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■夏の日の想い出・何てったってアイドル(7)

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足柄SAを出てすぐ、御殿場JCTから新東名に行って欲しかったのだが、ゆりこはそのまま東名を走り続けた。
 
「あれ?今のところ分岐しないといけませんでした?」
「うーん。まあこのままでもいいか」
「まあ初めて通る時はそういうのなかなか分からないよね」
 
それから少しして千里が尋ねた。
 
「ゆりこちゃん、高速はこれまでどのくらい走った?」
「はい。1月にペーパードライバー講習を受けた以来です。このスピードって気持ちいいですね」
 
千里が参ったという顔をしている。私も同感であった!
 
「ゆりこちゃん、次の愛鷹PAで運転交代しようか?」
「え〜?もうですか? もう少し運転したいですー」
「んー。じゃ、その次の富士川SAで交代。あと30kmくらい」
「そうだなあ、仕方ないか」
 
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ゆりこもそれで妥協したのでそこまで彼女に運転させ、その後で千里が代わることにした。
 

ところで東名は足柄SAがけっこう標高の高い所にあり、そこまでは上り坂、その先はしばらく下り坂になる。
 
ゆりこはどうしても加速しがちな車を度々ブレーキを踏んで減速していた。それに気づいた千里が注意する。
 
「ゆりこちゃん、そんなにブレーキ踏んではいけない」
「え〜? 踏まないとスピードが上がるんですよー」
「うん。だからセカンドに入れよう」
「セカンドって何ですか?」
「えっとね。このセレクトレバーを2の所に移動させる」
「あ、それ下り坂で使うんですか?」
「そうそう。上り坂でも使うけどね」
「へー」
 
それでゆりこはシフトを2に落とした。ところがそれから数分した時のことである。
 
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「あれ〜? どうしたのかな。ブレーキが利かない」
とゆりこが言い出す。
 
仮眠していた佐良さんがパッと目を覚ました。
 
「ブレーキは踏み込めますか?」
「踏めるけどスカスカするんです」
 
「フェード現象かな?」
と私が言う。
 
「うん。ブレーキ踏みすぎたのかも」
と助手席の千里も言う。
 
「シフトをローに入れて。いや私がやる。ゆりこちゃんはハンドルしっかり握って運転に集中して」
と言って千里は助手席からセレクトレバーを操作してローに入れる。千里はもう自分のシートベルトを外している。
 
「サイドブレーキ引くからみんな気をつけて」
と言って千里はサイドブレーキを入れた。凄い音がする。車は若干減速した感じではあるが停まらない。後部座席の右側、運転席の真後ろで寝ていた政子が目を覚ます。
 
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「ゆりこちゃん。私が運転する」
と言って千里は最初に運転席の位置を少し下げ、ゆりこのシートベルトを外してからハンドルを掴み、ゆりこの上に乗るようにした。
 
「ゆりこちゃん、助手席に移動して」
「はい」
 
ゆりこが何とか助手席に移動する。ふたりともスリムなのでできるワザだなと私は思った。
 
「ゆりこちゃん、自分のシートベルト締めて」
「はい」
 
千里は自分のシートベルトを自分で締める。そして車の窓を全開にした。空気抵抗を上げるためである。それでも車はなかなか減速しない。ちょうど急な下り坂にかかり、速度はむしろ上昇する。
 
「やむを得ない。側面を擦って停める。ゆりこちゃん、車ごめんね。私が新しいの買ってあげるからさ」
 
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そう言うと、千里は
「左側を擦るから、ゆりこちゃん、佐良さん、できるだけ身体を中央寄りにしてください」
 
と言って車を左に進行させ左側を道路の側壁にわずかに当てた。
 
凄まじい音がする。ゆりこが「きゃーっ」と悲鳴をあげる。
 
しかし車はそれで10秒ほどで停止した。千里がすぐセレクトレバーをPに入れた。
 
「生きてる?」
とゆりこが言う。
 
「まあみんな生きてるみたいね」
と私は言った。
 
「取り敢えずJAFを呼びましょうか」
と佐良さんは言ったのだが
 
「いや、私はちょっと例の妊婦が凄く気になるのですよ」
 
と言って千里はどこかに電話しているようである。
 
「静岡在住の友人を呼び出しました。富士川SAで落ち合って、彼女の車を借りて大阪に向かいます」
 
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「富士川SAまでは?」
「この車を運転していきます」
「運転できるの〜?」
 
「15分も冷やしたら大丈夫ですよ」
と千里は言う。
 
私は佐良さんを見る。
「まあ確かにフェード現象はブレーキオイルの加熱で起きたものだから冷えれば回復することはしますが」
 
「じゃ20分待ってから出発しましょう。私が運転しますよ」
 
「いや、私に運転させてください」
と佐良さんが言った。
 

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それで結局少し長めに30分待ってから出発した。富士川SAで待っていてくれたのは、私も会ったことのある、雨宮先生の弟子のひとり、福田さんであった。彼女は自分のフリードスパイクを持って来てくれたので、私たち5人は彼女の車に乗り込んだ。激しく損傷したポンガDXは、福田さんがそのまま静岡市内の工場に持ち込んで修理を依頼することにした。
 
側面を当てて車を停止させるなどという荒技をしたわりには損傷が意外に小さかったので、千里も佐良さんも「これ修理で行けそうですね〜」と話していた。ただ外車なので部品の取り寄せに時間がかかるかもとふたりは言っていた。
 
「もっともこれメーカーはフィンランドなんですけどね。工場は中国なんですよ。だから部品はもしかしたらわりとすぐ来る可能性はあると思います」
と佐良さんは言っていた。
 
