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■夏の日の想い出・アルバムの続き(26)
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「どこかに隠れているのかい?」
「まさか。二十面相は今この場に居る誰かに変装している」
「へー。誰に変装しているんだろうね」
すると小林少年(アクア)はまっすぐ明智を指差す。
「明智探偵に変装している。君が二十面相だ」
明智は笑い出す。
「あはははは。小林君も焼きが回ったね!大恩ある自分の師匠を盗賊呼ばわりするとは」
しかし明智以外は誰も笑わない。洋造氏が言った。
「いや小林君の言うとおりだ。君が二十面相だ」
「え?そうなの?」
と洋介氏。店長もまだ困惑しているようである。
2人の警備員は明智に化けた二十面相の左右後方に立つ。いつでも二十面相を拘束できる体制である。また会場入口の警備員の1人が来て
「何かありましたか?ヘルプが必要ですか?」
と訊くので、この部屋の警備員・国崎が
「野口君、二十面相が現れた。警視庁本庁の捜査課を呼んで。君は入口の警備にすぐ戻って」
「分かりました!」
「中から出ていこうとする者はたとえ僕たちでも明智先生でも捕まえて。決して逃がさないで。二十面相は誰にでも化ける」
「はい!」
野口警備員は、部屋には警備員が2人いるし、明智探偵も小林少年も居るから大丈夫だろうと判断。入口に戻りながら本庁の捜査課に電話した。
実は先日所轄に連絡したら、二十面相事件の性格をよく把握してない警官が対応し、せっかく確保していた二十面相を逃してしまうという失態があった。それでその後警備会社と警察とで話しあい、この事件は本庁捜査課(中村係長)に直接通報することになったのである。桜田門の本庁から来るのに時間は掛かるが二十面相事件の性格を把握している捜査官が多い。
しかしニセ明智はまだ余裕である。彼は小林に訊く。
「だけど僕が二十面相だとしてだよ。それだったら本物の明智君はどこ行ったんだい?」
「分からないけど僕の明智先生が君または君の仲間に捕らえられたりするわけがない。どこかにおられるはずだ」
と小林は訊く。
「おお、すごい信頼だね。まるでマライヒのバンコラン少佐への信頼みたいだ(*73). 君たちもできてるんだろう?」
「ぼくたちはそんな関係じゃない!」
と小林が真っ赤になって怒る。
(視聴者の声「怒る所が怪しい」「小林なら明智から拳銃を向けられても動いたりしないだろうな」(*73))
(*73) 魔夜峰央作『パタリロ!』でバンコラン少佐(男性)はイギリスのMI6エージェントだが口の上手いマリネラ国王パタリロにいつもボディガードのように使われている。マライヒ(一応男性)は彼の助手だが、事実上の妻。元殺し屋なので物凄く身体能力が高い。
一度マライヒの偽物が現れた事件があった。2人は双子のようにそっくりでどちらが本物か区別が付かない。
この時バンコランは2丁の拳銃を2人のマライヒに向け「本物のマライヒなら拳銃の弾丸くらい避けられるハズだ」などと言って左右同時に発射する。
1人は物凄い反射神経でしゃがんだ。
1人は何もせずに立っていた。
バンコランは実際には空(そら)に向けて拳銃を発射していた。
しゃがんだ方のマライヒが「え?」という顔をする。立ったままだったマライヒがひとこと言う。
「バンがぼくを撃つわけ無いじゃん」
パタリロの名場面である。
