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■夏の日の想い出・君に届け(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-07-24
 
 
なぜそういうことになったのか、当時の状況はよく覚えていない。
 
2013年7月11日、私は、蔵田さん、鮎川ゆま、鈴鹿美里の鈴鹿、の3人と一緒に海上タクシーあるいは漁船に乗り、その島に向かっていた。もしかしたら一緒に居たのは美里の方だったかも知れないが、記憶が曖昧だ。当時のことを本人たちに訊いてみたこともあるのだが、本人たちも
 
「どちらがどちらか分からないです」
「私たち時々記憶が混線するんですよ」
 
などと言っていた。この2人は多分、半一卵性双生児だろうと思うのだが、一卵性双生児のように、色々なものがシンクロするらしい。
 
まだ空が微かに明るくなった程度で、水平線もよく分からなかった。後で確認したのだが、こういう状態が“天文薄明”(astronomical twilight)で、水平線が明確になるくらい明るくなると“航海薄明”(nautical twilight)と呼ばれるらしい。
 
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そして私たちはその島に降り立ち、松原珠妃と鈴鹿美里の美里(もしかしたら待ってた方が鈴鹿かも)と合流したのだが、この時、私は"Between drops and the drop"という曲を書いた。
 
これを蔵田さんは『海の磯焼き』!というタイトルで松原珠妃に渡したのだが、2013年12月の発売時には『海の真珠』と改題されていた。観世社長もよく分かっている。この年(2014年度)、珠妃は『ナノとピコの時間』が話題になり、各種の賞を受賞したので、この曲は目立たないのだが、これもプラチナディスクになったヒット曲で、珠妃の好きな曲ベスト10とかの投票をすると、ランキングに入ることが多い。
 

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『海の真珠』の原題である"Between drops and the drop"というのは、水平線が判然としない状況の中で、夜空の星たち(drops)の中のひとつが海の中に落ちた(drop)のように見えていたからで、たぶん空の中に物凄く明るい星(たぶん木星)があって、それが水面に反射していたのだと思う。
 
その時、私は複数のモチーフの発想があり、"Between drops and the drop"の中に入りきれなかったものをまとめて"Star Drops"という小曲をまとめた。その内、追補してアルバムにでも入れようと思っていたのだが、雨宮先生が見て「ちょうだい」というので、自由に使ってもらっていいですよと言って渡した。するとそのモチーフをうまく組み込んで『星の鏡』という可愛い曲がまとめられ、鈴鹿美里が歌ってこれもまたヒットした。ケイ作曲・雨宮三森補作とクレジットされていたが、本当に補作したのは、ゆまか千里だと思う(曲の雰囲気からして毛利さんではない)。
 
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しかし実は私はこの時、もうひとつ、曲にならないような“イマジネーションの塊”のようなものを抱えていた。それはずっと漠然とした“塊”にすぎなかったのだが、1年後の2014年8月、日中に沖縄でKARIONライブをして
夕方からは埼玉県でローズ+リリーのライブをするなんて無茶なことをした時に、那覇から調布までプライベートジェットで飛んでいる最中、沖縄・奄美の島影を見ていて、唐突にその“イマジネーションの塊”が曲の形になって私の頭の中に流れて来た。私はそのモチーフの連続を急いで紙に書き留めた。
 
それを後日きれいに曲としてまとめたのが『君に届け』という曲なのである。これは鈴鹿美里の鈴鹿が早く相棒の美里に会いたいと言っていたのを聞いて、この海を越えてその思いが届くのを願ったようなイメージが曲としてまとまったものである。
 
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私はその曲の発表の機会をずっと待っていた。
 

2019年12月上旬今年のアルバム『十二月』の録音作業はほぼ終了した。このアルバムのオリジナルコンセプトだった『Four Seasons』の企画を立てたのが2016年の秋頃だったので、足かけ4年の難産のアルバムだった。これまでに掛かった制作費は4億くらいかなあと漠然と考えていたのだが、会計士さんによるとここまで2億3900万円くらいということだった。どうも『郷愁』の制作費として計上されてしまった分もあるようである。これだと最終的には3億を少し越える程度で収まるかもという気もした。
 
