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■女子大生たちの新入学(11)

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無理矢理男を装った時間を昨日、そして今日と過ごしてしまったので千里はその「補償」をしたくなった。町中心部で遅くまで開いているお店に行き、可愛いチュニックとプリーツスカートを買った。試着室を借りて着替えてしまう。
 
その格好を鏡に映してみると何だかホッとする。
 
月曜からはこんな感じで学校に出て行こうかなあ。でも今日は男ですなんて言っちゃったし、月曜日に女の子の格好で出て行ったら仰天されるかな、などと考えると、むしろ楽しい気分になった。
 
自転車を大学に置きっ放しにしてきてしまったので、今日はバスで帰宅する。バス停から歩いてアパートに向かったら、ドアの前で貴司が座っているのを見た。
 
「どうしたの?」
「振られた」
「へ?」
「いや。昨夜さ、彼女と一緒にホテルに行ったんだけど」
「うん」
「僕こないだ、千里にあそこの毛を剃られちゃってたろ?」
「あ」
 
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貴司が千里をレイプしたので千里は罰として貴司を《去勢》した。実際は接着剤でタックして女の子の股間にしてしまったのだが、それをするには、当然陰毛を全部剃ってしまう必要がある。
 
「それを指摘されたんだ?」
「うん。これはどういうことなの?と聞かれて」
「ケジラミとかにやられたから剃ったと言うとか」
「その方が更に問題だよ!」
「貴司、風俗とか行かないんだっけ?」
「行かない。同僚に誘われたことあるけど、好きでもない女の子とHなことしたくないもん」
 
そのあたりって貴司って少し女性的な部分があるのかも知れないなと千里は思う。それは彼と付き合い始めた頃から時々感じていたことだ。
 
「で、危険なプレイをしたことを告白したのね」
「うん。千里に剃られたと言っちゃった」
「剃るってことは、相応のことをしたってことだもんね」
「うん。それで千里が男か女かは知らないけど、そういうことをしあう関係にあるなら、もう知らない、と言われてホテルから追い出された」
 
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「貴司が追い出されたんだ?」
「だって彼女大阪から出て来て疲れてるから寝たいと言うし。ホテル代と帰りの新幹線代を置いて出て来た」
「そんなのまで置いて出て来てしまうのが貴司の優しい所だね」
「真夜中にホテルから外に出されて、明け方まで辛かったよ」
「ああ。まだ夜は寒いよね」
 
「それで明るくなってからここを探してやってきて千里を待ってた」
「彼女に振られたから、その代わりに私を求めるの?」
「違う」
と貴司は言う。
 
「千里のことはずっと好きだった。去年の春に別れたことを後悔していた。留萌と旭川に別れて住んでいても交際できてたんだもん。大阪と北海道でも工夫次第では交際できたんじゃないかという気がして」
 
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そういう貴司は自分の携帯に付けた金色のリングが付いたストラップを見せる。それは千里と貴司のマリッジリング代わりであった。千里は心が暖まるような思いだった。
 
「でも私、もう恋人作っちゃったよ」
と千里は言う。
 
「え?ほんと?」
「だから貴司とは恋人にはなれない。友だちとしてなら付き合えるけど」
 
「分かった。でも今夜は泊めてよ」
「そのくらいいいよ。友だちだもん」
 

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鍵を開けて中に入る。雨漏りで衣服が全滅したことを言うと、明日ふたりで一緒にコインランドリーに持って行って洗っては乾燥させて、というのをしようと提案してくれた。
 
