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■夏の日の想い出・アルバムの続き(14)
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目次 8
時間索引 #
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11月12日(土)にはΛΛテレビの昔話シリーズ第15弾『三方一両損』がUFO主演で放送された。これも落語ネタである(*45).
主な出演者
左官の金太郎:藤沢満奈実(2006)
大工の吉五郎:小倉真弓(2006)
江戸町奉行:上中雅美(2006)
金太郎の妻:稲田レナ(2007)
材木問屋:鈴木ひかり(2001)
大家:谷崎潤子(1990)
語り手:谷崎聡子(1993)
谷崎潤子はUFOの所属するζζプロの大先輩だが、最近は主として関東ローカルの番組にばかり出ていて、全国放送に出るのは久しぶりである。しかし実力は充分なので大家(おおや)の役を演じてもらった。語り手の谷崎聡子は実妹。最近はだいたい姉妹でセット売りされている。
稲田レナはwindfly20のメンバー。ζζプロに演技の出来る適当な中学生タレントが居ないので○○プロから借りた(*41). この番組の制作時期は9月下旬でいつも“便利に使われている”信濃町ガールズが大型時代劇の準備で使えなかった。鈴木ひかりもwindfly20のメンバーで彼女は創設時からのコアメンバー。
(*41) windfly20 は名目上のプロデューサーは作曲家の上島雷太、実態上の制作者はローズクォーツ(主として月羽聡と太田恭史)で、チームのまとめ役はColdFly5(主として田倉友利恵と栗原リア)。ギャラに関しては○○プロが受託処理している。だから○○プロの所属タレントではなく取扱いタレントである。追加オーディションの審査は上島がしている。稲田レナは実はFlyグループ解体後に入った“まともな”オーディションを通ったメンバーなので歌も演技も上手い。
営業は・・・・
誰がやってんの??
でも旧Flyグループの中では最も売れているしテレビへの露出も多い。(楽曲がいいからだと思う)。楽曲はサト・ヤス・上島雷太のほかローザ+リリンのマリナ・寺内雛子(丸山アイ)も提供している。ケイナやマリナが引率していることも多い(メンバーからは「変なおばちゃんと変なおねえちゃん」と言われている)
左官の金太郎(フーガ)が町を歩いていると、財布が落ちているのに気付く。あたりを見回すが、誰も人が居ない。財布の落とし物なら、自身番(*42) にでも届ければいいなと思い拾い上げる。
一応中を確認しようと思い、開けて見てギョッとする。
小判が3枚入っていた(*43).
「すごっ」
と声をあげた金太郎は自身番に届けなきゃと思っていたことはすっかり忘れて、近くの飲み屋に入るとお酒を飲み始めた。
(*42) 自身番というのは、江戸の治安維持のため、あちこちに作られていた番所で現代の交番に近い存在。当初は町の地主自身が詰めていたので自身番と呼んだ。出入口は常に開放しておく決まりで。人がいつでも駆け込めるようにしていた。町奉行所の見廻り同心も立ち寄った。後には“番太”と呼ばれる若い男を常駐させた。町の様々な寄り合いにも使用された。(寄り合いに使ってはいけないという規則はあったがほぼ無視された)
(*43) 当時の1両はだいたい現代の16〜18万円くらい。だから3両は50-60万円。1両小判の重さは約18gである。だから小判が3枚入っていると54g。現代の500円玉が7gだからそれが7-8枚入っている重さ。そんなに重くは感じ無かったと思う。寛永通宝だって3-4gだから、寛永通宝が15枚くらいと同じ重さである(小銭ジャラジャラ)。
夜遅く酔っ払った金太郎(フーガ)が長屋に帰宅すると、おかみさん(稲田レナ)は渋い顔です。
(酔った雰囲気の演技、フーガちゃんうまいとの声)
「あんたまた飲んで帰ってきたの?大してお金も無いのに。あんた今日の工賃、飲んでしまったんじゃないよね?」
「金ならあるぞ。ほれ」
