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■夏の日の想い出・4年生の秋(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-07-20  
そういう訳で、その日は夕食もひとりで取り、部屋に戻って少し仮眠を取ったあと約束通り、今日政子が書いた詩に曲を付ける。実際には政子が詩を書いていた時に頭の中でだいたいモチーフは浮かんでいたので、それをベースに曲を書いていった。
 
翌朝、朝食を取った後、政子から連絡があったので、ホテルまで車で迎えに行く。松山君も一緒だった。
 
「僕もこちらに乗せてもらっていい?」
「どうぞ、どうぞ」
 
ということで、後部座席に松山君と政子を乗せてリバプールに向かう。結局、松山君たちは今日リバプールのビートルズの足跡を巡るマジカル・ミステリー・ツアー(ビートルズの同名アルバムに引っかけたバスツアー)に参加するということだったので、私たち2人も一緒にそのツアーに参加することで松山君たちのツアーのガイドさんと話を付けてくれていた。料金は政子のカードで決済済みである。
 
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「私、こういうの慣れてるから、キスとかしてもいいからね〜。見ない振りするから」
と後ろに声を掛けておいたが
 
「いや、僕たちそういう関係じゃないから」
 
などと松山君は言っている。多分、政子の方が現時点で「恋人」になるのを拒否したのではないかという気がした。一応政子には現在別の「恋人」が存在する。政子は基本的には二股はしない主義である。
 
でもふたりがわざわざ身を寄せて楽しそうにしているのを見ると微笑ましい気分だ。私ってホントに政子が男の子と仲良くしてても嫉妬しないんだなと改めて思った。
 

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リバプールでアルバートドックの近くの駐車場に駐め、ツアー一行と合流する。松山君のお友だち、長江君と鹿島君と松山君がハイタッチしている。私は政子と松山君を二人にするため、長江君たちに近づき、彼らと一緒にツアーを回ることにした。
 
「へー。高校の時の同級生なんですか?」
「そうなんですよ。1年くらい前に偶然博多で再会してから、連絡取るようになったみたいですけど、なかなか進展してない感じなんで、そばでやきもきして見てます」
「いや、俺たちも松山にそんな人がいるとは全然気付かなかった」
 
「ところで、あなたは恋人は?」
「一応居ます。向こうのお母さんとも会ってますし」
「そうか。残念!」
 
「同じ工学部のお友だちなんですか?」
「そうそう。一応全員就職先は内定もらってるんで、卒業旅行に行こうという話になったんですよ。三人とも彼女居ないし、ということだったのに」
「あはは」
「示し合わせてこちらで会えるようにしたのかな?」
 
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「どうなんでしょうね? 私もその付近はよく分からないけど。今回の旅は先週突然決めたんですよ」
「あ、俺たちが旅の行程表をもらったのが10日くらい前ですよ」
「何だかあやしいですね〜」
 
「そちらは何学部?」
「あ、文学部。英文科です」
「おお! それなら、今日のツアーは頼りになる」
「なんかマジカル・ミステリー・ツアーのガイドさんの英語が凄く聞き取りにくいという話だったから」
「へー」
 
バスに乗ってみると、実際のガイドの人の案内はけっこうゆっくり話してくれる感じで、多少訛りはあるものの、個人的には割と聞きやすい方だと思ったのだが、日本人のツアー客にはちゃんと聞き取れない人も多いみたいであった。「今なんて言いました?」と長江君たちに聞かれて、私が解説してあげたりした。
 
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ただガイドさんはしばしば通過しながら「あれがジョンの家です」などと言ったりするので写真が撮れない!というのはあった。また車窓の反対側に見えるものはどうにもならなかった。2時間で名所回りするだけあって全体的に慌ただしいツアーなので、完璧に写真を撮るには2度乗るか、あるいは後で個人的にフォローしないといかんなという気もした。
 
ジョージの生家(George Harrison's birthplace)、ペニーレイン(Penny Lane), ストロベリーフィールド(Strawberry Field)、ポールの子供の頃の家
(Paul McCartney's childhood home) で下車して記念写真を撮る。ジョージの家までは結構歩いた。ストロベリーフィールドの孤児院は2005年に閉鎖されたらしい。ペニーレインは歌詞に出てくるラウンドアバウトも床屋さんも素通りして、随分離れた所にある「Penny Lane」と書かれた看板の前での記念撮影だった。最後はビートルズが初期の頃出演していたキャバーンクラブ
(Cavern Club)前で解散となる。
 
