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■夏の日の想い出・君に届け(7)

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「無観客で演奏するのはいいけど、声援が欲しいなあ」
と音羽は言った。確かに彼女たちの音楽は、観客と一体となることで成立している。
 
「いや、それは唾が飛んでエアロゾルが発生して感染の元になりやすいから」
「だからさあ、観客席に液晶パネルか何かずらっと並べてさ、そこにリモートで見て居る人の映像を映すんだよ」
 
「ほほぉ」
「あと中継中の映像見て居る人に声援ボタンとか配っておいてさ、それ押したら録音されている声援が再生されるの。そしたら、演奏してる側もたくさん声援されて演奏している気分になれる」
 
私は検討に値すると思った。それで則竹さん、★★チャンネルの技術者さんにもZoomの会議に参加してもらって打ち合わせた結果、この音羽が提案した方式が導入されることになったのである。
 
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客席に並べるのは、プロジェクタとスクリーンということにした。
 
モニターの数だが、深川アリーナに椅子を並べてもらい、そこにモニターに見立てたボール紙!をずらっと並べてみた。その結果、モニターは最低でも500個+書き割りの観客500くらいは欲しいということになった。モニターのサイズとしては、70cm×100cm程度は欲しい。対角線は三平方の定理で√(1002+702)=122cmでインチに直すと49インチということになる。
 
このくらいの液晶モニターは安いものでも20万円くらいするので500個買うと1億円ということになる。それはいいのだが、問題は3月7日までにそんな大きなサイズのモニターを500個も調達できるのかという点であった。
 
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「2-3ヶ月あれば何とかなるんだけど」
「半月しかないからなあ」
 
それで代わりにプロジェクタとスクリーンということにしたのである。スクリーンは実験で使ったようなボール紙でも行ける。プロジェクタは1個4-5万円と安価であるが、それより、プロジェクタなら半月で500個買い集めるのは可能だと思われた。
 
若葉は大手メーカーに、余った分も全部買い取るから、可能な限りプロジェクタを売ってくれと頼み、結局2月中に778個のプロジェクタを調達してくれた。調達単価は平均3.5万円で、私は若葉に彼女のマージンを含めて4000万円払った。若葉、というより彼女の伯母の会社のネームバリューが無ければ調達は不可能だったろう。
 
しかし同じシリーズで揃えることができたので(機種自体は数ランクある)、セッティングは全部同じパターンですることができて、会場の設営が楽だった。これが電器店の店頭などで買いあさっていたら、色々なメーカー・機種が混じって現場は大混乱になっていたであろう。
 
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売ってくれたメーカーは一時的にプロジェクターの在庫が足りなくなり、工場に増産させたらしいが、それが4月以降、ますます売れて特需となることになる。
 
なお、これらのモニターを制御するパソコン800台はコスモスが台湾で調達してくれた。現在中国からの荷物はほとんど停止しているが、台湾は大丈夫である。調達単価は関税を含めて平均2万円で私はコスモスにマージンを含めて3000万円払った。こちらはメーカーが数社にまたがったが、全てwindowsマシンなので大きな問題は起きなかった。
 
この他に書き割りを全座席!に置こうということになり、書き割りは7000枚くらいブリントして作ることにした。ファンから自画像を募集したら2万個くらい画像が送られて来たので、抽選で7000枚選ばせてもらった。
 
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声援ボタンについては、ストリーミングを視聴するソフトにその機能を組み込むことができるということだったので、入れてもらうことにした。教育テレビや民放のバラエティなどでよくやっているように、投票数に応じたグラフが会場のモニタに表示されるようにし、それに応じて予め録音していた(過去のライブの録音から切り取った)様々な声の声援が会場のスピーカーから流れるようにした。テストでスターキッズに(深川アリーナで)演奏してもらったが、かなりの臨場感があって、これは凄いと思った。
 
こういった準備があったので、愛知・大阪・大宮の公演中止は2月18日、津幡は津幡は2月21日に中止を発表したのだが、払い戻しは3月上旬から行うと発表しておいた。資金繰りの関係かとも思われたようだが、実はこれらの準備をしてから払い戻しを実施したかったのである。
 
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震災復興イベントのチケットを買った人だけでなく、津幡・愛知・大阪・大宮のローズ+リリー公演のチケットを買っていた人にも、震災復興イベントのステージ(8日午後分)を無料で見られるようにした。
 
