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■夏の日の想い出・何てったってアイドル(6)
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「でもローズ+リリーは2011年の『夏の日の想い出/キュピパラ・ペポリカ』、KARIONは2011年『星の海』2012年『海を渡りて君の元へ』の連続ヒットで再ブレイクしたことでトップアーティストになったと思う。それが無ければどちらも消えて行っていたと思うよ」
とゆまは言う。
「実際、何もしてませんでしたからね。『夏の日の想い出』までは」
「まあ何もしてない振りしてたね」
「ケイがさっさと性転換手術してれば、もっと早く復帰できたかもね」
と唐突に政子が言う。
「途中での再ブレイクというと、XANFUSも2010年『Dance don't Love』、2005年デビューの篠田その歌も2009年『愛の悪魔』で再ブレイクしたことでアイドルからポップス歌手に転身成功した」
とゆま。
「AYAは実はデビュー曲の『スーパースター』以降そういう曲が無いよね」
とゆまは付け加えた。
「うーん。だからアイドルを続けるんですかね?」
と春奈が訊くが私は否定する。
「そういう消極的な理由ではないよ。AYAはアイドルでいられる限りアイドルでいようと決意したんだと思う。沢田研二や松田聖子的な路線を進もうとしている」
ゆまも頷いている。
「でもこのあたりで大ヒットが欲しいよね」
6月は何だかドタバタしていた感じもある。6月上旬には明智ヒバリの件と青葉の神社のシーサーの件で沖縄まで日帰りしてきた後、4日から15日まで、ローズ+リリー初の世界ツアー兼アルバムのロケハンをしてくる。その直後、6月17日に和実と淳の結婚式に出て、その晩21時半頃に小夜子が3人目の子供(ほたる)を出産。更に日付が変わって18日の3時頃に私の姉の萌依が最初の子供(梨乃香)を出産。この日はベビーブームだったのだが、この月、私たちは更にもうひとつの出産に関わることになる。
6月27日(土)に大阪でロックフェスタが行われるので、私と政子は26日の夕方、車で大阪に移動しようと思っていた。私は1月に買ったエルグランドを初めて自分で運転することになるなと思っていた。一応専任ドライバーの佐良さんも来てくれるのだが、ふたりで交代で運転する予定である。
夕方秋風コスモスと川崎ゆりことがやってきて、アクアの次のCDのことで打ち合わせしたいと言った。
「社長のコスモスちゃんが来るのは分かるけど」
と私が言うと
「私、いつの間にか副社長になってたんです。いきなり名刺渡されてびっくりしました」
などと川崎ゆりこが言っている。
ふたりは、ゆりこの車で来たのでマンションの普段リーフを駐めている駐車スペースに駐めてもらった。実はリーフはウォッシャー液が漏れてしまうということで、販売店に持って行って見てもらっている所である。車の底面を何度か段差や駐車場のバーなどにぶつけているので、それで外れたのではないかなどと言っていた。
「でもアクアのCDって、前作は上島先生の作品と東郷誠一さんの作品をカップリングしてましたよね」
「ええ。でもやはり上島先生は、アクアちゃん小さい頃からよく遊園地とかに遊びに連れて行ったりしていて、自分の息子みたいな気がしてどうも冷静に作れないとおっしゃるんですよ。それで次は別の方にお願いできないかということで、上島先生がケイ先生を推薦してくださいまして」
と言って、上島先生の名刺を見せる。裏に先生の字で
《ケイ様。申し訳ないですが、次の龍虎(アクアの本名)のCDお願いできないでしょうか?》
と書かれている。
「うーん。上島先生から言われたら断れないけど、私も今余力が無いので、今回だけならということにさせてもらえません?」
「はい。いいです。次はもしよろしければ誰か他の方を推薦して頂くと嬉しいのですが」
「あはは。誰に押しつけよう?」
そんなことを言っている内に20時頃になって、千里がやってきた。
「おはようございまーす、お嬢様方」
などと言って入ってくる。
「醍醐先生!ごぶさたしていて済みません」
などとコスモスもゆりこも言っている。
「あっと面識あったんだっけ?」
と私が訊くと
「春風アルトさんの結婚式で私たち会ったんですよねー」
とコスモスが言っている。
「そんなに昔に!?」
「あの時、同じテーブルにAYAのゆみちゃん、大西典香、コスモスちゃん、ゆりこちゃんがいたんだよ」
と千里は言っている。
「へー!」
「それで余興ではその4人のクァルテットという凄いものが見られたんだ」
「それ見たかった!」
「醍醐先生がピアノ弾いてくださったんですよ」
とゆりこが言っている。
「夏風ロビンさんも出る予定だったんですけど、ドタキャンで」
「あぁ」
「でも千里、日本代表の合宿やっていたのでは?」
「うん。練習は19時で終わって、ちょっと今夜大阪まで行ってきたくてさ。それで抜け出して来た。朝までには東京に戻る。それで良かったら冬のエルグランド借りられないかと思って。私のインプ、今車検に出してるんだよ。ちょうど代表合宿中だから使わないだろうと思ってたもんだから。ミラではさすがに大阪往復やりたくないから」
「なるほどー。でも何か急用なの?」
「どうもさ。例のあの人が今夜あたり産まれそうな気がして。私の占いでは」
「千里の占いなら当たりそう。でもまさか、それを見るのにわざわざ大阪まで?」
「気が進まなかったんだけど、あいつも私と同じNTCで合宿中でさ、今奥さんはマンションにひとりなんだよ。彼女のお母さんは名古屋の病院に入院中だし。あの人、友だちが全然居ないらしいんだよね」
私は一瞬考えた。
「ね、ね、今千里も彼も同じ場所で合宿中なわけ〜?」
「さすがにセックスはしてないよ。合宿中だし」
まあいいけどね!
