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■夏の日の想い出・4年生の秋(8)

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「冬子さんは、元々歌を綴る巫女だったと思います。『Crystal Tunes』とかあるいは『あなたがいない部屋』とか、天からメロディーが降りてきたような感覚がありませんでしたか?」
 
「私・・・・もしかしたら、その感覚をどこかに忘れてきたのかも知れない」
「だったら思い出しましょうよ」
「どうやったら思い出せる?」
「確実に、冬子さんが巫女として歌を綴ったことのある場所に行けば思い出しやすいと思います」
 
「『あなたがいない部屋』はスタジオで書いたんだけど、あれは凄く特殊な心理状態だったんだよ。政子を失うかも知れないという心の不安があれを書いた」
「自分のパートナーを失うかも知れないという不安は、それこそ心の根本を揺り動かしたでしょうからね。『Crystal Tunes』は?」
 
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「あれはね。KARIONのキャンペーンで博多に行った時、ホテルで書いたんだ。えっと・・・ジパング・ゲートイン・ホテルだったかな」
「それはまた庶民的なホテルチェーンですね」
「当時は予算が無かったからね」
 
「じゃ、一緒に行きましょうよ」と青葉は言った。
「いつ?」
「今から」
「えー!?」
「冬子さん、明日はお仕事ありますよね」
「うん、ある。お昼からだけど」
 
「だから、明日朝の便で東京に戻るようにしましょう。母を呼びます」
と言って青葉はお母さんに電話した。
 
そして言った。
「ちょっと車の中で申し訳無いですけど、横になって下さい。母が来る前に、少しだけ冬子さんの心の扉を開きます」
「あ、うん」
 
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青葉のお母さんの車で、能越道・北陸道を走って18時半に小松空港に着いた。車内で飛行機の予約、ホテルの予約まで済ませておいたので、小松ですぐにチェックイン、セキュリティを通って、青葉とふたりで福岡空港行きANA 319便に乗り込んだ。軽装で来ているので預ける荷物などもなく、スムーズに搭乗することができた。(でも着替えも無い!)
 
今日の青葉は、私たちがこの便に間に合うという所まで読んでいたような気がした。機内では青葉は「今日はパワー消費が激しいのでいったん寝ておきます」
といって熟睡していたので、私もぐっすり寝ていた。
 
21:10着の予定だったが実際には21時半くらいに福岡空港に降りた。地下鉄で博多駅に移動し、駅近くのジパング・ゲートイン・ホテルに行く。部屋は「川上冬子・青葉」という名前でツインを取っておいた。
 
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私はフロントで言ってみた。
「もし可能だったら5階の部屋は空いてませんか?」
「5階でございますか? はい。大丈夫です。それでは523号を」
 
と言って鍵を出してくれた。5年半前にここに泊まった時、5階の部屋だったのである。その時は∴∴ミュージックの三島さんと一緒に泊まっている。さすがに部屋番号までは覚えていない。
 
とりあえず部屋に入った。
 
「当時、どういう状況で書いたんですか?」
「えっとね。大浴場に行ってきたら、その間に和泉が詩を書いていて、上がったところで『これに曲付けて』と言われた」
 
「じゃ、大浴場に行きましょうか」
「うん。でもその前に何か食べようよ」
「ふふふ。それ普通は政子さんの台詞ですよね」
「うん。日帰りで帰ると言ってたから、今頃お腹空かせて、ベッドの上で寝ているんじゃないかと」
 
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「政子さん、外食とかはしないんですか?」
「ランチくらいは食べに行くけど、あまりひとりで外食するのは好きじゃないみたい。いつだったかは、私が広島に来てた時、わざわざ新幹線で広島まで来て、それから一緒にお好み焼き屋さんに行ったからね」
「なるほど」
 
「あ・・・・あの時も、自分の力ではない感じで曲が書けたんだった」
「へー」
 
「その時、和泉と政子の両方から『朝までに曲を書いて』と言われたんだよ。でも政子と深夜の3時頃までお好み焼き屋さんに居て、ホテルに戻ってまあ色々して、政子が寝たのは4時半で。だからそれから朝6時くらいまでの1時間半の間に政子が書いた『蘇る灯』と和泉が書いた『星の海』に曲を付けた」
 
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「どちらも名曲じゃないですか!」
「うん、我ながらあれは凄かった」
 
「冬子さん、明日はお仕事は何時に終わりますか?」
「18時くらいだけど、18時半くらいまでずれ込むかも」
「じゃ、明日広島行きの最終に乗りませんか?」
「あはは」
「政子さんとふたりで来てください、良かったら」
「了解!」
 