それで、チケットの座席番号と発行idを控えてから払い戻しをしてくださいと呼びかけたのである(ただしファンクラブを通してチケットを買った人は、控えておかなくても、ファンクラブの認証を通ればチケット購入履歴がデータベースに記録されているので、無料で試聴できる)。
 

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なお、ローズ+リリーのライブの演奏者は次のように決めた。
 
Rose+Lily マリ・ケイ
Star Kids & Friends Gt.近藤嶺児 Sax.近藤七星 Bass.鷹野繁樹 Dr.酒向芳知 Mar/Vib.月丘晃靖 Tp.香月康宏 Gt/Tb.宮本越雄
お友達 Pf.古城美野里 Cla/KB.近藤詩津紅 Vn/龍笛.醍醐春海 Sax/Fl/篠笛.大宮万葉
 
シングルの音源制作で東京まで出て来て参加してもらった青葉のお友達、田中世梨奈さんと上野美津穂さんは、感染の危険をおかしてまで(しかも自腹で:実際には青葉が交通費を出すと言っていた)仙台まで来てもらうのは気の毒なのでキャンセルとした。
 
音源制作の時にヴァイオリンは大崎志乃舞ちゃんに弾いてもらったのだが、今回は感染リスクを考えて“身内”で固めたかったので、彼女にも8日の演奏をお願いしていたのだがキャンセルとし、代わりにヴァイオリンは千里に弾いてもらうことにした。
 
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風花は妊娠中なので休ませることにした。それでフルートは青葉に頼むことにした。
 
千里はどっちみちゴールデンシックスにもカウントされているらしかったが、青葉も結局、この機会に“ゴールデンシックスと愉快な仲間たち”のバッヂを渡されていた!
 
結局、ゴールデンシックスはこのようなメンバーになったらしい
 
Gt.リノン KB.カノン B.美空 Dr.由妃 Fl.千里 Sax.青葉
 
黒井由妃はXANFUSのドラムスなので、どっちみち仙台に行くから徴用したのである。結局、今回のゴールデンシックスは、同時に出場する他のユニットから全員調達してしまった。
 
ちなみに由妃は2人で分担して出演すると思われるが、どちらがどちらに出演するかは“企業秘密”らしい。この2人を見分けることができるのは親友の noir だけである。XANFUSの他のメンツには見分けがつかないという。
 
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震災復興支援イベントを目前にした3月3日、政子は大林亮平とデートをしたので、私は朝帰りになるだろうと思っていたのだが、夜12時前に恵比寿のマンションに帰って来た。
 
「どうしたの?亮平さんと朝まで一緒かと思ってた」
「別れた。婚約解消」
「嘘。なんで?」
 
「私が男と別れるのに理由はない。冷めちゃったし」
とマリは言った。私はそれでも理由を問い糾したのだが、政子は言いたくないようであった。
 
取り敢えず赤ちゃんは産むし、亮平は認知するし出産費用も養育費も払うと言っているらしい。養育費については最初政子は要らないと言ったものの、亮平君は
「これはマサリンに払うんじゃない。そのお腹の中の子供に払うんだから」
と主張したので、子供が生まれたらその子の名義で口座を作りそこに亮平が毎月振込むことにしたらしい。
 
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「先に口座作っておこうかな。私、この子に輝絵(てるえ)と名前付けちゃったし」
「男の子だったらどうするのさ」
「性転換しちゃえばいいよ。生まれてみて、もしちんちん付いてたら、お医者さんに頼んで取ってもらおう」
「そんな手術は拒否されると思うなあ」
 
なお、亮平君と一緒に住む予定だった、実家の離れもそのまま建設するという。政子によると“ボーイフレンドと泊まるのに便利”という話である。
 

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その翌日、3月4日はローズ+リリーの30枚目のシングル『君に届け』が発売された。時節柄、発売記者会見はリモートで開いた。
 
中継施設を備えたスタジオとして、§§ミュージック研修所のスタジオを使用した。加藤部長は、早急に★★スタジオから中継できるようにすると言っていたが、現時点ではまだできない。需要が急速に高まって資材が調達できないし、設定する技術者も不足しているらしい。
 
