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■夏の日の想い出・君に届け(5)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-07-25
2月4日の夜、スマホのメールチェックをしていたら、千里と桃香から“引越のご連絡”というメールが来ていたのでびっくりした。2人の連名で送ってきたということは千里1(+3)だろうと思った。私は(千里は(人数が減ったのでよけい)忙しいだろうと思い)桃香に電話してみた。
「何かあったの?」
「実は、千里が京平君を引き取ることになったんだよ」
「ほんと?それは良かったけど、よく阿倍子さんが手放したね」
「阿倍子さんが再婚するんだけど、京平君が再婚相手の子供と相性が悪くて」
「へー」
「それで千里に預かってくれないかということになったんだよ。本来は自分が世話できないなら、細川さんに渡すべきかも知れないけど、阿倍子さんとしては美映さんには委ねたくないじゃん」
「それは分かる」
「それなら遺伝子上の母である千里の方がまだマシという判断になったみたいだよ」
京平君の遺伝子上の母が千里だというのは、もう確定事項になっているようだなと私は思った。
「まあそれで、子供が3人になるし、男の子と女の子が混じっていては同じ部屋に寝せる訳にもいかないし、引っ越そうということになったんだよ」
「なるほどー」
「面倒くさいから京平君、性転換して女の子にしちゃおうよと言ってみたけど、ダメだと言うし」
「それは無茶でしょ」
「あの子、女装させたら女の子でも通ると思うけどなあ」
「じゃ、引越祝いに素麺でも送るよ」
「素麺よりお酒がいいな」
「じゃ、うちに来て、棚にあふれてるの適当に持ってってくれない?」
「行く!」
と言って桃香は翌2月5日に恵比寿のマンションまで来て、ウィスキーや日本酒を持てるだけ!お持ち帰りしていった。
2月10-14日の週に、ローズ+リリーのシングルの音源はほぼ完成の域に到達し、シングルの制作作業はPVの制作に主軸を移す。
『君に届け』は鈴鹿美里に出演してもらった。彼女たちは1月はローズクォーツのアルバム(『Rose Quarts The Best』)制作に参加していたのだが、それが終わった所でこちらに来てもらい、彼女たちの出身地である、宮古八重山列島の小浜島(こはまじま)沿岸で撮影したビデオをベースに編集している。鈴鹿がボトルメールを船から海に投じる所、浜辺に流れ着いた瓶を美里が拾って中を開け、鈴鹿の手紙を見る所などが映っている。
この映像は、公開後、レスビアンもいいですよね、などという声が結構出たのは正直驚いた。
「あのぉ、鈴鹿美里の2人は姉妹なんですけど」
「姉妹でも愛さえあればいいと思う」
いいのか!?
「でもどうせ結婚するなら、美里ちゃん、おちんちん切らなくても良かったのにね」
などという声まであり、美里本人はお腹を抱えて大笑いしていたらしい。
でも鈴鹿美里のお母さんはそれをネットで見て
「あんたたち愛し合っているんだっけ?」
などと2人に電話してきて聞いたらしい。
「まさか」
「だいたい私たち2人ともストレートだし」
「双子の男の子と結婚できたらいいな」
「それで同日結婚して、同日出産して」
「そしたら子供たちも履歴書1枚で済むね」
「性別は?」
「違っていたら性転換させて統一するということで」
「生まれてすぐ性転換してその性別で出生届出すといいよね」
「どちらが性転換するかはジャンケンね」
お母さんはどこまでジョークなのか分からず困惑していたらしい。
しかし履歴書が1枚で済むというのはXANFUSの黒井由妃姉妹もそうであった。あの2人は同じ日に生まれ、同じ学校に行き、同じコンテストで同時優勝し、というので経歴が完全に同じなのである。
この曲のPVには、2月1日の沖縄公演の際に、宜野湾市のビーチで私とマリの映像を撮影したものも混ぜている。2月なのでさすがにビーチでは普通の服で歩いているが、プールで水着になっている所も撮影した。美原さんに乗せられて2人ともビキニを着ているが、ファンの人たちからは
「体型が崩れていないのが凄い」
と言われた。マリはたくさん食べる割にウェストは細いのである。食べたものがいったいどこに収納されているのかが不思議である。
「ローザ+リリンがビキニになるから、本家が体型で負ける訳にはいかないし」