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結局富士川SAを出発したのは0時半頃である。ここまで佐良さんが運転してきたので、千里が運転席に座った。
 
「しかし助手席に乗っていたのが醍醐先生で良かったです。私たちと同程度のドライビング・テクニックを持っておられるから」
と佐良さん。
 
「全くです。私やマリが助手席だったら、やばかった」
と私も言う。
 
「まあ雨宮先生のおかげですけどねー」
「千里、結局国際C級ライセンスは取ったんだっけ?」
「まだ。レースに2回以上出て順位認定されないといけないんだよ。こないだ1度は出たけど、もう1回出ないとライセンスはもらえない」
 
「凄い。出たんだ?」
「予選敗退しちゃったんだけど、コンソレーションレース(敗者復活戦)で優勝してとりあえず1回順位認定された」
 
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「最初のレースでそれだけ走れたら充分ですよ」
と佐良さんは言っている。
 
「じゃ、佐良さんも東京から足柄までも走っているし、牧之原SAあたりで私が交代しましょう」
と私は言うが
 
「冬は明日の朝から放送でしょ?今夜はずっと寝ていた方がいいよ。この後は佐良さんと私で交代で運転するよ」
 
と千里は言った。
 

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そして少しうとうとしていた私は車が停止する感覚で目を覚ました。
 
ん?と思うと車はどこかのマンションの前で停まっている。
 
「あれ?」
と言って佐良さんも今目を覚ましたようである。政子もゆりこも熟睡している。
 
「ここどこ?」
と私が訊くと
「大阪府内某所。冬、悪いけど運転席にちょっと座っててくれる?」
と千里は言って、車を降りてマンションの玄関に歩いて行った。
 
「あ、うん」
と私は言ったのだが、佐良さんが
「私が座りますよ」
と言って助手席から運転席に移動する。私は時計を見た。1時!?
 
「今、彼女、大阪府内って言いました?」
と私が言う。
「そう聞こえました。あれ?」
と言って佐良さんは車のキーを回してONの位置にし、電気系統が使えるようにする。それでカーナビを見ると、現在地は豊中市である。
 
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「なんでこの時間にこの場所に居るんでしょう?」
「私も分かりません!」
 
私と佐良さんが首をひねっていたら千里から私の携帯に着信がある。
 
「ごめん。冬、手伝ってくれない?奥さんが倒れている」
「え〜!?」
 

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それで千里がマンションの玄関のロックを部屋の中から解除してくれたので、私と佐良さんは千里から聞いた3331号室まで上がっていった。細川という表札が出ている。千里がドアを開けてくれたので中に入る。
 
奥さんが倒れていて苦しんでいたのに、千里が取り敢えず毛布を掛けてあげたようである。
 
「これ救急車呼んだ方がいいですかね?」
「いえ、病院はかかりつけの所に行った方がいいし、フリードスパイクで運びましょう」
「マリさんたちは?」
「あのふたりは朝まで寝ていてもらっていいから、この部屋で休んでもらいましょう」
「なるほど、それがいい!」
 
それで3人で奥さんを下まで降ろした。ゆりこがすぐ起きてくれたので鍵を渡して、政子とふたりで3331号室の窓際の部屋で休んでいてくれるように言う。こんな時に政子ではそのあたりが怪しい。他人の部屋のドアホンを鳴らしかねないが、ゆりこなら大丈夫であろう。政子は熟睡していたが、千里が脇腹をちょっとつねると目を覚ました。
 
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「面白い起こし方だ」
「ここ割と敏感なんですよ」
「覚えておこう」
 
それで車を汚さないように座席に毛布を敷いた上で奥さんを後部座席に乗せ、千里が目的地の病院をカーナビにセット。佐良さんが運転、私が助手席、千里が後部座席にしゃがむように乗って車はスタートする。千里が病院に電話して産まれそうなのでそちらに向かうという旨を伝えた。
 
「阿倍子さん、何時頃産気づいたの?」
と千里が尋ねる。
「10時に始まったドラマを見ていて急にお腹が痛くなったから、10時半くらいかも」
と奥さん。
 
「じゃ2時間半もあそこで苦しんでいたんですか?」
と佐良さんが運転しながら聞く。
 
「携帯近くになかったんですか?」
と私が尋ねる。
 
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「電話しようとしたら突然画面が落ちちゃって。あちこち触るけどどうしても起動してくれなくて。その内、私もう苦しくて、それどころじゃなくなって」
 
「ああ、そんな時にダウンされるとリセット方法まで思いつきませんよね」
 
「私、もうこのまま死ぬのかしら。やっとお産まで来たのにと思って」
「頑張ってね。これからが本番だよ」
「はい」
 

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千里は細川さんにも電話した。向こうは阿倍子さんに電話しても「電波の届かないところか、電源が」のメッセージが返ってくるので、どうしたものかと思っていたらしい。緊急事態なので、監督にお願いして合宿から抜けさせてもらい、明日の朝1番の新幹線で大阪に戻ると言っていた。それを阿倍子さんに伝えると、少し安心したような顔をした。
 
千里はその後、なんと青葉を呼び出していた。
 
「学校があるのに申し訳ないけど、大阪まで来てもらえない? これ遠隔では無理だと思うんだよ」
「分かった。朝一番の特急でそちらに向かう」
「ごめんね」
 
やがて病院に到着する。3人で協力して奥さんを病院の中に運び込む。医師はすぐに診察してくれて、そのまま分娩室の中に運び込んだ。
 
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