これまでのオリジナル・アルバムの制作費と販売枚数:−
 
2013.07『Flower Garden』1億円 290万枚
2014.12『雪月花』3億円 340万枚
2015.12『The City』4億円 195万枚
2016.12『やまと』3億円 320万枚
2018.03『郷愁』8億円 148万枚
2020.02『十二月』3億円(『郷愁』で計上した分を除く)
 
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録音が一段落した後は、則竹さんを中心にPVの制作も進めてもらうのだが、私と政子は『十二月』の海外版の制作(歌唱吹き込み)の作業に移った。英語版・フランス語版・ドイツ語版・スペイン語版・ロシア語版・中国語(北京語)版の6種類を制作するが、英語版のタイトルは以下の通りである。
 
Jan.The Mirror of Time 『時の鏡』
Feb.Scream of Snow-hag 『青女の慟哭』
Mar.Spring Bird 『うぐいす』
Apr.Dream on the plain 『草原の夢』
May May Queen 『メイクイーン』
Jun.Rainy Friday 『雨の金曜日』
Jul.Tropical Holiday 『トロピカル・ホリデー』
Aug.Mermaids 『泳ぐ人魚たち』
Sep.Sand Castles 『砂の城』
Oct.Tear drops on the Violin 『ヴィオロンの涙』
Nov.Road on the yellow leaves 『紅葉の道』
Dec.Snow changes into Swan 『雪が白鳥に変わる』
 
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この作業をしている最中に、私たちは某テレビ局のプロデューサーから連絡を受けた。
 
「ものまね番組ですか」
「それで素人の出演者がローズ+リリーのたぶん『青い豚の伝説』を歌う予定なんですよ。それでお正月の時間拡大版でもありますし、その歌の途中で“御本人登場”ということで、ローズ+リリーのおふたりに出て頂けないかと思いまして」
 
「撮影はいつですか?」
「1月8日水曜日なんですが」
「申し訳無いです。その日は3月の震災復興支援ライブの打ち合わせで仙台に行くんですよ」
「あらぁ。じゃ無理ですよね」
とプロデューサーさんが言った時、横からマリが口を出した。
 
「私たちの代わりにローザ+リリンの2人に出てもらったらどうかな?」
「え〜〜?ローザ+リリンですか?」
「そもそも、あの子たち、私たちの代理としてローズクォーツのボーカルしてるし。何ならローズ+リリーのサインを書いてあの2人に渡しておきますよ」
 
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「ああ。直筆サインを頂けるのなら何とかなるかも知れませんね」
 
ということで、結局その日はローザ+リリンが、ローズ+リリーの代役としてものまね番組に出演することになるのである(彼女たちの日程を実質管理している§§ミュージックの美咲瞳マネージャーがぶつぶつ言いながら日程調整した)。
 
「ローザ+リリンには、私が焼き肉食べ放題に行っちゃったから代わりに出て来ましたとか言ってと言っといて」
 
「マリさんが焼肉屋さんに行っちゃったというのは何だか説得力がありますよ」
とプロデューサーさんも笑っていた。
 

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12/31-1/01 は福井県小浜市でカウントダウン&ニューイヤー・ライブを実施した。これは5回目だが、春にはマリと大林亮平君の結婚を発表するので、さすがに今回が最後かなとも思った。
 
2015 安中榛名特設会場
2016 宮城県松島町特設会場
2017 博多ドーム
2018 福井県小浜市特設会場
2019 福井県小浜市ミューズパーク
 
2018年,2019年は同じ場所だが、前回は臨時施設だったのが、今回は恒久的な施設になっている。もっともこの会場(定員7万人)を満杯にできるのは、私たち以外にはアクアくらいだろう。マリの結婚を発表した後で、来年以降については、ゴールデンシックスかハイライトセブンスターズあたりに声を掛けてみようかなと、この時点で私は思っていた。シアターを使わずに、ミューズアリーナ(max 5万人)なら、座席間隔を空け花道を作ったりして席の総数を減らせば何とかなるかもという気がした。
 