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密度の濃いツアーだったが、ちょっと消化不良気味だね〜、などと言い合っていたら、日本人の初老のご夫婦が話しかけてきて「もしゆっくりと見たいなら、Fab Four Taxi Tour というのもあるよ」と教えてくれた。ご夫婦は前回来た時にはタクシーに乗ったらしいが、今回はあまり時間がないので短時間で雰囲気を味わえるバスツアーにしたらしい。
 
私たちは御礼を言ってから松山君たちのツアーのガイドの人に相談すると、ガイドの人が2台呼んでくれたので、私と長江君・鹿島君、政子と松山君という組合せで乗り込み、ゆっくり見られなかったペニーレインのラウンドアバウトとシェルター、床屋さん (Tony Slavin's barber shop)、ジョンの家、リンゴの家、セント・ピーターズ教会、エンプレス・パブ、などなど、見て回る。政子たちとは途中で別々になってしまった。向こうは向こうで楽しんでいるだろう。
 
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夕方、インフォメーションの所で落ち合う。タクシー代はこちらは私が払った。長江君たちも少し出すと言ったのだが、こういう時はお金のありそうな人に払わせておくもんだよと言っておいた。政子たちの方も政子が払ったらしい。
 
「マーサ、何なら明日そのまま松山君たちに付いてエディンバラに行く?」
「ううん。今回の旅の目的はシェイクスピアだから、私グローブ座見なきゃ」
 
ということで彼らと別れることにする。私は長江君、鹿島君、そして松山君とも握手をした。政子も握手をしていたが
 
「キスしちゃえよ」
と唆す。長江君たちまで「そうだ、そうだ」
と言うので、結局ふたりは頬にキスした。全くふたりとも純情だ!
 
そして彼らはツアーバスに乗り込みエディンバラへ。私たちはレンタカーでロンドンへと戻った。
 
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ヒースロー空港で車を返し、鉄道でロンドン市内に入り、ホテルにチェックインした。
 

夕食の間、政子は調子がいいようで、松山君とのことを楽しそうに語っていた。
 
タクシーツアーでは、政子の英語の発音が酷くて運転手さんにちゃんと通じず、松山君はあまり英語自体得意ではないので、変な所に行って「Where are we?」
状態になって、途中からはもう運転手さんお任せであちこちに連れて行ってもらったと言っていた。
 
「卒論書くためというのでなくて純粋な観光なら、もう少し長めに滞在しても良かったかなあ」
「そうだね。次来る時は、スコットランドの方まで足を伸ばせるといいよね。今回バグパイプの演奏とか見られなかったし」
「男の人のスカート姿ってのもいいよね」
「マーサ、やっぱり趣味が変だよ」
 
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「そうかな。ローズ+リリーのイギリス公演なんてのは?」
「うーん。今の段階では無理だなあ。ヨーロッパではそんなに売れてないよ。私たちの歌」
「そっかー」
「全然プロモーションもしてないしね」
「確かにね〜。全編英語の歌のアルバムなんて出す?」
 
「制作費用を回収できない気がする」
「うーん・・・」
 
その夜はお互い疲れがたまっていたこともあり、セックスもせずに熟睡した。
 

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翌日はグローブ座を見に行く。最初の計画では、ストラトフォード・アポン・エイヴォンの翌日、9月18日にグローブ座に行こうかと思ったのだが、18日の出し物は「The Lightning Child」といって、ギリシャの古代劇(エウリピデスの『バッカスの女信者たち(Bacchae)』)を現代風にアレンジしたものであった。「女装あり」とか「Ladyboy」などという売り口上に政子が興味を示したものの、やはりどうせならシェイクスピアの作品を見たいというので19日の『夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)』を観て帰ろうということにしていた。
 
しかしそのお陰で18日にリバプールに行くことができたことになる。
 
その日の午前中は朝、ピカデリーのフォートナム&メイソン本店に寄ってお土産を買った後、グローブ座の劇場内の見学ツアーに参加した。
 
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劇場内のレストランでお昼を食べてから観劇する。グローブ座では、シェイクスピアの時代同様に、出演者が全員男性などという劇も上演したりするのだが、今回の『夏の夜の夢』の場合は、女性の役は女性の役者さんが演じていた。
 
「冬は、女役の役者さんになりたいとか思ったことはない?」
「それは結構思ってた。堂々と女の子の服が着られるから」
「でも実は、普段も堂々と女の子の服を着てたんだったりして」
「うーん。。。それ奈緒に指摘された」
「あはは」
 
