広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・多忙な女子高生(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-11-02  
2008年の夏。ボクはとても多忙であった。
 
この年、高校2年生で、補習は7月に2週間、8月にも1週間行われることになっていた。8月が少ないのは、この時期は予備校の夏期講座なども行われるのでそちらに行く人も多いことを配慮したものである。
 
取り敢えず夏休みに突入するのと同時に補習が始まるので、夏休み自体が存在していない感覚であった。ただ補習は学校の授業ではないということで服装も自由なので、みんな結構リラックスした服装で出てきている子もいた。ボクも普段のワイシャツに黒い学生ズボンではなく、カットソーにショートパンツのような、やや中性的な服装で出て行っていた。
 
「あのさあ、どうせなら、スカートとか穿いておいでよ」
「バイトには女子制服で行くんでしょ?学校でも女子制服でいればいいのに」
 
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などと奈緒や詩津紅など、ボクの性癖を知っている子たちには言われたのだがボクは当時ほとんどの同級生たちに自分の性的志向をカムアウトしていなかったので、その程度の服装にとどめていたのである。
 
彼女たちに言われたように、ボクはこの時期レコーディングスタジオでバイトをしていて、そちらには学校の女子制服を着て行っていた。
 
その補習第一日目、講義が終わってから書道部に集まったのがみんな2年生の女子だったので「今日は書道はせずに、町で遊ぼう!」ということになってしまう。つくづく書道をしない書道部である。
 
それで町に出て安い洋服などを物色した後、ハンバーガー屋さんに行ってしばしおしゃべりをする。政子は自分が今買ったばかりの可愛いパーカーとスカートをボクに着せようとして、しばらく攻防した末、妥協してパーカーは着たもののスカートは拒否していた。
 
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「ねえ、スカート穿こうよぉ、可愛いよ」
「いや、いいから」
 
やがてメンバーが1人帰り、2人帰りして、ボクと政子だけになり、ちょっと図書館にでも寄ってから帰ろうか、などと言っていた時、花見さんがやってきた。
 
ボクは遠慮しようと思ったのだが、政子が居て欲しいというので結局政子と花見さんのデートに同席などという居心地の悪いことを体験することになる。
 
花見さんは政子をイベント設営のバイトに誘った。目的の半分は、現地まで車で行くことになるので、その途中、政子とふたりきりになったのをいいことに、少しHなことをしたいという雰囲気だったのだが、政子はそれを嫌って、車で行く時はボクを同乗させて欲しいと言った。
 
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恋人同士が乗っている車に同乗するなんて、ほんとに勘弁して欲しい役割だが、政子は花見さんに変なことをされないように、ストッパーとしてボクを連れていきたがっていた。そこでボクは政子に同行することを同意し、花見さんもボクの同乗を渋々了承した。
 
そうしてボクは△△社での設営のバイトをすることになった。(ただし原則として車で行くような遠隔地限定!)
 

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ボクはこの件でレコーディングスタジオの上司である麻布さんに連絡した。
 
「済みません。どうにも断れない義理で、イベントの設営のバイトをすることになってしまって。多分土日がそちらに取られてしまうと思うんです。夏休みだけということなんですけどね」
「平日はどう?」
「今月いっぱいはずっと補習がありますが、その後夕方からならお邪魔できると思います」
「うん。じゃ平日はできるだけこちらでお願いできる?」
「はい」
「平日に出てきてくれるんなら土日は休んでも大丈夫だよ。なんか最近ちょっと仕事が減ってるしね」
「不況なんでしょうかね」
 
「だよね。でもどこの会社?」
「△△社というところなんですが」
「ああ。○○プロ系の会社だね。社長の津田さんは、○○プロの実質的な経営者・浦中部長の友人の弟なんだよ。資本的な関係は無いけどね」
「へー」
 
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「規模が小さい割に、けっこう多数のアーティスト抱えていて、毎年何組かメジャーデビューもさせてるけど、いまだに当たったことがない」
「まあ、そう簡単に当たるもんじゃないですしね」
 
「ほんとほんと。でもヤ○ザとかには関わってないから大丈夫だよ。健全な会社だね」
「そちら方面とは関わりたくないです」
「それは僕も同感。この世界どうかすると、ヤ○ザそのものなんて芸能プロもあるからね」
「怖いですね〜」
 

