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■夏の日の想い出・モラトリウム(9)
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(C)Eriko Kawaguchi 2019-02-23
2019年8月3日(土).
毎年恒例の横須賀サマーロックフェスティバルが行われた。ローズ+リリーは『郷愁』の制作で死んでいた2017年を除いて、2012年以来毎年出演している。ローズ+リリーは2014年以降、苗場ロックフェスティバルにも出演しているが、横須賀の方が出演歴は長い。
出演者は苗場の出演者がそのままこちらにも出られる感じになるので、編曲も手間が掛からない。なお今回『愛のデュエット』は省略して、フルートとクラリネットに関しては、世梨奈と美津穂が来られないので風花と詩津紅に頼み、詩津紅がクラリネットを吹くのでキーボードは山下響美(旧姓川原)に頼んだ。また桜野レイアのサックスパートを省略し、彼女にはヴァイオリンを弾いてもらっている。
ダンサーは無しのつもりだったが、たまたま会場で遭遇したムーンサークルの2人が「ダンサー用意されてないのなら、やりたい!」と言ったので踊ってもらった。
8月31日(土)。そういう訳で、若葉が400億円を掛けて作った“Muse Theater + Arena”でアクアの夏休みライブが行われる。私は2日前の29日に小浜入りして、コスモス社長、山村マネージャー、★★クリエイティブの横田さん、TKRの三田原課長、地元イベンターの社長さんと6人で打ち合わせをした。
30日は午前中にシアターとアリーナの間の壁が(手作業で!)外され、両者を結ぶ天井と壁が出現する(これも手作業!)。そして移動観覧席が倉庫から移動してくる。実際には各々にドライバーが乗って運転してくる。全部所定の位置に納まった所で念のため目視で位置を再確認してからフロアを上昇させる。
これで7万人を収容する巨大ホールが出現する。出入口の施錠解錠(床と合っていないドアが開(ひら)けたりしないか?)についても全てスタッフが念のため確認して回った。
今井葉月、桜木ワルツ、山下ルンバ、研修生の木下宏紀・坂田由里・篠原倉光などに代わる代わる歌わせて音響を確認・調整する。幕の開閉、照明の当たり方の確認。その作業が午後いっぱい続いた。研修生の子はこんな広い会場で歌うのは初体験なので興奮していた。3人とも「気持ちよかったぁ」と言っていた。明日のスターを夢見る子たちである。
この日は小浜市をはじめ、敦賀・舞鶴まで、前泊をする人たちでホテル・旅館は満杯になっている。旅館《藍小浜》、および千里が建てた《小浜ラボ》に泊まった人もあるが、Muse Arenaは前泊には使用していない。あくまで後泊のみである。これは保安上の理由だ。
ローズ+リリーのカウントダウンの時に《藍小浜》に泊まった人で、今回は《小浜ラボ》の宿泊施設に泊まった人がおり、
「移設して合宿所にしたのか!」
と驚いていた。
なお、出演者やスタッフはMuse-3のデータセンター(MDC3)内の宿泊施設に泊まっている。ローズ+リリーのカウントダウンの時に泊まったのと同じ場所である。
政子は30日のお昼頃、あやめ、およびお母さんと一緒にやってきた。
政子はチケットを買ってライブに参戦する。ファンクラブ抽選でも一般枠でも取れなかったが、あまり数は多くない関係者枠で何とか購入した。私も含めて4人でMDC3内の6畳の宿泊室(バストイレ付き)をひとつ使用した。お母さんは、あやめと2人でライブ中もここで過ごす(スタッフ部屋なのでモニターでライブの様子は見られる)。
MDC3内でも食事はできるのだが、30日のお昼はせっかくだしということで、若葉の作った《藍小浜》の方に食事に行った。
MDC3から旅館の地下に繋がる地下通路を往来専用の Nissan e-NV200(電気自動車のワゴン車)に乗せてもらって移動した。この地下通路はもちろん強制換気ではあるものの、ガソリン車の使用は禁止である。
「なんか秘密基地みたいでいい!」
と政子は喜んでいた。
