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■夏の日の想い出・モラトリウム(11)

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マリが参加する時代劇『立つ!』の撮影は、役者さんのスケジュールの関係で、9月から開始されることになった。原則として第1・第3火曜日が撮影日なのだが、9月だけは毎週火曜日にお願いしますということだった。
 
有名所を結構使っていることもあり、土日は日程が取れない人が多いので平日に行うことになったようである。撮影は、茨城県のワープステーション江戸で朝から夜中まで行われる。日中しか撮れない映像、夜中しか撮れない映像がある。
 
集合は、つくばエクスプレスの、みらい平駅に朝6時、あるいは新宿に朝5時半集合(送迎バスが運行される)または自家用車などで直接行く(許可証が必要)ということであった。帰りはつくばエクスプレスの最終(みらい平23:26-0:12秋葉原)に間に合うようにはするが、間に合わなかったら全員を都内までバスで送るという話である。
 
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みらい平に6時までに着くには秋葉原を5:08の列車に乗る必要がある。ふだんお昼くらいまで寝ている政子に、5時秋葉原でも5時半新宿でも集合できる訳もなく、許可を取って車で行かせることにする。お手数ではあるのだが、朝5時に佐良さんに来てもらい、リーフに乗せて送り出すことにしたものの、政子をベッドから駐車場まで連れて行くのが毎回大変だった!
 
佐良さんには現地で待機してもらい、帰りも政子を乗せて帰って来てもらうが、さすがに丸一日稼働すると帰りのリーフの中でも政子はひたすら寝ていたようである。
 
なお、政子が出ている日は、政子のお母さんに来てもらって、あやめのお世話をお願いすることにした。
 
なお、大林亮平は8月いっぱい『ヒカルの碁・棋聖降臨』の撮影をやって、9月からそちらに入る
 
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またアクアたちもワープステーション江戸で『ほのぼの奉行所物語』の撮影をしていたが、そちらは7月上旬で終わっている。その後、アクアは郷愁村で『ヒカルの碁』の撮影に入った。
 

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ローズ+リリー、KARIONともに、ツアーをやらないかという話もあり、私も一時は乗り気になったのだが、やはりアルバム作りを優先させてもらい、ライブ・ツアーはしない方向にさせてもらった。取り敢えず苗場ロックフェスティバルと横須賀のサマー・ロック・フェスティバルには出場したので、活動しているということは認識してもらえるはずである。
 
KARIONのアルバムを先行して8−9月に制作することにした。ローズ+リリーの制作はどうしても長丁場になるので、KARIONを片付けてから腰を据えてやりたいというのと、9月にマリが時代劇の撮影で毎週火水が使えないと思われたからである。撮影は火曜日だが、丸一日撮影をしたら翌日は丸一日寝ているに決まっている!
 
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KARIONのアルバムは7月中に大半の楽曲が揃ったので、苗場が終わった後からスタジオに入って制作を進めた。この作業をしている間(8〜9月)は小風は和泉のマンション、美空は私のマンションに泊まり込むことにした。作業が深夜まで掛かることもあるので、帰宅するのに掛かる時間を節約する。特に小風の場合、遅くなると帰宅出来なくなる場合が多い。
 
しかし・・・美空が泊まり込むということは、凄まじい量の食材が消費されるということであった!
 
うちのマンションではここで御飯を食べていくアーティストもよくいることもあり、毎月30kgの玄米を農家から直送で買っている。私はその農家に電話して当面30kgの袋2個頼めないかと訊いた。
 
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「はい。いいですよ。下宿生さんが増えるんですか?」
「あ、そうですね。夏休みもあるので。取り敢えず10月まで」
 
と会話したが、向こうはこちらを下宿屋さんか何かと思っているようだった!!そして、この毎月60kgの米でも足りなくなり、私は間に合わせでスーパーでもお米を買ってくるはめになる!
 
(「いつものお米より美味しくない」と文句を言われた。マリも美空もたくさん食べるくせに、ちゃんと味は分かっているようだ)
 

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今回のKARIONのアルバムでは、和泉のコネでM大学のオーケストラの全面協力を得た。それで『星降る朝』のティンパニをはじめ、ストリング・セクションやホーンセクションを含む曲を積極的に入れることができた。
 
元々コーラスなどの世界と親和性のあるKARIONの曲はクラシック・オーケストラとも相性が良い。学生さんたちも、8月は何かバイトをしなきゃと思っていたということで、ちょうど夏休みになる8〜9月の間、毎日いいギャラがもらえるので、バイトには行かず、こちらに専念してくれる人が多かったようである。
 

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2019年9月8日(日).
 
