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■夏の日の想い出・ふたりの成人式(8)

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翌11日は朝からスタジオに入り、私と政子の歌を吹き込んだ。この日は楽器の方は録らないので、スタジオには美智子とマキだけが出て来ていた。
 
前日までに楽器演奏部分についてはアルバム収録予定曲の全ての演奏ができあがっていたので、その日ふたりの歌を入れて、基本的には完成だった。吹き込みは朝から作業をしていたが、昼間2時間ほど、私と政子だけスタジオを抜け出して、その日発売になる、アニメの主題歌の発売記念イベントに出席してきた。
 
私と政子が歌うのは来月から放送される人気アニメシリーズの新シリーズのエンディングで、オープニングを歌う AYA と一緒に会見をし、発売イベントということで特別に、3人のサインをまとめて書き込んだ、この日限りの限定サインをした。色紙の上にAYA, 左下にRose, 右下にLily, 色紙中央に + と書いたものである。(この特別サインはこの後はゴールデンウィークと夏休みに遊園地でも書いたが、かなりのレアものであるのは確実)
 
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最初はこのイベントで歌う予定だったのだが、政子は人前では歌わないと言うし、それではAYAと私で歌う?という案も出たのだが、私がマリ以外とは一緒に歌わないというので、最後はAYAさんだけ歌う?という所まで行ったものの、ローズ+リリーが歌わないなら私も歌わないとAYAが言ったので、結局生歌は無しになってしまった。
 
イベントの後、またスタジオに舞い戻り、録音の続きをする。
 
録音の予定は15日までになっていたが、その日の夕方までに私たちのボーカルパートも収録し終わり、明日美智子がひととおり再度ミクシングしてみて、問題が出て来たら、みんなに声を掛けるということにして、その日は夕方でいったん上がることにした。
 
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私たちが夕方、楽器などを片付けて帰ろうとしていたら、町添さんから電話が入った。
 
「ケイちゃんからもらった音源ね、制作部門のみんなで聴いてみたんだけどね、これぜひ販売したいという意見が圧倒的」
「えー!?」
「それで、打ち合わせしたいんだけど、今からいい?」
「はい、お伺いします」
 
マキは帰ることにし、私と政子と美智子の3人で★★レコードに出かけた。
 
町添部長、加藤課長、南さん、それにもうひとり女性の社員が待っていた。会議室に入る。まずは音源を聴いてみましょうということで流しながら、仕出しで取ってもらった豪華なお弁当を頂いた。
 
「お正月だし、僕のおごりね」と町添部長が言う。
「わあ、ありがとうございます。美味しそう!」と政子。
こういう時、ストレートな表現ができる政子というのは、便利な存在である。
 
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「それと紹介しておきます。こちらは氷川君」
と女性社員を紹介する。
 
「よろしくお願いします。ローズ+リリーのケイです」
「氷川真友子です。私、中学の時陸上部で、うちの学校の選手が駅伝でケイさんに抜かれたのを見てたんですよね」
「わぁ、そんな古い時代のを見られてたなんて」
「その時、私てっきり女子の選手に抜かれたから関係無いと思ってたんです。男子と女子と同時進行で大会やってたし」
「ええ」
「でもよく見たら男子のゼッケン付けてるじゃないですか? あれ?っと思って。女子は男子のチームに参加してもいいから、人数の都合でそうしたのかな、と思ったけど、選手名簿みたら、そのゼッケン番号の選手、男の子の名前だったし、えー?っと思ったのが、凄く印象に残ってて」
「あはは・・・」
「へー、その頃から、ケイって女の子に見えちゃう子だったのか?」
と政子がニヤニヤしながら言う。
 
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氷川さんはあらためて政子の方に向かい挨拶を交わした。
「こちらもよろしく。ローズ+リリーのマリです」
「こんばんは。そうそう。私、マリさんと同じ小学校に行ってたんですよ」
「あら」
「学年は違ってたけど、マリさん凄くインパクトのある子で記憶が鮮明で」
「何を覚えられてるのかな」と政子が頭を掻いている。
「私は途中で市内の別の学校に転校したんですけど、成人式はマリさんたちと同じ所であげたんですよね。2年前ですけど。一昨日テレビ見てたら見覚えのある場所で、おふたりが映ってたのでびっくり」
「もしかして、まだ大学生ですか?」
「はい。この3月に卒業予定です」
「わあ」
 
最後に美智子と挨拶を交わす。
「よろしくお願いします。ローズ+リリーの事務所社長の須藤です」
「こんばんは。はらちえみさんですよね? 私の母がファンだったんです」
「なんと!まさか、サンデーシスターズの?」
「出演する番組毎回見てたそうです。はらちえみさんとか、みやえいこさんとか好きだったって」
「自分のファンに出会ったのは、5-6年ぶりだ」と美智子は照れている。
 
