■夏の日の想い出・ある所に(12)
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礼音はトイレを出た後、しばらく考えていたが、やがて寮長の花園裕紀(末次一葉)に電話した。
「平日なのに朝から済みません。ちょっと緊急にご相談したいことがあるんですが」
「いいよ。話聞こうか。キュアルームに来る?ぼくの部屋に来る?」
「そちらのお部屋にお邪魔してもいいですか?」
「うん。おいで」
それで、礼音は花園裕紀の部屋を訪れたのである。
そして事情を話した。
「うーん。F中学の女子制服持ってるよ。貸そうか?」
「女子制服で登校とか嫌です!」
先日はそれで3日間過ごしたじゃん。
「まあオーリンが忘れてるんだろな」
と裕紀は言った。
「そうなんですか?」
「あの子は勘違いとか物忘れとか間違いが物凄く多いんだよ」
「ぼくの所に最初に出て来た時も『あれ?ゆかりちゃんの部屋に来たつもりだったのに間違ったみたい』とか言ってました」
「うん。そういう奴なんだよ」
「どうしたらいいでしょう」
「僕が呼び出してもいいけど、どっちみち呼び出し方を覚えておいた方がいいよ」
と言って、裕紀は紙に図形を描いた。いったん裏返す。
「礼音ちゃんあの子とこれまでに何回くらい会った?」
「10回くらいかな」
「微妙だな。頻繁に会ってる場合はもっと簡単な呼び出し方もあるんだけど、確実なほうを教えとくよ。君フルート吹ける?」
「いえ。フルートなんて持ってません。ファイフならありますが」
「じゃファイフでもいいよ。リコーダーはダメ。あの子リコーダーが大嫌いだから」
「へー」
「この絵の前で『アニトラの踊り』を演奏すると出てくるよ」
「『アニトラの踊り』ってこの曲ですかね」
と言って礼音は歌ってみせる。
「違う。それは『山の魔王の宮殿にて』」
「あれ〜」
「この曲だよ」
と言って裕紀は歌ってみせた。
「あ、分かりました」
それで、礼音は自分の部屋に戻り、裕紀にもらった絵を前に置いてファイフで『アニトラの踊り』を演奏した。オーリンが出てくる。今日は体操服みたいなのを着ていたので珍しいなと思った。
「あれ?レノンちゃん、どうしたの?」
「9月1日朝に男の子に戻すって言ってたのにまだ戻ってないんだけど」
「あれ?1月1日じゃなかったっけ?」
「9月1日だよー」
「ごめーん」
と言ってオーリンは礼音の手を握ったが
「あれ?」
と言う。
「礼音ちゃん、生理中だっけ?」
「今3日目かな。だいぶ落ち着いては来たんだけど」
「だったら生理がきれいに終わるまで男の子には戻せない。生理を出すところが無くなるから」
「ああ」
「生理が終わったら自動的に戻るように設定しておくよ」
「分かった。お願い」
「そうだ。礼音ちゃん、横笛吹くんだね」
「プラスチックのファイフだけどね」
「フルートも練習しない?」
「興味はあるけど、けっこう値段がするし」
いや君の収入があれば、ポンと買えるぞ。
「じゃ1本あげるから練習しなよ。いつもおやつもらってるし」
と言ってオーリンは礼音に金属製のフルートを渡した。それで帰って行った。
「これ金属製じゃん。アルミじゃなさそうだし、ステンレスか何かかな?」
と礼音は思った。
それで結局礼音は女の子の身体のままこの日は学校に行くハメになったのである!体育は見学させてもらった。水泳だったので凄くやばかった(裸を女子の友人たちに曝しておいて今更だと思います)。
トイレは男子トイレの個室を使った。汚物入れが無いので、ビニール袋を持って行っておき、交換したナプキンはそれに入れておいて帰宅後処分することにした。
でもサユリちゃんから言われた。
「レノちゃん、ひょっとして生理じゃない?」
「うん。でももう3日目だから大丈夫だよ」
「ナプキン交換どうしてるの?」
「男子トイレは捨てる所無いからビニール袋に入れてる。家に帰ってから処分するよ」
「私が捨ててきてあげる」
「そう?じゃお願い」
と言ってビニール袋を渡した。それで彼女が捨てて来てくれた。
「ありがとう」
「直接女子トイレに入って交換してもいいからね」
「それは遠慮しとく」
「制服も女子制服着ればいいのに」
「そういう訳にはいかないよぉ」
「いや女子制服選択届を出せば着られるはず」
