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■女子大生たちの新入学(7)

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旭川から送った荷物は9日に到着することになっていた。寝具などはそちらを使うが、細々としたものはこちらで買う。千里は7日の日は町に出て、百円ショップやドラッグストアなどを巡り、ゴミ箱、ビニール袋、洗濯ロープ、また非常食のインスタントラーメンやミネラルウォーターなどを買った。水道の水が飲んでみるとかなり不味く、そのままではお茶を飲むのには使えないと判断した。浄水器買わないといけないなと思う。ミネラルウォーターが重たかったし、お米なども買ったので、千里は自転車で4回くらいアパートと町の間を往復した。
 
8日。入学式である。千里は手荷物で持って来ていた旅行鞄からピンクのレディスフォーマルを取り出して着て、パンプス(これはこちらで新しいのをひとつ買った)を履き、会場まで出かけて行った。
 
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会場最寄りの駅で同じ大学の医学部に入学する鮎奈と落ち合う。
 
「おぉ、千里の普通の格好だ。でも良い服着てるね」
と鮎奈が楽しそうに言う。
「鮎奈こそ良い服じゃん。それヴェルサーチ?」
と千里も言う。
 
「うん。叔母ちゃんが貸してくれた。高そうで緊張するよ」
 
鮎奈の叔母が水戸に住んでいて、鮎奈が北大医学部を受けずにわざわざC大の医学部を受けることを親が認めてくれた背景には、その叔母が近くにいるからというのがあった。
 
ふたりで一緒に受付の所に行き、入学手続きの時に渡された受領書を見せて、学生証やいくつかの書類を受け取る。
 
「だけど千里、□□大学の医学部にも通ったのに、こちらにして良かったの?」
「あれは教頭先生との約束で受けただけだからね。約束を果たすのに根性で合格したけど、合格したことで義務は果たしたから。そもそも私立の医学部に行くお金が無いよ」
「まあ、確かに医学部って私立は学費の桁が違うよね」
「それに私って何でも頑張るの最初だけだから6年もテンション持たない」
「ああ、それはありそう」
 
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と言って鮎奈は頷く。
 
「そうだ千里の学生証見せてよ」
「うん」
 
「ふーん。ちゃんと女の子の格好で写真は写ってるね」
「男の格好では写りたくないよぉ」
「学籍簿上の性別はどうなってんの? 学生証には性別が書かれてないんだね」
「まあ普通はそんなの書かなくても見れば分かるからね」
「千里は見れば女だと分かるよね」
「一応願書の性別は男にしていたはずだけど」
「それ単純ミスと思われて女に訂正されているかもね」
 
一緒にアリーナに入る。たくさんの椅子が並べられているので、真ん中付近の右手の方に座った。
 
男子は背広を着てネクタイをしている人が多い。女子は千里たちと同じようにフォーマルを着ている子もいればドレスの子もいる。中には振袖を着ている子も見た。振袖か・・・いいなあと千里はそれを見て思った。
 
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やがて10時半になり、入学式が始まる。開式の辞の後国歌斉唱だが、千里はこれを《女声》で歌った。この場では自分の本来のあり方で居なければならない気がしたからである。しかし隣で鮎奈が「へー」という顔をして見ながら自分も歌っていた。それで歌い終わってから突っ込まれる。
 
「そういう声も出るのか?」
「だいぶ練習したよ。でもまだ試運転中。歌えるけどこの声でまだ話せない」
「声変わりする前の声と声質が違う」
「うん。あの声には多分戻れないと思う」
「でもちゃんと女の子の声に聞こえるよ」
「ありがとう」
 
国歌の後、C大学の学歌が歌われるが、これはメロディーが良く分からないので、千里も鮎奈も、ただ聴いていた。
 
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学長が壇上に立ち、新入生総代の女性(振袖姿だ!)も壇に登って代表で学長から入学許可を受ける。そして学長のお話があった後、再度さきほどの総代さんが壇上に登って、新入生の決意のことばを述べた。
 
その後、来賓の挨拶、OB会の幹事さんの挨拶などがあった後、閉式の辞となる。入学式は1時間も掛からずに終了した。
 

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意外にあっけなかったなと思いながら、席を立ち、表に出る。ふたりでおしゃべりしながら、人の流れに任せて玄関の方に向かう。
 
その時ふと千里は30mほど前を歩いている女子に注目した。いや最初女子なのかどうか判断を迷った。それは彼女が結構な短髪で、青いセーターにブラック・ジーンズなどという出で立ちで、その格好だけ見たら男かと思う状態だったからである。
 
『こうちゃん』
と千里は後ろの子に呼び掛ける。
 
『あの子だよね。やっちゃっていい?』
『やって』
 
それで《こうちゃん》は彼女の肩にぶらさがるようにしていた《もの》に飛びかかり、彼女から引き離すと、どこかに持ち去ってしまった。彼女があれ?あれ?という顔をして自分の肩を触っている。
 
