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■夏の日の想い出・多忙な女子高生(7)
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タイトル曲の『秋風のサイクリング』は、「KARIONに歌わせたい歌詞コンテスト」
なるものを開き、その応募作品の中から、事務所側で比較的優秀と思ったものを公開し、その中でファン投票をして、1位の作品を選んだ。そしてその作品に賞金10万円を贈呈するとともに、今回のCDのタイトル曲にしたのである。(作詞印税は賞金とは別にちゃんと支払う)
作者は「ペンネーム・櫛紀香」とあり、詩の内容も凄く女子高生っぽい雰囲気だったので、多くの投票者が現役女子高生なのだろうと思っていたようだが、実は現役男子中学生だった。「櫛紀香 kusi norika」は、結構気付いた人も多かったのだが karion suki のアナグラムである。
この曲の作曲は、KARIONのバックバンドとして固まってきたメンバーで名乗ることにした travelling bells のリーダー TAKAOが行った。
(なお、公開した作品は全て次のアルバムに収録することにした)
そして、カップリング曲『水色のラブレター』には森之和泉作詞・水沢歌月作曲というクレジットが付けられていた。この内「森之和泉」に関しては KARIONの いづみ のペンネームであることが明らかにされたが、水沢歌月については情報非公開ということにされた。
非公開というのはけっこう憶測を呼び、KARIONの残りの2人、みそら・こかぜの共同ペンネームでは?あるいはKARION 3人の共同ペンネームでは?とか、誰か有名作曲家の覆面ではとか、身分が明かせないとんでもない人(例えば政治家・皇族・裁判官・犯罪者!)なのではなどと、実に様々な説が飛び交っていたようである。
2chにも「KARION-水沢歌月とはだれか?」というスレッドが生まれることになるが、このスレッドでは1年ほど議論をしたあげく「葉村彰子」「東堂いづみ」
などと同様の作曲家集団の代表ペンネームではなかろうかという意見に集約されていく。それはその後この「水沢歌月」の名前で公表されていく曲には実に様々な傾向・作りの曲があり、とても同じ人が書いているとは思えないというのがあった。
(2chのスレッドでは、上島先生やボク自身も水沢歌月の候補にあげられていたが、多少の議論の末、該当せずとされていた)
なお、このシングルのもうひとつのカップリング曲『嘘くらべ』は、この時点では全く無名であった作詞家・福留彰(ふくどめしょう)の作品に タイトル曲と同様 TAKAO が曲を付けたものである。畠山さんが偶然福留さんの自主制作CD(自分で作曲もしギター1本の伴奏で自分で歌ったもの)を見かけて、その歌詞の感性がKARIONに合ってると思い、実際に会って話をし、楽曲提供契約を結んだものである。なお、福留彰は∴∴ミュージックと契約したことで、その後、青島リンナなどにも作品を提供している。
今回の KARION のシングルは「歌詞コンテスト」によって事前周知がうまく行ったこともあり、CD/DLの合計セールスが KARION のシングルとしては初めて5万枚を越え、また個別のダウンロードでも、『秋風のサイクリング』8万件、『水色のラブレター』12万件、『嘘くらべ』6万件、と、各曲の単独ダウンロード件数が全て丸ごとの販売数を越えるという、面白い(レコード会社としては悩んでしまう)現象が起きていた。
KARIONの新しいシングルがひじょうに好調な売り上げをあげているということで、★★レコードは 今回のシングルの楽曲提供者にも会っておきたいという話が来る。
「櫛紀香」のペンネームを使っていた福島県田村市在住の男子中学生は10月26日の日曜に母親に付き添われて上京してきて、豪華なステーキ屋さんで食事をしながら歓談し本人たちも、にこやかな表情であったらしい。
いづみは何度も、加藤課長や町添部長に会っている。 TAKAOは会っていなかったので、金曜日に★★レコードを訪れ、部長たちと対談したらしい。福留彰もやはり金曜日に会ったらしい。
