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■夏の日の想い出・君に届け(3)

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「まあマリちゃんは忘れ物の天才だし」
「千里よりまだマシだよ」
などとマリは言う。
 
「ちさと?」
「作曲家でバスケット選手の醍醐春海ですよ」
「へー」
「あの子、年に3〜4本は傘を無くすというし」
「なんか後を付いていくと、傘を買わなくてすみそうな人だ」
 
「昨日言ったことも覚えてないし」
「うん。あの子は小さい頃からそんな感じだったらしい」
 
特に今は分裂してるしね、と私は思った。
 
「面白そうな人だ」
「車で出かけていて、誰か乗せ忘れてそのまま出発しちゃったこともあったと言ってたね」
「ああ、置いてかれたのは毛利さんだな」
 
「作曲家の毛利五郎さん?」
「そうです。そうです」
 
「あの人のマンションにも招待されたことありますよ。凄いマンションに住んでおられますね。ペントハウス付きの豪華マンション。やはり三つ葉で当てたんですかね」
と小坂さん。
 
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「あれは三つ葉のデビューに関する作業が忙しくて、数ヶ月家に帰ることができずにいた間に、テレビ局が面白がって勝手に自宅を建て替えちゃったんですよ。それで自宅に戻って仰天したという」
 
「そんなのあり?」
 
ああ、このエピソード知らなかった人もいたのかと私は思った。
 
「壮大なジョークですね」
「テレビ局も無茶苦茶やるなあ」
 
「まあ三つ葉のおかげで月20万の家賃を払えるようになったから結果的にはよかったんでしょうけど。建て替え前は月1万の家賃だったんですよ」
 
「月1万は凄いけど、あのマンションが20万円なら安いんじゃないかなあ」
「広いですよね」
「奥さんも美人だったし、あそこでも夕飯を頂いてしまった」
 
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「あれ?毛利さんの奥さんに会われました?」
「ええ。子供も2人おられて。仲が良さそうでした」
「へー」
 
実は毛利さんの奥さんは誰なのか?というのが、私や千里を含めて数人の間で話題になっている。そもそも私も千里も毛利さんがいつ結婚したのか全然知らなかった。しかし、子供が2人いるということは、やはりあのマンション建替えの直後くらいに結婚したのだろう。三つ葉は毛利さんにとってラッキーガールだったなと私は思った。
 

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「だけど、同乗者を置いてくくらいならまだいいよね」
などとマリが言う。
 
「こないだは、うっかりドライバーを忘れて先に出発しちゃってさあ」
「いや、それはあり得ない」
 
「マリちゃんはやはり面白い。ねぇ、そのネタ、使わせてもらっていい?」
 
「いいですよー。実は、橘由利香・恵利香姉妹と一緒に出かけていたんですよ。一緒にいたのは、ほかに新島鈴世さんと奥原沙妃さんだったかな」
 
「雨宮ファミリーだ」
 
「それで由利香さんがずっと運転していたんだけど、サービスエリアで休んだ後、恵利香さんが運転して、由利香さんが置いてけぼりくらった」
 
「なるほどー。一卵性双生児だと入れ替わりに気づかないかもね」
と私は言った。
 
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「そのネタももらっていい?」
と小坂さん。
 
「どうぞどうぞ」
「まあ一卵性双生児は、推理小説ではよくトリックのネタにされますね」
とバレン。
 
「クローン人間が一般化したら、それが普通に出てくるようになるかも知れないけど」
とマリ。
 
「それは一般化してほしくないなあ」
と私は言った。
 

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「でも『密林の孤独』のラストで、蓮子がボトルメールを川に流してから力尽きるところ、私、泣いちゃいました。あのボトルメールは誰かが拾ってくれるんでしょうかね」
などとバレンは言う。
 
「まあそれは読者が脳内で補ってもらうということで」
と小坂さん。
 
「届くといいね」
とマリが言う。
 
「ボトルメールというとクリスティーの『そして誰も居なくなった』でボトルメールから真相が分かるというラストになってましたね」
とバレンが言うと
 
「実はあれのマネなんだよ」
と小坂さんは少し恥ずかしそうに言う。
 
「そうだったんですか!」
「まあオマージュかな」
と私。
 
「まあ推理小説はどうしても似たようなパターンが再利用される」
と小坂さん。
 
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「音楽のモチーフも頻繁に再利用されますね」
と私。
 
「それは音の組合せは有限なんだから仕方ない」
と小坂さん。
 
「言葉の組み合わせも有限だから仕方ないですね」
と私。
 
「そういえばこの話知ってる?」
と小坂さんが言う。
 
「ある時、マーク・トウェインだったかが、講演を聞きに行ったんだけど、物凄くつまらなくて、眠たくなるのをこらえて聞いていた。それで講演終了後に講演者がマークトウェインが居るのに気づいて、声を掛けた。私の講演どうでしたか?と」
 
「あ、その話聞いたことある」
と私も言った。
 
「素晴らしい講演でしたね、とマーク・トウェインは言った。でも私は今日の講演の一字一句 every word が書いてある本を知ってますよと。講演者はそんな馬鹿な。そんな本があったら、見せてくださいと怒って言った」
と小坂さん。
 
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「それでマーク・トウェインは巨大な辞書を送ってやったんですね」
と私は落ちを言った。
 
バレンは
「すごーい」
と言って、笑ったが、マリは意味が分からなかったようでキョトンとしている。それで追加の説明が必要かなと思ったところで
 
「あ、分かった。うまいね!」
とマリは言った。
 
「だけど私は蓮子のボトルメールは届くと思いますよ」
とマリは言う。
 
「届かないと悲しいよね」
と作者自身も言っている。
 

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「あれ?なんか『届くといいね』みたいな感じの曲が無かったっけ?」
とマリは言った。
 