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(この会場の座席が“見やすさ”のためにボーイング787のようなスタッガード(千鳥)配列になっていたことが、この春以降の“騒動”に大きな意味をなすことになるとは、私は想像もしなかった)
 

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カウントダウンが終わった後は、1月1日の朝いちばんに、共演してくれた信濃町ガールズほか§§ミュージックのタレントさんたちを連れて福岡に移動し、アクアの新年ライブと§§ミュージックの新年会をした。
 
そして最終便の飛行機で東京に戻ったのだが、この帰りの飛行機の中で鱒渕マネージャーは言った。
 
「ローズ+リリーのシングルを作りましょう」
「ああ」
 
ローズ+リリーのシングルは昨年7月の『Atoll-愛の調べ』以来となる。鱒渕さんによれば次は30枚目の記念すべきシングルだという。
 
「何を入れるの?『息子が娘に変わる時』?」
などとマリが言うので、
「却下」
と私は言った。
 
「『缶コーヒーはバイジェンダー』は?」
「どんな歌だったっけ?」
「ほら、これこれ。こないだ見せたじゃん」
 
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と言って政子はバッグの中から紙を出してくる。整理の悪いマリがこの手のものは素早く取り出すのが凄いと私は時々思う。
 
缶コーヒーはバイジェンダー
 
缶コーヒー、あなたはバイジェンダー。
上を見たら、突起が付いてるから、You are a boy.
底を見たら、すっきり平らだから、You are a girl.
そして、液体は突起の付いてる男の子から出てくるの。
 
「却下」
と私は即答した。
 
「え〜?いい発想だと思うのに」
「缶コーヒーからこういう妄想ができるマリの頭の中身が不思議だ」
 
鱒渕さんも笑っている。
 
「昔の缶コーヒーだと、プルトップが外れていたから、あれはちんちんが取れちゃって、穴だけが残るから、性転換していたね。ステイオンタブになって、ちんちんは取れなくなった」
 
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などと政子はまだ言っている。
 

「『燃える雪』を使おうかと思います」
と私は鱒渕さんに言った。
 
「どんな曲ですか?」
「実は『雪が白鳥に変わる』を書いた時に同時に書いていた作品なんですよ」
と言って私はパソコンを開け、譜面を見せて、MIDIの演奏をイヤホンで聞かせた。
 
「格好良い歌ですね」
「どちらを十二月に入れるか悩んだんですよ。でもこちらは個性が強すぎるからアルバムではなく、何かの時にシングルに入れようと思ったんです」
 
と私は説明した。
 
「でもこれはB面の曲ですね」
と鱒渕さんは厳しい指摘をする。
 
「そうなんですよね。タイトル曲に使うのには、やや弱いんです」
と私はそれを認めた。
 
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「ライブツアーの合間に都内で制作したいです。今月中に何か適当な曲を選んでおいて頂けませんか?」
 
「分かりました。考えておきます」
と私はその時は返事しておいた。
 

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1月9日、アクアがデビューの年以来、所有だけしていた、父ゆかりのポルシェの試乗をするということだった。
 
アクアも昨年秋に運転免許を取得して、忙しい仕事の合間を縫って、運転練習を重ねていたようだが、これまで無事故無違反である。今回の試乗には千里が同乗するということだったので、千里が付いているなら大丈夫だろうと思い、コスモスからの連絡を聞いて「問題ないでしょう」と答えておいた。
 
アクアも良い息抜きになったようである。無事故で中央道・新東名を楽しく走って来たらしい。
 
アクアはこれまで3人に分裂していたのが、1月5日に唐突に2人に減ってしまったらしい。NがMとFに半分ずつ吸収されたということだった。それで試乗の時はFがNに見立てた『アクア人形』をスカートの膝の上に置いて運転したらしい。
 
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アクアは映画『気球に乗って5日間』の撮影のため、1月下旬にはオーストラリアに行ってくる予定である。ボディダブルが今井葉月だけでは足りないので、姫路スピカも連れていくらしい。
 

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