■夏の日の想い出・ある所に(7)

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女が出ていった後、村の噂
 
「西の長者どんの息子の所は最近女房の姿を見ないね」
「ああ、出て行ったみたいだよ」
「あの男じゃ仕方ないな」
「実家に戻ったの?」
「いや村の外に出たみたい。三味線弾きが、峠を越えて行く立派な服を着た若い女を見たと言ってた」
「まあ、しおちゃんはしっかりしてるから何とかするだろう」
「息子のほうは、ありゃダメだな」
 
「嫁に行けなくなった娘が10人は居るらしいぞ」
「女房を寝取られた男もたくさんいる」
「西の長者どんが謝ってまわってるらしい」
「しおちゃんが居た頃はしおちゃんがやめさせてたようだが」
「うん。やられそうになったけど、奧さんに助けてもらったと言ってた娘がいた」
「歯止めが無くなったんだな」
 
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「あの息子、とても次の名主とかにはできんな」
「酒屋も八百屋も、もうツケでは売らないらしいよ」
 

しおは神様に言われた通り分かれ道を右に行き、まっすぐ歩いて行きました。山道に入り、村を左手下に見ながら結構急な道を歩いて行きます。穴が空いてしまったのでわらじを交換し、竹林を過ぎ、やがておんぼろの粗末な家に突き当たりました。家は古ぼけていて小さいものの、しっかりした作りだしムダが無く、何だかいい雰囲気だなと思いました。
 
しおが戸を叩くと野良着を着た若い男が出て来ました。この人が炭焼き五郎さんかな。服はボロだけど、優しそう。前の夫はいつもおしゃれな服着てたけど、わがままで自己中心的だったもん。
 
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しおは彼に言いました。
「旅の者ですが、軒先でも物置でもいいので、一晩休ませてくださいませんか」
 
五郎は女が良い服を着ているので驚いて言いました。
「うちは貧乏で何のお構いもできません。里に行けば、もっといい家がありますよ」
しおは言いました。
「いえ。ここがいいのです。道の途中で神様に出会いました。その神様から、この道をまっすぐ行った所にある突き当たりの家に行きなさい、と言われたのです。私は他に行く所もありません。取り敢えず一晩泊めてくださいませんか」
 
五郎は何か気の毒だなと思いました。行く所が無いというのは身寄りも無いのだろうか。それで言いました。
 
「だったら、こんな粗末な家でもよければ泊まってください。今夜は俺は小屋で寝るから」
「それは申し訳無いです。私が小屋で寝ますよ」
「なあに。炭焼きしてると、いつもそのまま小屋で寝てしまってるから慣れてるから」
と言って、五郎は、しおを母屋に泊めてくれました。
 
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「しかしそれにしても弱ったな。何も飯が無い」
と五郎が言うので
「あの。これもしよかったら」
と言ってしおは持って来た麦のおにぎりのひとつを五郎にあげました。
「おお、これは美味そうだ」
と言って五郎はそのおにぎりを食べました。それを見て、しおは微笑みました。しおももうひとつのおにぎりを食べました。
 

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しおは「長旅で疲れてるから」と言って、なしくずしに何日も五郎の家に泊まりました。逗留が長引くので家の中に衝立を立て、しおと五郎は、そのこちらと向こうで寝るようにしました。食べ物は五郎が大根とかの汁を作ってくれたり、木の実や山菜を取ってきてくれたり、していました。しおも水を汲んできたり、大根や菜っ葉を切ったり、炭や材料の木を運んだり、また家の中の掃除をしたりしていました。
 
五郎は言いました。
「俺貧乏で全然蓄えが無いから、あんたにまともな飯も食わせてやれない」
しおは言いました。
「ご負担掛けて済みません。これ良かったら、宿賃代わりに」
と言って持参の小判を1枚渡します。
「これお金なの?こういうお金は見たことない」
 
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五郎は銅銭しか見たことはなかったのです。
 
「これ一枚で一文銭4000枚くらいに相当しますよ」
「すごいね!それじゃもらいすぎだよ」
「だったら1月(ひとつき)分ということで」
 
それで五郎は女に魚の干物でも買ってきてやろうと思い、村まで行こうとしました。ところが途中、川のそばの道を通っていた時、小判を入れていた財布ごと、うっかり川に落としてしまいました。五郎は戻ってきて謝ります。
 
(類話の中には五郎が小判の価値を知らないので鴨を捕まえようとして石の代わりに投げて無くしてしまうというのもあるが、あまりにも馬鹿すぎる。五郎が知らないのなら女もこれは高額のお金だと説明すべき。また類話の中には、五郎が小判を無くす話は無く、単純に塩の女が来てから炭に金が混じり始めるというものもある)
 
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「済まない。あんまり財布が重かったもんで落としてしまって」
「小判って結構重いもんね。でももう少し持ってるから大丈夫よ」
と言って、しおは別の小判を渡しました。
「済まない、似たような色の金屑(かなくず)なら、いっぱいあるんだけどね」
「へー、どんなのですか?」
 

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(*9) 小判1枚の重さは18g程度。500円玉2.5枚分くらい。10枚だと180g程度になりTシャツ1枚程度。
 

