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■女子大生たちの新入学(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-06-28
 
千里が免許を取得した翌日。同じ免許センターで学科試験を受けている女学生の姿があった。桃香である。桃香も千里と同じ時期に別の自動車学校の合宿に行っていたのだが、金曜日の卒業試験で対向車がいるのに無理矢理先に右折するなどということをやって落とされた。それで月曜日に再度卒業試験を受けて今度は合格し、今日やっと免許センターに学科試験を受けに来たのである。
 
それで桃香は千里に1日遅れて3月31日にグリーンの帯の免許を手にした。桃香の誕生日は4月17日なので、桃香の免許証の有効期限は2011年5月17日になる。
 
桃香と千里は同学年ではあるが誕生日が3月と4月なので実際は1年ほど桃香の方がお姉さんなのである。
 
今日泊めてもらう予定の館山市内の伯父(桃香の父の兄)の所に移動する。
 
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「桃香ちゃん、合格おめでとう」
と言って伯母は笑顔で桃香を歓迎してくれた。夕方伯父が帰宅する。
 
桃香の免許証を見て「あれ最近はグリーンなんだっけ?」などと言う。
 
「最初だけグリーンなんですよ。3年後にブルーになってその後、無事故無違反なら、その後はゴールドです」
 
「へー。ゴールドが創設されたのは覚えてたけどグリーンというのは知らなかった」
と伯父。
「あなたもゴールドになると保険料が安くなるのにね」
と伯母。
 
「日常的に運転していてゴールドってのは無理だよ。ほんっとにえげつない場所に警察って居るんだから。ゴールドなんてペーパードライバーがほとんどだと思うよ」
などと伯父は言う。
 
「そうだ。桃香ちゃん、ちょっとうちの車運転してみない?」
と伯父は言い出す。
 
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「え?いいんですか?」
「ちょっと、あなた免許取り立てでまだ危ないわよ」
「練習しないとうまくならないさ。僕が助手席に乗ってあげるから」
 
それで桃香は伯父のカローラの運転席に乗り込む。伯父が助手席に乗り、伯母が後部座席に乗った。自動車学校で卒業記念にもらった若葉マークを車の前後に貼り付けた。
 
「木更津あたりまでドライブしよう」
と言って国道127号線に乗る。昨日まで自動車学校に居たから、充分身体が運転を覚えている。桃香は調子良く車を運転していた。
 
「おお、上手い、上手い」
と褒められる。
 
やがて車は君津市内に入る。やや渋滞気味である。
 
「こういうのは精神的に疲れるよなあ」
と伯父。
「慎重にね。歩行者の飛び出しとかにも注意して」
と伯母は言う。
 
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それで君津市内のファミレスに車を駐め、一緒に夕食を取った。それから帰りもまた桃香が運転する。そして中心部から出ようとした時であった。
 
目の前の信号が突然赤に変わった。
 
え!?
 
慌てて桃香はブレーキを踏んだが、反応が遅かったので交差点のど真ん中で停まってしまった。やばー!と思って桃香は焦る。それで、こんな場所に駐めたら迷惑だろうと考え、桃香はまた車を発進させて交差点の向こう側まで進めてしまった。伯父が「あっ、ダメ」と言う声を聞いた。
 
そして交差点の向こう側に辿り着いた途端「そこの青いカローラ、停まりなさい」
というスピーカの声が聞こえる。
 
「うっ・・・・」
 
脇に寄せて駐める。パトカーが寄ってくる。運転席のドアをノックされるので桃香は窓を開ける。
 
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「運転免許証見せて」
「あ、はい」
 
それで桃香はバッグから今日もらったばかりの運転免許証を取り出して警官に渡す。
 
「なぜ停められたか分かる?」
「えっと・・・今のって信号無視になりますか?」
「完璧に赤だったよ」
と警官から言われた。
 
そういう訳で桃香は免許取得初日にして、切符を切られるハメになったのであった。
 

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千里は留萌まで戻って(実家に行く時は自粛して男装しておいた)数日両親、高校新2年の妹と一緒に過ごした後、母と一緒に旭川に出て、美輪子叔母の所に行く。千里は旭川に出る汽車の中で男装を解いていつもの女の子の格好にしてしまった。その服装についてその日母は何も言わなかった。
 
3年間過ごした部屋で荷物を整理する。
 
「千里ちゃん居なくなると寂しくなるなあ」
などと美輪子は言っている。
 
「あんたもそろそろ結婚したら?」
と母。
「そうだね。もう交際し始めてから5年だし、いい加減結婚すべきかなあ」
「恋愛って勢いなんだよ。本当は交際し始めてから1年以内に結婚するのがいい」
と母は言う。母と父は交際開始して半年で結婚したらしい。日々海に出ていて生命の危険がある仕事をしている故に父は早く結婚したかったんだよ、といつか母は言っていた。でもおかげで結婚前にデートって2回しかしたことがないらしい。
 
