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■夏の日の想い出・モラトリウム(7)

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Muse Arenaの天井面積は240m×180m=43200m2あり、ここに大手メーカーの太陽光パネルを約3万枚(システム容量7650kw)敷き詰めた。
 
これに掛かった費用はこれだけで40億円である。しかしこの太陽光パネルが生み出す電力は計算上 8,000,000kwh/年=20,000kwh/日 でMuse-3 DataCenter, Muse Theater/Muse Arena, Muse Townで消費する電気の3割程度をカバーできる。
 
実際はMuse-3本体が30,000kwh/日ほど消費している(だから発生する熱も凄まじい)。エアコンがMuse-3 DataCenter分だけで4000kwh/日程度である。
 
Muse Arenaの消費電力は普段は微々たるものだが、イベントが開催されるとモンスター級の消費になる。ローズ+リリーのカウントダウンをした時は一晩で空調・照明で1万kwhほど消費しているが(ホログラム計算でMuse-3が使用した電気も入れると1.5万kwh)、アクアのイベントは夏なので空調がもっと掛かりそうである。
 
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(3万個も太陽光パネルを並べているのに、電力会社に買い取ってもらえるほど余らないのが、いかにMuse-3が電気を食うかというところである)
 
若葉はこのあたりのシミュレーションをして、ムーランとAI-Museの間での電気料金の負担割合について丸山アイに提案したのだが、万事アバウト思考のアイは
 
「じゃMuse-3から若葉ちゃんの施設に供給する電気代と賃貸料、そちらの太陽光パネルが生み出す電気で、相殺にして、お金のやりとりゼロにしない?」
 
と提案し、お金に充分な余裕のある若葉も
「まあ、それでいいか」
 
ということにして、電気代は賃料も含めて相殺ということにしたのである。
 
ちなみに千里の《小浜ラボ》は自前で設置した太陽光パネルでほぼ電気をまかなっているが、足りない時は若葉の太陽光システムやMuse-3側から供給してもらえるようになっている。
 
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ミューズアリーナの消費電力を計算していた時に、
 
「ローズ+リリーのは天井が低かったから空調も少なくて済んだんですけどね」
と播磨工務店の人が言うのを聞いた若葉は
 
「だったら天井低くしようよ」
と言い出したらしい。3月頃のことである。
 
そこで導入されたのが“移動吊り天井”システムである。天井の高さを変更することで、空調を入れるべき空間を減らし、少ない電力で温度調整ができるようにする。バレーボールなどの大会や、ライブなどの時だけ天井を本来の14mの高さにし、普段は半分の7mにしておく。これだけで空調すべき空間は半分に減ることになり、当然電力消費も半減する。
 
体育館の床が二重構造になっており、各コート単位で昇降するのは実は上の床のみである。上の床を上げても下の床が残るので、ここで普通にプレイできる。
 
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それで普段は上の床を7mの高さまで全部上げておいて、その下にだけ空調を入れる。すると空調代が節約出来る。もっとも、スポーツの練習にやってくる市内の中高生のクラブの多くは
 
「夏は暑いの当たり前だから空調はいいですよ。夏の暑さに耐えるのも練習」
 
というので、空調無しで運用することも多かった(実際には窓や換気口を開けて自然換気をするのでそれほど熱くはならない)。
 
冬は寒すぎるので軽く空調を入れるようにした(空調不要と言って練習を始めたバスケット部が「すみません。指がかじかんでまともにボールを持てないので、低い温度でいいので暖房お願いします」と言った)。なお、実は床暖房を入れる案もあったのだが、移動床との相性が悪く断念したらしい。
 
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ちなみに床を7mあげた状態では上の床から本当の天井までも7mあるので、実は下のフロアと上のフロアの双方でプレイが出来る!つまりバスケットなら実は64面も取れる。
 
「まあこんな田舎ではさすがにそこまでの需要は無いだろうけどね」
とさすがの若葉も言った。
 
なお、コートとコートを仕切る透明アクリル性の防球壁は実はこの7mの高さで作られている。そのため、天井高14mのバレーボール仕様にした場合は、7m以上にあがったボールがオーバーフェンスする可能性もある。その時はボールを取りに行くのが大変である(ドアの所まで回る必要がある)。それでこの状態にしている時は、アクリルボードの無い“ネットのみ”の間仕切りを使ってもらうことにした。するとネットは簡単にめくれるので、ボールを取りに行くのが楽になるのである。
 
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「スカートとネットはめくりやすいのがいい、と南田さんが言ってたよ」
「前者は痴漢行為では?」
 