その時、警備員のひとり松本(演:松本裕晃)が大きな声で笑い出す。警備員が笑うというのは想定外なので明智まで含めてみんなギョッとする。
「いやあ、二十面相君の名調子には惚れたね。犯行の方法について詳しく説明してくれてありがとう。もう少しこのままにしておくつもりだったが、我慢できなくなったよ」
「貴様まさか明智か」
とニセ明智(演:本物の明智役の本騨真樹)。
「先生!」
と小林(アクア)はたちまち顔が嬉しそうになる。
(視聴者の声「この嬉しそうな表情がやはり怪しい」)
「そちらが明智先生ですか!」
と洋造氏(木下春治)も嬉しそう。
松本警備員に化けている本物の明智(真・明智?)はフェイスマスクを外した。下から出て来たのは明智小五郎の顔である。それで本物の明智と偽物の明智で相(あい)対することになる
真・明智は言った。
「二十面相君。君が知らないことを教えてあげよう」
「何だろう?」
「僕の助手の森田(演:木取道雄)は14時頃、プリウスに乗って千代田区の事務所を出た。そして成田空港に向かったが、途中で“後部座席”に乗っていた何者かに拘束され、香取市内の隠れ家(かくれが)に閉じ込められた。その後、何者かは森田助手に変装して帰国した明智小五郎を迎え、車に乗せたがそのまま拉致して、やはり香取市内の隠れ家に連れて行った。まあここまでは君も知ってるよね」
と真・明智。
「うん知ってる」
とニセ明智は答える。
「0時前に本物の明智が現場に到着すると即仕掛けを見破られそうだったから拉致したんだろうね」
と真・明智は言うが
「いや本物の明智君が来てしまうと僕が明智に化けられないからだよ」
とニセ明智は答える。
この場面は実は本騨真樹と彼のボディダブルを務めた大林亮平!で2度撮影している。そして実は音声は、本騨真樹が明智役を務め、大林亮平がニセ明智役をした時の音声を活かしている。
この際、先に本騨がニセ明智・大林が真明智を演じたものを先に撮影同時録音し、配役を入れ換えた時、大林は先の撮影の時の録音をイヤホンで聞きながら演じて、音声と映像がずれないようにした。このドラマのレギュラーはこの手の撮影テクニックが上手い。
放送時には本騨の声で話す警備員姿の本騨真樹と、大林の声で話すダンヒルのスーツの本騨真樹とが交互に映される。視聴者が混乱しないように、“本物の明智”“偽物の明智”というテロップが表示されていた。
「しかしここからは君が本当に知らないことだが」
と真・明智は続ける。
「実際には隠れ家に到着した明智は森田に化けた君の仲間を捕まえ、手足を縛り上げて、森田助手も解放した」
「ああ、捕まったか。それで君はここにやってきた訳か」
「僕の乗る便が成田に着陸したのが20:30。降機し、入国手続きを終えて空港ビル1階の到着ロビーに出たのが21:00。それからニセ森田と一緒に隠れ家に到着したのが21時半。彼を捕まえて本物の森田を解放したのが22時。それから日本橋に行ったらもう23時半になる。下手すれば0時に間に合わない」
「ん?」
「僕は実際には到着ロビーから駐車場に“あらかじめ駐めておいてもらった”カローラに乗ると、まっすぐ日本橋に来た。だから22時頃“警備員の服”を着て警備会社から預かっていた警備員のidカードで店内に入った。そして松本警備員と入れ替わったんだよ。松本さんは現在店内某所で待機している」
「あぁ!拉致したのは赤井の方か!」
「まあ時間短縮のためだね」
「3分クッキングか?」
(「ここに開放した明智がございます」とか?)