などと私はコメントしておいたが
「ローザ+リリンのビキニ姿は結構セクシーらしいね」
などとネットにも書かれていた。
2人のビキニ姿は、この後発売されるローズクォーツの『Rose Quarts plays Pops』のPVで披露され、
「35歳,36歳のビキニ姿とは思えん」
「2人ともまだ27-28歳に見える。すげー」
などと書かれていた。(ちなみに私とマリは28歳である)
本当に彼女たち(“彼ら”ではなくもう“彼女ら”でいいだろう)には負けられないな、と私は思った。私もそのビデオは(発売前に)見せてもらったが、取り敢えず性転換したマリナだけでなく、まだ(?)性転換していないはずのケイナも“男のビキニ姿”には全然見えないのが凄い。ケイナは自分は結構肩が張ってるからとは言っていたのだが、自身がMTFのメイクアップ・アーティスト・小林マユミさんがメイクを担当し、やはり自身がMTFの映像作家・深中加奈美さんが撮影したビデオでは、その付近がうまくカバーされていて、肩の張りなどは特に感じられないようになっていた。
(「ファンデーションによる陰影付けとアングルとか考慮した視覚マジックなんですよ」とマリナが私には言っていた。映像加工は一切していないらしい)
なお、小林さん・深中さんを担ぎ出したのは、大宮副社長である。
『Burning Snow』は、千里が滋賀県に所有している化学工場で撮影させてもらった、化学繊維で作られた“雪”が実験室内で本当に燃え上がる様子と、北海道で美原さんが撮影してきてくれた、猛吹雪の映像を、則竹さんがうまくつなぎ合わせている。それでクライマックスの所では本当に降っていた雪が燃え上がっていくような映像にすることができた。雪の中で戯れている未来的?衣装を着た女の子たちは、UFOの3人である(北海道に行ってもらった)。
前述のように11日に札幌に私たちが行った時に撮影した映像も入っている。
『心の手をつないで』は、UFOのライバル、スパイス・ミッションに出演してもらっている。セーラー服を着たタイムと、学生服で男装したミントが手を繋ごうとするのだが、お互いに恥ずかしがって手をつなげない。2人もじもじしながら、たくさんお散歩するのだが、最後は女性用ビジネススーツで女教師に扮したクミンが、2人の間に入り、双方の手を握って、女装のタイムと男装のミントは“間接的に”手をつなぐことになる。これは可愛い!といって結構話題になった。中学生でないと成立しない映像であった。撮影は、早朝、開園前の八景島シーパラダイスで行っている。撮影は柳川裕希である(美原は北海道に吹雪の撮影に行っていた)。
「柳川さん、なんならうちの社員として登録して、健康保険証とかも発行しましょうか?国保は保険料高いでしょ?」
「それやると、ますます全国的に飛び回ることになりそうだから、今の所はフリーでいいです」
彼女は本来、近畿・北陸周辺の撮影のみ協力してもらう約束だったのである)
この曲のPVでは、私とマリは、八景島シーパラダイスのメリーゴーランドやバイキングに乗っている映像も入っている(マリも、同乗して撮影した柳川さんも平気そうだったが、私はバイキングに乗ったあと5分間立ち上がれなかった)。
2月11日、WHO(世界保健機構)およびICTV(国際ウイルス分類委員会)は今回のコロナウイルスによる疾患をCOVID-19 (COrona VIrus Disease 2019), ウイルス単体の名称をSARS-CoV-2と決定した。
状況はどんどん深刻化していく。2月13日にはとうとう国内で最初の死者が発生した(神奈川県の80代の女性)。
2月15日(土)の福島、16日の東京(日)では、かなりの不安の中の公演となった。
福島は若葉の会社ムーランが所有する福島ムーランパーク、東京は私と千里、雨宮先生、KL銀行の合弁会社JER4が所有している91Club体育館(愛称・深川アリーナ)である。どちらも津幡同様無理が利くので、緊急対策を施した。
・トイレは自動ドアまでは間に合わなかったので、ペーパーホルダーのカバーを撤去、便座除菌クリーナーとアルコールジェルの設置、男子小便器の飛散防止ドームの投入まで行った。トイレ自体の出入口は開放したままにした。