「やはりここに可愛い男の娘を拉致してきて女の子に改造して送り出す」
政子は“Sex Change Shocker”構想を楽しそうに語っていたが、私は
「犯罪行為は慎むように」
と釘を刺しておいた。
地下からエレベータで最上階まであがり、そこの展望レストランで食事をする。ここは和室がほとんどという“旅館”であるが、最上階の展望レストランと、2階のパーティールーム(結婚式の披露宴ができる)は土足でそのまま入れるPタイル仕様になっていて、テーブルと椅子が配置されている(畳を敷いて和室仕様にもできる:実際パーティールームは今日明日は畳を敷いて臨時に人を泊める)。
この旅館は1階にもレストラン(むしろ食堂的)もあるのだが、1階食堂も9階レストランも今日・明日・明後日はフル回転になる。大量の冷凍食材を準備していて小浜ランチとかシーフードカレーライスに小浜ラーメンなどはレンジでチンするだけで超高速に提供できるようにスタンバイしている。
私たちはスペシャルランチを頼んだのだが、政子は料理が美味しいので喜んでいる。
「若狭湾の海の幸、丹後や若狭の山の幸をふんだんに使っているからね」
「やはり地産地消よね」
と言って、甘エビや“若狭ぐじ”(甘鯛に塩を振ったもの。身が引き締まって味が良くなる)などに舌鼓を打っていた。
岩牡蠣もあるということで出してもらったが、
「ここでも岩牡蠣が食べられるとは」
と言って喜んでいた。数量限定なので夕方くらいだと食べられない日もあるらしい。ちなみに岩牡蠣は8月で終わりで9月からは普通の牡蠣に切り替わる。
「でもきれいな公園になってる」
と政子はミューズタウン側を見ながら言う。
「手前側の半分40棟(400室)の作業員用アパートを解体して、そこを公園として整備している。残りの解体は取り敢えず保留。その保留した分に今回は観客を泊めるんだけどね。でも夏だから色々なお花が咲いているよ」
「あとでお散歩しよう」
約2ha(250m×160m)にお花畑、噴水などが“整備中”である。まだ日々作業をしている所であるが、29日から9月2日までは作業はお休みにしている。実際まだ解体し終わったのは20棟(200室)ほどである。つまり元々建てられていたアパート群の内、40棟(400室:1200人分)に前泊する観客を入れ、20棟は空き家の状態で残っている。
その20棟は完全に空き家になっていて、そこに住んでいる作業員は居ない。小浜に残ることにした人も風光台(と命名されるのは年末なので現時点では“ムーラン社員寮”)に移っている。その人たちと市内・近郊からの通いの作業員で整備作業は進めている。
「なんかヘリポートがあるけど」
「うん。若葉の趣味の世界だね。飛行機が離着陸できる滑走路作ろうとしたけど、滑走路自体はいいけど、付属設備に巨額の費用が掛かるというので、やめたらしい」
「さすがに長さが足りない気がする」
と政子も言う。
「ヘリは買ってないの?」
「レンタルでいいのでは?」
「確かに。でも公園整備するなら、ジェットコースターとか作らないの?」
「さすがにこんな所で遊園地とか営業しても人が来ない」
「そうか。さすがに無理か」
「北陸新幹線が開業して、大阪と小浜が直結したら分からないけど」
「それいつの話?」
「全く分からない。2026年という話もあったけど、2046年という説もある」
「2046年なら、私、もうおばあちゃんになってる!」
「北陸新幹線は東海道新幹線に万が一のことがあった時のためのバイパスなんだから、早く完成させた方がいいと思うけどね」
MDC3は、地下3階にMuse-3があり(将来Muse-4を設置するためのスペースも確保している)、地下2階が事務用スペース、地下1階がライブやイベントのスタッフ用のスペースになっている。なお、カウントダウンの時に政子が歌ったスタジオは地下ではなく、ステージ真下の「地上1階」に存在している。
私たちは地下1階に泊まっているのだが、アクアたちは地下2階の方に泊まっており、政子に渡したパスではB2には進入不能である(B2に入れるのは§§ミュージックのタレントとマネージャーだけ)。それを残念がっていたが、ライブ前日のアーティストに時間を使わせる訳にはいかない。