そういえば、春南(鈴原さくら)ちゃんとかはそうしてると言ってたな。でもぼくあんなには可愛くないし。(いや充分可愛いと思うが)
「レノちゃん来週の水泳大会は何着るの?」
とアカネちゃんが訊く。
「普通の水泳パンツ着るよ」
「そんなの着てはいけない!」
と一同。
「女の子はちゃんと女子用スクール水着つけなきゃ」
「でもぼく男子だし」
「ああ、性別って18歳にならないと変更できないんでしょ」
「法的な問題は別として医学的に女の子であれば女子水着を着なきゃ」
「一緒に買いに行ってあげるよ」
それで女子数人に連れられて礼音は購買部に行き、女子用スクール水着を買ったのである。購買部のお姉さんは礼音のサイズを計ってくれて
「Sでいいね」
と言った。
「レノちゃん細いもんね」
「ウエスト59だし」
「水泳の時は女子更衣室使いなよ」
「体育委員のミヅホちゃんには話通しておくから」
その日のテレビ局では
「今日の君は色っぽいね」
と言われてセーラー服を着せられてしまった!(「可愛い!」と好評だった)
仕事が終わって帰宅してから、礼音は女子用スクール水着を前にして悩んだ。
生理はもうほんど落ち着いてる。きっと明日の朝には男の子に戻るだろう。今日まではこの水着着られるけど、男の子に戻ってしまうと物凄くやばいことになる。
少し悩んでから、礼音はオーリンを呼び出した。
「こんばんわレノンちゃん。どうしたの?」
「実は・・・」
と言って事情を話す。
「そりゃレノンちゃんみたいに可愛い子が男子水着なんて着けちゃいけないよ。水泳大会はいつ?」
「9月6日・水曜日」
「じゃ6日いっぱいまで女の子の身体にしとくよ。7日朝に男の娘に戻す」
「うん。それでお願い」
4日月曜にも体育の時間に水泳があったが、女子更衣室で着替えて女子水着を着けた。彼が女子水着を着けていても誰もそのことに言及しなかった。女子更衣室に入っても誰も何も言わなかった。ただ礼音はオーリンのアドバイスで“着替え用バスタオル”とかは使わず、裸をみんなに曝して着替えた。男なのに女子の裸見たさで女子更衣室に来たのではと疑われないためである。
しかしこれで彼はクラスの全女子に女の子の身体であることを確認された!
彼は水泳大会では女子水着のまま男子50mに出て予選4位だった(決勝には進めず)。でも女子の200mにも出てと言われて3位だった。1〜2位は水泳部の子だった。校長先生から3位の賞状をもらってしまい、いいのかなあと思った。
9月7日の朝には男の子の身体に戻っていた。
但し睾丸は戻っていなかったが細かいことなので、取り敢えずいいことにした!?オーリンに言うと何か更に間違いそうだし!(賢明な気がする)
でも彼はこれ以降、男子トイレの小便器を使わせてもらえなくなった。
「広中さん、個室あいてるよ」
とか言われて個室に誘導されてしまい、毎回個室でするようになった。また男子更衣室にカーテンスタンドが置かれ、その陰で着替えるように言われた。
9月2日(土)の銀の昔話ミニは青い傘の出演で新美南吉の『赤いろうそく』を放送した。先週の予告でも、青い傘のブログでも
「題名が似ていますが小川未明の『赤い蝋燭と人魚』ではありません。これは楽しいお話ですからみんな見てね」
と広報していた。
あらすじ
山に住んでいるサルが浜に遊びに行き、赤いろうそくを拾いました。サルは
「これはもしかして花火では?」
と思いました。それで持ち帰ってみんなに見せます。
「え?これ花火なの?」
「すごーい!」
とみんな大騒ぎです。
それで今夜山の頂上で打ち上げることにしました。
夜中多数の動物が集まってきました。サルが石を積んで花火を固定します。ここで問題が生じました。
誰が花火に火を点けるのかというので揉めたのです。みんな火が怖いので、そんなことしたがりません。それで火を点ける役をくじ引きで決めることにしました。
最初に亀が当たりました。それで“花火”の近くまで行きますが、あまりの怖さに首も手足も引っ込めてしまいました、それでは火を点けることはできません。
次にイタチが当たりました。でもイタチは近眼なので、どこに“花火”があるか分からずうろうろしています。とうとうイノシシが言いました。
「貸せ。俺がしちゃる」
それでイノシシは“花火”に向かって突撃し、さっと火を点けました。
「破裂するぞ!」
という声があがり、みんな草むらに飛び込んで耳をふさぎます。目をつぶる者もいました。