と言って金太郎は財布を見せます。
見慣れない財布に首をひねる妻ですが、中を見て青ざめます。
「あんたとうとう盗みを働いたの?あんたは学がないし稼ぎは悪いけど、正直でいっさい悪い事はしないのが良いところだと思っていたのに。ね、奉行所に行こう。自ら名乗り出れば少しはお奉行様も情けを掛けてくれるよ。私付いてってあげるからさ」
「ばか、盗んだんじゃないやい。道に落ちてたから拾っただけだ」
と言って金太郎は当時の状況を語ります。
「それにしても拾った物は自身番なりどこなりに届けるものだよ。勝手にもらったらネコババだよ。あんたこの財布から幾ら使った?」
「今日は自分の金で飲み屋の代金は払った。俺の財布は空っぽになったけど」
「ああ、まだこの財布に手を付けてなくて良かった」
と妻はホッとします。
金太郎も妻に言われるとやはり勝手にもらうのはまずいかなと思い直しました。
「だったら今からでも自身番に届けよう。すぐ届けるつもりがうっかりしていました、と言えば理解してもらえるよ。それにこんな大金落とした人は困ってるよ」
「ああ、困ってるかな」
「当たり前じゃん。3両なんてあんたの半年分の給料じゃん」
「もう少しあるぞ」
「やはり給料の半分くらい飲んでるのね」
それで2人は一緒に自身番に出掛けます。ちょうど大家さん(谷崎潤子)が居ました。
「大家さん。ちょうどいいところへ」
と妻が主として話します。
「今日の夕方、うちの人が道で財布を拾ったのですが、すぐ自身番に届けるつもりが、うっかり忘れてたらしいんですよ。今から届けますので」
と言って妻は財布を大家に渡す。
「ああ、落とし物か。分かった。これは男物の財布だな。中に持ち主の手がかりのようなものは無いかな」
と言って開けて見ますと小判が3枚入っているので驚きます。
「これは3両も入ってるではないか」
「え!?そんなに入ってたんですか?」
と妻は驚く。
(レナちゃん名演技!と視聴者の声)
「他には・・・何か書類が入ってるな。“吉五郎様、杉材50貫確かに納品致しました。材木問屋・桐屋”と書いてある。これは大工の棟梁か何かかも知れんな」
と大家さんは言います。
「その桐屋さんという材木問屋さんに聞けば落とし主が分かりますかね」
と妻が言います。
「そんな気がする。明日訪ねてみよう。お前たちも一緒に来なさい」
「はい」
それで翌日、大家さんに連れられて金太郎と妻が桐屋さんに向かいます。大家さんは羽織袴ですが、金太郎と妻は、いい服とか無いので。できるだけツギハギの少ない服を着て付いて行きました。
(このドラマはわりと金太郎の服装が重要)
桐屋の旦那(鈴木ひかり)は書き付けを見て
「ああ、若尾町の吉五郎さんだね。若いのに大工の棟梁を務めているんだよ、私が案内してやろう」
と言います。
「すみません」
それで桐屋さんの案内で、大家と金太郎夫妻が吉五郎のところに向かいます。やがて若尾町に着きました。
それほど大きくはなくても一応しっかりした家に住んでいるようです。
「おーい、吉五郎さんや」
と桐屋が入っていくので、大家たちも続きます。
吉五郎(オク)が出てきます。
「あんたが財布落としていたってんで拾った人が持ってきてくれたよ」
と桐屋さんが言うと、金太郎は財布を吉五郎の前に差し出しました。
「おお、それは済まねえな。どこで落としたかと思っていたよ」
「正確な場所は覚えていませんが、河井町付近で拾いました」
「ああ、だったら屋根瓦の棟梁と打ち合わせしたあと帰り道に落としたんだろうな」
などと吉五郎は言っています。
吉五郎は財布の中を改めます。金太郎はドキドキします。吉五郎は中に3両と材木の仕入れの書き付けがあるのを確認してホッとしました。そして金太郎を見ます。
吉五郎は思いました。
こいつが届けてくれたのか。何かの職人のようだが、あまり儲かってないように見える。貧乏なら拾った金はネコババしたくなるかも知れんが、それをちゃんと届けて落とし主を調べるとか正直者じゃねぇか。気に入った!そういう正直者にはご褒美があってよいものだ。
それで吉五郎は書き付けは取ったものの、残りの財布は金太郎の方に押し返してから言います。
