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■神様との生活・真那編(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-06-17
 
真那が初めて星を見たのは、小学4年生(2022年)の4月だった。
 
ゴールデンウィークに奈良市内で、真那の高祖父にあたる奥田北斗の三十三回忌と、高祖母(北斗の妻)きぬさんの十七回忌を併せた法要が営まれ、北斗の子孫にあたる人たちやその他の縁故者が一同に会したのである。
 
奥田北斗は星が生まれる120年前に“神婚”をして理を産んだ奥田命理の長兄・銀河の息子(つまり命理の甥)である。きぬとの間に(夭折した子を除いて)4人の子供を作ったが、その4人がこの時点で全員存命であった(最高齢は長女のとらで94歳)。
 
そこでその4人の子供各々の子・孫・曾孫が配偶者も含めて総勢50-60人いる感じだったし、また北斗は戦前は大きな会社を経営して議員も務め、戦後は全ての資産を失ったものの、趣味の日本画を描いて過ごし、その日本画の弟子などもいたため、親族以外でも、この法事に出席した人達がまた20-30人いた。
 
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それで法事は奈良市内の小ホールを借りて行い、その後の食事会も大規模なものになった。普通は三十三回忌など、ごく内輪だけでやるものだが、親戚一同集合になったのは、やはり北斗が議員などまで務めた人であったことが大きい。
 

 
 

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法要は5月1日(日・仏滅)に行われたのだが、真那は両親とともに前日に奈良市に出て行き、両親が法事の準備に忙しそうにしている中、従姉の俊子などと一緒におしゃべりをしていた。
 
田舎に住んでいるとたまに出てくる奈良は大都会である。午後には子供たちがどうも暇をもてあましているようだと感じた俊子の母・万知が小学生の数人を東大寺・春日大社・興福寺などに連れて行ってくれた。もっともこういうのは小学生が見ても、そんなに面白いものではない!本当は遊園地とかゲーセンとかに行ってみたい所だが、遊びに出てきているのではないので、仕方ない。
 
それでもおやつにおごってもらったチキン美味しかったなあ、などと考えながら晩御飯前にお風呂行っておいでと言われて大浴場に入りに行く。大浴場まで来てから「あ、俊子ちゃん誘えば良かった」と思ったものの、別に1人では寂しいという訳でもない。
 
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脱衣場で服を脱いで裸になり、浴室に入る。それでそのまま浴槽に入ろうとしたら、浴槽の中に居た女の人から注意された。
 
「君、いきなり浴槽に入ったらダメ。おうちならそれでもいいかも知れないけど、ここはみんなが入るんだから、ちゃんと身体を洗ってから入りなさい」
 
「ごめんなさい」
と真那は素直に答えて、洗い場に行き、シャワーで身体を洗った。確かに少し汗掻いてたかもね〜、などとも思う。顔を洗い、胸やお腹を洗う。
 
真那は小学4年生なのでまだ胸は無い。クラスメイトにもまだおっぱいが膨らんでいる子は居ないようだが、そろそろ膨らんで来るのかなあなどと考えると、少し不安なような楽しみのような微妙な気分である。
 
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そういう訳で身体をきれいに洗ってから浴槽に入る。真那に注意した人物は口調がしっかりした感じだったので、てっきり中学生くらいかと思ったのだが、見ると自分と似たような年齢っぽい。おっぱいもまだ無いし。
 
「小学・・・・3年生くらい?」
と彼女が訊いた。
 
「4年生です」
と真那は答える。
 
「あら。私も4年生。私は星」
「私は真那です。同い年だったのか」
 
「あまり大浴場とか温泉とか入ったこと無かった?」
「村にも温泉あるけど、あまり行くものでもないし、幼稚園の時に行って以来かなあ」
 
「へー。田舎ってどこ?」
「E村ってとこなんだけどね」
 
「あれ?もしかして奥田北斗さんの法事で出てきた子?」
「星ちゃんも?」
「私は大阪から来たんだよ。うちは奥田武曲さんの曾孫」
と星は言う。
「私は奥田破軍さんの曾孫」
と真那は答えた。
 
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北斗の男児は2人で破軍・武曲である。これはどちらも北斗七星の星の名前(破軍・武曲・廉貞・文曲・禄存・巨門・貪狼)だ。北斗は男の子を7人作りたかったらしいが、実際には男児は早世した子を除いて2人のみで、北斗七星の柄の所の2星の名前が付けられた。きぬさんは7人の子供を産んだのだが、3人は赤ちゃんの内に死亡。男児2人(破軍・武曲)と女児2人(とら・龍子)が成人に達するまで育った。
 
「この規模で法事やるのはたぶん最初で最後とかうちのお母ちゃん言ってたし、私と真那ちゃんの出会いも凄くレアな出会いだったのかもね」
と星は言った。
 
「だとすると凄いね。私、なんか星ちゃんと気が合いそう。あとで連絡先交換しない?」
と真那も言う。
 
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「うん、いいよ」
と言って、星は真那と握手した。
 

翌日、ホールにたくさんの大人が入ってお坊さんの読経が行われている間、小学生以下の子供は別室でおやつなどをもらっていた。子供たちのお世話係で来海(くるみ)さんという25-26歳くらいかな?という女性も一緒であった。真那がよく親戚とかの集まりの時に話している従姉の俊子ちゃんは中学1年生なので、セーラー服を着てホールで行われている法事の方に出ている。
 
