■春迷(3)
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ところで今日は月曜日で普段なら講義が午前中だけなので、午後からはプールに行く日だった。それでいつものようにお昼12時に身体が女体に切り替わった。ちょうど懇親会の最中だった。
俊美は懇親会で一緒に入社する予定の同僚や上司・先輩たちと話している内にこの会社でOLする気持ちが固まってきた。
それでやはり性別を変更しようと思い、会社の行事が終わった後、裁判所に行ってみた。こんな所に来るのは初めてなので緊張する。彼は窓口で訊いてみた。
「あのお、性別を変更する場合、どういう手続きをすればいいんですか?」
窓口の女性は言った。
「ああ、性別の変更ですね。どうして変更なさるんですか?」
「今度の3月に大学を卒業して4月から就職するので、その前に変更しておこうと思って」
「なるほどですね。進学・就職・結婚・死亡とかの前に変更なさる方は多いんですよ」
「死亡の前に変更?」
「男女で戒名の型式が違いますし、男と女ではあの世で座る蓮の花の仕様が違いますから」
「へー」
「これに署名してください」
と言われて紙を渡された。
性別変更届
私は男であり、今後10年間は性別を変更しません。
旧氏名
新氏名
本籍地
戸籍筆頭者
「あのぉ、男になりたいのではなく、今男なので女に変えたいのですが」
「え?だってあなた女でしょ?」
「戸籍の上では男なんです」
「それは何かの間違いですね。でしたら、性別を訂正してください」
「変更と訂正って違うんですか?」
「変更は元々の性別とは違う性別で生きたい人のための制度で訂正は何かの原因で間違って登録されていた性別を直す制度ですね」
何かよく分からない。
「あなたちんちんあります?」
「いいえ」
「性転換手術をなさいました?」
「いえ。そんな手術受けてません」
「だったらやはり訂正ですね」
「はあ」
「取り敢えず、医師の診断を受けて下さい」
と言われて隣の病院に案内された。
病院では、おしっこを取り、血液を採られ、MRI室に行って下腹部を念入りに検査された。1時間ほど待ってから診察室に呼ばれる。
「裸になってください」
「はい」
と言って服を全部脱いだ。医師は身体全体を観察しているようだった。バストサイズを測られてから、「この椅子に座ってください」と言われる。
座ると足が広げられ腰の付近が上昇する。何これ!?
それで医師は股間を細かく観察しているようである。恥ずかしい!
「ペニスは無いですね」
「そうですね」
「ヴァギナの中を観察したいのですが、クスコを入れてもいいですか?」
「よく分かりませんけど、どうぞ」
すると何かを入れられた。何?この感覚?
観察が終わると、椅子は戻された。服を着てもいいですよと言われるので着る。
「いつも女性用下着ですか?」
「子供の頃からそうでした」
「スカートもよく穿きますか?」
「スカートも小さい頃からよく穿いてました。最近穿く頻度が増えました」
医師は頷いていた。
「生理は定期的に来てますか?」
「はい。だいたい28日おきに」
と言って、生理日にシールを貼ったダイアリーを見せた。医師は頷いていた。
「あなたは間違い無く女性ですね。男性器らしきものは見当たらないし、女性器は完全に揃っています。卵巣・子宮もありますし。膣を観察させていただきましたが、これは人工的に造ったものではなく生まれながらのものです。身体付きも女性型ですし、男性ホルモン・女性ホルモンも女性の基準値内です。染色体もXXですし」
へー。染色体まで女なのか。
「こちらで性別訂正届けを出しておきます。これに記入してください」と言われて書いた。
性別訂正届
氏名 岡安俊夫
本籍地 石川県**市**町***番地
戸籍筆頭者 岡安鉄郎
旧続柄 二男
新続柄 二女
新氏名 岡安俊美
書類に記入したところで目が覚めた!
