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瑞葉(みずは)が産まれて数ヶ月後、佐都はかねてからの恋人と結婚した。志摩はもう巫女の務めができる所まで体力回復していた。
佐都の(義理の)父である愛命(あめい)はまた多数の神様たちを呼び、盛大な結婚式を挙げさせた。酔うに任せて神様たちがたくさん佐都に幸福のプレゼントをしたので、ふたりはきっと恵まれた生活を送るであろう。
「佐都が来年産むのは、男の子だね」
と宴が終わってから愛命(あめい)は言った。
「タイミング的に、瑞葉(みずは)か、来年産まれる子の内のどちらかだと思ったんだけど」と光理(ひかり)。
「男の子にさせるのは可哀想だし、瑞葉(みずは)にやってもらうことになるな」
「何の話?」
と志摩は尋ねた。
「神様の子、正確には次世代の神様を産んでもらいたい」
「へ?」
「神様である僕たちにも寿命がある。だから村を守って行くには神様の代替わりが必要になる。その次の神様を産んでもらいたいんだ」
「それって、いつ?」
「僕と愛命(あめい)は今から42年前に生まれた。あと18年後にその次の神様を作らないといけない。そのためには、17年後に人間の女とただ1度だけ使える僕らの男性機能を使って交わる。1度といっても相手が妊娠するまでは何度でも使えるんだけどね」
「瑞葉(みずは)とマグワイしたいというの?」
「本当はこの村で生まれた女なら誰でもいいのだけど」
「処女に限るけどね。処女にしか神様は産めないから」
「でも神様を産むというのは、いろいろ凄い体験になるから、そういう面倒なことはできたら内輪で済ませたいんだよ」
「神様産んだら死んだりはしないよね?」
「むしろ長生きすると思う。もちろん、その後で人間の男と結婚したり、他にも子供を産んだりするのは自由」
「実は産むのは女の子でも男の子でもいいんだけどね」
「男の子が子供を産むのは大変だから、女の子の方がいいと思うんだよね」
「そうなると、瑞葉(みずは)しかいないということなのね?」
「うん」
と愛命(あめい)と光理(ひかり)は一緒に返事した。
「瑞葉(みずは)は僕の子供だから、さすがに僕は実の娘とマグワイする訳にはいかない。愛命(あめい)、頼むよ」
「うん、それしかないと思う。だから僕はそれまでできるだけ瑞葉(みずは)の前には姿を見せないようにしておく」と
愛命(あめい)。
「瑞葉(みずは)は神様の娘なんだもんね。そういう宿命なのかもね。でもそれ瑞葉(みずは)が大きくなって、本人にもちゃんと言って納得させてからして」
「ごめん。そのことは、赤ちゃんが無事産まれるまで本人には言ってはいけないことになってる」
「言っちゃうと、赤ちゃんが流れちゃう可能性もあるんだよ」
「うっ」
「女にとって初めてのマグワイ、初めての出産がどれほど大きなものかというのは分かってはいるつもり。でもそれを犠牲にしてもらわないと、神様を産むことはできないんだ」
と光理(ひかり)は言った。
「分かった。でも瑞葉(みずは)とマグワイした後、愛命(あめい)を殴ってもいい?」
「志摩に殴られるくらいは我慢するよ」
と愛命(あめい)。
「まあ18年も先のことだけどね」
「私自身生きてるかどうかも微妙に怪しいなあ」
と志摩は少し不安げな表情で言った。
「志摩は80歳まで生きるよ」
と光理は言った。志摩はその言葉は聞かなかったことにした。
「もしかして60歳で愛命が人間の娘に子供を産ませて、次は120歳で今度は光理が人間の娘に子供を産ませるの?」
「そのつもり。御免ね。志摩がいるのに」
と光理は言うが
「78年後まではさすがに私生きてないから、それは構わないよ」
と志摩は笑って言った。
志摩が体力を回復させながら、瑞葉(みずは)のお世話をしていたら、夏衣が
「やはり赤ちゃんっていいなあ。私ももうひとりくらい産みたかったな」
などと言った。
するとそれを聞いていた愛命(あめい)が
「あれ?夏衣も赤ちゃん欲しいの? 作る?」
などと言い出す。
「へ?だって愛命の男性能力は封印されてるんでしょ?」
「あのね、志摩を男から女に変えることができたのは、人間の身体は元々男性体と女性体から成っていて、裏に隠れていた女性体を表に引き出したからなんだよ。夏衣にも実は裏に男性体が隠れている。だからさ、夏衣が実は持っている男性体の中のおちんちん・タマタマを僕がもらってね、それで僕のツビを夏衣に預ける。それでマグワイすると赤ちゃん作れる」
「意味が分からん!」
「つまり、お姉ちゃんのおちんちんを身体に付けた愛命と、愛命のツビを身体に付けたお姉ちゃんとでマグワイして、お姉ちゃんは愛命の代わりに赤ちゃんを産むということだよね」
と志摩が説明したが、夏衣はますます分からないよぉと言った。でもやってみたら「なるほどぉ!」と言って納得した。その晩
「おお!愛命(あめい)のおちんちんが立ってる!」
という声が、志摩と光理の寝室の方まで聞こえてきて、ふたりは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
1ヶ月後
「私妊娠したみたいだけど、妊娠したのは愛命(あめい)のツビなんでしょ?愛命(あめい)が産むの?」
と夏衣は訊いた。
「もちろん、産むのはお姉ちゃんだよ」と志摩が答える。
「そうだったのか」
「不安なら流す?」と愛命が尋ねたが
「いや、産む」
と言って夏衣は張り切っていた。その子供は翌年産まれた。つまりこの年は夏衣と佐都が、母娘そろって妊娠・出産したのである!