私と千里とコスモスはこの体育館の全体の概要や基本的な操作の仕方についての説明を播磨工務店の南田社長と若葉から聞いたのだが、途中からは半ば唖然として聞いていた。
 
「若葉、ひとつ聞きたいんだけど」
「何だろう?」
「このシアターとアリーナの建設費は?」
「少し掛かったかなあ」
「少しというと?」
「4くらい」
「40億・・・じゃないよね?」
それでは太陽光パネルの代金程度にしかならない。
 
「400億くらいね」
 
それ、100億の単位で切り捨ててないか?と私は思った。
 
どうも本人もさすがにお金を掛けすぎたかなと反省しているようである。特に床が上下する仕組みなんて、完全に趣味に走っている。床材に半分は地元産の木材を使ったのでも価格を押し上げたはずだ。
 
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なお、若葉が福島市に作った福島ムーランパークアリーナは50億円ほどでできたらしい。地下のトレーニングルームや合宿施設などまで作ったにしては安くあがっている。(そちらも3億円掛けて太陽光パネルを2000枚並べて1日平均1300kwhの発電をしており、体育館で必要な電力の4〜5倍の電気を生み出している。余った電気は東北電力に売却している)
 

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「だから★★レコードの株いったん売っちゃった」
と若葉は言う。
 
「いいんじゃない?いくらで売れた?」
「120億円くらい」
「結構高値で売ったね!」
「それで気を良くして600円まで落ちた所でまた買い戻した。14億円くらいで」
「また儲けてるし!」
 
千里が笑っている。
 
「まあお金が余っているからといって高級外車乗り回したり銀座で豪遊したりラスベガスで遊んだりする社長よりはずいぶんマシだと思うよ。小浜市長さん、すごく喜んでいたみたいだし」
 
それ千里の師匠である雨宮先生を揶揄してないか?
 
「私男嫌いだからホスト遊びする趣味も無いし、車は実用性重視だし、ギャンブルも嫌いだし」
と若葉は言っている。若葉の愛車はRX-8である。但し頻繁に免停をくらっている!
 
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「ああ。この半年で地元に落とした税金も凄かったろうね」
「お店の売上げも凄かったみたいだよ」
 

Muse Townの、作業員を泊めていたアパートは取り敢えず半分くらい残すことになった。
 
今回のアクアのイベントでも、遠方から来た人は前泊・後泊したい人が結構いるようだということになり、宿泊を募集したら、かなりの応募があったのである。
 
それで小浜市側と話し合い、取り敢えず下記で一部を吸収することにした。
 
・若葉の旅館《藍小浜》で750名(後述)
・千里の体育館《小浜ラボ》に簡易ベッドを並べて1400名。
・小浜市内の旅館・民宿・ホテルで4000名。
・近隣の若狭町・美浜町・おおい町・高浜町の旅館・民宿で5000名(*1)。
・小浜市内の体育館で3000名。
・Muse Townの住宅400室で1200名。
・Muse Arenaに簡易ベッドを並べて12000人!
 
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(*1)若狭町の場合、大きな旅館は無いものの5-10室程度の小さな民宿が78軒もあって全部で541室にも及び、だいたい2000人ほどを収容できる。
 

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Muse Arenaは当然床を7mまであげて、上下とも使う。実際には上のフロアは女性専用(男子禁制)、下のフロアは男性専用とした。
 
Muse Townについては1Kの6畳の部屋に3人単位で詰め込むことにした。むろん部屋は全てクリーニング・消毒し、寝具も全部洗濯している。損傷の酷い部屋や、タバコの臭いがきつい部屋は、解体予定だったアパートのあまり傷んでいないユニットと交換!する。
 
実際にはボルトを外してクレーンで釣り上げて、機械の部品交換のような要領で交換することができる。そういう訳で、播磨工務店では、800室にランキングを付けて状態の良い方から100室ほどを“風光台”(後述)に移設、400室をここに残して、痛んでいる300室を解体したようである。
 
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周辺の宿の手配と移動用のバスの手配は、ローズ+リリーのカウントダウンを経験している★★クリエイティブのスタッフがプロジェクトに参加して、小浜市経由以外でも、敦賀市・舞鶴市などの宿も含めて、しっかり手配した。例によって相部屋になるので、性別を、男/女/MTF,MTX,etc/ FTM,FTX,etc の4つに分類させてもらった。性別は基本的に自己申告だが、あまりに違和感のある人には移動してもらうこともあると事前に告知している。
 
「まあ、コンチータ・ヴルストみたいな人が来たら、本人が男だと主張してもMTF部屋に放り込まれると思う」
「いや、マジでコンチータ・ヴルスト本人が来たら特別室でいい」
 