そして「水沢歌月」に関しては、畠山さんが「微妙な問題があるので」情報を知る人をできるだけ少なくしたいという申し入れを直接町添さんにした。そこで、月曜日の夕方、畠山さん、KARIONのいづみ(森之和泉)、水沢歌月、そして町添さんの4人だけで、都内某所の料亭で会うことになった。
その日ボクは午後の補習を急用で休みますと言って欠席する。一方親には先月までしていたスタジオのバイトの上司の人から食事に誘われているので行ってくるし遅くなる、というのを朝の内に母に言っておいた。(実際には麻布さんは既にアメリカに行っている。突然「NYなう」というメールが来て、ボクも有咲もびっくりしたのである)
そして6時間目が終わると女子制服(冬服)に着替え、電車で都心に出た後、タクシーに乗り指定の料亭に入った。上品な和服を着た仲居さんに案内されて部屋まで行く。これがボクにとっては料亭初体験となった。
「失礼します」と言って中に入る。
既に畠山さん、和泉、町添さんは来ていた。
和泉が手を振る。畠山さんが笑顔で迎えてくれる。しかし町添さんはポカーンとしていた。
「おはようございます。水沢歌月です」
とボクは笑顔で挨拶して座る。
「えーーーーー!?」
と町添さんが本当に驚いたような声をあげた。
「君、ケイちゃんだよね?」
「はい」
とボクは笑顔で返事する。
「まさか、二重契約??」
「いえ。私は∴∴ミュージックさんとは契約していません」
「それにしても△△社との専属契約があるでしょ?」
「それが3つの理由で可能だったんです」
とボクは説明した。
「まず△△社との歌手契約は9月1日から始まることになっていたんです。それまでは私はたただの△△社の設営アルバイトでした」
「あ・・・それは聞いたような」
「それで今回のシングル制作で私が担当した部分は全て8月中にやってしまっていて、9月以降はレコーディングスタジオのエンジニア助手としてしか関わっていません」
「エンジニア助手??」
「私、高校1年の春からレコーディングスタジオでバイトしていたんです」
「へー」
「そしてそのスタジオで偶然KARIONは毎回レコーディングをしているんです」
「なるほど。いくらアーティスト専属契約してても、録音エンジニアは関係無いね」
「第2の理由ですが、これが私の専属契約書です」
と言って書類を町添さんに見せる。
「この契約書は歌手としての活動に関する専属事項しか書かれていないんですよね。ですから、作詞作曲編曲などの作業はこの契約書に拘束されません」
「ほんとだ。多分そういう活動をすることを想定してなかったんだろうな」
「この契約書、歌を歌うのでなければ、楽器弾いてもいいのではなかろうか、などとも話していたのですが、部長はどう思われますか?」
「うーん。。。微妙かな。あれ?この契約書はローズ+リリーの名前では勝手に活動してはいけないとしか書いてないね」
と町添さん。
「そうなんですよね〜。だから違う名前でなら何でもし放題かも知れないです」
「ああ。。。それは実際そういう形で複数の名義を使い分けて活動している人はいるよ。特に作曲家には」
「ええ。でも今は取り敢えず、そこまでは控えておきます」
「しかしこの契約書は穴だらけだな。なんでこんな契約書になってるんだ?」
と町添さん。
「元々期間限定のユニットの予定だったから、適当だったのではないかと。リリーフラワーズというユニットのスケジュールの穴を埋めるための臨時編成ユニットの予定だったので、元々決まっていたスケジュールを消化したあとは特に営業したりもせず、どこかから声が掛かったら出ていく、程度の雰囲気でしたので。最初から大々的に売り出すみたいな話だったら、私も∴∴ミュージックさんとの関係があるからお断りしていました」
「ああ・・・」
「そして最大の問題なのですが」
「うん」
「この契約書には私の両親の署名捺印がありません」
「何!?」
と町添さんは叫んですぐに
「じゃ、この契約書、そもそも無効じゃん!」
と言った。
「そうなんですよね〜。それで私もマリも実はそれぞれ別の理由で、どうしても親の承諾が得られない状況にあるのですよ。まあそのそもそも私が芸能活動について親の承諾が得られない状況だったからこそ、∴∴ミュージックさんとも契約をしていなかった訳で」