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それで取り敢えずホテルの外に何か食べに行った。が、博多駅周辺というのは実にお店が無い。昼間はたくさん開いているものの、夜になるとコンビニくらいしか開いてないのである。結局、私たちは《やよい軒》に入って、しょうが焼き定食を2つ頼んだのだが・・・
 
「済みません。今私お肉食べられないので、このしょうが焼きは冬子さん食べてくれませんか?」
「あ、そうか。ごめんね。でもそしたら、私の御飯・お味噌汁そちらにあげるよ。私、あまりたくさん食べきれないし」
 
ということで、御飯と味噌汁は青葉が2人分食べ、しょうが焼きは私が2人分食べた。
 
「こういう時、政子さんがいたら便利なんですけどね」
「全く。多分今、しゃぶしゃぶでも食べている夢を見ながら寝てるな」
 
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コンビニで替えの下着と「お泊まりセット」を買ってからホテルに戻り、当時の状況をできるだけ再現するため、私ひとりで大浴場に行った。青葉は待機しているということだった。
 
ホテルの構造は5年半前とあまり変わっていない。ただ、以前あったラウンジが無くなり、代わりに女性専用のマッサージサロンや、インターネット・コーナーなどができていた。
 
男湯の暖簾と女湯の暖簾を並べ見て、ふと苦笑する。まだあの頃の私って、このどちらの暖簾をくぐるかというのに迷いがあったよな。今は迷う必要もない。とは言っても、当時既に本当は迷っても仕方の無い身体ではあったんだけどね!
 
服を脱ぎ、浴室に入って身体を洗い、ついでに髪も洗ってから浴槽につかる。時間帯が遅いのでお客さんは5人くらいしか居ない。
 
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考えてみると、あの年はお風呂で色々なことが起きている。1月はKARIONのキャンペーンでこのホテルに泊まり、珠里亜さん・美来子さんと一緒に入浴した。元々相性が悪そうだったふたりを少しでも仲良くさせるために私がふたりをお風呂に誘ったのだが、あれで私と彼女たちは仲良くなることができて、結局珠里亜・美来子でデュオとして2009年に《Ozma Dream》の名前でメジャーデビューを果たし、そんなに売れている訳ではないが、現在でもそこそこの売上を上げている。今ではすっかりふたり仲良くしているようである。
 
2月には、政子たちと一緒に東北の温泉に行った。その時、丸花さんと遭遇してまた歌手デビューを勧められたし、穂津美さんとも再会して、結果的には彼女たちのデビューの後押しをすることにもなった。
 
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9月上旬には、熱海の温泉の女湯の中で偶然雨宮先生と遭遇。結果的にはこれが私と政子がメジャーデビューするきっかけとなった。
 
その約一週間後には、荒間温泉で、リュークガールズの子たちと、一緒に温泉に入ろうとした所を、緊急呼び出しで、結局脱衣場からUターンして、上島先生から『その時』という作品を頂きメジャーデビューが決まったことを告げられたのだった。
 
11月には、ローズ+リリーのライブツアーで訪れた福岡(あの時はファルコンホテル)で、政子と2人で、深夜の大浴場の女湯に入っている。そして、その数日後、今度は修学旅行で訪れた別府のホテルで早朝、目の見えないお婆さんを誘導して女湯に入った。
 
なんとあの年は6回も女湯に入ったのか! と考えると我ながら大胆だなという気もしてくる。あの頃は私のバストもBカップ近くあったから、女湯に入っても全然違和感無かったしね〜。
 
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あの頃のことを考えていたら、つい長湯になってしまった。あがって身体を拭き服を着てから、大浴場を出てエレベータの方に行こうとしていたら、横から
「冬子さん」
と声を掛けられてびっくりする。
 
青葉だった。
「すみません。これに曲を付けてくれませんか?」
「へ?」
 
驚いて受け取り、詩を斜め読みする。『輝く季節』とタイトルが書かれている。
 
「これ、和泉の詩?」
「はい。当時の状況をできるだけ近い感じで再現するには、和泉さんの詩を出した方がいいかなと思ってお電話してみたら『じゃ、これお願い』と言ってメールしてもらったので、それを書き写して来ました」
 
「あはは。了解。朝までに付けるね」
 
と言って一緒に部屋に戻った。
 
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青葉は、私に裸になるよう言った。
 
「ダイレーターは外してますね?」
「うん」
 
「ベッドの上に横になって目を自然に瞑ってください」
「うん」
 
「ゆっくりと呼吸して。30秒くらい吸って、30秒くらい吐く感じ」
 
青葉は部屋の灯りも消した。何だかとても心地良い感じ。私は起きているのか寝ているのかよく分からない雰囲気になっていた。いや、やはり眠ってしまったのだろう。私は青葉に手を引かれて、どこか森の中の小径を歩いていた。
『この道を覚えておいて。もし見失ったりしても、この道を辿れば行けるから』
『うん』とは答えたものの、どうやって覚えればいいんだ!?と思ってしまう。
 
そして青葉が連れて行ってくれた所には豊かな泉が湧いていた。
 
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『美味しそうな水でしょう? 飲んでみるといいです』
 
私は青葉に言われて一口飲んでみる。美味しい!
 