「ところで私、コンチータ・ヴルストとレディ・ビアードがごっちゃになる」
「ああ、混同している人は、結構ままある」
「レディ・ビアードは普通に男部屋に放り込まれる気がする」
「するする」
 
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「佐藤かよさんとかは女部屋でいいよね?」
「全く問題無い」
「基本的に女湯に入れる人は女部屋でよい」
 
「アクアとか西湖ちゃんはどうなると思う?」
「何の問題も無くふたりとも女部屋に放り込まれる」
 
「だろうね!」
 

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しかしこれで合計27000人も吸収することができ、かなりマシになったのである。ちなみにこの日は大阪や京都などでも宿が取りにくかったらしい。
 
毎年ローズ+リリーのカウントダウンの宿泊手配をしている旅行代理店では、福井県内の温泉(芦原温泉など)と柴政ワールドのセット券、更には石川県内の温泉(山代温泉・山中温泉)と金沢方面の観光、また山陰方面の温泉と観光、などのセット券も設定したようである。旅行代理店にとっても特需となったが、TKRや§§ミュージックが受け取るバックマージンも物凄い。
 

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若葉がせっかく作った《藍小浜》だが、大規模な工事が目の前で行われていて、逞しい男達が大量に行き来している状況では、とても旅館など営業出来ず、しばらく休業かな?と言っていたところで、小浜市側から、1年前に倒産した旅館があるのだが、使わないか?とお誘いがあった。担保権がややこしいことになっていたのだが、若葉はポンとお金を出して権利関係をクリアにして買い取ってしまった(ヤクザが絡んできたが、播磨工務店の社長が行くとおとなしくなった)。そして業者を入れてクリーニングさせ、取り敢えず《藍小浜》湾岸店ということにして、ここで工事期間中営業をしたのである。従業員も全員そちらに移動である。実を言うと《藍小浜》の従業員の中にここで働いていたという人が20人もいた。彼女たちは「懐かしい!」と言って喜んでいた。なお、Muse-3で出る熱い水はトラックで運んできて浴場に使用した。
 
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その一方で若葉はMuse Townの一角に新しい旅館の建物を建て始めた。それが8月中旬くらいまでには完成する見込みで、ここを《藍小浜》の新本店にする。
 
「だって、巨大なアリーナが建ってしまって、元の場所はあまりにも眺望が悪い」
 
従業員は3割ほどを湾岸店に残して、残りを新本店に移す方向で、従業員代表と話し合っているそうである。
 

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新本店はMuse Townの谷側の端、つまりMuse Parkを見下ろす位置に建てたのでけっこう眺めが良い(太陽光パネルは南側、つまり谷側を向いているので、こちらは眩しくない)。また後方のMuse Townのアパート群が撤去されたら、その跡は広大な公園になる予定なので、わりといい環境になるかも知れない。
 
そういう訳で、この新本店と湾岸店とで、あわせて700名の収容能力があるのである(湾岸店が64室で400人程度収容可能。新本店は55室で300人収容可能だが、普段は人を泊めないパーティー用ホールにもベッドを入れて350人収容する)。
 
ちなみにほぼ同様の理由で千里の体育館もMuse Town側に移設になってしまい、千里がぶつぶつ言っていた。こちらは元の体育館を、若葉が千里から3億円=ほぼ建設費で買い取って、Muse Arenaの移動観覧席や用具などの置き場!にさせてもらい(移動観覧席は“折りたたんで”収納可能)、代わりに《藍小浜》の隣に前のよりひとまわり広い体育館を建設した。こちらは“やや”本格的な建築で年末くらいに完成予定である。
 
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一方、千里は若葉から“初代藍小浜”を1億円(お詫び代を引いた出精価格)で若葉から買い取り、体育館の隣に解体移築して、体育館付属合宿所!にしてしまった。それで結果的にこの“2代目小浜ラボ”で1400名も収容出来ることになった(体育館のフロアに1200名、合宿所で200名)。初代藍小浜は元々がパーツをボルトで締めたりして作られているので解体移築もわりと簡単だったようである。
 
「でもその体育館、実際問題として何に使うの?」
と私が訊くと
「本拠地にする場所を探している女子バスケットチームがあるんだよ。実は今まだ外国にいるんだけどね」
などと言っていた。
 
その言い方から私は政治的な理由で亡命に近い形で来日するのでは?という気がした。
 
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「ただ今の所対戦相手がいなくてね」
「日本のチームでは相手にならない?」
「WNBA並みの実力があるから」
「それは凄い」
「でも男子のチームにはさすがにかなわない」
「それは厳しいだろうね」
「男の娘チームの誘致も狙っているんだけどね」
「へー!」
 

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夏の日の想い出・モラトリウム(7)

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