それで五郎は、しおを小屋の裏に案内しました。しおは目を見張りました。そこには金(きん)や銀の塊(かたまり)がいっぱい積まれていたのです。
「これどうしたんです?」
「炭を焼いてると時々こういうのが混じってるんだよ」
 
(炭焼きの温度は400-700℃程度だが、最終段階の“ネラシ”の際は1000℃くらいまで上げてタールなどの成分を除去する。この温度では金や銀も融け出す)
 
「これは物凄い価値がありますよ」
「え?そうなの?知らんかった。炭にもならんし、邪魔だなと思ってた」
 
しおは「ある所にはあるもんだ」と思いました。
 
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それで、しおは金銀を少しずつ袱紗に包んで五郎に持ってもらい、良い服を着て一緒に町まで行き、両替商でこの金(きん)や銀を小判や銀貨など(*10)に交換してもらいました。それで色々食料なども買って帰りました。
 
(しおが立派な服を着ているのがポイント。野良着の五郎だけで行ったら盗んだものと思われる)
 

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「でもあんた数(かず)が分かるんだな」
と五郎が言いました。
「簡単な算数はできますよ」
「偉いなあ。やはりあんたいい所の生まれだね。俺3と3を足したら5くらいだっけと言って笑われた」
「3と3を足したら6ですね」
「俺そういうのさっぱり分かんねー」
 
しおはこの人の炭の取引には付いて行ったほうが良さそう!と思いました。
 
実際、次の取引の時にしおが付いて行くと、商人は最初計算を誤魔化そうとしましたが、しおが指摘すると、ちゃんと正しく計算し直してくれて、それ以降は誤魔化そうとすることはありませんでした、彼は五郎に「あんたいい嫁さんもらったね」と言っていました。
 

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(*10) 小判(1両)以外の昔のお金としては、このようなものがある。
 
一分判(小粒)1分(1両の1/4)長方形の金貨
一朱銀:1朱(1分の1/4)
丁銀・小玉銀:個数ではなく重さを測って取引する銀貨。丁銀は160g程度、小玉銀(豆板銀)は40g程度以下。
 
このほかに、二朱金、一分銀など多様な貨幣があり、なかなか難しい。一般に関東では金貨、関西では銀貨が主として使われていた。
 
銅銭(寛永通宝)価値は1文(いちもん)。現在で言えば20-30円くらい。文と朱の換算は時代や地域で変動する。だいたい250-300文程度で1朱。庶民の日常の買い物に使う。紐を通して96枚まとめたものは「100文」として流通した(*11).
 
(*11) こういうのを短陌(たんぱく)とか省陌(しょうひゃく)という。きちんと100枚束ねたら調陌とか丁陌という。貨幣の流通量が足りないのを補うのが目的。中国の古い習慣が伝わったもの。日本では和同開珎の時代から行われていた。江戸時代には80枚で“通し百文”としたこともあった。日本では明治5年に禁止された。
 
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しおは安い布を買って普段着を縫い、それから金銀を売ったお金で田んぼを買って、自分で耕して米や麦を作りました。一方五郎は炭焼きを続けました。しおが来てから、炭焼きの時に金銀が混じる率が高まりました。
 
しおも農作で頑張りましたので、ふたりは次第に豊かになって行きました。家も各々の居室や仏間があるものに建て替え“炭焼長者”と呼ばれるようになりました。そしてしおが望んだので、ふたりは夫婦になりました。
 
「どうか私をあなたの妻にしてください」
「俺もあんたのこと好きになってしまった。でもいいのかい?」
「お願いします。前の夫とはちゃんと別れてますから」
と言って、しおは前の夫からもらった離縁状を見せました。五郎は、きっと辛いことがあって別れてきたんだろうなと同情しました。
 
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ふたりはお寺に行き、住職と夫婦だけの結婚式を挙げました。初夜は五郎があらためて「本当にいいの?」と確認してから、優しくしてくれました。しおは「気持ちいい!」と思いました。前の夫との“まぐわい”は、いつも痛いだけだったのに。
 
五郎と同衾して幸せそうなしおの映像。
 

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視聴者の声
「このシーン、ふたりのアクアで撮ってるよな」
「そんな気がする。葉月ちゃんの吹き替え使ってないと思う」
 
なお、ここ数年ふたりのアクアは、Fが男役、Mが女役をしていたのだが、このドラマでは、Fがしお、Mが五郎を演じた。これはFの容貌が女らしくなりすぎて男役が困難になってきたからである。『緑の首飾りの女』でも一部役割を交代している。
 
修道院に侵入してきたマレスカルを撃退するあたりはFがラウルを演じているが、ブレジャック邸のメイドに化けていたラウルはM、エミールを寄宿舎に入れる付近もFがオーレリーでMがラウルである。むろんラウルの寝込みをオーレリーが襲うところも襲ったオーレリーがFで、襲われたラウルがM。
 
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オーレリーがいかにも楽しそうだったので、観覧者の間でも「これ本当に女アクアが男アクアを襲ったのでは」と言われた。撮影の時、Mが
「こら、本当にちんちん触るな」
などと言っていたので、美高さんは呆れて
「あんたたちの私生活が想像付く」
と言っていた。
 

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