『美味しいでしょ?』
『うん。もっと飲んで良い?』
『たくさん飲んで下さい』
『飲んじゃおう。青葉も飲むといいよ』
『そうですね。じゃもらっちゃおうかな』
 
それで私はその泉の水をたくさん飲んだ。青葉も3回くらい飲んでいた。
 

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朝、爽快に目覚めた。私は裸のままだったが、毛布は着せてもらっている。青葉は隣のベッドですやすや寝ていた。時計を見ると6時だ。9時半の飛行機に乗らなければならないから、そろそろ起きた方がいい。というか青葉がこんな時間まで寝ているのは珍しい。恐らくは私のヒーリングのために物凄いパワーを使ったのであろう。
 
私は服を着てから青葉を起こそうとした時、唐突にメロディーが頭の中に流れてきた。
 
急いで五線紙を出して、《銀の大地》を使って書き留めていく。何?この感覚。それは豊かな水が心の奥の方から自然に流れ出してくるかのような感覚だった。
 
そうだ! 『Crystal Tunes』を書いた時は、こんな感覚だった! 
 
曲を書き終えた頃、青葉が目を覚ました。
 
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「あ、すみません。私ったらぐっすり寝てた」
「青葉、私、書けたよ」
「はい?」
 
青葉は私の手許にある譜面を見た。
「凄くいい曲ですね」
「うん」
「泉が復活したんですね」
「復活したかどうかは分からない。でもこの感覚は久々に感じた」
「その感覚を忘れないようにするために、今日東京に戻るまでにこれに曲を付けてみましょう」
 
と言って青葉はもう1篇、詩を書いた紙を取りだして私に渡した。
 
「ぶっ。これは政子の詩か!」
「はい。頑張りましょう」
 
「青葉は富山に帰るの?」
「いえ。広島に直行します。夕方お待ちしてます」
「うん。それじゃ、朝ご飯だけ一緒に食べよう」
「ええ」
 

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1階のレストランに行き、バイキング式の朝ご飯を食べる。御飯を食べながら、私は東京行き9時半の飛行機を予約し、青葉は広島行きの新幹線を予約していた。
 
「この件、私青葉にいくら払えばいい?」
「じゃ経費込みで1000万円で」
「了解」
 
「驚かないんですか? 私がこんな金額要求するのはとてもレアです」
「ううん。1億円でも払う価値がある気がしたから」
「ああ。じゃ3000万くらい言っておけば良かったかな」
「青葉も結構気が弱いね」
「えへへ」
 
「ところでさ。さっき渡された詩には私が飛行機の中で曲を付けるけどさ」
「はい」
「青葉、ちょっと頼まれてくれない?」
「なんですか?」
「これにちょっと曲を付けてくれないかなあ」
「へ?」
 
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私は政子が書いた詩のコピーを6枚渡した。
 
「スイート・ヴァニラズのEliseがさぁ、妊娠したら詩が書けなくなったと言うんだよ。それで、政子の詩を6個提供しますから、それにLondaさんに曲を付けてもらってくださいと言ったらね、LondaはEliseの詩にしか曲を付けきれないと言うんだな。それで代わりに政子の詩に私が曲を付けてくれないかと頼まれたんだけど、私とても余裕が無いんだよね。それで11月いっぱいまででいいから、この詩6篇に青葉が曲を付けてくれないかと」
 
「私が書いていいんですか?」
「他の人でできることはどんどん投げた方がいいと青葉は言ったよね」
「あはは、確かに」
 
「『遠すぎる一歩』はよく出来てたよ。まあ下請けに出すということで」
「じゃ、クレジットはマリ&ケイのままで?」
 
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「ううん。マリ&ケイ+リーフにするよ。で印税は、作曲印税を丸ごと青葉にあげるから。まあスイート・ヴァニラズのアルバムはだいたい15万枚くらいは売れるから、10万枚売れたとして作曲印税は6曲で360万円くらいかな」
「あはははは・・・」
 
私は青葉が焦っている顔を初めて見たような気がした。
 
 
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■夏の日の想い出・4年生の秋(8)

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