2019年8月31日(土)。
第1部の開演は9時なので、会場は6時に開けた。7万人を本人確認しながら入れるので大変である。但し、藍小浜・小浜ラボ・Muse Townに泊まった客は前日そこに入る段階で入場券のチェックが済んでいるのでそのまま会場内に入ることができる。またアクアが出演する第2部のみを見て、こちらは見ない観客もあるので、第1部から見る観客は恐らく半数くらいではと予想している。
6時や7時に来た客は朝御飯を食べていないが、まだ出店(でみせ)は営業開始していないので、藍小浜のレストランに行ったり、Muse Town内のコンビニでお弁当を買ったりしていた。このコンビニも今日は大量にお弁当・サンドイッチ・おにぎり・ドリンクなどが出るとみて、張り切って仕入れているし、追加注文もかなりくると見て配送センターが臨戦態勢らしい。スタッフも普段の5倍!入れて、特設レジまで作っている。チキンや肉まんなどは市内の系列店からもピストン輸送できる体制を取っている(なお、お酒類は全部撤去した)。
しかしここにコンビニがあると、食品だけでなく、絆創膏・ティッシュ・化粧品・乾電池!充電器!!生理用品、更には下着なども容易に調達できるので、観客たちには好評であった。
9時から第1部が始まる。§§ミュージックの、高崎ひろか・品川ありさ以外の歌手が20分・30分単位で出演しては、歌って行く。歌う曲目や演奏スタイルについては「自分で決めろ」とコスモスは各歌手に言った。
トップバッターで出てきた桜野レイアは、友人(実はイグニスのメンバー)のギタリスト(LISA)・ベーシスト(Lucy)を伴い、自分はドラムスを打ちながら、イグニス時代の歌を歌った。アイドル歌謡を期待しているファンを良い意味で裏切るパフォーマンスで、かなり好評であった。まだ2万人も入っていない観客が物凄いノリで踊っていた。オープニングにふさわしい演奏だった。
続いて出てきた山下ルンバは振袖を着て出てきて、演歌でも歌うのか?と思わせて、彼女も自分でギターを弾きながら"GO!GO!7188"の和風ロックをたくさん歌った。研修生の佐藤ゆかがドラムスを打ってくれた。
その後出てきた原町カペラ(デビューしたて)・石川ポルカ(昨年デビュー)は普通のアイドル歌謡を歌う。カペラはSPEEDの曲、ポルカはモー娘。の歌を歌った。
桜木ワルツ(2018デビュー)は全曲アカペラで『庭の千草』『ロンドンデリーの歌』、『スカボロフェア』『スコットランド・ザ・ブレイヴ』と歌った上で最後は『麦畑』で観客をなごませた。
花咲ロンド(2017デビュー)、白鳥リズム(2017デビュー)、姫路スピカ(2016デビュー)、西宮ネオン(2016デビュー)は自分の持ち歌でステージを構成した。
第1部のトリを務めたのは今井葉月である。葉月のデビュー年は曖昧、というか実はまだ歌手デビューしていない!が2014年からアクアの代役としてのお仕事をしていて、§§ミュージックの中では“古株4人”(山下ルンバの命名。アクア・ひろか・ありさ・葉月)の1人である。
しかし葉月はCDを出したことがなく、持ち歌も無いので、彼が今回選択したのは北里ナナの歌である!
ナナが『少年探偵団』の中で着たステージドレスを着て登場である。
「はづきちゃーん!」
という声の他に
「ナナちゃーん!」
という声まで掛かっている。
この時点では観客は既に5万人を越えている。その大観衆の前で彼は可愛くナナの歌を歌った。
『ナナの海』に始まって、『花の伝説』『青い城の姫』『シルバークリスマス』、『風車小屋の娘』そして『白雪姫』で締めた。
大観衆を前に葉月は堂々とこれらの歌を歌い、大きな歓声・拍手に手を振ってステージを降りた。
第1部の司会役であった桜木ワルツが出てきて
「これより1時間の休憩を頂きます。第2部、アクアのステージは14時開始予定です」
とアナウンスをした。
ちなみに政子は葉月のドレス姿を見て
「きゃー!可愛い!」
と凄い歓声をあげていた。
「やはり葉月ちゃんには性転換手術の予約をしてあげよう」
「それ迷惑だから」
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