昨夜ホテルのお風呂で会った星が黒い上着に黒いズボンを着て、小学1−2年くらいの黒いドレスを着た女の子と一緒に居るので寄っていく。
 
「そちらは妹さん?」
「そうそう。こちらは小学2年生で月(つき)。月、こちら真那ちゃんね」
「真那さん、こんにちは。月です」
と月は礼儀正しく挨拶した。真那は躾のいい姉妹っぽいなと思った。
 
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それでふたりと話している内に、27-28歳くらいの女性が入ってくる。それを見て月が「あ、お父さん」と言ったのに対して星が「あ、お母さん」と言った。それを聞いて、真那は『お母さん』に続けて『お父さん』も入ってこようとしているのかな、などと思った。
 
その女性はこちらに来ると
「星、ちょっと手伝って」
と言うので、星が
「うん、いいよ。お母さん」
と言って席を立ち、一緒に出て行く。女性は
 
「月は、まだしばらくここで休んでいて」
と言う。すると月は
「分かったよ、お父さん」
と言った。
 
それで女性と星が出ていく。真那は混乱した。
 

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「今のは月ちゃんのお母さんだよね?」
と真那が訊くと
「ううん。私のお父さんだよ」
と月は言う。
 
「だって。。。。女の人だよね?」
「うちのお父さんはいつも女の人の格好してるんだよ」
 
何〜〜〜!?
 
「で、でも、月ちゃんのお姉ちゃんは『お母さん』と呼んでなかった?」
と真那が言うと
 
「私、お姉ちゃん、居ないよ」
と月は言う。
 
「え?でも星ちゃんは?」
「星は私のお兄ちゃんだよ」
 
何だと〜〜〜!?
 
「星お兄ちゃんは、私のお父ちゃんのこと『お母ちゃん』と呼んで、私のお母ちゃんのこと『お父ちゃん』と呼ぶんだよ」
 
はぁ!??
 

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真那が訳が分からないと思っていたら、近くに居た来海さんが寄ってきて言った。
 
「星と月の会話聞いていたら、訳が分からないよね」
と来海さんは言う。
 
「さっき入って来たのは、星ちゃんや月ちゃんのお父さんなんですか?」
と真那が尋ねる。
 
「簡単には説明できないんだけど、さっき入って来たのは命(めい)さんと言って、そのパートナーは理彩(りさ)さんで、月ちゃんは理彩さんから産まれたけど、お兄ちゃんの星ちゃんは命(めい)さんから産まれたんだよ。だから2人とも自分を産んだ人をお母さんと呼び、そのパートナーをお父さんと呼んでいる。だから2人のお母さんとお父さんは逆になるんだよね」
 
真那はやっと意味が分かった。
 
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「じゃ女同士で夫婦なんですか?」
「実質そうだと思う。まあ命(めい)は戸籍上は男だから、ふたりは法律的には男女なんで法的にも結婚しているんだけどね」
 
「戸籍上男なのに子供産んだって、ふたなりとかいうやつですか?」
「そのあたりは私もよく分からないのよね〜。命(めい)ちゃんは一応学生服で中学高校には通っていたけど、よく女装していたし、大学に入ったらもう女の人の格好しかしてなかったね。それで大学在学中にふたりは結婚して、命(めい)が星ちゃんを産んで、理彩が月ちゃんを産んだんだよね〜」
 
「へー」
と真那は感心したように声を出した。
 
「それで星ちゃんは・・・・女の子ですよね?」
と真那は尋ねた。
 
「男の子だと思うんだけど・・・」
 
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「うっそー!? だって私、あの子と昨夜、ホテルの女湯で会ったんですよ。まさかのぞき?」
 
「ちんちん付いてた?」
と来海が尋ねる。
 
「・・・・ついてたら、いくらなんでも気付いた気がする」
と真那は少し考えてから言った。
 
「あの子の性別は実はよく分からないのよ。お友達とかには女装好きの男の子のように思われているみたいだけど、実は女の子なのではという疑惑もあって」
 
「じゃ男装好きの女の子?」
「それもよく分からない。うちの兄貴(吉宏)は星ちゃんを男湯で見たことあるらしい。ちんちんも付いてたと言うのよね。でも私の従妹の奈津ちゃんはあの子と女湯で遭遇して、もちろん、ちんちんなんか付いてなかったというのよね」
 
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「うーん・・・・もしかして星ちゃんも、ふたなり?」
「それとも違う気はするんだけどね。結局、星の性別はよく分からない」
と来海が言うと、月が
 
「お兄ちゃんは時々女の子になることもあるよ」
などと言っている。
 

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結局この日は星は何やら裏方の仕事の手伝いをしていたようで、真那はこの後星と話をする機会は無かった。ただ、昨夜の内に電話番号と住所は交換していたので、その後も何度か電話で話したが、最初に会った時に感じたように、仲良くできそうな感じの子だった。ただ、星の性別問題については、尋ねるのはちょっとはばかられた。もしかして“ふたなり”とかだったら、本人悩んでいるかも知れないし、と真那は思ったのである。
 

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