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■神婚伝説・神社創始編(2)

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ふと目を覚ますともう日が暮れかかっていた。ちょっとやばいかなあ、と志摩は初めて考えた。取り敢えずどちらかに行ってみよう。こういう時、右に行ったり左に行ったりしていたら収拾がつかないから、分からないと思ったら、どちらか片方だけに決めて歩いた方がいい、と以前兄の都利が言っていたのを思い出した。
 
そこで志摩は分かれ道に来たら右に行くということを決めた。取り敢えずその分かれ道を右に歩いて行く。そして10分も歩いていたら水の音が聞こえてきた。わあ!川がある。行ってみよう。単純にそう思った志摩はその音が聞こえる方へと歩いて行った。地面が少し低くなっていて、わりとしっかりした流れがそこにあった。
 
志摩は川のそばまで行き、取り敢えず水をたくさん飲んだ。そして半分くらいになっていた竹の水筒にも水を補充する。
 
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何だか水をたくさん飲んだら元気になった! 夜道だけど気をつけて歩けば大丈夫だよね。そう自分に言い聞かせた志摩は道を戻ろうとした。
 
その時、自分が来た道を見てギョッとした。
 
そこに犬に似た動物が居て、こちらを見ていた。
 
これ・・・・もしかして狼!?
 
きゃー。どうしよう?
 
しかし狼は特に志摩には興味が無いようで、川辺に来て水を飲み始めた。
 
なーんだ。喉が渇いたのね。うん。たくさん水を飲むといいよ。優しい志摩はそう考えて、狼のそばに寄り背中を撫でてやった。狼は最初ビクッとした感じであったが、志摩が優しく背中を撫でているとキューンとかいった声を挙げ、撫でられるに任せている。そしてやがて自分の舌で志摩の顔を舐め始めた。
 
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「わあ、くすぐったいよ」
と志摩は笑いながら言う。そして狼は向こうに歩いて行く。
 
「あ、待って。狼ちゃん、一緒に行こうよ」
そんなことを言って志摩は狼に付いていく。
 
すると狼は時々こちらを見返るようにして、ゆっくりと山道を歩いて行った。
 

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しばらく狼が前を歩き、志摩がその後を付いていくという不思議な構図が続いた。
 
狼は少しずつ山道を上の方へ歩いて行く。道の傾斜は次第に大きくなる。結構ペースも速く山歩きに慣れていない志摩にはきつかったが、それでも頑張って付いていった。日が落ちてからしばらくは真っ暗で狼の姿を見分けるのが辛かったが、やがて月が昇ってくると、また容易に見分けられるようになる。
 
そういう行程は1時間以上続いた。そしてやがて少し開けた所に出る。そこに大きな杉の木が1本立っていた。そこで狼は再度志摩を見ると「じゃね」という感じの視線を送った後、さっと走って木々の中に消えて行った。
 
「あ・・・」
と思ったが、かなり疲れているので、とても狼を追えない。取り敢えず志摩はその杉の木の下に座り込んだが、ハッとして禰宜から渡された地図を見る。
 
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「一本杉」というのが描かれている! わあ、奥宮に行く道に私戻れたんだ!
 
「狼さん、ありがとう!」
と志摩は狼の走り去った方角に向かって叫んだ。ずっと向こうからそれに返事するかのように狼の遠吠えが聞こえた。
 

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正しい道に戻れたので嬉しくなった志摩は取り敢えず、おにぎりをまた1個食べた。おにぎりは3個もらってきている。残り1個は明日に取っておこうと思い、取り敢えず志摩はその杉の木の下で寝た。
 

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朝爽快に目が覚める。少し足が痛いが、手で少し揉んでほぐしてから、また地図を頼りに歩き始める。
 
例によって道は雑草や名前も知らない花で覆われているが、逆に花で覆われていることで、そこが道であることを判別できた。
 
吉野では山は「里山・内山・奥・岳」と分類される。里山は人が住んでいる界隈、内山はキノコや山菜を採りに行く範囲で、この内山が人と、狼や熊との生活領域の緩衝地帯でもある。奥は狼や熊の世界、そして奥宮はその更に先の「岳」の領域にある。
 
志摩は本人は意識していなかったが、その時「奥」の領域から「岳」の領域にさしかかる付近を歩いていた。
 
このあたりの道になると、もう正しい道を歩いているのか迷っているのか判別が付かない感じでもあった。そもそも本当にここは道なんだろうかと疑問を感じることもあった。でも、とにかく歩くしかないという感じで歩いていく。時々休憩しては水を少し飲む。お腹は空いていたが、おにぎりは食べない。それは何かの時のために取っておいた方がいいと志摩は思った。いざとなったら、おにぎりを食べられると思っていれば、活力が出る。
 