「そういえば小学校の学芸会で魔女の役をしたとか言ってたっけ?」
「うん。5年生の時だけど。眠り姫に呪いを掛ける魔女の役をした」
「他には?」
「えっと・・・・『ライオンと魔女』の白い魔女を・・・中2の時」
「ふみふみ。他には?」
「自分では記憶無いけど、幼稚園の時に白雪姫の母親役をしたらしい」
「なるほどね〜」
 
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私たちが観るのは14時からのマチネ(昼公演)である。帰りを明日朝の便にしたから夜公演も観られないことはないが、22時か23時まで劇を観てからホテルに戻り、朝4時にホテルを出発するというのは辛すぎるのでマチネの選択となった。なお、シェイクスピアの時代のお芝居は基本的に日中行われていた。
 
劇は素晴らしかった。私たちは屋根のある席に座って観たが、舞台やその周囲の立見席は青天井である。万一雨が降ったら濡れる。このあたりもシェイクスピアの時代の劇場の雰囲気を再現しているのだという(このグローブ座は1997年に再建されたもの。場所は元の場所から200mほど離れた所)。観客はその土間の立見席いっぱいになっていた。あそこで観るのが「通」の観方でもある。
 
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よく訓練を積んだ役者さんたちが演じているという感じだ。台詞については元々原作の台詞を全部そらで言える程度に頭に入っているので、原作の名台詞も、アレンジされている所も充分に楽しめた。
 
ここではむろんマイクなどは使用しない。役者さんは肉声で会場全体に声を響き渉らせる。その声の通りもいいし、身体を使っての表現もしっかりしている。その熱の籠もった演技に観客の反応も良い。
 
日本だと演劇でもコンサートでも、全般的に観客がおとなしいが、ヨーロッパのスタイルは随時歓声や拍手が入る。ステージがお約束事に沿って進むのではなく、マジで感激したら素直にそれを表現するという雰囲気があった。やはりこういうのは見習うべき所かもと思う。日本では酷いステージでも観客は黙って出て行くがヨーロッパだと出来が悪いと即ブーイングだとも聞いたことがある。
 
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17時頃終わった後、18時からのロンドン大学の先生による解説も見た。私たちはマチネを観てからこの解説を聞いたのだが、解説を聞いた後、夜公演を観る人たちも多いようである。
 
19時頃終わってから、夕方のロンドンの街でのんびりと食事をしてホテルに戻った。今回の旅はストラトフォード・アポン・エイヴォンで2連泊、ロンドンで2連泊である。
 

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政子は夕食の間、今観た『夏の夜の夢』のことや、この3日間の想い出を楽しそうに話していた。
 
「ところで、松山君とは、したの?」
「したけど・・・いけなかったかな?」
「ううん。いいと思うよ。私が煽った感もあるし」
「・・・3月に東京で会った時には自分には交際中の恋人がいるからセックスはできないからと言ってフェラしたんだけどね」
「フェラするってのは事実上セックスしたも同然だと思う」
 
「だよねぇ。それが自分でも何だか引っかかってたから、今回はちゃんとした」
「スッキリしたでしょ?」
「うん。ちゃんと自分と貴昭との関係を考えることができるようになった」
「じゃ、恋人になるの?」
 
「恋人にはならないということで同意した」
「なればいいのに」
 
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「まだ・・・彼とは友だちでいたいの。しちゃったのに、ダメかな?」
「しちゃうことのあるお友だちってのもあるよね」
「ああ、そんなこと、私と冬、高校時代に随分言ってたね」
 
そんなことを言ってから政子はしばらく何か遠くを見つめるような仕草をしていた。そして言った。
 
「To be or not to be」
 
私は答えた。
「Let it be」
 
政子が吹き出した。
「そうだね。あるがままを受け入れればいいのかな」
 
「物事ってなるようになるよ。でも、松山君との関係を友だちということにしていて、彼に恋人出来ちゃったらどうする?」
「私も恋人いるし、大きなこと言えないよ」
「我慢できるの?」
「分からない・・・・嫉妬で狂うかも。オフェーリアのように」
 
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「でもパックみたいなのが出てきて全て解決したりしてね」
「そうだなあ。パックは好きだな。パックが居るとしたら、もしかして私と冬の子供かもね」
 
「ああ、そういうこともあるかもね」と私は言った。
「ね、冬、私に隠れて子供産んでたりしないよね?」と政子。
「私は産めないよ〜。マーサこそ、隠し子してないよね?」
「隠し子か・・・それもいいな」
 
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■夏の日の想い出・4年生の秋(5)

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