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「まあ、そういうわけで、彼女は現時点ではバイトで、4月から正社員になるのですが、ローズ+リリーに何かと縁があるようなので、4月から、ローズ+リリー、ローズクォーツ、スリファーズの3つの専任でやってもらうことにしました。当面は南君のサブということで動いてもらいます」と加藤課長。「あら、担当交代なんですね?」と美智子。
 
南がその点について説明する。
「今ケイさんたちを入れて15組のアーティストを見ているのですが、最近XANFUSの方がかなり忙しくなってきていて、それにローズ+リリーもいよいよ本格的に稼働しはじめてきた感じで、これは両方はできないということで、どちらかを他の人に引き継いでもらおうかという話をしていた所に、彼女が入ってきたので。まだ新人で至らないところもあるかと思いますが、一応4月以降も私も彼女のバックアップとして、ケイさんたちの担当自体は続けさせてもらいますので」
 
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「分かりました。よろしくお願いします」と言って、私たちはあらためて氷川さんと握手を交わした。
 
音源を聴きながら、いろいろ制作部の人たちから出て来た意見というのを聴いた。
 
「基本的に、凄くよくできてる、という声が多かったです」と加藤課長。
「ひとつひとつの曲のアレンジがプロ級で、また曲順が絶妙なんですよね」
と南さん。
「ベストアルバム作った時に、受験勉強中のケイちゃんに半分くらいの曲の編曲をしてもらったけど、あの時もうまいなあと思ったけど、もともと上手かったのね」と部長。
 
「普通ならこのまま発売してもいいくらいですし、ほんと打ち込み伴奏で売り出してしまう歌手も多いんですけどね」と南さん。
「でも、かなりセールス見込めるから、伴奏は生のに差し替えようかと」
 
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「歌に関しては、ケイちゃんの歌もマリちゃんの歌も、特にBefore 0 では確かに歌唱力としては今の2人に比べると低いんだけど『一所懸命歌っている感じがいいね』という意見でね」と町添さん。
「それでも、アイドル歌手なんかよりは、ずっと上手いですし」と南さん。「心に響いてくるものがあるんですよね」と氷川さん。
「あ、今流れ出した、この曲好き!」と彼女が言ったのは『A Young Maiden』だ。「私、この歌を聴くと、涙が出ちゃうんです」と言う氷川さんは、本当に目に涙を浮かべている。
 
「この曲、制作部門の他の女性にも聴いてもらったんですが、みんな泣いちゃうって言うの。特に若い子にそういう意見多い」と町添さん。
「私も良い曲だと思ったけど、女性の心を特に強く揺り動かすみたいね」と加藤さん。
 
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「ね、ここだけの話、マリちゃん、これ書いた時、もしかして妊娠してたりしないよね?」と町添さん。
「そう思われそうだよね、と言いながらこの曲作ったね」と私は言った。「だっけ?」と政子。
「私、曲作ると、すぐ忘れるからなあ」と政子は頭を掻いている。
 
「この曲は『JUNO』って映画を見た直後に書いたんです。高校生の女の子が不用意に妊娠して赤ちゃん産んでしまう映画なんです」と私は説明する。「ああ!あの映画だったの?」と氷川さんが納得するように言った。
「へー。僕はその映画知らないけど、自分と同い年の子が出産する映画を見て、感応しちゃったのね?」と町添さん。
「ええ、そうなんです。私もマリも映画の中の登場人物に自分がなりきったような感覚になって、没入して映画を見るたちなので」
「なるほど」と加藤さんが頷いている。
 
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「これ、このローズ+リリー以前の方のアルバムの中核曲にしたい感じだね」
と町添さんは言った。
「でも映画を見て書いた曲だってのは、ライナーノートに書いておこう。でないと、絶対誤解するファンが出るよ、これ」と南さん。
「ですね」
 
そんなやりとりもしながら、お弁当をゆっくり食べているうちに、音源の演奏は全部終わった。再度掛けながら、氷川さんがお弁当のからを片付け、みんなにコーヒーを入れた。
 
「一応、この2つの音源に仮に名前を付けまして、マリちゃん・ケイちゃんが高2の時に吹き込んだ方のを Before 0 year, 高3の時に吹き込んだ方のをAfter 1 year ということで」
「なるほど」
「この2つの発売順序なのですが、Before 0 year, After 1 year の順に発売した方がいいのではという意見が多数でした」
 
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「それはそうですよね。あるいは同時発売か」
「同時発売も考えたんだけどね。これを買ってくれる層が中高生だと思うのよ」
「あぁ。。。」
 
「僕も最初は、これってローズ+リリーのコアなファンが古い歌唱の資料としてコレクターズアイテムとして買ってくれるかな、と思ったのだけど、そうではないという意見が若い人たちから出てね」と町添さん。
 
「私もその会議に出させて頂いて、それ主張したのですが」と氷川さん。
「これって、全部中高生の女の子の今の心情をそのまま歌っていると思うんです」
「確かに」
「だから実際に買ってくれるのは大半が中高生という気がするんですよね。配信限定でというお話もありましたが、むしろCDで出した方がいいのではないかと。若い人たちはCDをよく買ってるから。むろん配信でも流したいですが」
 