スマホを見ると10月3日(火)の朝だった。
どこから夢だったんだ!?凄いリアルな夢だった。内定通知はカバンに入っていたので内定式に出た所まではリアルだったはずである。
大学は後期にはいったので、もう講義はほとんど無い。卒論を書くだけである。
和栄はほとんどの日、朝からバス会社に行き、ガイド室で卒論を書いていた。10月は何度か他のガイドさんの車に体験乗車した。旅館にも一緒に泊まり、お風呂にも一緒に入った。先輩のガイドさんから言われた。
「きれいに女の子になってるんだね。おっぱい私より大きいし。あんたが男だったと言っても誰も信じないよ」
希望は月水金日の朝10時頃に青葉の家に行き、青葉を津幡のプールまで運び、青葉が泳いでる間に監視室の片隅で卒論を書いていた(紗織ちゃんのお世話もする:布恋さんも気を付けててくれる)。夕方は5時頃、連れ帰る(6時頃に金色千里が津幡にやってくる)
火木土は青葉の家の2階で卒論を書いている。買い物に行ったり、歌詞の入力を頼まれることもある。
俊美はアイゼンに行き、お弁当の配達をして、待機時間を使って卒論を書いていた。俊美は月水金には午後からプールで泳いだ。俊美はアイゼンの他のバイトさんたちからは
「女の子みたいな声出すのうまいね」
と羨ましがられた。声で苦労している人は多いようである。俊美は配達に行くと
「あれ?アイゼンって女の子のバイトさんもいるんだ?」
とよく言われた。
「いえ、ぼく男なんですよー」
「嘘。女の子にしか見えないのに」
「声も女の子の声に聞こえるし」
「こんな可愛い子がいたら、うっかりプロポーズしちゃいそうだよ」
などと言われた。
ぼく男の人からプロポーズされたらどうしよう?
セックスとかどうすればいいんだろ?お母ちゃんは寝てればいいとか言ってたけど。
俊美は女の子になりたい男の子たちとたくさん話している内に親近感を感じ、自分も元々女の子になりたかったのかも、と思うようになった。小さい頃から結構スカート穿いてたし!トランクスなんて穿いたことないし。女の子のおしっこの仕方に興味を覚えてよく座っておしっこしていたし!お姉ちゃんが着ている服が羨ましくて、プリキュアとか、ぴちぴちピッチとかのパンツやシャツとかも買ってもらっていた。
アイゼンではオナニーを我慢している人も多かったが自分は“我慢”はしたことないなと思った。
小さい頃、ちんちん悪戯していてお母さんから「そんなことしてたら、ちんちん切っちゃうよ」と言われたから、しないようになっただけである。いけないことだと思ったからしないようになっただけで、我慢するのが辛いと思った経験は無い。それは例えば盗み食いはいけないと言われてしなくなったのと同じようなものである。
なお彼は村山さんと話して毎日昼12時に女体に切り替えてもらうことにした。すると毎日半分の時間は女になっていることになる。寝る時は女で起きた時は男である。ただしホルモンバランスの問題か、朝は男の身体ではあっても朝立ちは起きなかった。
一方、礼音は相変わらず女子たちに着せ替え人形にされていた。
「やはりこの服レンちゃんなら似合う」
「この服誰も着たがらなかったのよね」
「ぼくもさすがに恥ずかしいんだけど」
「レンちゃんスネ毛が無いよね」
「ぼくあまり生えないんだよね」
「羨ましい」
「ヒゲもあまり生えないから、ぼくシェーバー持ってない」
「ああ、男性ホルモン弱いほうだよね」
「それは思うことある」
「女性ホルモン飲んでるんだっけ?」
「そんなの飲まないよー」
「女性ホルモン剤調達してあげようか?女らしくなれるよ」
「ぼくは男らしくなりたい!」
「オナニーしないでしょ?」