「この書き付けは無いと困るが、3両は落としてもう諦めていた金(かね)だ。俺は江戸っ子だ。落とした物はスッキリ諦める主義だ。この金(かね)は受け取れねーから、あんたが持って帰ってくれ」
みんな驚きますが金太郎も筋の通らない話は受けられません。
「そんなこと言われても、俺が受け取る筋合いは無(ね)ー。俺だって江戸っ子だ。意味なく人の金は受け取れねー。金は落としたあんたがちゃんと受け取ってくれ」
大家と桐屋は顔を見合わせました。
そのあとしばらく吉五郎と金太郎は3両を相手に押しつけようとしますがお互い受け取ることを拒否。話の結論は出ず、この前代未聞の金の“押し付け合い”は奉行所に持ち込まれてしまったのです。
江戸町奉行(ユニ)の前に、金太郎夫婦、吉五郎、それに各々の介添人として、大家、桐屋が並んでいます。
奉行は状況をまとめた文書を読み上げた上で
「それで、吉五郎は落とした金は諦めたのだから、今更受け取れないと言うのだな」
と問う。
「はい、その通りでございます」
と吉五郎(オク)が答える。
「一方で金太郎は他人の金をもらう筋合いは無いから、受け取れないと言うのだな」
と奉行(ユニ)は問う。
「はい。全くでございます」
と金太郎(フーガ)は答える。
奉行は言った。
「だったら仕方あるまい。この3両は奉行所が没収する、それでよいか」
大家や桐屋は結局それしか無いよなあと思いながら聞いています。
「はい、俺が受け取るのでなければ問題ありません」
と金太郎も吉五郎も言う。
「それでは3両は奉行所が没収する」
と奉行が言い、目で支持するので、役人がその3両を回収した。この3両は奉行の横に置かれた。
「しかし金太郎は正直者だな」
「はい、あっしは金も身分も無いけど、正直だけが取り柄です」
「吉五郎もキップが良いなあ」
「はい、あっしは昔のことは考えず先のことだけを見て生きてます」
「ふたりともアッパレである。奉行から褒美をやろう」
と奉行が言うので、金太郎も吉五郎も顔を見合わせる。
「用意しておいた。これへ」
と奥の方に声を掛けると、小判を回収したのとは別の役人2人が出て来て、三方(さんぼう)に載せたお金を、金太郎と吉五郎の前に置きました。
「これを・・・頂けるんで?」
「うむ。お前たちへの褒美だ。奉行からの褒美なら受け取れるだろう」
「はい」
と両者答えた。
大家と桐屋は成り行きに驚いています。
各々の三方の上に載っていたのは小判2枚、つまり2両である。
奉行は笑顔で言った。
「吉五郎は拾ってもらったお金を金太郎からそのまま受け取っておけば3両得られたのに褒美の2両しか得られない。だから1両損」
「金太郎は吉五郎がお金はあんたがもらってくれと言った時にそのままもらっておけば3両得られたのに褒美の2両しか得られない。だから1両損」
「そして奉行は、こんな裁判しなければお金を出すこともなかったのに褒美に2両ずつ支出し、問題の3両を没収しても合計1両の損」
「これを三方一両損と申す」(*44)
と奉行が言うと
「すごーい!」
と法廷にいる全員が感心して、納得してしまった。
(*44) 没収した3両は厳密には幕府の雑収入となり、このお金を町奉行ごときが勝手に使って報奨金に利用することは許されない。だから回収した小判と褒美として渡す小判は厳密に区別しなければならない。この点をちゃんと理解してない人が多いように見受けられる。テレビの『大岡越前』で少なくとも筆者が見た回ではこれをきちんと処理していた。
このネタは視聴者に受けが良かったようで、テレビの『大岡越前』では何度も繰り返し取り上げられている。
帰り道、金太郎は大家に言った。
「この2両は、大家さん預かっておいて頂けませんか」
「なんで?」
と妻も大家も驚く。
「俺は財布を見た時にはちゃんと自身番に届けなきゃと思ったのに中に3両もあるのを見たら、ついネコババしたい気分になってしまって。飲み屋に行って酒を飲みました。幸いにも小判には手を付ける前に終わりましたが。そして女房に叱られて、それから自身番に持って行ったんです」
「ああ、だから届けが遅くなったのか。でもそのことは誰にも言わないよ、この3人だけの秘密にしよう」
