署名が40万件を突破したということから、悪のりしたΛΛテレビが『アクア君、これが去勢だ!』という番組をわずか1日で制作して緊急特番を組んだ。
 
番組冒頭ではアクアにΛΛテレビの局アナがインタビュー。ネットでこれだけ多くの人がアクア君に去勢手術を受けて、今のボーイソプラノが失われないようにして欲しいと要望していますがと言う。するとアクアは困ったような顔をして
 
「済みません。ファンの方々のお気持ちは嬉しいですが、僕は将来結婚したいので、睾丸を取るのは嫌です」
と答えた。
 
「睾丸くらい無くてもアクアさんと結婚したいという女性の声も多数来ていますが」
「でも子供も作りたいので」
「それでしたら精液を冷凍保存してから去勢する方法もありますよ」
「え〜〜!? どうしよう」
 
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とアクアが少し迷うような顔をした所で場面は変わる。
 

去勢手術を多数手がけている都内の病院の医師が出演して、去勢手術の効果について説明する。
 
「男性ホルモンが生産されなくなりますので、男性的な発達は停まります。一般に筋肉が減少し脂肪が増えて中性的な身体付きになりますし、ヒゲや体毛が生えにくくなりますが、このあたりは個人差もかなりあります。10代の内に受けると、肩の張りが発達するのを防止できます。思春期前に行えば喉仏の発達や声変わりを防止できます」
 
「副作用としては第1に精子が生産されなくなるので子供を作れなくなること、それから高確率で陰茎が勃起しなくなること、ホルモンバランスが崩れて精神的に不安定になりやすいこと、骨粗鬆症になりやすいこと。但し精神的な問題や骨粗鬆症を防ぐ方法として女性ホルモンを継続的に投与する手があります。その場合、以後乳房が発達し、腰回りの脂肪なども増えて身体は女性的に変化していきます」
 
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「先生、去勢する前に精子を冷凍保存しておけば、それで子供は作れますよね?」
「作れます。そういうことをなさる方は時々おられます。ただし精子の冷凍は毎年1アンプルにつき2万円程度の維持費が掛かることはご留意ください」
 
「実際の手術はどのように行うのでしょうか?」
「部分麻酔、あるいは病院によっては全身麻酔を掛けた上で、陰嚢を縦に切開し、睾丸を外に引き出して精索を結索の上切断します」
 
「2個とも取るんですか?」
「1個残しておいたら意味無いですね。睾丸は片方でも残っていれば男性ホルモンを生産し続けますから」
 
「手術時間はどのくらいでしょう?」
「だいたい30分くらいです」
「これ危険度はどのくらいですか?死んだりすることはあるのでしょうか?」
 
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「医学、特に衛生学が未発達で麻酔も無かった中世のカストラートの手術では1〜2割の患者が死亡していたと言います。しかし現代では死ぬことは極めて稀ですね」
 

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そのあと番組は去勢手術を受けて(性転換手術はまだ受けていない)ニューハーフさん数人にインタビューし、手術のことについて訊いていた。
 
「すごく調子いいわよ。手術して良かったと思ってる」
「女物のショーツを穿く時にこぼれにくいから、とっても便利よ。ビキニなんかもすごく着やすくなったし」
「女性ホルモンの効きがすごくよくなった。飲む量も減らしたのにおっぱいがどんどん大きくなっていくの」
 
「むらむらとすることが無くなったから精神的に凄く楽になった。睾丸があった頃は、ついオナニーしてしまうのが嫌だったのよね」
 
「個人差もあるみたいだけど、私の場合ヒゲも体毛もほとんど生えなくなった。肌もすべすべ感が増した感じなのよね」
 
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1人、思春期の頃から女性ホルモンを飲んで声変わりを抑えておき18歳になった所で去勢手術を受けたというニューハーフの歌手という人にインタビューしていた(現在は23歳)。彼女は物凄く美形で、ヌード写真まで映されたが美しい曲線美であった。彼女はとても可愛い声でインタビューに答えていた。
 
「私は両親が理解してくれたおかげで女性ホルモンを摂ることができて、お陰で声変わりも免れたし、すごく女らしい身体を獲得することができました。私の骨盤も女性型だと言われているんですよ。この骨盤なら赤ちゃん産めるねと言ってくれたお医者さんもいます。あ、声域ですか?完全にソプラノですね。私、アクアちゃんのファンですよ。アクアちゃんの歌もよくカラオケで歌っています。アクアちゃんも早く去勢できるといいね」
 
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このニューハーフ歌手さんについては、CDとか出してるなら聴いてみたいという問い合わせがかなりあったようである。
 

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さらに番組はアクアの両親にインタビューする。
 
「そうですね。私たちはアクアを男の子として育てていますが、本人が女の子になりたい、あるいは去勢したいと希望するのであれば、その希望は認めてあげたいと思います」
 
などとアクアの母は言っていた。
 
更に事務所の秋風コスモス社長にもインタビューする。
 
「うちの事務所では基本的に所属タレントが豊胸手術や美容整形手術を受けることを禁止しており、勝手にそのような手術を受けた場合は解雇すると契約書に書いてあります。実際に鼻を高くする手術を受けたデビュー前の研究生を契約解除したこともあります。しかし去勢手術を受けてはいけないという条項はありませんので、アクアが去勢したいというのであればしても構いませんよ。病気の治療のための手術と同じです」
 
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「男性化する病気の治療ですよね?」
「確かにそうも考えられますね」
 
「性転換手術をしたいと言ったらどうでしょう?」
「性転換手術を禁止する条項も入っていませんが、それでもし休業期間が発生する場合は、事前に相談してもらいたいです」
 

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「アクアさん、御両親も事務所の社長も、アクアさんが去勢してもいいと言ってますよ」
とアナウンサーはビデオを見せてから言う。
 
「別に去勢は希望しません」
と本人は答える。
 

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番組はアクアをアナウンサーが病院に連れ込むシーンが映る。
 
「え〜?だから僕手術なんか受けませんよ」
「まあまあ、ちょっとこちらに来てお話ししましょうよ」
 
などとやっている。
 

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その後、場面は突然手術室になる。手術台の上に若い男の子が寝ているようである。医師が患者に声を掛ける。
 
「それでは去勢手術をしてもいいですか?手術するともう元には戻せませんよ」
 
 
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