そういう訳で、675年に瑞葉(みずは)、677年に佐都の息子・耶真(やま)と夏衣の息子・田里(たり)が相次いで産まれた。三人は姉弟のように仲良く育った。結果的にはこの3人の子孫が、代々神社の管理をしていくことになる。
「夏衣も佐都も男の子産んじゃうから、結局神婚するのは瑞葉(みずは)かな」
「お腹を大きくした男の子という図はさすがに可哀想だし、まあいいよ」
と志摩も言った。
「だいたい男の子が妊娠した場合、どこから産むのよ?」
「さあ、産む時になれば、何とかなるんじゃない?」
と光理もそのことまでは知らないようであった。
瑞葉(みずは)が生まれてから年が明けて間もなく、志摩が仕事の合間に瑞葉(みずは)にお乳をあげていたら、家の前を老人がひとり通り掛かった。その老人がこちらを見ていたが、その視線に何か違和感を感じた。
「どなたですか?」
と志摩は声を掛けた。
「あ、いや、私は怪しいものでは・・・・」
と狼狽するような顔を見て、志摩は
「お祖父様?」
と言った。
「いや、その。。。お前、まさか志摩なのか?」
「お祖父様、ご無事でなによりです」
「お前、その胸は・・・お前、男だったと思ったのに」
「女に変わったんです。男が女に変わるのは、陽が陰に転じるということで不吉らしいですけどね。でも私は神様にご奉仕する日々を送ることで、その不吉を反転させて吉にしている気がします」
「そうか。。。孫たちの消息を尋ね歩いていた。10人の孫の内、3人が亡くなっているのが分かって」
「ええ。**兄さん、**兄さんは近江朝に味方していて、戦役で亡くなりましたから。**姉さんは出産で亡くなったんです」
「うん。そこまで聞いた。あと、残っていたのがお前と夏衣(かい)で」
「ここで立ち話もなんですから、上がって話しませんか?」
祖父は今、出羽山にいるということであった。出羽は、80年ほど前に崇峻天皇の暗殺事件の後、難を逃れて逃げ延びていった蜂巣王子が小さな国を開いたが、辺境の地であることと、王子自身が政治的な野心は持っていなかったことから、中央政府もそれを黙認というより黙殺していた。祖父もその国に逃げ込んでいたのだという。
「でも、お祖父様、むしろあそこにはお祖父様を恨んでいる人たちが多いのでは?」
祖父はバリバリの聖徳太子派であり、蜂巣王子にとっては仇敵であった。
「あの国は仏の前に全ての人が対等であるという考えで治められている。国の長(おさ)も子供が継いでいくのではなく、長が亡くなれば、残った人の中から最も人望のある人が後を継ぐやり方なんだよ。だから大和の国で何をしていたかもお互いに問わない」
「それはまた面白いことをなさってますね」
祖父は志摩と夏衣が無事であること、それぞれに娘が出来て、夏衣には来年孫が生まれることなどを聞き嬉しそうにしていた(この時点ではまだ夏衣自身は妊娠していない)。
「夏衣と佐都は今、佐都の夫の家に行っているのですよ。明日には戻りますから明日まで休んで行ってください」
「いや。私はこの世からは居なくなって、出羽の仏の国に生まれ変わったようなもの。長居は無用。みんなが幸せに暮らしているということが分かっただけで充分だよ」
「私は男であった存在が居なくなって、女に生まれ変わった者ですけどね」
「世の中には不思議なことがあるものよのぉ」
と言って、祖父は瑞葉(みずは)の頭をなでなでしていた。
私もそのうち曾孫をなでなでするような時が来るのだろうか。志摩はそんなことをふと思った。一時は子供さえも諦めていたのにね〜。なんか欲が出てきちゃったのかな。ふとそう思って志摩は微笑んだ。
一陣の風が舞った。
「お帰りなさい、わが君(夫のこと)」
と志摩は後ろも見ずに言う。