・工事して換気用の窓(建物の強度を落とさないよう鉄骨で補強しながら窓穴を空ける)をたくさん設置した。この窓もホールのドアも開放した状態で演奏する。どちらもホールの外側は廊下なので、ここを開けたままにしても外部にはあまり音が漏れないのである。廊下は大型扇風機で強制換気する。
(元々防音効果を高めるため面積を犠牲にして二重壁構造にしていたのが役だった)
・椅子に緊急対策で、背もたれの上にプラスチックの板(千里と若葉が協力して調達してくれた)を全部貼り付けた。これで後方からの唾や咳などから頭を守ることができる。若葉の会社の人とイベンターのスタッフまで動員して人海戦術で工作をしている。作業してもらった人たちもマスクとゴム手袋の着用をしてもらっている。
・椅子を並べる時にスタッガードに並べた。結果的に観客は前後にはほぼ2mおきに並ぶことになり“ソーシャル・ディスタンス”を確保できた。
むろん入場時に赤外線による体温検査をし、手はアルコールジェルで消毒してもらい、全員にマスク+ポケットティッシュ・ゴミ入れのビニール袋を無料配布している。ライブ中は歓声・手拍子禁止、立ち上がり禁止である。無料配布したサイリュームを振るのが声援代わりとする。扇風機を回して換気をおこなう。物販はPaypayとクレカのみにして現金の受け渡しは原則無しとした。
例によって物販の売上が普段より明らかに多かった。やはりみんな現金でない場合は、コスト意識が低くなり?多めに買ってしまうようである。
スタッフはバイトさんたちを含めて、全員マスクとゴム手袋着用、検温に加えて前日に医師による健診まで実施している。また最近海外に旅行した人は除外。家族に風邪症状のある人がいる人もバイト代は8割払うから休めと言って休ませた。
2月16日、東京の屋形船で1月18日にクラスターが発生していたことが報道され、急速に不安が広まった。
「密閉した室内で空調利かせてたから、ウィルスが室内で広まったみたいね。しかも大皿料理だし」
と丸山アイは言った。どうも最悪の条件が揃っていたようである。
「エアコンのフィルターくらいは、ウィルスは通過するから」
とアイは言う。
「エアコンのフィルターの浄化能力ってどのくらいなんだっけ?」
と私は尋ねてみた。
「エアコンに取り付けられる業務用のフィルターだと、だいたい0.1-2.5μm程度以上の粒子は除去する。PM2.5というのが2.5μm」
「ああ、PM2.5って単位がμm(マイクロメートル)だったのか」
(PM = Particulate Matter 粒子状物質)
「花粉が10-100μm、タバコの煙が0.1-0.5μm。だからタバコの煙までは30分くらいで除去してくれる。カビの菌は20μm程度だから楽勝」
「ああ」
「でもコロナウィルスはジャスト0.1μm程度だから、たぶん微妙に通り抜けるんじゃないかと思う」
「惜しいね」
「ちなみにそういう付加フィルターを取り付けずに、エアコン付属のフィルターしか使っていなければ100μm程度以下は素通り」
「それは、そういう運用の所が多い気がする」
「一時期、某メーカーが盛んに宣伝していたHEPAは0.3μm以上の粒子をキャッチする。むろんコロナウィルスは素通り」
「高級機種でもその程度か!」
「空気清浄機も多くはHEPA程度のフィルターしか使っていない」
「アウトじゃん」
「中にはULPAといって、HEPAより細かい粒子までキャッチするフィルターを使う空気清浄機もあるけど、それでも0.1μm程度」
「うーん・・・」
「ついでにエアコンの付加フィルターにしても、空気清浄機のフィルターにしても寿命は2年程度。それ以上使っていたら能力が落ちる」
「それは耐用年数を遙かに超えて使っている所が大半という気がするよ」
「よく10年持つと書いてあったりするけど、それって1日にタバコ5本の煙を処理した場合だから」
「負荷が小さすぎる」
「あと油の煙を吸うと劣化が激しい」
「飲食店とか屋形船はそれ多い気がする」
「まあ焼肉とかやれば、あっという間にダメになるだろうね」
「ああ」
この後、札幌の雪まつり(2/4-11)でもクラスターが発生していたことが判明した。更に2月14-15日には北見市の住宅設備の展示会でクラスターが発生した。
2月18日、大阪府の吉村洋文知事が、府主催のイベントを取り敢えず1ヶ月間は中止することを発表した。この時点での国内の感染者数は73人・死者1人である。
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