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■神婚伝説・神社創始編(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-06-15
 
「お姉ちゃん、御免ね。お姉ちゃんは、いっそ賑やかな都に行きたかったんじゃないの?」
 
「都に行くと、何だか変な男と結婚させられそうだから。しばらく男のことは考えたくないし。私は志摩と一緒に田舎暮らしする方がいいよ。でもどこに行くのさ?」
 
「神の思し召すまま」
「ふーん」
 
志摩は禰宜と村長に申し出て、戦乱の翌年の春、神社の巫女を辞任した。今回の戦役に大きく関わってしまった以上、この村で自分が巫女をしていると、他の人に迷惑が掛かるかも知れないし、また今回の戦で村人の中にも多数の戦死者が出たので、その冥福を祈り、残された遺族の今後のことも祈りたいので、どこか山奥に引っ込んで、純粋に神に奉仕する生活をしたいという志摩の話に、禰宜も村長も納得してくれた。
 
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ただ色々困った時に相談したいから、落ち着き先が決まったら連絡を欲しいと禰宜は言い、志摩も同意した。
 

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志摩と夏衣は村を出て「星の導くまま」に道を歩いた。志摩も体力は無いし、夏衣は更に体力が無いので1日に10kmくらいずつの、のんびり行程になった。だいたい歩いている時間より休んでいる時間の方が遥かに長かったし、雨の日は丸1日、途中にあった洞穴の中で過ごした。ふたりは最初西へ歩いていたのだが、2日目の夜に東に大きな流れ星を見たので途中で反転し、山道を越えて元居た村より東の方まで進んで行った。
 
「ところであんた本当に胸があるんだね」
「ふふふ」
「何か詰め物でもしてるのかと思ってた」
「私さぁ、私のことを全然知らない人ばかりの所に行って、最初から女として埋没して暮らしてみたい気もしてたんだよね〜」
「ああ、それもいいかも知れないね」
 
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戦乱の直後で治安が乱れている雰囲気もあり、女二人の道行きなので、盗賊に狙われたりもしたが、志摩がキッと睨むと、どの盗賊も戦意を失い「すまん」
とか「お許しを」などと言って、武器も放置して退散した。
 
「あんた、どういう妖術使ってるの?」
と姉が言うが
 
「妖術じゃないよ。神様の御加護があるだけだよ」
と志摩は笑って言った。
 
ふたりは「干し飯(ほしいい:乾燥させた御飯)」を持って旅をしていたが10日ほど歩いた所でその保存食が尽きる。
 
「御飯どうする?」
「ある程度の村に行けば、持って来た絹や布(*)と交換で分けてもらえるはず。絹や布が無くなりそうだったら、都に使いを出せばお父ちゃんから届くと思うけど、その場合、数日滞在しないといけないから面倒だよね。あと、大王(天武天皇)の書状を見せれば、食糧はどこの村でももらえると思うけど、そちらはあまり行使したくないな」
 
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(*.当時の「布」とは植物繊維〜主として麻〜で作ったものを言い、絹織物や毛織物を含まない。実際には志摩たちは絹が高価すぎて交換不能な場合のために麻布を持ち歩いていた。なお木綿は8世紀に栽培法が伝えられたが室町時代の中期頃まではあまり栽培されておらず超高級品であった)
 
「騒がれない所がいいもんね」
「うんうん」
 

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ふたりは食糧調達のため、山を少し降りることにして里に向かう道を歩いた。やがて小さな村がある。村の世話役の家を訊いてそこを訪ね、旅の者なので、食糧を分けて欲しいと頼み、持参の絹と交換で干し飯と少し野菜なども頂いた。野菜は村を出て以来取っていなかったので嬉しかった。
 
「しかし、女ふたりでどこに行かれます」と世話役さん。
「神の思し召すままの旅をしております」と志摩は答える。
 
「何か巡礼の旅ですか?」
「戦(いくさ)で亡くなった方達を弔い、また新しい国の繁栄を祈願しています」
「尼さんですか?」
「いえ、巫女です」
「ああ・・・・」
と言ってから、世話役が訊いた。
 
「病気の祈祷とかできます?」
「私たちでできる範囲でしたら」
 
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話を聞くと、先の大王(天智天皇)の血を引く史季王女(しきのひめみこ)という人が大津宮が落ちたことで母の実家のあるこの村に逃げ延びて来たものの、慣れない田舎暮らしのせいもあってか体調を崩し、先日から病気平癒を祈って、近隣の祈祷師などを呼んでいるものの、改善が見られないのだという。
 