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「確かに今CDというメディアで買っているのは中高生が多いんだよね。嵐とかAKBとかのCDを買いに、CDショップに実際に足を運んでいるしね」
「それで中高生のお小遣いのことを考えたら、一緒に出すのは酷なので、せめて1ヶ月は間を空けようと」
「そして、ローズ+リリーのレギュラーなアルバムの発売とも時間をずらすんですね」
「そうそう」
 
「ということは、春頃発売すればいいのかな?」
「うん。夏には『After 4 years』を出す予定だからね。3月の発売を考えて動いていきましょう。3月の初めにBefore 0 year, 4月の連休前に After 1 year. 連休の後だと、お小遣いを使い果たしているから連休前に出すのは必須ね」
「ええ」
「4月の頭にはローズクォーツのシングル発売が予定されているから、それからできるだけ離したいのもあるしね」
 
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「最近、発売日と音源制作の日程をスケジューリングしていくのがパズルみたいに感じ始めました」と私は言う。
 
「ケイちゃんのスケジュールが、かなり恐ろしいことになってきているもんね」
と南さん。
「なんかキャンペーンとかライブツアーで移動している最中にピンポイントで東京往復なんてのが、けっこう入ってるんですよね。昨年はANAのブロンズでしたけど、今年はプラチナ行くかもという気がしてます」
「ああ、行くだろうね」
「私、荷物持ちやってあげるよ」と政子。
「ありがとう。ついでにステージで一緒に歌わない?」
「うーん。来年くらいなら少しはいいかなあ・・・」
「ほほぉ」と町添さんが、楽しそうな顔をした。
 
その日の話し合いの結果、Before 0 year, After 1 year の音源に関しては、ボーカル部分は当然そのままにして、伴奏部分をローズクォーツにあらためて演奏してもらい、リミックスして発売用の音源をあらためて作るということになった。その制作作業を1月下旬にすることになり(つまり今やっている音源制作が完了したら、そのままシームレスに、このアルバムの音源制作に入る)、私は、急遽そこに収録されている曲のバンドスコアを調整することにした。
 
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その日遅く、自宅マンションに一緒に戻り、お風呂に入ってから、私たちはたっぷりと愛し合った。
 
「でも氷川さん、面白いこと言ってたね」と政子。
「ん?」
「私たちのペアでの曲作りって贅沢だって」
「ああ」
「マリの歌詞に並みの作曲家が曲を付けても、そこそこ売れると思う。ケイの曲に並みの作詞家が歌詞を付けても、そこそこ売れると思う。そういうふたりが一緒に曲を作っているのは、最高級の食材を名人級のコックさんが調理しているようなものだって」
 
「食べ物に関するたとえは、反応がいいね」
「ねぇ。今度、そういうの食べてみたい」
「政子は量あればいいのでは?」
「うん。基本的にはそうだけど」
 
「でも、それでマリ&ケイの曲は、歌詞に惚れ込んでいるファンと、曲に惚れ込んでいるファンがいるって言ってたね」
「うんうん。それも面白い指摘だと思った」
「歌を聴いている時に、主に詩を聞いてて曲はあまり聴いてないタイプと、主に曲を聴いてて詩はあまり聞いてないタイプって確かにいるもんね」
 
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「仁恵は曲を聴いてるタイプ、琴絵は詩を聞いてるタイプだよね」
「あ、そうそう。あの2人でたとえると分かり易い」
 
「あと、ふつうのソングライトペアって、作詞者が書いた詩を包み込むように曲が作られていることが多いのに、ケイの曲はマリの詩を野放しにしてるって言ってた」
「うん。それは長谷川さんにも似たようなこと言われたことあったね。こういう詩を野放しにするタイプって同性のソングライトペアでたまに見るから、やはりおふたりは女性同士の感覚なんでしょうね、とかも言ってたね」
 
「青葉も言ってたんだよね。私たちの曲って、マリの突き抜けたソウルとケイのピュアなトーンが、縦糸と横糸のように織り上げられているって」
「ああ、それはうまい表現だね。私、自分の詩に冬が曲を付けてくれると、自分が言葉で表現しきれなかった部分を曲で表現してもらって、自分の心が完全解放されるような感覚になるのよね」
 
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「たぶん、マーサの詩が縦糸で、私の曲が横糸なんだろうけど、横糸が支えてるから、縦糸はまっすぐ伸びたまま存在できる。私はマーサの才能を支えていく存在なんだと思う」
「でも模様を紡ぎ出すのは横糸だからね。冬がいるから私は表現ができる。ずっと支えててね」
「私が生きてる内は支えてるし、死んでも守護霊になって支えてあげる」
「約束」
 
政子は私にキスした。私たちはまたベッドに倒れ込んで愛し合った。
 
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