「ありがとうございます。でも金は魔物です。正直に届けるつもりだったのに大金を見てしまうと目がくらんで自分の物にしたくなって」
「うん。ほんとに金は魔物なんだよ。それで変な道に堕ちてしまう人は大勢居る」
「だからこれは大家さんに預かっててもらって、俺はこれから酒も断って一所懸命働きます。それで俺がひとかどの者になれたらその時これを返してください。その時はきっと2両くらい見ても平気なようになってると思います」
「きっとその頃は2両なんて大金ではなくなってるかもね」
「そうなれるよう頑張ります」
語り手「それで心を入れ替えて本当に酒も断ち頑張った金太郎は、仕事もこれまで以上にまじめにやるようになり、5年後には1人前の左官として1人立ちを許されるようになりました。その時、大家さんは2両を返してやりましたが、その頃は金太郎にとって2両は大した金でもなくなっていました。年収も大きくなり、長屋から1軒家に移り住み、金太郎も妻も少しは良い服を着られるようになっていました」
映像は1軒家の前に、羽織袴と小袖で立ち、大家さん・吉五郎さんからも祝福されている、金太郎夫妻。
めでたし、めでたし。
(最後は少し芝浜が混じった)
(*45) 有名な落語の演目だが、繰り返し時代劇でも放送されているのでこの話を知る人は多い(UFOは最後に奉行が『三方一両損』と言うところで「へー」と感心していた)。
元々は『大岡政談』にあったものを落語化したものであるが、実は大岡越前守忠相が実際におこなった裁きではないとされる。この話は実は類話が板倉周防守重宗の名裁きを収集した『板倉政要』にも収録されていることが知られている。
この板倉裁きでは金3分を落とし主・拾い主ともに受け取らないので、板倉がそれと同額の3分をポケットマネーから出して両者に3分ずつ渡したら納得したというもの。金額が3両の1/4の3分になっているが、両者は満額受け取り板倉はただ出すだけで全然“三方一両損”になっていない。
(1両=4分=16朱)
この『板倉政要』も実際に板倉周防守が裁いた記録を集めたものではなく中国原典など色々なネタを集めたものと言われるので、元々が誰かの創作である可能性がある。その時、『板倉政要』に収録された物語の作者はいまいちひねりが悪かったもののそれを改作した『大岡政談』収録物語の作者は巧妙な数字操作で思わず皆が感心するようなストーリーに創り上げた。
板倉周防守は大岡越前守と並ぶ江戸時代の名裁判官と言われる。大岡が江戸中期の江戸町奉行として活躍したのに対して、板倉は江戸時代初期の京都所司代として活躍した。当時はまだ京都奉行が置かれておらず、所司代が町民の民事裁判も執り行っていた。
三方一両損はよく江戸っ子気質を表す話とされるが実は元は京都の町人気質を背景にしていたのかもしれない。
※板倉3代
板倉勝重(1545-1624) は関ヶ原以前の1590-1600年に第4代江戸町奉行を務め、関ヶ原で家康が豊臣を破った後は1601-1619に第2代京都所司代を務めた。その後を息子の重宗が継いでいるが、京都所司代の親子継承は唯一の例。
板倉重宗(周防守)(1586-1657) 勝重の子。第3代京都所司代。在職1619-1654。35年も所司代を務め、京都市民の信頼も幕府の信頼も篤かった。正しい裁きをするのに大事なことは決して賄賂を受け取らないことと言い、清廉を貫いた。
裁判の際にしばしば自分の前に障子を立て、本人たちの顔を見なかったという。人相の悪い奴がきっと悪い奴だみたいな予断を作らないためである。彼は罪人を処刑する場合、最後に本人と直接会って弁明を聞き、それをひとつひとつ確認し、全てクリアになるまでは処刑しなかったという。
彼の甥の板倉重矩も後に第5代京都所司代になっており、『板倉政要』は板倉3代の裁きが収録されているものの、ほとんどが2代目・板倉重宗のものと思われる。ただ前述のように実際は創作が多い。
UFOが歌う『三方一両損』のCDは11月9日(水)に発売された。水森ビーナと同じ日になったもののファンクラブの動きがよく僅差でランキング1位を確保できた。
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