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お昼を過ぎたかなという頃に、小さな滝を見た。やった!これも地図にある!すごーい。私、道を間違えずにここまで来たんだ。
 
嬉しくなった志摩はその滝の所でまた水をたくさん飲み、竹の水筒に水を補給した。少し休んで行くことにする。
 
滝の音が心地良い。滝から吹いてくる風が涼しくて気持ちいい。滝は二条になって落ちていた。
 
その時ふいに「ねえ、君」という声を聞いた。
 
驚いて振り返ると、17〜18歳くらいかな?という感じの男の子が2人立っていた。志摩はこんな所で人間に会うとは思ってもいなかったので本当に驚く。
 
「君、どこから来たの?」
と少しがっちりした感じの方の子が訊く。
 
「K村から来ました」
「ひとりで来たの?」
「はい」
「よくここまで歩いて来たね」
 
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「あれ? 君女の子かと思ったら、男の子なんだね。どうして女物の巫女衣装着てるの?」
と優しい感じの方の子から訊かれた。
 
「私、こういうのが好きで。いつも女の子の服を着てるの」
「ふーん。女の子になりたいの?」
 
「なれたらいいなって思ってる。そのうち、お嫁さんに行けたらなとかも」
「へー。でもたまにそういう子はいるね。構わないと思うよ。君可愛いから、君くらい可愛ければお嫁さんにしてもいいかなと思う男の人もいるかも」
「そう?だったら嬉しいな」
 
「でも君、どこに行くの?」
 
「なんか御神託があって。私に奥宮にある鏡を取ってくるように言われたの」
「君ひとりで?」
「うん」
 
「あそこまで行くのは、大人の男の人でも相当屈強な人でないと無理だよ。君、華奢な感じだから崖も登れないでしょ?」
「崖とか登るの?」
「うん。何ヶ所もそういう所がある」
 
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「でも私行かなきゃ。神様から言われたんだもん」
「本当に神様から言われたのかなあ。神様はそんな無茶なこと言わないけど」
「そうですか?」
 
「でもここまでもよく登ってきたね」
とふたりは言った後、ちょっと顔を見合わせて
 
「この子、手伝ってあげようか」
などと言う。
「そうだね」
ともうひとりも言う。
 
「ほんとですか?助かります!」
と志摩は言った。
 

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それで、ふたりの男の子に先導されて志摩は歩き始めた。
 
ふたりは、がっちりした感じの方が「愛命(あめい)」、優しい感じの方が「光理(ひかり)」と名乗った。
 
「私、志摩(しま)です。よろしくお願いします。光理(ひかり)さんと愛命(あめい)さんはこんな山奥で暮らしているんですか?」
 
「ここに来て2年くらいかな。結構ふたりであちこち旅して回ってるけど。僕たち、こういう高い所が好きだから」
「へー!凄い!」
 
しかしそこからの道は本当に険しかった。傾斜が急でしばしば志摩はふたりに遅れそうになったが、ふたりが少し待ってくれたりしたので何とか追いついて行った。道幅が1尺程度(20cm程度)しかなく、両側は絶壁などという凄い所も歩いた。
 
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「自分を信じて。まっすぐ歩けば落ちることはない」
と愛命(あめい)は言った。志摩も両側が絶壁ということを忘れて歩いた。
 
そして、本当に壁としか言えないような崖もあった。
 
「僕が先に登ってみせるから、真似して登っておいでよ」
と光理(ひかり)が言った。
 
それで光理(ひかり)が登っていくのに使っている足場、手を掛ける場所を良く見てそれを真似して志摩も登っていく。すると意外にそんなに体力も使わずに登ることができた。但し登った後は「少し休ませて」と言って5分くらいその場に座り込み、体力(というより筋力)を回復させた。そのような崖を結局5回登った。
 

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そして2日目ももう暮れようかという頃、3人はとうとう奥宮に辿り着いた。禰宜から聞いたように、美しい船の形をした磐座(いわくら)があった。
 
しめ縄がもうボロボロになっている。志摩は持参してきた新しいしめ縄をそこに張って、二拝二拍一拝した。
 
「今夜は遅いから、鏡を掘り出すのは明日の朝にした方がいい」
と光理(ひかり)が言った。
 
「そうですね。そうしようかな」
「君、お腹空いたでしょ?」
「あ、でもおにぎり持って来てるから」
「ああ、じゃそれ食べちゃうといいよ」
 
「そうですね。目的地に辿り着いたし食べちゃおうかな。でも光理(ひかり)さんと愛命(あめい)さんは?」
 
「ああ。僕たちは適当に調達する」
「僕が採ってくるよ」
と愛命(あめい)が言ってどこかに出かける。10分もしないうちに、真っ赤な果実を数個持って来た。
 
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「山桃だよ。君にもひとつあげる」
と言って志摩にもくれた。食べると甘酸っぱい味覚が口の中に広がる。
 