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結局その週は、補習が終わった後、火曜日は政子・花見さんと一緒に△△社に行って挨拶をした後、そのまま都内のデパートでのミニライブの設営をし、水曜日はまた都内の設営だったが、政子だけそちらに行き、ボクはスタジオの方に顔を出した。
 
木曜日は横浜のデパートでのミニライブで政子と一緒に設営に行き、金曜日は都内の設営で政子だけが行って、ボクはスタジオに行った。
 
土日は大宮と千葉で設営があり、花見さんの車で往復したが、日中の作業だったので、ボクは夕方からスタジオに顔を出した。
 
翌週はずっと都内での仕事だったので、政子だけが行き、ボクは連日スタジオに顔を出した。この時期、サウザンズの音源制作中で、ボクはサウザンズの人たちに気に入られてしまっていたので、楽器のチューニングや楽譜の清書などの作業を担当していた。
 
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そして次の週末。土曜日は甲府まで花見さんの車で往復した後、日曜日は花見さんが休みだったものの、他に動けるスタッフがいないということで頼まれ、ボクと政子は宇都宮まで電車で出かけて設営作業をした。
 
ところがその日、ボクと政子の運命は変わってしまったのであった。
 

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その日、出演する予定だった女性デュオ、リリーフラワーズがトンヅラしてしまったため、ボクと政子は急遽その代理をやらされることになった。女性デュオの代役ということで、ボクは女装させられてしまう。それまで何度かボクの女装を見たことのあった政子はとても楽しそうにボクを見ていた。
 
ライブが終わった後、須藤さんは
 
「冬ちゃん、そんな女の子みたいな声が出るんだ!」
「急増ペアの即興演奏とは思えない、凄い良い出来だったよ」
 
とボクたちをベタ褒めする。そしてボクたちは《ローズ+リリー》というユニット名も付いて、失踪したリリーフラワーズの代わりに8月中、関東で5ヶ所、大阪で2ヶ所のライブをこなすことになった。
 
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「いや、参りました」
と「突然のデビュー」の翌日夕方、ボクはいつものスタジオに行って、有咲と麻布さんに昨日の顛末を語った。
 
「ああ、そういう話は稀に良くある」と麻布さんは笑っている。
「ひどい話さ、デビュー直前のバンドでギターの奴がレコーディング当日に来なくてさ」
「はい」
「たまたま通りかかったギタリスト捕まえて、ちょっと代わりに弾いてっていって」
「そのままメンバーになっちゃったとか」
「そうそう」
「きゃー」
 
「冬も、このままメジャーデビューしたりして」と有咲。
「まさかあ。今月いっぱいの限定ユニットだよ」
とボクは言うが、
 
「でも、いい体験じゃん。それにしても君は代役の天才だね」
と麻布さんは笑っていた。
 
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「ところで先生、先月分のお給料が金曜日に入ってなかったんですが」
と有咲が言う。
「そうそう。ボクも困っちゃってね。5月にもこんなことあったね。実は7月に出るはずだったボーナスも8月に払いますって話なんだけど、本当に出るのかスタッフも疑心暗鬼になっている。資金繰りの予定がくるったけど、給料は数日中には払うと社長は言ってたんだけど」
 
「スタジオ利用代金の不払い・払い遅れが多発しているみたいですね」
「うん。経営の行き詰まったところもあったしね」
「最近やはり音楽業界も不況だからでしょうかね」
 
「うん。最近ミリオンヒットってのも、なかなか出なくなってるよね。昨年は結局ミリオン売ったのは、秋川雅史『千の風になって』のみ。一昨年もKAT-TUNの『Real Face』のみ。今年はまだ誰もミリオンを達成していない」
「原因は何でしょう?」
 
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「ズバリ、スーパースター不在だよ」
「ああ」
「違法ダウンロードが原因だとか騒いでいる奴は本質を見てない。魅力的な商品があれば消費者は買うんだよ」
「でしょうね」
 