赤井というのはしばしば明智小五郎の影武者を務めている助手である。彼は都内某所に住んでいるが、基本的に他の助手や少年探偵団などとは共同作業しない。直接明智の指令でだけ動く。柔道4段でかなり強い。二十面相も彼の存在は知っている。
(二十面相は柔道5段と自称している。明智は柔道3段ではあるが神のように強いと書かれている)
今回、赤井が明智に変装してカローラで空港に行き、明智は彼からの連絡で車の駐車位置を知り、そこに行ってその車で日本橋に向かった。そして赤井は二十面相の部下に拉致されたふりをして、実際には彼を締め上げて森田を開放させ、森田の代わりにその手下を隠れ家に幽閉した。実際は部下も二十面相から「人命絶対優先」を指示されているので素直に森田を開放した。
(森田・二十面相の部下が閉じめられた部屋はトイレ付き。窓が開かない幽閉用の部屋)。
ただし部下は隙を見てプリウスのキーを井戸に投げ捨てたので(明智を足止めするという役割は果たした)、赤井と森田はやむを得ずタクシーを呼んで現場に向かった。そのため日本橋到着は0時半過ぎになった。
(香取市から日本橋までのタクシー料金が恐ろしい)
そこに小林にメールが入る。小林が内容を見て言った。
「団員からの連絡でデパート近くの駐車場で警視庁の警官と一緒に盗難車を発見したそうだよ」
「ふーん」
またメールが入る。
「別の団員からの連絡でこちらも別の駐車場で警官と一緒に盗難車を発見したそうだよ」
「ほほお」
「君の逃走用車両は2台とも駄目になったね」
「逃走用車両くらい何とでもするさ」
少年探偵団の堂本流馬(演:坂口芳治)と警官が見守る中、トヨタ・ビスタがレッカー移動されるところが映る。同じく少年探偵団の新庄祐司(演:津島啓太)と別の警官が見守る中、トヨタ・クレスタがレッカー移動されるところが映る。
明智からのメール連絡で本物の松本警備員も来てフルート展示室の入口に立った。そして、やがてサイレンの音がして停まる。
「二十面相君、お迎えがきたようだよ。警視庁に行ってフルートの在処(ありか)を白状してもらおうか」
「明智君はまさかそれを俺が口を割るなんて思ってないよね」
二十面相と明智がしばし睨み見合う。
やがて中村警部(広川大助)率いる警官隊が到着した。しかし明智探偵が2人いるので戸惑っている。
「お疲れ様、中村さん。この警備員の服を着ている僕が二十面相の変装だよ」
とスーツを着た明智(ニセ明智!)。
「中村さん、欺されないで。このスーツを着ている僕のほうが二十面相の変装だよ」
と警備員の服を着た明智(真・明智)。
中村係長は混乱している。
「中村さん。本物は警備員の服を着たほうです。スーツを着ているのは二十面相です」
と小林か言う、
「刑事さん、小林君の言う通りです。スーツを着ているのが二十面相です」
と細川洋造氏。
それでどうもこちらが二十面相のようだと中村係長はスーツ姿の明智に歩みよると
「怪人二十面相こと遠藤平吉。刑法130条、不法侵入の現行犯で逮捕する」
と言って手錠を掛けた。ニセ明智は笑っている。
「連れて行け」
と言われて、複数の捜査官が彼の身柄を押さえて連れて行こうとする。
彼はおとなしく連行されていたが業務用エレベータに乗せられたとたん、自分を連行している警官を突き飛ばしてエレベータから追い出すとエレベータのボタンを押してひとりだけ下に降りて行った。
中村係長は明智や小林から事情を聴こうとしていたが、騒ぎを聞いてエレベータに駆け付ける。
「階段から追いかけろ」
と指示する。数人の警官が業務用の階段を駆け下りていく。
店長が守衛室に連絡する。
「今業務用エレベータから人が降りて来る、その人物を絶対逃がすな。それが二十面相だ」
と指示した。
それで守衛室のガードマン(島袋勇司)はエレベータの前で待ち構える。ところが出て来たのは警察官である。警察官(頼本大士)はいきなり守衛に訊いた。
「今ここに人が降りて来なかった?」
「いえ、誰も降りてきませんでしたが」
「おかしいな。ちょっとパトカーに行って応援を呼んでくる」
と言って外に走り出して行った。
そこに階段から数人の警官が降りて来る。守衛に訊く。
「エレベータから降りてきた人物は?」
「応援を呼ぶと言って出て行かれましたが」
「バカ、なんで逃がしたんだ?」
「え?警察のお仲間さんではなかったんですか?」
と守衛は戸惑い気味である。
「警官の服装をしてたの?」
とひとりの警官が訊く。
「・・・してましたが」
「そいつが二十面相だ。警官に化けてたんだ」
「え〜〜〜!?」
「だいたい応援を呼ぶなら携帯電話で呼べばいい。パトカーまで行く必要はない」
「あ、そうか!」
警官たちがパトカーのところに行ってみるとパトカーが1台乗り逃げされていた。パトカーは緊急の場合に誰でも動かせるよう概してキーは挿したままである。
「明智君、細川さん面目ない。僕が二十面相のそばに付いているべきだった」
と中村係長が謝る。
「中村君はまだ状況が飲み込めていなかったもん。仕方無いよ」
と明智が慰める。
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