「ただいま、我が妹(いも:妻の意味)」
と光理(ひかり)が答える。光理はふつうの人の目にも見えるように示現している。何だか都の貴族のような服装である。
「今、どこから?」と祖父が驚いて言う。
「わが君、こちら私の祖父です。お祖父様、私の夫です」
「こ、これはこんな格好で申し訳無い」とか祖父はよく分からないことを言うが、光理の威厳のある雰囲気と服装から貴人なのではと思ったのだろう。
「お祖父様、出羽に戻られるのですか?」と光理(ひかり)。
「はい」
「ではこれを出羽の大天狗様に持って行ってください」
と言って、袋を渡す。
「これは?」
「干し李(ほしスモモ)です。奈良のE村N大神からのお届け物ですとお伝え下さい」
「大天狗というのは・・・・」
「出羽山の神殿の前に立てば、自ずと巡り会えるでしょう」
と言って光理(ひかり)は悪戯っぽく微笑んだ。
「お祖父様を無事出羽に帰すために、お使いを頼んだのね?」
夕飯を一緒に食べながら志摩は光理(ひかり)に言った。
「だって、あの爺さん、今にも死ぬつもりって感じだったからさ。簡単に死んだら志摩が悲しむかもと思ってね。ついでに病気は治しといたから、後10年くらいはもつかな」
「ありがとう。光理(ひかり)も昔に比べると随分親切になったね」
「僕は最初から親切だったと思うけどなあ」
「そうだね」
「瑞葉(みずは)よく寝てるね」
「うん。毎日、たくさんお乳飲んで、御飯も食べて、泣いて、寝て」
「健康な証拠だよ」
「神様の娘だもん」
と言ってから志摩はハッとした顔をした。
「この子、龍の姿になって空のお散歩とかしたりしないよね?」
「大丈夫。神様の能力は封印されてるから」
「へー」
「でもその能力はこの子が愛命(あめい)以外の人間の男と結婚して子供を産んでも、その子、孫へと封印されたまま代々受け継がれていく」
「受け継がれていってもずっと封印されたまま?」
「万一、僕の血統が断絶したような場合は、その子孫の誰かが普通に産んだ子供が神様として覚醒するのさ」
「それって・・・」
「いわば分家を作って、本家断絶に備えるようなものだね」
「凄い。でも何代も伝わるとさすがに薄れていくよね?」
「薄れない。神様の能力は分散しないから。小箱に収められたかのような形で伝わっていくんだよ」
「何だか難しくて私には分からないなあ」
「志摩、女の身体になってから理詰めで考えるのが少し苦手になった?」
「そうかも。結構男と女で頭の働き方も違うみたい」
「確かに僕も女になってる時はなんか普段と違うことを思いついたりするもんなあ。男と女って面白いね」
「そうだね」
ふたりは何となく微笑んで口付けをした。
「私のツビの片方、ひかちゃんに返そうか?」
「うーん。別に無くてもいいけど」
「サネ(陰核)いじりは気持ちいいよ」
と志摩は言う。
「実は昔けっこうそれで遊んでた。僕は自分のおちんちんでは遊べないから」
と光理も答える。
「じゃ、戻して楽しむといいよ」
「でも今は志摩からもらったおちんちんで遊べるから。これずっと僕がもらってていいよね?」
「うん。おちんちんが自分の身体に付いてたってのが今となっては悪夢みたいな気がするよ」
「でもサネいじりもあれはあれで気持ち良かった気もしないではない」
「じゃ、返すよ」
「それもいいかなあ。それでサネとサネ同士で夜の営みしたりして」
「そんなのできるの!?」
「波斯より更に西の希臘(ギリシャのこと)の国では《さほう》とかいうらしいよ」
と光理(ひかり)がいう。
「ふーん。ちょっと興味あるな」
と志摩も答える。
「そうか。ツビの片方を僕が持っておけば、志摩とは、男女のマグワイも女同士のマグワイもできるね」
「うふふ」