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千里は自分と貴司って、結婚できる年齢で知り合っていたら結婚に至ったのだろうかと少し考えてみたが分からなかった。もっとも自分と貴司の場合、籍こそ入れていないものの、双方の母が承知の上で《結婚式》を挙げている。それから貴司が大阪に就職するため北海道を離れることになり《関係を解消》するまでの1年間、自分たちは確かに夫婦であるという意識を持っていた。そのことがお互いの心を物凄く安定させていた。自分にしても貴司にしてもバスケであの年あんなに活躍できたのは結婚していたからだと思う。
 
あの《結婚式》を挙げた時は、交際し始めてから4年近く経っていた。しかし法的には結婚できない年齢だからこそ貴司の母は自分を《嫁》として受け入れてくれたのかも知れないという思いはある。自分の性別問題は多分重い。
 
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4月6日。千里はまた飛行機に乗って羽田に出て来た。そのまま千葉市まで行き、不動産屋さんで鍵を受け取る。荷物が到着するのは9日なので、それまでの夜用の寝具としてスーパーで毛布を1枚買った。千里と同じ高校の1年先輩でC大学に通う人の所を訪れて挨拶し、先輩が使っていた教科書を譲ってもらった。
 
「古本屋さんに売り飛ばしても二束三文だからね。後輩が使ってくれるなら、その方がいいもん」
と彼女は言っていた。
 
「これで足りないのが出たら言って。友だちに訊いてみるから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 
洗濯機と冷蔵庫を市内の電機量販店で買い配達を頼む。ホームセンターで6800円のママチャリを買う。千里が借りたアパートは大学から5kmほど離れているので、通学に自転車が必要である。旭川では冬期の自転車通学はギブアップしたものの、千葉なら1年中行けるだろうなと千里は踏んでいた。
 
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夕食を取るのにどこか適当な所を探して夕方の千葉市内を歩く。マナ板や包丁に鍋などの調理器具は通販で買って近い内に届く予定だが、それまでは本格的な料理ができないので、数日間は外食に頼ることになる。(お昼は大学の学食で食べた)
 
小さな中華飯店があった。表に出ている食品サンプルを見る。あ、エビチリとかいいな。でもボリュームがあったら食べきれないな、などと思って眺めていたらいきなり誰かに後ろから手で目隠しされる。
 
思わず「きゃっ」と声を上げてしまった。
 
「だ〜れだ?」
 
「雨宮先生、びっくりするじゃないですか!」
と言って千里は振り向いて文句を言った。
 
「あんた声変わりしちゃったとか言ってたけど、今女の声で悲鳴あげたね?」
「気のせいでは?」
と千里は普段通りの男声で答える。
 
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「東京に出て来たんなら、真っ先に私の所に挨拶に来なさいよ」
 
「お早うございます。雨宮先生。挨拶が遅れまして、申し訳ありませんでした」
「うん、お早う。取り敢えずどこかで居酒屋にでも行って飲み明かそうよ」
「私、未成年です!」
「世間的には18歳になったら飲んでもいいのよ。あんた18は過ぎたでしょ?」
 
「18にはなりました。それで運転免許も取りましたし」
「お。運転免許って大型二種?」
「大型二種は21歳以上、運転経験3年以上でないと取れません。普通免許ですよ」
 
「運転経験は3年以上あるでしょ?」
「免許取ってから3年ですよ!」
 
「ふーん。だったら車は買った?」
「買うお金無いですー。引越で20万使ったし免許取るのに20万使ったし大学の入学金授業料で70万。冷蔵庫・洗濯機とか他にも生活用品買ってたら、あっという間に120万です」
 
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「あんた昨年の年収、500万はあるはずだよ」
「・・・・」
「それとも、あれ使っちゃった?」
「私そんな無駄遣いしません」
「無駄遣いしなくてもそれで性転換手術を受けたとか」
「500万も掛ける性転換手術って何ですか?」
「そうだなあ。朝青龍みたいな男性が大島優子みたいな女の子に変身したいと言ったらそのくらい掛かるかも」
「それって500万掛けても無理だと思いますけど。一度生まれ変わらないと不可能」
 
「まあ身体って小さいものを大きくするのは何とかなるけど、いったん大きくなったものを小さくするのは難しいからね」
「そうですね。身長を伸ばす方法は存在しても、縮める方法は存在しない」
 
「おちんちんもFTMの人は頑張って鍛えて、元々0.5cmくらいしか無かったのを3cmくらいまで育てる人がいるよね。でもMTFの人のおちんちんが縮んでいってクリちゃんサイズになることは無い」
「なんでそういう話になるんですか?」
「千里は、おちんちんが大きくならないように小さい頃からずっと気をつけていて、いまだに3〜4歳の子供くらいのサイズだったりして」
「・・・・・」
 
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「よし、一緒に車買いに行こう」
「えーーーー!?」
 
と唐突な話の展開に千里は驚く。
 
「ちょっと待ってください」
「あんた正直に言いなさいよ。今貯金の額は?」
「400万円くらいです。でも高校行ってる妹の学資を送金してあげないといけないから全部使い切る訳にはいきません」
「そのくらいあれば充分じゃん。また稼がせてあげるからさ。さ、行こ行こ」
 
「御飯食べるんじゃなかったんですか?」
「晩御飯はその後、その後。一流ホテルのディナーおごってあげるよ。大学進学のお祝いに」
 

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