政子は朝5時半!?に起きると、徹夜で『十二月』用の楽曲のスコアを書いていた冬子に「ちょっと出かけてくるね。あやめをよろしく」と言う。こんな早朝に政子が起きるなんて何かの間違いでは?と目をゴシゴシしている冬子を置き去りにして、予め呼んでいた佐良さんの運転するリーフに乗って品川駅に向かった。
 
品川発6:00の《のぞみ99号》に乗り、大阪に向かう。新大阪駅で降りるとタクシーでその病院に入った。
 
この階かなぁ〜?と思いながらうろうろしていると、女性看護師さんに声を掛けられる。
 
「何科ですか?」
 
「友人がお産なので。分娩室は何階でしたっけ?」
「B棟の5階ですよ。ここはA棟の5階なので、お手数ですが一度1階まで降りてからB棟という矢印に沿って移動してください」
 
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「ありがとうございます!」
 
なるほど〜!A棟とB棟があったのかと政子は思った。
 

それで政子がB棟5階に行くと、廊下を歩いてくる貴昭と遭遇した。
 
「来たの?」
と驚いて彼が言う。
 
「久しぶり」
と言う。彼と顔を合わせるのは紗緒里が産まれた2年前以来である。
 
「赤ちゃんは?」
「さっき産まれた。今新生児室に入っている。露子は自分の病室に戻った」
 
「赤ちゃん見ていい?」
「うん」
 
それで貴昭に連れられて新生児室の前まで行った。
 
「そこの3番目の赤いベビー服着てる子だよ」
「可愛い!」
と言って政子が見ていたら、その子がこちらを見てニコッとした気がした。政子はドキっとする。
 
「名前は?」
「安貴穂(あきほ)。安らかな貴重な稲の穂」
と貴昭は字を説明する。
 
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「へー」
それで見ていたが、貴昭は
 
「悪い。会社に呼ばれているから行っていい?」
「あ、ごめん。行って行って」
 

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それで貴昭が行った後も、政子は楽しそうに赤ちゃんを見ていた。
 
するとそこに小さな女の子がやってきた。
 
「おばちゃん、どのこ、みてるの?」
「左から3番目の子。左って分かるかな?」
「うん。おはしもつてだよ」
 
えっと、この子は左利きなのかな?
 
「わたしもそのこ、みてるの」
「あれ?だったらあんた、さほりちゃん?」
「うん」
と答えてから、紗緒里は何故かはにかむような表情をした。
 
「おばちゃんもあかちゃんうんだの?」
 
「こないだ産んだよ。今日はおうちでお留守番してるけどね」
と答える。
 
「このこ、わたしのいもうとだけど、かわいいよね」
「ほんとかわいいね。さほりちゃんもかわいいよ」
「えへへ」
「さほりちゃん、あきほちゃんを可愛がってやってね」
「うん。かわいがるよ。ぽぽちゃんでもれんしゅうしたし」
 
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「だったら、ぽぽちゃんの妹みたいなものか?」
「あ、そうかも!」
 
「でも、うちのぽぽちゃんは、おちんちんついてるけど、あきほには、おちんちんついてないんだって。だからおしめかえるときすこしちがうかな」
「だいじょうぶだよ。ちんちん有る無しなんてどうでもいいんだよ」
 
「おばちゃんは、おちんちんある?」
「私も持ってないよ。さほりちゃんも無いでしょ?」
「わたしもないの」
「ちんちんなんて、おしっこが出てくる所が変わるだけだからね。おしめ換えるのには大差無いよ」
「だったら、ちゃんとおしめかえてあげられるかな?」
 
「さほりちゃん、偉いね〜。おしめ換えてあげるんだ」
「おとうちゃんから、てつだってあげてねといわれたよ。おかあちゃんからだよわいからって」
「へー。身体、弱いんだ?」
「よくびょういんいってるもん」
「ふーん」
 
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政子と紗緒里は5分くらい話していたのだが、やがて携帯にメールが着信する。冬子からである。
 
《あやめが泣きやまないよぉ、どこまで行ってるの?》
 
「うちの赤ちゃんが泣いているって。私帰らなきゃ」
「ママはたいへんだね!」
 
「そうだね。じゃ、またね」
「うん、またね」
 
それで政子は紗緒里と別れ、東京に戻った。政子が戻ってくるまで4時間ほど冬子とあやめの格闘は続いたのであった!
 