「でも1階でそこまで雨漏りするって凄いよ。ね。2階の床に養生シートか何か敷いたら少しは違わない?」
と貴司が言うので、大家さんに提案してみることにした。
 
その日は取り敢えず使いたい分の着替えを貴司がコインランドリーに持って行ってくれた。それで明日・明後日くらいは着る服ができた。
 
夕食は御飯を炊き、貴司がコインランドリーに行っている間に千里がカレーライスを作った。貴司は美味しい美味しいと言ってたくさんお代わりしてくれた。
 
「千里の手料理食べたのも1年ぶりだ」
「私より料理の上手な女の子もたくさんいるから、そういう子を捕まえるといいよ」
 
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御飯の後、お茶を飲んで一服してから、千里は貴司にシャワーを勧めたが貴司は千里に先にシャワーして欲しいと言った。
 
「そうだね。じゃ先にしちゃお」
と言って先にシャワールームに入る。台所にお布団を敷く。そして少し考えたが、千里は裸になってお布団に入った。
 
やがて貴司がシャワールームから出てくる。裸のままだ。
 
「千里、もう寝た?」
「起きてるよ。布団がさ、1組しかないから悪いけど私と一緒に寝てくれる?襲ったりしないから」
と千里は目を瞑ったまま答える。
 
「セックスさせてよ」
と貴司は言う。
 
「ダイレクトな言い方だなあ」
「僕、婉曲的に言うとか苦手だから」
「まあ友だちだし、セックスくらいしてもいいよね」
「うん」
 
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それで貴司は布団の中に入り千里にキスをした。この日は千里も貴司を抱きしめた。
 
「千里の新しい恋人って男の子?」
「どうかな」
「それとも千里レスビアンに目覚めた?」
「どうかな」
「千里、ヴァギナあるよね?」
「私男の子なんだから、そんなのある訳無いじゃん」
「いや、千里は女の子だ」
「確かめてみる?」
と言って千里は貴司に抱きつくようにしてキスをした。
 

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「あ・な・た、お・き・て」
という声で貴司は目を覚ます。朝までぐっすり寝ていたようである。まあ昨日はさすがにしんどかったかなと思う。
 
「お味噌汁が出来てるわよ」
と言って千里は貴司にキスをした。貴司は微笑んで起き上がり、トイレに行ってきてから服を着て食卓に就く。テーブルの上に千里の携帯がある。その携帯には自分のとお揃いの、金色のリングのストラップが取り付けてあった。
 
千里が作ったワカメと豆腐の味噌汁を炊きたての御飯と一緒に頂く。物凄く幸せな気分になる。
 
「僕、彼女には手料理どころか手作りクッキーとかも一度も作ってもらったこと無かった」
「女の子がみんな料理得意とは限らないよ」
 
と言いながら中学高校時代、けっこう手作りクッキーを貴司にあげたよな、というのを思い出していた。
 
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「彼女、そういうタイプみたい。愛妻料理とか言うけど下手な手料理より一流シェフの上手な料理の方がいいに決まってるとか、よく言ってたし」
 
「ああ、それは料理不得手な女の子のよくある言い訳。でも貴司にはそういう子合わないかもね」
「うん。彼女と結婚したら、御飯作るのは主として僕になるかなという気はしていた」
「それもいいかも知れないけどね」
 
「でも千里の味噌汁も久しぶりに食べたけど、この味、僕の好みだよ」
「貴司のお母さんの味付けに似た感じかな」
 
千里は何度か貴司の家に泊まって、貴司のお母さんの作る朝御飯を一緒に食べたりもしている。
 
「これからもずっと僕のために味噌汁を作ってくれない?」
「何それ〜?」
「だめ?」
「そういうことは、結婚したい女の子に言いなよ」
と言って千里は貴司にキスをした。
 
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貴司は千里の《兄》と称して大家さんに2階に養生シートか何かを敷いてもらえないかと言ってくれた。大家さんもそのくらいならすぐできるということで、すぐに2階の全部屋の床にビニールシートを敷いてくれた。つなぎめの所はビニール製の荷造りテープで留める。これで実際、かなり雨漏りは減少した。また貴司は千里の部屋自体にも押し入れなど数ヶ所の天井にビニールシートを貼ってくれた。
 