志摩は取り敢えず診せてもらうことにして、その家に赴いた。ここでまた中央の政治に関わるようなことはしたくないものの、病人は放っておけないという気持ちであった。
 
その姫君を見ると年の頃は12〜13歳くらいであろうか。確かに衰弱している。しかしこれは身体の病気ではないと志摩は思った。精神的なものだ。自分と親しい人たちがたくさん死んだのを見て心の傷を負っているのだろう。
 
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志摩は「失礼します」と言って患者の手を握った。自分の波動で患者の波動を包んでいく。心の中でゆっくりと呪文を唱える。
 
「ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・ここの・たる。ふるべ・ゆらゆらと・ふるべ」
 
今はほぼ消えてしまった物部神道に伝わっていた、魂を奮い起こす呪文である。
 
この場面は中臣神道系の「祓う」呪文ではなく物部神道系の「奮う」呪文だと志摩は思った。更に志摩は心の中で同系統の祝詞をいくつか唱えて反応を見、効果の良かったものを繰り返し唱えた。
 
志摩が祈祷らしきこともしないまま、ただ患者の手を握って何か呟いているので、周囲の人は奇異に感じていたようであるが、30分もそうしている内に、真っ白だった患者の頬に赤味が差してきた。
 
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「おお・・・・・」
「何か祝詞とかを唱えていたわけでもないのに?」
 
そこで姉が説明する。
 
「祝詞は声に出して唱えた方が良い時と、心の中で唱えた方が良い時があります。今、妹はひたすら心の中で、姫君を回復させるための祝詞を唱えています」
 
「なるほど」
「ぜひ、そのまま続けて下さい!」
 
そして2時間も志摩がそういう「心の癒やし」を続けた結果、姫君は目を開き「お腹が空いた」と言った。
 
すぐに粥、というより重湯のようなものが用意される。姫君は3杯も食べて、更に「お代わり」と言ったが、一度に食べては身体に悪いと言われ、また後で食べることにした。
 
志摩たちの「言葉に出さない祈祷」で自分が回復したというのを聞くと姫君は「この方達とだけ話したい」と言って人払いを望んだ。
 
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「まあそれも良いでしょう」と言って、伴の者を下がらせ、母親だけ廊下で控えていることにする。
 
志摩がうまく誘導したこともあり、姫君は戦乱での出来事、それ以前の宮でのここ数年の不穏な動きで精神を削がれていたことなどを語った。むしろ戦乱前の様々な粛正などの動きの方が辛かったようであった。たくさんの不条理な事がまかり通り、悲しくて泣いて暮らしていたと姫君は語った。そしてそんな話を志摩たち姉妹が聞いてあげることで、心が癒やされていくようであった。姫君はたくさん泣いたが、志摩たちはそれを泣くに任せておいた。その涙のひとつひとつがまた姫君の心を癒やしていく感じだった。
 
「私、何だか少しスッキリした」
「良かったですね」と言って志摩は姫君の涙を拭いてあげる。
 
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「私、ちょっと頑張ってみようかな」
「ええ、頑張ってみましょう」
「でも、お姉様方と時々でも話がしたい」
 
志摩と夏衣は顔を見合わせた。
 

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姫君の親族、それから村の世話役と話した所、もし良かったらこの村に留まってもらえませんかと言われる。
 
実は村の神社が、祭る人が40年ほど前から絶えて、困っていたので、そこの祭祀を引き受けてくれないかとも言う。志摩たちはそこに行ってみた。
 
「これは・・・・・」
 
と志摩は絶句した。
 
「この村、最近不作が続いたりしていませんか?」
「実はそれも困っていました。20年前の旱の年は物凄い死者が出ましたが、それ以外の年でも、なかなか豊作という感じにならずに、ずっと村を離れる者が相次いでいます」
 
「それはそうでしょうね。この神社に神様が不在だから」
「神様、おられませんか!?」
「神様が不在なのをいいことに変なものがたくさん集まっているのでこんな所でお祈りしても、ますます状況が悪くなるだけです」
 