「美味しい!」
「良かったね」
 
3人でしばらくおしゃべりした。志摩は村での暮らしや友だちとの遊びの話をした。
 
「へー。君、女の子とばかり遊んでるんだ?」
「うん。男の子とはあまり話さない。でも光理(ひかり)さん、愛命(あめい)さん話しやすい」
 
「まあ、僕たち本当は性別が無いから」
「え?」
「取り敢えず男の子の格好してるけど、女の子にもなれるよ」
「うっそー!」
 
「じゃ、女の子になっちゃおうか」
と光理(ひかり)が言うと、愛命(あめい)も「そうだね」と頷き、次の瞬間ふたりは女の子の姿になった。
 
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「えー!? 信じられない」
「本当は人はみんな男にも女にもなれるんだよ。ただ、その機能は普通封印されている」
「そうなんだ!」
 
「君も女の子にしてあげようか?」と光理(ひかり)。
「わあ、なれたらいいなあ」
「でもむやみに性別を変えると、叱られるよ」と愛命(あめい)。
 
「そうだなあ。じゃ、取り敢えず、君がこのあと男っぽくならないように、タマタマだけ取っちゃおうか? タマタマ必要?」
「ううん。無ければいいのにと思ってた」
 
「じゃ取っちゃおう」
と光理(ひかり)が言うと、次の瞬間、志摩はお股の感覚が変わったのを感じる。
 
「これで君、男の子みたいな声になることもないし、ヒゲとか生えてくることもないよ」
「わあ!嬉しい」
「もっとも、御婿さんには行けないけどね」
「それは構わないなあ。どちらかというとお嫁さんに行きたいし」
 
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「そうだね。何なら私のお嫁さんにしてあげてもいいかな」
と光理(ひかり)がいう。
 
「ほんと?」
「まあ、それは君がお嫁さんに行けるような年齢になってから考えよう」
と光理(ひかり)は笑顔で言った。
 
その晩は結局、光理(ひかり)と愛命(あめい)は女の子の姿のまま、一緒に身を寄せ合うようにして寝た。
 

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3日目の朝、愛命(あめい)が草の実を採って来てくれたので、それを食べて朝ご飯にする。ふたりはまた男の子の姿に戻っていた。
 
志摩は持参してきた道具を使って、船岩の前、光理(ひかり)に言われた場所を掘った。かなり掘って、30cmほど掘ったところで、硬い金属に当たる。そこからは慎重に掘る。そして結局2時間近く掛けて、やっとその鏡を掘り出すことができた。
 
「きれーい。でも重ーい」
 
「青銅だからね。重いよね。それ結構大型だから、重さ8斤(約5kg)くらいある」
「持てる?」
「頑張る」
と言って志摩は背中に背負ってきた袋に入れる。肩に掛けるとずっしり重みが身体に掛かる。結構辛いかも。でも頑張らなくちゃ。
 
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掘った穴を埋め戻し、光理(ひかり)と愛命(あめい)に導かれて山を降りた。
 

絶壁を降りる所だけ、荷物を光理(ひかり)が持ってくれた。
 
やがてふたりと出会った滝の所まで戻るが、ふたりは更にずっと下の一本杉の所まで送ってくれた。
 
「ここから先はひとりで帰れる?」
「はい。多分何とかなります」
 
「もし道に迷ったら、僕たちを呼ぶといいよ。僕たちは君が呼んだらどこにでも行ってあげるから。この先ずっとね」
「はい!」
 
「僕たちを呼ぶ時の呪文を教える。覚えて」
 
と言ってふたりは難しい呪文を教えてくれた。復唱してきちんと言えるようにする。
 
するとふたりは「じゃ、またね」と言って、ふっと姿が消えた。
 
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志摩は目をパチクリさせた。それでやっと、ふたりが人間では無かったことに気付いた。
 
「きっと、光理(ひかり)さんと愛命(あめい)さん、本物の神様だったんだ!」
と呟くと、「ふふふ」という感じの光理(ひかり)の笑い声を聞いたような気がした。
 

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志摩が山道を下っていくと、どこからともなく、2日前に道案内をしてくれた狼が出てきた。
 
「狼さんこんにちは」
と志摩が言うと、狼はちょっと微笑んだような気がした。
 
その狼に付いていくと、志摩はかなり短時間で明らかに記憶がある道まで来ることが出来た。
 
「ここまで来れば大丈夫かな。狼さん、ありがとう」
と志摩は言った。狼はどこへともなく走り去った。
 
そして3日目の夕方近く、志摩は村に帰還した。
 

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