麻布さんの言う「商品」とはそのスターのことである。
 
「今、スーパースターになる可能性のある新人アーティストとかいませんかね?」
「Perfumeがちょっと面白いと思ってるんだけどね・・・・セールス的には微妙かな。あとAKB48は意外に化けるかも知れん」
「あ、私、『会いたかった』は好き」と有咲。
「うん。いい曲だよね。地下アイドルにしては意外に歌唱力がある。特にトップクラスの子たちは」
 
地下アイドルというのは表だって宣伝をしない、固定ファンと口コミに支えられたアイドルのことで、数年後のリュークガールズなどは完全に地下アイドルになった。AKB48はこの頃までは地下アイドルだったのだが、その後、メジャーなアイドルに変身していく。
 
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「冬たちのKARIONはどうですか?」と有咲。
「うーん。。。」と言って麻布さんは言葉を選ぶような仕草を見せた。
「ここだけの話さ、楽曲提供者が変われば可能性がある」
「えーっと・・・・」
「あの子たちはいい素材だよ。でも渡されている曲が合ってない。作詞者も作曲者も彼女たちの才能や性向を理解していない。でもこんなこと余所では言わないでよ」
と麻布さん。
 
「でもさ、唐本ちゃん、なんでKARIONに正式加入しないのさ?」
「えー、ちょっと色々事情がありまして」
 
「KARIONって『四個で1組の鐘』という意味でしょ? 畠山さんは君の参加を期待してそういう名前を付けたんだと思うね」
と麻布さんは言う。
 
「そうですね」
 
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この時期、ボクはKARIONの音源制作では、毎回キーボード奏者・兼コーラス・兼エンジニア助手として参加していた。KARIONは基本的にメンバーの3人+コーラス3人の歌で音作りをしている。コーラス隊は毎回違うメンツなのだが、ボクはこれまで4回(シングル3回・アルバム1回)の音源制作の全部でコーラス隊として参加していた。但しライブには1度も出て行っていない。
 

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ボクはローズ+リリーの活動の件に関して、畠山さんの所にもこちらから事務所に赴いて状況を説明して詫びた。
 
「済みません。成り行きで今月いっぱい、歌唱ユニットとして活動することになっちゃいまして」
「うーん。。。。そちらとは契約とかしたの?」
「口約束だけで契約書みたいなのは交わしてません」
「口約束か・・・うーん。微妙だな。口約束でも一応契約の一種だよ」
「ごめんなさい。でも、今月いっぱいの限定ユニットの予定ですし」
 
「しかし、君が歌ったら、きっと人気が出て、今月いっぱいでは終わらない気がするなあ」
 
「えー? そんなに売れるとは思えませんし。そもそもCDさえ無いですし」
「CDなんて作るつもりになったら、1日で出来る」
「そうかも知れませんが・・・」
 
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「去年、リハ歌手してもらった時に、芸能契約しとけば良かったなあ・・・。ね、ね、でもさ。歌手活動する気になったんだったらさ、もしそちらのユニットが予定通り、今月で終了したら、うちと契約してよ。KARIONに加入でもいいし、あるいはソロで売ってもいいから」
 
ボクはここまで暖かい言葉を掛けられると「あのこと」を畠山さんにはちゃんと言わなければダメだと思った。
 
「社長、内密にお話ししたいことがあるのですが」
「うん? じゃ、ちょっと会議室に行こうか?」
 
それまでボクは事務所の大部屋奥にある社長デスクの前で話していたのだが、ふたりで会議室に入った。
 

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「なんだろう?」
 
事務の女の子が2人分のコーヒーを持って来てくれてから畠山さんは訊く。
 
「実は私がKARIONに参加出来ない理由です」
「うん?」
 
「実は私、女の子じゃないからなんです」
「は?」
 
「私、戸籍上では、唐本冬彦って名前で、男性として登録されてるんですよね」
 
「えーーーーー!!!??」
と畠山さんは事務所いっぱいに響き渡るような声を出した。
 
「ですから、私が KARION に参加していた場合、メジャーデビューとかすればメンバーの個人情報なんて絶対調べられるでしょう」
「うん・・・」
「それで私が男の子と分かったら、大騒動になって KARION の3人にも社長にもご迷惑お掛けすると思ったんです」
 
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「うーん・・・って、君ホントに男の子なの?」
「ええ」
 
と言って、ボクは生徒手帳と健康保険証を出してみせた。
 
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