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「何とかなりませんか?」
「神様を呼びましょう」
 

村人たちにお願いして、神社の境内をきれいに掃除してもらった。実は神社が荒れているので、ここにゴミを捨てる者なども相次ぎ、一部悪臭を放っていた領域もあったのだが、そういうのも含めてきれいにし、表面の土も入れ替え、水を撒いて物理的な清浄さを回復させた。
 
その上で志摩は大祓祝詞を奏上し、敷地内から、変な物を一掃した。
 
「なんか今物凄くここがきれいになった気がしたんですけど」
と村長。
「ええ、そういう祝詞を唱えましたから」
と志摩はにこりと笑って言う。
 
「凄い!あなたたちは本物だ!」
 
「あの、村長さん、3日ほど雨を降らせてもいいですか?」
「雨ですか? 助かります。今年も少し水不足気味だったので」
 
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「水害は出ないように自重させますから」
と志摩は笑顔で言い、その日の内に召喚の準備をする。
 
そして、翌朝、姉とふたりだけで神社の境内の磐座の前に立ち、朝日が差すのと同時に、光理(ひかり)・愛命(あめい)の両神を正式に召喚する呪文を唱えた。
 
ふたりはあっという間に姿を現した。
 
「どうしたの?こんな面倒な呼び出し方して」と光理(ひかり)。
 
普段は志摩が「光理〜!」とか「ひかちゃーん」と呼ぶだけで来てくれる。というか、3日前にも光理は志摩のそばに来てキスして行った。
 
「あれ?今日は志摩ひとりじゃないんだ?」と愛命(あめい)。
 
「え? あなたたち今どこから来たの?」
と夏衣は言って驚いている。
 
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「あ、こちらうちの姉の夏衣(かい)です」
と志摩はまず自分の姉をふたりに紹介した上で

「私の夫の光理(ひかり)とお友だちの愛命(あめい)さん」
とふたりを姉に紹介する。
 
「えー? あんたの旦那って何者!?」
と夏衣はますます驚いている。
 
「ふーん。僕たちのことが見えるんだ?」
「さすが志摩のお姉さんだね」
 
「今度は何? 嵐を呼ぶ?山でも崩す?沼でも作る?川を氾濫させる?」
「あ、えっと人家に被害が出ない程度に3日ほど雨を降らせてくれないかなあ」
 
「その程度か」
「まあ、しょうがないね」
「志摩はあまり人が死ぬの好きじゃないみたいだし」
「じゃ、始めよう」
 
などと二人は言うと、たちまち龍の姿になり、天空に駆け上っていった。夏衣が呆気にとられていた。
 
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そしてそれまで雲一つ無い晴天だったのが急に雲が現れ、大粒の雨が降り出した。
 

もう1ヶ月近く雨が降っていなかったので、慈雨だ!と感激された。ふたりは取り敢えず村長の家の離れに泊めてもらう。長旅で疲れたでしょうと言われ、村の奥地にある温泉に案内された。
 
そこは林の中に一坪くらいの小さな湯のたまりができていて、上に屋根が作ってあるので、雨を気にせず入浴することができる。
 
村長の奥さんに案内してもらったのだが、村長の奥さんも一緒に入る雰囲気だ。夏衣はうーんと思って志摩を見るが、志摩は平気っぽいので、大丈夫なのかなと考えた。
 
服を脱いでしまうが、志摩はさりげなくあの付近を手で隠している。この子、私より胸大きいじゃん!と夏衣は思った。まあ、この胸を見たら女にしか見えんな。肩もなで肩だし。
 
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湯を桶ですくって身体に掛け、汗を流す。その上で湯に浸かった。
 
「あら、去年の戦役で御主人が亡くなられたのですか?」
と奥さんがいたわるように夏衣に言った。
 
「ええ。半年泣き明かしました。でもそれより辛かったのは、それで婚家との縁が切れてしまって、娘と引き離されて実家に戻されたことかな」
と夏衣。
「娘さん、おいくつ?」
「今年十五です。笄年(けいねん:女子の成人式の年)なんですけど、戦乱の影響で向こうも苦しいみたいで、お祝いとかできる状態じゃないみたいです。それも何だか不憫で」
 
「妹さんの方はご結婚は?」
「してます。子供はいませんが。でも忙しいみたいで、月に2〜3度しか通って来ないんですよ」
 
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嵐を起こしたり、山を崩したりで忙しいみたいだもんね〜と志摩は思った。ここしばらくは伊予島(四国)の方で暴れているようである。
 
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神婚伝説・神社創始編(5)

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