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9月21日(土).
 
私はその日も『十二月』用の楽曲の整理をしていたのだが、なぜか政子は早朝から起きていた。8時頃、唐突に婚約者の正望が来訪した。
 
「なんか久しぶりだね。今日は時間取れたの?」
「23日までは休み。3日も休めるのは久しぶりだよ」
 
政子が訊いた。
 
「冬、正望さんとデートしたのはいつ以来?」
「えっと・・・いつだっけ?」
 
「椿山荘に行った時以来かな」
と正望が言っている。
 
「それ1年半くらい前じゃん!冬、デートしなよ」
「いや、今忙しくてとてもその段では」
 
「だってせっかく正望さんが休めるんだもん。そうだ!ふたりで旅行してきたら?」
「旅行ってどこに?」
 
「こないだ一緒に行った宮古島とかどう?いい所だったよ」
「冬、宮古島に行って来たの?」
「うん。ちょっとリフレッシュにね」
 
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「いいなあ。僕も宮古島行きたい」
 
「じゃ、私が予約してあげるよ」
と言って政子は航空会社のサイトを見ていたが、満席のようである。
 
「明日にする?」
「明日宮古島まで行って、明後日東京に帰ってくるというのは辛い」
 
「確かに。どこか離島無いかなあ」
と言っていたら、妃美貴が言った。
 
「隠岐(おき)とかはどうですか? 一度行ったことあるけど、いい所でしたよ」
 
「隠岐って長崎県だっけ?」
「長崎県のは壱岐(いき)。隠岐(おき)は島根県」
 
「じゃそこ行ってきたら?」
と政子。わりとどこでもいいようである!?
 
「隠岐は風帆伯母もいい所だと行ってたし、まあ行ってきてもいいかな」
「よし。予約してあげるよ」
 
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と言って政子は羽田から伊丹空港経由隠岐空港行きの往復を予約してくれた。
 
9/21 羽田10:30(JAL113)11:40 伊丹 13:15(J-Air2331)14:10 隠岐
9/23 隠岐14:45(J-Air2332)15:30伊丹16:30(JAL126)17:40羽田
 
「楽天トラベルで宿も確保したよ」
「宿ってどこに取った?」
「えっとね。かいしちょう、とか言う所の**荘。口コミで料理が美味しいって書いてあった」
 
私は頭を抱えた。
 
「何?まずかった?」
「いや。いいんだけどね」
 
と言って私は説明する。
 
「隠岐(おき)は大雑把に西側の島前(どうぜん)、東側の島後(どうご)に分かれて、島後に隠岐空港や、隠岐支庁がある。まあここが隠岐の主島だよね。それで、島前の方は更に西側の西ノ島・東側の中ノ島、南側の知夫里島という3つの島に分かれている。「海士町」と書いて「あまちょう」と読むんだけど、それは中ノ島の町なんだよ」
 
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「つまり?」
「空港に降り立ったら、そこから更にフェリーで移動する必要がある。そのフェリーが1日に2便くらいしかない」
 
「あ、ごめーん」
「いや、どうせ隠岐まで行くなら海士町は見たいと思っていたからそれでいい」
 
そういう訳で私たちの行程はこのようになったのである。
 
9/21 羽田10:30(JAL113)11:40 伊丹 13:15(J-Air2331)14:10 隠岐/西郷18:05(高速船)18:36菱浦
9/23 菱浦12:50(フェリー)14:00西郷/隠岐14:45(J-Air2332)15:30伊丹16:30(JAL126)17:40羽田
 
「かなりハードスケジュールのような気がする」
と正望が言うが
「私も同意!」
と私は言った。
 

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時刻はもう8時半である。
 
「佐良さん呼んでいる時間が無いから、私が羽田まで送ります」
と妃美貴が言うので、彼女に送ってもらうことにした。
 
「だったら、妃美貴ちゃん、頼みがある」
「はい?」
 
「私と正望を羽田まで送ったら、その帰り、政子をこの住所まで届けて」
 
政子がその住所のメモを見てドキリとしている。
 
「これは?」
「誰にも内緒だよ。政子の彼氏のうち」
「分かりました!誰にも言いません」
「私が不在中に政子はしばしばトラブルを起こしているから、お世話係が必要だから」
「彼氏さんの所なら安心ですね」
「そうそう」
 
そういう訳で、妃美貴には私と正望を羽田まで送ってもらった後、大林亮平のマンションにデリバーしてもらうことにしたのである。
 
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夏の日の想い出・モラトリウム(11)

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