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《こうちゃん》は数分で戻って来た。
 
『食べるわけじゃないのね』
『あんなの食べたら腹壊す。処分してきた』
『ふーん。何だったの?』
『ただの幽霊ですよ。あそこまで念が強いと千里でも見えたでしょ?』
『ぜーんぜん。何か変なの憑いてるっぽいとは思ったけどね』
『あれ多分死んでまだ1ヶ月も経ってない』
『そんなのどこで拾ったんだろうね』
『自殺したっぽいから、たまたまその現場を通りかかったんじゃない?』
『ふーん。でもあの子、全然霊感無さそうなのに』
『美事に無いね。でも霊感が無くても憑かれる時は憑かれる。あんなのぶらさげてたことで、あの子、絶対運気が落ちてるから』
『運気落ちるとどうなるの?』
『カラスとかの鳥爆弾とかをくらいやすくなるし、運転しててお巡りさんに捕まりやすくなる』
『免許取ってすぐに捕まりたくないな』
 
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千里は入学式の後は鮎奈と一緒に市内のファミレスに行き、一緒にランチを食べながらおしゃべりして、そのあと「また会おうね」と言って別れた。
 

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一方桃香は、入学式が終わった後、館山市内から出て来た伯父夫婦と落ち合い、入学祝いに、しゃぶしゃぶを食べに行った。
 
「でも桃香ちゃん、そんな格好で入学式に出たの?」
と叔母が言う。
 
「入学式だの成人式だの、出ること自体に意味があるのであって華美な服装をするのはよくないと思うのですよね。私は成人式もセーターとジーンズでいいと思っているんだけど」
と桃香。
 
「それはお母さんが悲しむよ。娘の成人式って親にとっても楽しみなんだからちゃんと振袖を着てあげなよ」
「そんな1度しか着ないものに金掛けるって間違ってると思うんですけどね」
 
「でも桃香ちゃん、日曜日に会った時より顔色がいい」
と叔母。
「そうそう。僕も心配してたよ。慣れない土地で風邪でも引いたかと思って」
と伯父。
 
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「あ、それが入学式の会場に入るまでは肩が妙に凝ってたんですけどね。会場を出た途端、急に軽くなったんですよ」
と桃香。
 
「桃香ちゃん、もしかしてそれ何かの霊に憑かれていたとかは?」
と叔母。
 
「まさか。そんな幽霊とか妖怪とか居るわけがないです。あんなのみんな気のせいですよ」
と桃香は答えた。
 

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食事が終わってから、叔母に尋ねられる。
 
「授業はもう明日から始まるの?」
「いえ。来週月曜日からです。その前に明後日金曜日にクラス分けの発表があって、クラス毎のオリエンテーションもあるから、それに出ないといけないですけどね」
 
「あら、だったら今日明日はうちに泊まらない? 御飯も安心だし」
「あ、そうさせてもらおうかな。昨日はインスタントラーメン作るつもりで鍋を掛けていたら眠ってしまって、鍋を焦がしてしまって」
 
「それ危ない! ガス?」
「ええ」
「桃香ちゃん、IHヒーター買いなさいよ。それで必ずタイマーを掛けるのよ」
「へー。そんなのがあるんですか?」
 
それで一緒に館山の伯父の家まで行くことになるが、ここでまた伯父が言い出した。
 
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「桃香ちゃん、運転の練習。家まで運転していってごらんよ」
「あなた、ダメよ。こないだの信号無視ので、桃香ちゃん、お母さんからかなり叱られたみたいよ」
「確かに叱られました」
 
「でも運転してなかったら、上手にならないから。まあこないだのは初心者にありがちな焦りだったね。落ち着いて運転すればいいから」
 

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それで桃香が運転席に座り、また伯父が助手席に乗る。若葉マークを装着する。高速に乗った方が信号とか気にしなくていいよと言われて近くのICから館山自動車道に乗った。
 
車は快調に高速道路を走っていく。この付近の制限速度は100km/hであるが車の流れが120km/hくらいだったのでそのままその速度で流れに乗って走る。やがて君津ICを過ぎると車線が1本に減り、制限速度は70km/hになるが、前の車がそのまま120km/hくらいで走っているので、桃香はそれに追随して120km/hで走っていた。
 
やがてその車が途中のICで降りて行く。
 
「少し速度を落とそうか」
と伯父が言うので、桃香は素直に「はい」と答えて取り敢えず100km/h程度まで落とした。
 
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「あれ?ここ制限は何キロでしたっけ?」
「えっと、あれれ?80だったっけ?」
と伯父も不確かなよう。実際問題として伯父はここをいつも100km/hで走っていたのである。
 
「じゃ、このくらいならいいかな」
と言って桃香は85km/hくらいの速度で車を走らせた。
 
ところがそれで走っていたら、後ろの車が煽ってくる。かなり車間を寄せてくるし何度かクラクションまで鳴らされた。
 
「遅すぎますかね?」
と桃香が訊く。
 
「あの手の輩(やから)は気にしちゃダメだよ。特に若葉マークに煽るなんて最低な奴だから。マイペースで行こう」
と伯父。
 
「分かりました」
と桃香は答えたが、それでもバックミラーを見ると後ろに3台つながっているので、あと少しくらいは加速してもいいかなという気分になってしまった。下り坂で自然加速したのを機に90km/h程度の速度を維持する。
 
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その状態でしばらく走っていた時
「あ、やばい。桃香ちゃんスピード落として」
と伯父が言った。
 
「え?え?」
と言いながらも桃香は速度を落として75kmくらいにする。
 
しかし後ろから白バイが近づいて来て、桃香の運転する車に停止を命じた。桃香が脇に寄せて停めると、後続の車3台が先に行く。
 
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