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■夏の日の想い出・何てったってアイドル(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-09-29
 
この日のスケジュールは15:00のハイライトセブンスターズを皮切りにこのようになっていた。
 
15:30 ゴールデンシックス、16:00 三蔵奈良白衣、16:30 緑のトマト、17:00 槇原愛とシレーナソニカ、17:30 ステラジオ、18:00 小野寺イルザ、18:30 川崎ゆりこ、19:00 貝瀬日南、19:30 XANFUS、20:00 ローズ+リリー、20:30 スイート・ヴァニラズ、21:00 サウザンズ、21:30 パライズム、22:00 バインディング・スクリュー、22:30 スカイヤーズ、
 
最後はスカイヤーズが締めて23時終了である。イベント修了後は、バスを大阪駅、難波駅、三宮駅、京都駅、和歌山駅など主な地域に向けて運行することになっている。うまく連絡のある人は公共交通機関だけで帰ることも可能である。バスは入場の時に帰宅予定先を書いてもらっており、それを集計して運行するので、主催者では観客の7−8割くらいは今夜中に帰宅可能と予測していた。
 
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XANFUSの演奏が19:28に終了する。きれいに28分で終わるようにアレンジも作っているが、進行状況に合わせて演奏しながら若干の調整もしている。2分間のインターバルに放送ではCMが流れている。この会場は《夢》《舞》という2つのステージを持っており、交互に使用することで短時間のインターバルで連続して演奏できるようにしている。XANFUSが《夢》を使ったので私たちは《舞》を使用する。
 
ペットボトルの水を飲んで喉を湿らせた上で私たちとスターキッズがお互いに顔を見て頷く。タイムキーパーの人がスタートのプラカードを掲げると同時に酒向さんのドラムスが鳴り響き、七星さんのサックスが甘い旋律を歌う。新曲の『∞の後』である。先日の海外ロケハン(?)の際、ロシアのサンクトペテルブルクで政子が書いた詩に私がリトアニアのホテルで付けた曲を帰国後に再度整理しなおしたものである。
 
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ローズ+リリーの基本である和音唱で歌は進行する。それに七星さんのサックスが絡むような旋律を奏でる。Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、Bメロ、サビ、サビ、Aメロ、サビ、サビ、と演奏してサビをフェイドアウトしていく。そしてピアニッシモになり音が消えてまるで終わったかのような雰囲気。気の早い人が拍手をしかけた所で曲は突然新たなメロディー、Cメロに入る。それを3回繰り返した所で最後はオーケストラヒットで終了である。
 
本当に終わったのかな?と左右を見る客がけっこう出た所で数秒置いてやっと拍手が来た。
 

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その後、『恋愛不等辺三角関係』『ガラスの靴』と3月に出したシングルの曲を演奏してから、昨年のアルバムから『月下会話:ムーンライト・トーク』、過去のヒット曲から盛り上がりやすい『影たちの夜』を演奏。そして最後には世界ツアーで紹介した新曲『仮想表面』を演奏して終えた。
 
大きな拍手に応えて笑顔で手を振る。歓声の中、タイムキーパーの人が「放送終了」のプラカードを掲げた。
 

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私たちふたりも手伝って大急ぎで撤収する。《夢》ステージの方でスイート・ヴァニラズの演奏が始まる。氷川さんがステージ上に忘れ物が無いか確認した上でサウザンズにバトンタッチする。
 
がそこで樟南さんが言う。
「おい、初代チューニング係」
「はい?」
「俺たちの楽器をチューニングしてくれ」
「了解です!」
 
と私は言って私は彼らのギターやベースのチューニングをした。
 
「今チューニング係はどんな人がしてるんですか?」
「映子(あきこ)ちゃんっていう可愛い可愛い高校生の男の娘だよ」
「男の娘なんですか!?」
 
「今日はたぶん洋子が使えるだろうと思ってたから、連れて来なかった。でもどうも純粋な女の子より男の娘の方が俺たちの感性に合うみたいで、ここのところ3代男の娘のヴァイオリニストにやってもらってる」
 
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「なるほどー。樟南さん自身が男の娘になっちゃうのは?」
「俺が女装したら、かなり気持ち悪くなるぞ」
「女装は開き直りですよ」
「どうもそうみたいだな」
 

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楽屋に戻ったところで私は千里に電話をしてみた。
 
「貴司が9時に病院に到着したから、私はバトンタッチして私も新幹線で戻って午後1番に合宿に合流した。でもまだ向こうは産まれてないみたい」
「まだ産まれてないんだ!」
 