しかしろうそくは静かに燃えているだけでした!でも
「きれいだね」
という声も多数あがっていました。
「花火ってきれいだね」
みんなこれを“花火”と思っていたのです。
9月18日(月)、この春に結婚した高崎ひろかが、妊娠したことを発表した。
ところでひろかは実は今期の『少年探偵団』の明智文代役に内定していた。ひろかの夫の江藤真澄が明智小五郎の役をすることになっていた。
実は昨シーズンで小林少年役を降板したアクアに「来期は文代役してもらえませんよね?」と内々の打診があったのを「アクアは女役だけのオファーは受けないから」と言って、ひろかが「自分がやりますよ。ついでに結婚相手の江藤真澄を明智小五郎に」と申し出ていたものである。「私もだいぶ休ませてもらったから復帰作に」などと言っていた。その話ができたのがついこないだの8月だった。それでテレビ局は、ひろかが使えなくなったのなら「当初の話のようにアクアちゃんに文代役をしてもらえませんか」と打診してきた。
コスモスもプロデューサーに電話して、先日ひろかでという話をしたばかりだったのに申し訳無いと、こちらの責任だというのは認めた上で、他にどうしても代替案が無ければアクアを何とか説得するが、姫路スピカか品川ありさで勘弁してくれないか。ご迷惑のお掛け賃で数千万円制作協力費を払う用意があるからと言った。それでこの件は、あまり時間も掛けられないので1ヶ月程度以内に再協議することになった。
礼音が9月下旬にキュアルームでオーリンからもらったフルートを吹いていたら、ちょうどこちらに来ていたクロムが言った。
「礼音ちゃん、いいフルート持ってるね」
「これいいフルートですか?魔女っ子ちーちゃんという子からもらったんですけど」
「買えば50万はすると思うよ」
「そんなに!?」
「だってそれ総銀フルートじゃん」
「もらって良かったのかなあ」
「オーリンはお金持ちだから気にすることないよ。月城たみよちゃんなんて1000万のプラチナフルートもらったし」
「1000万!?すごいですね!でもあの子いつもお腹空いたとか言ってますよ」
「おやつ買ってると『甘い物ばかり食べてはダメ』ってお姉さんに叱られるらしい。だから男の娘の部屋で甘い物ねだるんだよ」
「なるほどー」
それでハンバーガーより、コアラのマーチを嬉しがるのか。
9月26日(火)、礼音に3度目の生理が来た。予兆があったのでナプキンを着けていたから処理はできたものの、彼は思った。
「ぼく男の子に戻ったのに、なんで生理があるの〜?」
9月30日(土)、コスモスは臨月間近の大きなお腹を抱えてΛΛテレビに小池プロデューサーを訪問した。
「わっそんな大きなお腹で大丈夫ですか」
と小池は心配する。コスモスは
「産むのは夫ですから私は平気ですよ」
と、いつものジョーク(だよね?)を言った。
コスモスは提案した。
「単刀直入に。高崎ひろかの代わりに品川ありさ、そして明智小五郎役に江藤真澄の弟・江藤レナということでお願いできないでしょうか。そして制作協力費として5000万円お支払いします。今ここに現金で持って参りました」
と言って、コスモスは海浜ひまわりに持って来てもらったアタッシェケースを出してふたを開けた。日本銀行の帯封が入った百万円の札束がぎっしり詰まっている。
「それにこれは年明けくらいに発表予定ですが、品川ありさと江藤レナは婚約したんですよ」
「そうだったんですか!」
「だから夫婦で夫婦役をするということで。もちろん妊娠出産のタイミングはしっかり調整して『少年探偵団』の撮影にぶつからないように致します」
ひろかも気を付けるつもりだったが、あまりにも早く妊娠してしまったのである。文代役をすることにした後の次の生理予定日に生理が来なかった。ありさの場合は結婚前なので、きちんと避妊をしている。
ありさとコスモスは2月に妊娠する計画を考えた。すると11月に出産できるから次のシーズンの撮影に間に合う。
小池は臨月近いコスモスがわざわざ足を運んでくれたことに敬意を表して、この提案を受け入れてくれた。品川ありさで話が進んでいた別のドラマには恋珠ルビーが出ることになった。
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夏の日の想い出・ある所に(12)