「オナニーくらいするよぉ。ぼくだって男の子だもん」
「どのくらいするの?」
「あまりしてはいけないとは思うんだけどね。ついやっちゃうんだよね」
「分かる分かる。我慢できないよね」
「月に2〜3回はしてるよ」
女子たちが顔を見合わせる。
「やはり多すぎるかな?」
「いや少なすぎる」
「そう?」
「男の子って毎日2〜3回してるよ」
「嘘!?そんなにして何が楽しいの?」
礼音は月に2〜3回“も”オナニーしてしまうのをいけないなあと思い我慢しようと思っていたが我慢できなかった。女の子になっていた間はペニス・オナニーをせずに済んだので精神的に楽だった(無いものは、いじれない)。そして9月7日に男の子に戻してもらったものの、その後は一度もオナニーしていない、(きっと睾丸が無いせい)
「レンちゃんヴァギナ造る治療受けるといいよ」
「ぼく性転換手術とか受けたくないよー」
「男の子のままヴァギナだけ造ることもできるんだよ」
「まじ?」
「ちんちんのある場所とヴァギナのある場所は別だから両立するんだよね」
へー。
「ちんちんとクリトリスは同じ場所だから両方は持てないけどね」
クリトリスって凄く気持ちいいよね!あれだけは女の子っていいなあと思っちゃう。
「男の子についてるヴァギナを“やおい穴”って言うんだよ」
「ふーん」
「それがあれば男の子ともセックスができるよ」
「セックス・・・」
ぼく男の子とセックスするのかなあ。そんなことして妊娠したらどうしよう?花ちゃんに叱られるかも、などと思う。
「あれってお股にボーリングするような機械を取り付けて1日1mmずつ掘り進めるらしいね。そしたら180日後には18cmのヴァギナができて大抵の男の子とセックスできるようになる。今から始めれば中学卒業までには充分な深さになるよ」
へー。ヴァギナってそうやって作るのか。でも18cmなんてちんちんあるの?ぼくのちんちんなんて小さい時で3cmくらい、大きくなっても9cmくらいなのに。
(こういう方法を Frank法と言う。実際には“掘る”のではなく“押して”いく。速度も1日ではなく“1月”1mmなので18cmのヴァギナを造るには180ヶ月、つまり15年掛かる。6歳から始めたら21歳には完成する)
礼音が進学先の高校について悩んでいたら、セレンが言った。
「礼音ちゃん、うちの高校に来ない?」
「L高校でしたね」
「うん」
葛飾区のL高校は単位制なので何年掛けて卒業しても良い。過去には10年掛けて卒業し校長から表彰状をもらった生徒もいたらしい。七尾ロマンなどがここに通っている。
「うちの学校は制服無いからさ、男の子が女子標準服着てもいいんだよ」
「別にぼく女子の服とか着たくないです!」
「そう?寮ではよくスカート穿いてるから」
ぼくそんなにスカート穿いてるかなあ。
町田朱美からも誘われた。
「煌ちゃん、うちの高校に来ない?」
「そちら女子高なのでは?」
「どうせ女の子になる手術受けるんでしょ?」
「そんなの受けません!」
「まだお父さんのお許し出てないの?まあ男の子のままでもいいよ。うちは基本的には女子高だけど、音楽科に限っては年間3人までは男子も入れてくれるんだよ」
「そうだったんですか」
「煌ちゃんくらい歌がうまければ音楽科に通ると思う」
「そうですかねー」
「うちは女子は制服あるけど、男子は数が少ないから制服って無いんだよ。学生らしい服ならOKとなってるから、学ラン着たり中学の制服そのまま着てる子もいるし、男子だけど女子制服着てる子もいるよ。煌ちゃんも女子制服着れるよ」
「別に女子制服着たくないです!」
なんでぼく女子制服着たいんだろうって思われるんだろ?