「でも気になるなら彼が行った方がいいのでは?」
「私もそう言ったんだけどさ。あいつ夜通し運転して大阪まで往復してまた明日の合宿の練習をする自信が無いっていうんだよねー。軟弱な」
「いや、それがふつうの感覚という気がする。じゃ、矢鳴さんと交代で?」
「うん。エルグランド貸してもらえたら、そうするつもり。一応矢鳴さんは今自宅から都心に向かっている最中」
「でも今夜、私たちも大阪に行くね」
と政子が言う。
「あ、何か用事あるの?」
「明日大阪でロックフェスタというのがあるんだよ。ゴールデンシックスも出るはずだけど」
「あ、そうか。カノンから声を掛けられたけど、合宿中だから無理〜と言って断っておいたんだった」
「ゆりこちゃんも出るよね。いつ移動するの?」
「私は明日朝の新幹線です」
「健康的だ」
「私たちは明日早朝の大阪のラジオに出るんで、朝5時頃には放送局に入りたかったんだよね」
そういう訳でその日はアクアのCDの件はうやむやの内に私は引き受けてしまったような雰囲気になり、コスモスとゆりこは帰り、私たちは結局佐良さんと矢鳴さんが来るのを待ってからエルグランドで一緒に大阪に移動することにした。矢鳴さんと佐良さんが来るということは、ふたりで交代で運転することになるので、私の出番は無さそうである! 結局また運転できないのか、と思いながらゆりこの車を出すのに私が(出入口を開けるため)一緒に駐車場まで降りて行ったら、ゆりこが
「あれ、今、エルグランドのライト消えてますね」
などと言う。
「ん?」
「あ、そういえば、エルグランドのヘッドライトが点いたままだったんですよ。お部屋にお邪魔したら言わなきゃと思って忘れてました」
とコスモスが言い出す。
「え〜〜!?」
コスモスたちが来た時ライトが点いたままで、今消えているということは・・・つまりバッテリーが上がっている!
それで私は上から政子を呼んでエルグランドのキーを持って来てもらう。千里も一緒に付いてきた。
果たしてエンジンが掛からない!
「ごめーん。犯人はきっと私だ」
と政子が言っている。政子は(リーフが修理中なので)エルグランドを使って今日の午後、食料品の買い出しに郊外のスーパーまで行ってきたのである。
「冬、ブースターケーブルは? ゆりこちゃんのポンガDXをそばに持って来てバッテリー同士つないで始動すればいいよ」
と千里が言う。
「ごめん。持ってない」
「ゆりこちゃんはブースターケーブル持ってない?」
「すみません。ブースターケーブルって何ですか?」
千里は頭を抱えた。
千里が和実に電話するが少し話してすぐ切った。
「和実と淳は今福島らしい」
「ああ」
千里は桃香にも電話していた。
「桃香は今日もうビール飲んでしまったので運転できないらしい」
「あらら」
千里は他にも何人か近くに居そうな人に電話していたが、全員遠くに出てるかあるいはお酒を飲んでいるか、あるいはブースターケーブルを持っていないということであった。
「JAFを呼びます?金曜の夜だから時間かかりそうですけど」
とコスモスが言うが
「でもそろそろ出ないとやばくない?」
と政子が言う。
今時刻は21時すぎである。大阪まではノンストップで走って6時間掛かるが休憩を入れると7時間見ておく必要がある。今出て到着予定は朝4時である。
「だったら、ケイ先生、私のポンガをお使いになりませんか?」
私と政子と千里はお互いの顔を見合わせた。
「そうしようか?」
「あ、私も一緒に行っていいですか?」
とゆりこが言う。
「ちょっと待って。その車何人乗りだっけ?」
「5人乗りですよ」
「じゃ、ゆりこちゃんと、私と政子と千里と、もうひとり乗れるか」
ちょうどそこに佐良さんと矢鳴さんも到着した。
それで話し合いの結果、佐良さんに同乗してもらって大阪に向かうことにし、矢鳴さんには何か適当な車を持ってきてもらってエルグランドのバッテリーの再起動をしてから、楽器や衣装などの類を積んで追って大阪に向かってもらうことにした。ローズ+リリーの出番は明日の夕方なので、それまでに到着すればよい。
それで最初はポンガDXの運転席に佐良さん、助手席にゆりこちゃんで後部座席に千里・私・政子が乗った状態で出発した。車のサイズがヴィッツサイズであまり荷物が載らないこともあり、ゆりこちゃんの衣装・着替えは、エルグランドを再起動したあとで、コスモスが同乗してゆりこのマンションに向かい、積んでもらうことにした。
マンションを出てから渋谷方面に向かい首都高に乗って東京ICに入る。そのまま東名をひたすら走る。
足柄SAで運転交代するが、ゆりこが運転したいと言うので運転席に座らせ、千里が助手席に乗り、佐良さんは後部座席に来て仮眠してもらうことにする。それでゆりこの運転で車は出発する。
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