「あぁ・・・・」
「それでローズ+リリーの芸能契約は、親の署名捺印を求めないまま、作業が途中で止まっているんです」
「うーん・・・」
「それに実は私、もともとKARIONの4人目のメンバーなんです」
「へ?」
それについては和泉が説明する。
「KARION結成の時に、私、ケイを誘ったのですけど、ある事情で自分が参加したら絶対に迷惑掛けるから、遠慮させてと言うものですから」
「その問題プラス親の承認問題だけどね」とボク。
「でも私にしても畠山社長にしても、ケイというか「らんこ」(蘭子)とこちらでは呼んでるんですが、らんこ も KARION のひとりという意識があったので、それゆえに KARION という名前を決めました。カリオンって、4個セットの鐘という意味なんです」
と和泉。
「なんと・・・」
「私たちの名前が《いづみ・みそら》は尻取りになってるけど《こかぜ》は他とつながってない、なんて言う人もありましたが、実は《らんこ・こかぜ》というつながりで4人つながってるんですよね」
「おぉ!」
「ですから私はKARIONのこれまでの全てのレコーディングに参加してます」とボク。
「うっそー!?」
「KARIONのコーラス隊は不定で、毎回違うメンツでレコーディングしているのですが、らんこ は必ずコーラス隊に入っています」と和泉。
「へー」
「それと KARIONのバックバンドの正キーボード奏者も らんこ です」
「ほほぉ。そういえば travelling bells にはキーボードがいないもんなあ」
「ええ。ギター、ベース、ドラムス、グロッケン、サックス、トランペットですから。世間的にはグロッケンがキーボード代わりなのだろうと思われているようですが」
と和泉。
「うんうん。ボクもそう思ってた」
「そういう訳で私はKARIONには深く関わっていたのですが、ちょっと私の個人的な事情と、それから親がどう考えても芸能活動を認めてくれるとは思えないというのがあって、∴∴ミュージックさんとは、正式な契約を結ばないままやってきたのですが、ローズ+リリーの方は、ちょっと成り行きで、契約書にサインすることになっちゃって」
とボクは状況を説明する。
「ああ」
「元々8月いっぱいの限定ユニットという話だったので、まあ仕方無いかなと思っていたのですが、あれよあれよという間に活動期間が延長になり、メジャーデビューということになって、私自身、どうしよう?という感じでした」
「でも僕は君とマリちゃんのペアをメジャーに欲しい」
と町添さん。
「ありがとうございます」
「私もね、ローズ+リリーの音聞きましたけど、あれは捨てがたいですよ。うちがマリちゃんごと欲しいくらいです」
と畠山さん。
「さすがにこの有望株の移籍は難しいでしょうね」
と町添さん。
「でも昔、ある人気バンドのマネージャーさんから言われたことあるんですよ。私と蘭子って、一緒に売り出すのはもったいないって」と和泉。
「へー」
「ああ。サの人だよね」とボク。
「うんうん」と言って和泉は笑顔になる。
「結局、あの人の言葉通り、バラ売りになっちゃったのかな、とも思ったりしました」
「しかし参ったな」
と町添さんは言う。
「こちらもまだ直接マリちゃんケイちゃんとは契約を結んでなかったからね。CDの発売が先行してしまったから、契約は追ってしましょうということになったまま、そちらの作業が全然進行していない・・・けど、芸能契約が正式にできない状況なら、レコード会社との正式契約も無理だよね?」
「済みません」
(結局★★レコードとの契約は2009年1月に行われた。『甘い蜜』の販売をボクの父と政子の父が承諾してくれた時に、1年限定の条件付きで、★★レコードとの契約が結ばれたのである。その契約は2009年12月で切れたのだが、★★レコードはその後もローズ+リリーのアーティストページ(2008年9月に設置)を削除せず、その件に関してうちの親も政子の親もクレームを入れなかったので、ボクたちのページはずっと曖昧な状態で存在し続けた)
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