夕方くらいまで掛けて千里の衣類の大半をコインランドリーで洗濯・乾燥させた。一部の上等な服はクリーニングに出した。
 
「パソコンが無事だったから良かったね」
「龍笛と篠笛も無事だった。これ痛んだら嫌だもん」
 
結局、居室側はガス爆発の直撃を受けているためどうしても雨漏りが避けがたいものの、反対側にある台所は雨漏りは無事っぽいということで千里はこの後、このアパートでは主として台所で生活することになる。机は居室に置いたままにしたものの本棚は台所に置く。台所のスペースをできるだけ確保するため、本来は台所に置くようになっている洗濯機・冷蔵庫も居室に置くことにし、貴司が下に敷く板をホームセンターで選んでくれて、洗濯機のホースも延長ホースを買って来て、長く伸ばして給水・排水するようにした。また水道がそのままでは飲用に適さないので、浄水器を水道に取り付けるのも、ちゃんといったん水道の栓を閉めてから、やってくれた。
 
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「こういうのはやはり男の子がいると違うなあ」
「うちのチームの試合と練習の日程はホームページに掲載されているからさ、試合の無い日は呼び出してくれてもいいよ。すぐ大阪から来るから」
「呼び出しちゃうかも」
 
貴司は土曜いっぱい、この千里の新居の生活準備を手伝ってくれて日曜日に大阪に戻ることになる。着替えなど持って来ていなかったので貴司の着替えも少し買った。
 
「僕の着替えここに置かせといてよ」
「いいよ。じゃこの整理ダンスの大きな引出の一番上の段は貴司の服ということにする」
「OK。なんなら千里着ててもいいけど」
「そうだなあ。男装する時に借りようかな」
「ふふふ」
 

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スパゲティ・ミートソースを作ってお昼にした。貴司はまた美味しい美味しいと言ってたくさん食べてくれた。ちょっと新婚みたいな気分だと千里は思った。それで食器を洗っていたら携帯に着信する。
 
「おはようございます、雨宮先生」
と言って取る。
「おはよう、千里ちゃん。例の車を受け取ってきたから。今千葉市内まで来てるんだけど、おうちはどこ?」
「早かったですね!」
と言ってこちらの住所を伝える。それでカーナビにセットしてこちらに来てくれるようである。
 
「先生?」
と貴司が千里に訊く。
「うん。高校時代から色々音楽のことで指導してくださってる先生」
「へー。そういえばバンドやってたね」
 
「それでその先生に唆されて車買っちゃったんだよ」
「おっ、凄い。何買ったの?」
「スバル・インプレッサ・スポーツワゴン」
「WRX?」
「ううん。5ナンバーのやつ」
「MT?」
「うん。5MT」
「それにしてもインプなんて、千里飛ばす気だ」
「安全運転するよー」
 
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「でもいくらしたの?」
「53万円」
「安すぎる。何km走ってた?」
「7万kmだよ」
「それなら買い取り価格でも100万以上するはず。事故車ってことない?」
「事故は起こしているけど、事故車ではない。修復歴無しだよ」
 
取り憑いてた霊は《こうちゃん》が処分しちゃったしね〜。
 

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ほどなく雨宮先生が到着する。
 
「こんにちは」
と貴司も挨拶するが、ワンティスの雨宮三森とは気付いていないようだ。ただの普通のおばちゃんくらいに思っているだろう。
 
「でも真っ赤なインプか。これ絶対警察に目付けられる」
「うん。だから安全運転」
 
「駐車場も契約しといたから。カーナビに登録してる。ここね」
と言って先生は千里に登録場所を見せる。
 
「現金で払ったおかげでサービスでカーナビのデータは最新版に更新してくれてたよ」
「それは助かります」
 
カーナビのデータ更新は結構お金が掛かる。が、それより千里は自分で更新する自信が無かった。千里は理系なのにパソコンソフトのインストールなども大抵誰かに頼っていた。
 
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