それで私も思い出した。
 
「『君に届くように』だったかな。どこかに譜面はあったはず」
と言って探し始めた時、ちょうど青葉から電話があった。
 
「冬子さん、すみません。政子さんの実家の隣の敷地なんですが」
「うん」
 
「どうもタヌキか何かが迷い込んで、毒気に当てられて死んでいる感じなんですよ。そのままにしておくとまずいので、便利屋さんか何かにでも頼んで、除去してもらえませんか?」
 
「分かった!その便利屋さんは大丈夫?」
 
「敷地内に30分以上留まらないで下さい。どうも最初にカラスか何かが死んで、その肉を漁ろうとして、そのタヌキか何かもやられたのではないかという気がします」
「分かった。明日にも処置するよ。ありがとう」
 
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「いえ。マリさんの家の結界に微妙な障害があったので何だろうと思って探査してて気づいたんですよ」
 
「マリの家に結界張ってるんだ?」
「でないと、あの敷地の毒気は周囲の家にも影響が出ますから。家が建っていた間はその家がバリアになって、あまり影響無かったんですよ」
 
「他の家は大丈夫」
「他の3軒は家を崩して再建中で人が住んでいないから、問題ないです。春までにはここまでしなくてもよくなると思うのですが」
 

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「ありがとう。そうだ。青葉、これ別途依頼料払うから、ちょっと捜し物してくれない?」
「何かの譜面ですか?」
「よく分かるね!」
と私は驚いて言う。
 
「6年くらい前に書いた曲なんだよ。『君に届きますように』とか何とか、そういう感じの曲なんだけど」
 
「それ沖縄かどこかで書きました?」
「よく分かるね!」
 
「沖縄の空気の染み込んだ五線紙が、本棚の青いファイルにはさまってます。背表紙には・・・『ドイツ資料』って書いてあります」
 
「ちょっと待って」
 
それで私は本棚に立っている『ドイツ資料』と書かれた青いファイルを開いた。その途中に、五線紙はあった。ドイツの各地のソーセージの一覧の写真がファイリングされている。どうも栞代わり!に、はさんでいたようだ。たぶんマリのしわざだ。
 
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「ありがとう。見つかったよ」
「この程度は毎月の顧問料の中で処理ということで」
「そう?じゃ今度何か適当なもので埋め合わせを」
「気にしないでくださいね。では」
「うん。ありがとう」
 

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それで出て来た譜面には『君に届きますように』ではなく『君に届け』と書かれていた。バレンが
「良かったら見せてください」
と言って譜面を見た。
 
「なんかこれ凄い曲のような気がする」
と彼女は言った。
 
「今度のローズ+リリーのシングルに使えるかも」
と私もあらためてその譜面を見て言った。
 

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なお、実際には政子の実家の隣の敷地のタヌキ?の死体は便利屋さんに頼むまでも無かった。その日の夜遅く、千里から電話が掛かってきて
「政子ちゃんの実家の隣の敷地に、カラスと犬の死体があっから処分しといたよ」
ということであった。タヌキではなく犬か!
 
「首輪とか無かったから、たぶん捨て犬か何かだと思う」
「無責任な飼い主のおかげで可哀想なことしたね」
「あそこ冬たちも気をつけてね。人間は身体が大きい分、耐性があるけど、30分程度以上留まらないようにして。霊鎧を身にまとっていない限り、それ以上の滞在は危険だから」
 
「じゃ11月に処理してくれた時は、霊鎧をまとって作業してたんだ」
「当然。死にたくないからね」
「大変だったね!」
 
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電話を切った後で、私は疑問を感じた。11月にあそこの処理をしてくれた千里は何番で、今電話を掛けてきたのは何番だろうか?と。
 
(正解は、あの時処置したのは1番、今電話を掛けてきたのは1番と合体済みの3番である。実際には千里が気づく前に千里の眷属が気付き、処分した後で千里に報告したもの)
 

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2020年1月29日(水)、ローズ+リリーの17枚目のアルバム(6枚目のオリジナルアルバム)『十二月(じゅうにつき)』が発売された。当日、私とマリ、氷川さんと風花・七星さんの5人が★★レコードの入っている表参道ヒルズ1階の貸会議室で、発売記者会見をした。当日はスターキッズの伴奏で、アルバムの中から『ヴィオロンの涙』(アコスティック)と『草原の夢』(リズミック)を演奏した上で会見に臨んでいる。
 
(スターキッズもアコスティック楽器から電気楽器に持ち替えて伴奏してくれた。ヴァイオリンを弾いてくれたのは§§ミュージックの大崎志乃舞(門脇真悠)ちゃん、『草原の夢』の口琴は私の中学以来の友人である、カチューシャの鳥野干鶴子である)
 
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記者たちの反応は概ね良い感じであった。目前のツアーや復興支援イベントについても訊かれるので答えていく。次のシングルの予定、次回のアルバムの企画についても尋ねられたので、次のシングルは3月くらいに発売予定であること、また次のアルバムは、現時点では仮題であると断った上で『across』というタイトルで考えていることを明らかにした。
 
「『across the universe』の"across"ですか?」
「そうです、そうです。あんな名曲が作れたらいいのですが。最初はtransport, transverse といった感じの trans というのを考えたのですが、trans musicと勘違いされては困るし、マリが transsexual, transgender, といったものをたくさん作りたがるので across にしました」
と私が言うと、記者たちは笑っていた。
 
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夏の日の想い出・君に届け(3)

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