「凄い苦しんでいる。出てきそうなのに、なかなか出てこないんだよ。促進剤も入れたし、辛いと本人言っているのを励まして歩き回らせたりしてるけど、出てくるには産道の開き方が微妙に足りないんだ。陣痛が2〜3分おきにずっと続いているから、いつ出てくるか分からない状況なんで分娩室に入ったまま。お医者さんも促進剤を入れてもこんなに出てこないのは不思議だなんて言ってる。ずっと点滴しているし、青葉も付いててずっと気を送っているから、奥さんの命の方は心配無いと思うんだけど、赤ちゃんの方がやばいかも知れないから、帝王切開することを今検討中。本来は帝王切開を選択する状況ではないかも知れないけど、もう22時間になるからね」
 
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「大変だね!」
「いろいろ手伝ってもらったし、動きがあったらそちらにも連絡入れるよ」
「うん。お大事に」
 
しかし旦那の愛人とその友人が奥さんの出産の心配するって、何だか変だ!
 
なお、矢鳴さんは千里と病院で行き違いになってしまったものの、その後、静岡まで走って福田さんにフリードスパイクを返却して東京に新幹線で戻ったらしい。矢鳴さんは眠ってて済みませんと謝っていたらしいが、ひとりでエルグランドを東京から大阪まで走らせてきたのだから今朝の段階では稼働不能だったろう。
 

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政子も心配そうにしているので状況を簡単に説明した。
 
「お産って大変なんだね!」
「いや、この奥さん、生理的なリズムが怪しいらしいんだよ。ずっと生理不順だし、以前結婚していた時にもなかなか妊娠できなくて人工授精までしたけど流産したらしいし。今回も6回目の人工授精でやっと妊娠して、妊娠中も何度も流産の危機があったらしいんだよ」
 
その流産の危機を乗り越えたのも青葉のおかげである。そのことについて青葉は(守秘義務を守って)何も私には話していないが千里が話してくれた。
 
「男の娘ってわけじゃないよね?」
「男の娘はさすがに妊娠しないでしょ」
「あ、そうか。ケイなら分からないけど」
と言ってから政子は
「千里や和実も怪しい気がするけど」
と付け加えた。
 
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夢舞メッセの女性用控室。
 
私たちはAYAのゆみ、XANFUSの音羽・光帆、貝瀬日南、小野寺イルザ、川崎ゆりこたちとおしゃべりしながらラストの方の実力派バンドの演奏を聴いていた。最初のほうの出番だったハイライトセブンスターズ、ステラジオなどのメンバーは既に帰っている。
 
お産の方は22時頃になってから《やっと赤ちゃんが出ようとし始めた》という連絡がありホッとしたのだが、ライブの終わりがけに《子宮に戻っちゃった》というメッセージが入り、私は「え〜〜!?」と思う。
 
その間に私はAYAに渡す『I can't Stop』のスコアの作り込みをしていた。私はまるで16歳の鈴鹿美里や17歳の品川ありさなどに渡すかのように可愛く可愛く作り込んでいった。
 
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途中で覗き込んでいた川崎ゆりこが
「なんか凄く可愛くできてますねー」
と言う。ゆみも
「私、永遠の17歳ですとか宣言しようかな」
などと言っている。
 
「17歳じゃ車の運転とかできないよ」
「それがまた免許証取り上げられちゃった」
「どうしたの?」
「いやあ、カイエンを大破させちゃって」
「え〜〜〜!?」
「下り坂でブレーキ踏みすぎてさ。ベーパーロックやっちゃって」
「あぁぁ」
 
「それで停まらないから教習所で習った車の側面を崖で擦って停めるというのをやろうとしたのよ。ところが擦る前にそこに激突して。もう廃車以外の選択肢が無い状態。カイエンじゃ無かったら私死んでたかも」
とゆみは説明する。
 
「いや、あれは素人には無理ですよ。プロのドライバーのワザですよ」
とゆりこは言っている。
 
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「でも報道とかされてないね」
と日南。
 
「誰も見てなかったし。田舎道だったから、JAF呼んで片付けてもらうまでの間、誰も通り掛からなかったし」
「逆にそういう所で死ぬか大怪我して倒れてたら一週間くらい発見されなかったかも」
「こわーい」
「でもJAF呼ぶのによく電波届いたね」
「通話できるほどまで電波が来ないのよ。でもメールの送受信はできるみたいだったから、井深さんにメールしてJAF呼んでもらった」
「なるほどー」
 
「取り敢えず私は無傷だったんだけど、井深さんが呼んだみたいで救急車も来てて。病院に搬送されたけどレントゲンやMRI撮っても骨とかに異常は出てないということで4時間くらいで解放された」
 
「良かった良かった」
 
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「でも高崎さんが凄い怖い顔して来てさ、免許証預かります、と言われて。私のドライブライフは1年で終了」
「ふむふむ」
 