ここで私とマリは予め録音していたスターキッズの伴奏に合わせて2人だけでシングルに収録した3曲をいづれもショートバージョンで歌唱した後、マスクをして、記者会見のテーブルに就いた。ここで私とマリは1mの距離を空けて座る。
 
私の隣に、氷川課長が映された液晶パネル、マリの隣には鱒渕さんが映された液晶パネルがある。氷川さんは★★レコードの技術部、鱒渕さんは研修所の隣の部屋に居て、各々そこからリモートで参加する(鱒渕さんの映像はLANでつないでいる)。このスタジオに居るのは、私とマリの他は、中継用のカメラを扱う§§ミュージックの技術者・山元凛奈さん(女性)だけである。山元さんもマスクを付けている。
 
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この様子は★★チャンネルを通して、インターネットで無料で視聴できるのでこれを見た人の数が物凄かった。記者たちもこのチャンネルを通して見ているのだが、予め選んでいた10人の記者が直接こちらのスタジオに問いかけて質問ができるようにしていた。
 

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私たちはここで、マリの妊娠を発表したのだが、事前に情報が全く漏れていなかったので、かなり驚かれた。公開した情報はこのようなものである。
 
・出産予定日は10月である。
 
・父親は公表しない。その人とは結婚もしない。出産費用や養育費は払うと言っている。実は結婚するつもりで婚約記者会見の準備もし、結婚式祝賀会の予約も済ませていたのだが別れた。婚約指輪は返却した。
 
・あやめの父親とは別の人である。
 
・コロナの影響で、どっちみちしばらくライブはできないので、特に休業期間は設けない。
 
・子供は現在ケイと一緒に暮らしているマンションで、あやめと一緒に育てる。さすがに子供2人の世話をずっとしていると仕事に差し支えるのでベビーシッターを雇うつもりでいる。
 
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結局楽曲のことより、このマリの赤ちゃんのことで質問が集中し、記者会見は予定を大きくオーバーして、2時間も続いた。記者たちは赤ちゃんの父親について質問したものの、マリは頑として口を割らないし、鱒渕さんがジョークを交えて、やわらかに記者たちの質問をさばいてくれた。鱒渕さんのおかげで、場の雰囲気は終止明るく笑いに満ちていて、結果的には記者たちも毒気を抜かれてあまり強い追及ができなかった。
 
そして、この2時間の会見の間に、ダウンロードサイトでのダウンロードが80万件にも達し、Amazonでの購入申し込みも50万件に達して、元々予約されていた件数および、昨日の夕方以降店頭で既に購入されていた枚数も含めると、売上がいきなり180万件に到達。翌日には200万件を突破して、ローズ+リリー最大のヒット曲になってしまったのである。
 
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(販売件数を公表しない契約の『神様お願い』を除く)
 

ネットの反応は、父親探しでいろいろ憶測をする人たちもあったが
「妊娠おめでとう」
「元気な赤ちゃん産んでね」
といった声が大半であった。
 
どうも「結婚しない」とマリが明言したことで、男性ファンがほとんど離れなかったようなのである。
 
マリが結婚すれば“誰かのもの”になってしまうが、赤ちゃんを産んだとしても“未婚”であれば、マリは“誰の物でもない”ので、男性ファンの“心の恋人”で居続けられるようであった。
 
ちなみに父親候補としてあげられた中に、大林亮平の名前は無かった。∞∞プロによる情報封鎖が物凄くうまく行っているようである。
 
例によってまたまた名前を挙げられてしまった松山貴昭は、またまたDNA鑑定をして親子関係を否定する鑑定書を奥さんに提示する羽目になった。ネットで具体的な名前まで挙げられてしまったので、彼はその鑑定書をわざわざネットに公開した。そして結果的にマリが妊娠している胎児は男の子であることも判明し、政子が赤ちゃんに「照絵」と名付ける考えは挫折した。
 
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「性転換したらダメ?」
「ダメ」
 
結局赤ちゃんの名前については、政子自身が亮平君と電話で話して“大輝”と決定した。早速銀行で“中田大輝”名義の口座を作ろうとしたが「胎児の口座は作れませんから生まれてからにして下さい」と言われたらしい。
 
「女の子下着を着せてスカート穿かせて育てようかなあ」
「やめなよ、そういうの」
 

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夏の日の想い出・君に届け(7)

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