10月7日(土)、青葉は『ミュージシャンアルバム』の取材を行った。この日の午前中は坂本まりかを取材した。
「坂本まりかさんでーす」
「こんにちはー」
「『風に書いたラブレター』売れてますね」
「ありがとうございます。歌謡番組にもたくさん呼んで頂いて感謝感謝です」
「こういうゆっくり売れていく曲って凄く価値が高いですよ」
「そう言っていただいて嬉しいです」
「キャリア自体はもう5年くらいありますよね」
「ええ。これまで10枚くらいシングル出して頂いてますが、3万枚以上売れた作品は無かったんですけどね」
「続けて来て良かったですね」
「ほんとにそう思います。3年目にコロナが始まって、引退のしどきかなと思ったんですけどね。どうせライブできないし、動画サイトにアップして色んな人に見て頂こうって言って、リリースしたらすぐ掲載して。レコード会社からは売上に響くって文句言われたんですけどね。かえって坂本まりかを知ってくださる方が増えたように思います」
「そのあたりのコントロールって難しいですけどね」
「今回の曲は花村唯香ちゃんの作品だね」
とケイが言う。
「あ、花村先生ってケイ先生の歌でたくさん売れたんだそうですね」
「まあ昔の話だね」
「先生の先生だから、ケイ先生は大先生ですね」
と朱美が言う。
「私ごときで大先生と呼ばれたら、こそばゆい」
と言ってからケイは
「“こそばゆい”って方言かな?」
と訊いた。これはみんな不確かだった。
「標準語は“くすぐったい”かも」
「でも“くすぐったい”とは少しニュアンス違うよね」
「この付近では“こそばしい”とかも言うよね」
「それは北陸方言っぽい気がする」
「“こしょばい”とかなると九州っぽい気がする」
「おもはゆい?」
「少し古風な表現かな」
「『サウンドオブ虫食い』での挙動不審事件についてあらためて」
「あれ本番直前にコンタクト落としちゃったんですよ。でもコンタクト無いと見えないから探せなくて」
「困った問題ですね」
「結局大内小猫ちゃんが見付けてくれたんですが、歌う時歌詞カードが見えなくて」
「オリジナリティあふれる歌詞でしたね」
「いや、歌詞が分からなくてもとにかく歌うというのが大事だよ」
とケイが言う。
「『分かりません』とか言ってやめちゃったら番組が困るからね」
「歌詞間違いくらい可愛いもんだし、それが生演奏の楽しみでもあるからね」
「あんなことしたら2度と呼んでもらえないんじゃないかと思ったら
翌週も呼んでくださってリベンジさせてもらえたので大感謝です」
「良かったですね」
朱美は年明けくらいに予定しているベストアルバムのこととかも訊いた。ピアノ室の歌唱では、はるこのピアノでヒット中の『風に書いたラブレター』を歌った。
この日の午後からはABCのメンバーを迎えた。今回は、ラピスラズリ・ケイ・坂本まりか・ABCがまとめて調布から氷見までDo228に乗って飛んできた。坂本まりかの取材中はABCはドラえもんの散歩道や高岡大仏を見ていたらしい。坂本まりかの方は午後からは帆船・海王丸などを見に行った。
「ABCの皆さんでーす」
「こんにちわー」
「ABCって何の略でしたっけ?」
「あんぱん・バターロール・カレーパンという説もあるんですが」
「え〜!?」
「デビューの時の記者会見ではアフリカ・バグダッド・カイロって社長が言ってました」
「ほうほう」
「アメリカン・ベーシック・カジュアルという説もあるよね」
「それ靴屋さんじゃん」
「でも現在公式見解ではエンジェル・ブレス・コールらしいです」
「きれいだね」
「でも実態はユニット名を電話で聞かれて社長が瞬間的に思いついただけです」
「ローリングストーンズなんかと似てるね」
「そうなんですか?」
「あれは電話でバンド名聞かれて、ブライアン・ジョーンズがとっさに目の前に落ちてたレコードのタイトルを答えた」
「へー」
「まあ名前なんて適当なものが多い。秋風コスモスなんてのも先代社長の紅川さんが電話で聞かれて2秒で思いついて答えた」
「多いんですね。そういうの」
「芸能界ってノリで動いてるからね」
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春迷(3)