「下り坂でブレーキ踏みすぎるのって危ないんですよ」
などとゆりこは言っている。この子もなかなかの心臓だなと私は思う。
 
「私、そういうのきれいさっぱり忘れててさ。ブレーキ利かなーい。きゃー!って感じだったよ」
とゆみ。
「ちゃんとセカンドやローに落として減速しないといけないんですよ」
とゆりこ。
 
どうも言われたことはちゃんと記憶したようである。
 
「それ高崎さんにも言われたけど、セカンドとか使ったこと無かったのよね〜」
とゆみ。
 
「ゆみちゃん、そのブレーキが利かなくて停まらないー!って気持ちでこの曲歌うといいよ」
などと政子は言っている。
 
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「あ、そういえばそんな感じにも読める歌詞だよね、これ」
とゆみは言っていた。
 
なお、ゆみはその場で上島先生に電話して、次のCDを上島先生の曲とマリ&ケイからもらった『停まらない!』をカップリングして出したいと言い、承諾を得た。ゆみは、上島先生の作品をタイトル曲にして、マリ&ケイの作品をc/wにと言っていたのだが、上島先生は「両A面にしなさい」と言ったようである。そしてかなり張り切っていたようであった!恐らくかなり力(りき)の入った作品を書くであろう。プロダクションの担当・井深さんと、★★レコードの担当・富永さんにも了承をもらった。
 

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その晩は大阪市内のホテルに泊まった。翌朝まだ阿倍子さんに関する情報が来てないのに気付き千里にメールしてみた。すると、産まれそうで産まれない一進一退の状況が続いていて、名古屋で入院中のお母さんとも連絡を取りつつ、対処方法について議論している最中らしい。
 
「もうそれ帝王切開した方がいいのでは?」
と私は直接音声通話で掛けて千里に訊いてみた。
 
「本人はもうそれでいいと言っているらしいんだけど、名古屋のお母さんから異論が出て。以前阿倍子さん、盲腸の手術の時に急に血圧が下がって死にかけたことがあるらしい。それで手術に凄い不安があるんだって」
 
「でもこのままじゃまずいでしょ?」
「それで札幌に住んでいる貴司の妹の理歌ちゃんが今名古屋に向かっている。入院中のお母さんを連れて大阪に行ってもらって、それで医者が直接お母さんを説得しようという話」
 
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「お母さん、何で入院しているの?」
「詳しい病名は聞いてないけど癌らしい。それも先月手術したばかりであまり体力が無いんだ。それで車椅子を借りていくし、看護婦の資格を持っている名古屋市内の知人にお願いして付き添ってもらうことにした」
 
「何か大変だね!」
 

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昨日は民放FM局ネットワークの主催でアイドルフェスタ・ロックフェスタが幕張メッセ・夢舞メッセで開かれたのだが、この日は某テレビ局の主催で、集団アイドル・グループアイドルが大集合するイベントが、横浜エリーナで開かれていた。同局はこれを午前10時から16時まで全時間中継する。
 
ここに先日デビューしたばかりのホワイト▽キャッツ、松居さんの金平糖クラブ、などをはじめ、全部で18組の集団アイドル・グループアイドルが出演し20分単位でパフォーマンスをしていく。
 
私たちはレイト・チェックアウトにして昼12時まで滞在していたのでテレビでその最初の方を見ていたのだが、政子が言う。
 
「なんでみんな口パクなの〜?」
 
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「まあ、リアルタイムでまともな歌になるほど歌えるメンバーが居ないんだな」
「それで歌手やってるわけ?」
「いや、彼女たちは純粋なアイドルであって、歌手では無いのだよ」
「うむむ」
「ファンと握手するのがお仕事」
「うーん・・・・」
 
「と、こないだ音羽が言ってたよ」
「でも何となく納得した」
 
「でも一部下手でもちゃんと歌うグループもいるよ。Dream Wavesなんかがそうだし。リュークガールズもテレビに出てた頃は口パクだったけど今はもう一切口パク無し。金平糖クラブは最初から口パク禁止」
 
「お、さすが松居さん」
「あそこはリアルでちゃんと歌えるようにするため、日々凄まじい歌のレッスンしているみたいだけどね。それで最低でもちゃんと音程通りに歌えない子は、そもそもステージに出さないし」
 
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「出してもらえないんだったら頑張るだろうね」
「でもそれやると、誰も出られなくなる集団アイドルも多いから」
「むむむ」
「メンバーが30人いても50人いても全滅という所は多い」
「日本の歌謡界の将来を憂いたくなる」
「だからこそ松居さんは頑張ってるのさ」
「なるほど」
 
「私なんかもそうだけどさ。彼女も自分の遺伝子を直接残せないから、自分の心の遺伝子を残したいんだと思うんだよ」
 
「そっかー。男の娘ってたいへんね!」
と言ってから
 
「でもケイは私の赤ちゃん産んでね」
と政子は言った。
 

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