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■神婚伝説・神社創始編(3)

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「志摩、戻って来たのね」
と言って母が泣いて抱きしめてくれた。
 
「待って、待って。お使いを完了させないと」
と言って、神社まで行き、禰宜や村長が見守る中、磐座の前に奥宮から持って来た鏡を奉った。
 
「なんて美しい鏡なんだ!」
「志摩、でかしたぞ」
 
「これはこの磐座の下に埋めればよいのでしょうか?」と志摩の父。
「鏡を安置するのに、祠(ほこら)を建てましょう」と禰宜。
 
「祠?何です?それは」
「最近、仏教の影響もあって、神を祀る建物を建る神社が出てきているのです」
「そんなものを神社の土地の中に建てていいんですか?」
 
それまで神社の敷地内では造作の類いは基本的にしないことになっていた。
 
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「御神託によって定められた様式があります。それに従って建てます」
「御神託で定められたのなら大丈夫なのでしょうね」
「それまでこの鏡は私の家で預かりましょう」
 
それで禰宜の指導のもと、神社の磐座の前に小さな祠が建てられた。志摩はその祠の形が美しいと思い、絵に描き写した。そして鏡がその中に納められた。
 

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その鏡が祠の中に納められた晩、志摩は夢を見た。
 
貴婦人のような出で立ちの女性が志摩の前に現れ、
「分霊を取ってきてくれてありがとう」
と言った。
 
「いえ。私はなすべきことをしただけです」
「あなたのような、か弱い娘に大変なことをさせてしまってごめんなさい。誰かに取ってきて欲しいとは思っていたのですが。この分霊が近くにあることで、私も力を発揮しやすくなります」
 
「わ?もしかしてこの村の神様ですか?」
 
「まあ、そのようなものかな。ところで、鏡を取ってきてくれる時に、ちょっと面白いふたりに出会ったようですね」
「ええ。楽しい兄弟でした」
「ああ、兄弟では無い。仲の良い友だち」
「そうだったんですか! 凄く仲が良さそうだから、兄弟とばかり」
 
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「兄弟ではないけど、あのふたりは那智の山奥でほとんど一緒に生まれたのですよ」
「那智って、山の向こうの」
「そうそう。あれこれ悪戯とかもして回っているようだけどね。そなた、あのふたりと関わりができたみたいだから頼みがあるのですが」
 
「はい」
「7年前ほどではないのだが、今年は雨が少ない。このままでは水不足になる。あなたが見つけてくれた地下水があるから、絶望的なことにはならないけど、それでも結構辛い。それであのふたりに、雨を降らせてもらえないだろうか」
 
「そんなことができるんですか?」
「あのふたりなら出来る。生憎、私は天候を操るような力は弱いのですよ」
 

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目が覚めてから志摩は夜中、念のため神社に行ってみた。夢の中に出てきた女性が微笑みかけるような気がした。
 
志摩は光理(ひかり)と愛命(あめい)を呼ぶ呪文を唱えた。
 
ふたりが姿を現した。
 
「こんばんは」
「こんばんはー。夜中にどうしたの?」
「女の子の身体になりたくなった?」
「おっぱい付けてあげようか?」
 
「うーん。それはその内頼みたいけど、今日はそういうことじゃなくて」
 
志摩は村が水不足になりそうなので、少し雨を降らせてもらえないかと頼んだ。
 
「あ、お安い御用」
「僕たち雨を降らせるの大好き」
 
「見物させてあげるよ」
と言って光理(ひかり)は志摩を抱き抱えた。そして一緒に天空へと昇って行った。きゃー!と志摩は思わず叫びそうになった。
 
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二人は龍の姿になっていて、志摩は光理(ひかり)の肩くらいの位置に跨がる格好になっていた。
 
「雲を呼ぶよ」
 
天空で大きな気の塊が動くのを感じた。凄い!
 
これは光理(ひかり)たちが動かしているのではない。気の塊を支配する節理の波動に働きかけているんだ。志摩はそう感じた。すると光理(ひかり)が
 
「正解。こういうものは強引に動かせるものではない。自然に動くように働き掛けるんだよ。物事って強引にしようとしてもダメ。自然にそうなるように促すものなんだよ」
 
やがて遠くから雲の塊が押し寄せて来た。雨が降る。凄い!
 
光理(ひかり)たちの下で雨雲から音を立てて雨が降っている。月の光に照らされて映し出される雨雲の上の様子が幻想的だ。何て美しいんだろうと志摩は思った。
 
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(そういう景色は現代になって飛行機が発明されるまでは、高山に登った修験者以外、誰も見ることのできなかった風景である)
 
「おお、かなり強く降ってるね」と愛命(あめい)。
「うん。これなら川が氾濫して、家や田畑も結構流されるかな」と光理(ひかり)。
「100人くらいは死ぬかなあ」
「もう少し行くかも」
 
志摩はびっくりした。
 
「ちょっとぉ、そんな田畑が流されたり、人が死ぬのはダメ〜!」
「なんで? 楽しいのに」
 
その時、志摩は神様には「善悪」というのが無いんだということに気付いた。神様というのは大宇宙の節理そのものなんだ。
 
「お願い、田畑や家が流されたり、人が死なない程度に弱めて下さい」
と志摩はふたりにお願いした。
 
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「そう?」
「じゃ、今度また一緒に遊んでよ」
「うん。遊ぶから、雨は少し弱めて」
「仕方無い。志摩が言うんなら、少し弱くするか」
「そうだね」
 
二人は大気の節理に再度働き掛け始めた。雨脚が弱くなるのを感じる。
 
「これで人は死なないはずだよ」
「まあ、家が1個流れるけど」
「その程度は愛嬌ということで」
 
うーん。まあそのくらいはいっかと志摩も思った。少しは「破壊」もしないと神様も楽しくないのだろう。
 
「この雨、どのくらいまで降るの?」
「7日降ったら止むよ」
「ありがとう」
 
「じゃ、志摩、ちょっと空を飛び回るのに付き合ってよ」
「うん」
「行くよ。飛ばすからしっかり掴まってて」
 
その夜、志摩はふたりに付き合って、北は天橋立、南は潮岬まで飛び回った。そして朝を二見浦で迎えた。夫婦岩の方向から朝日が昇るのを見た志摩は、ここは何て美しい景色なんだろうと感激した。光理(ひかり)と愛命(あめい)も見とれていた感じであった。
 
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「さ、帰ろうか。村まで送ってあげる」
「うん」
 

結構日が高くなり始めた頃に志摩が家に戻って来たので、母は
「お前、どこに行ってたの?」
と訊いた。
 
「あ、えっと・・・友だちと一緒に居た」
「友だちって・・・・女の子?男の子?」
「うーんと・・・・男の子かな」
 
「へー!」
と母は何だか嬉しそうな顔をした。
「まあ、あんたくらい可愛ければ、それもありだよね。その子から何か言われた?」
 
「あ、えっと、今夜は何も言われてないけど、こないだ会った時は、私がお嫁さんに行けるくらいの年になったら、お嫁さんにしてあげてもいいよって」
「へー、それは目出度い。志摩、きっとお嫁さんになっちゃうかもと私は思ってたよ」
「えへへ」
 
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「でも、凄い雨だよね。濡れなかった?」と朝食の席で母は言った。
「うん。濡れないような所で遊んでたから」
「そう。それは良かった」
 
母はどこかの屋根の下にいたのだろうと思ったようであった。まさか雲の上にいたとは思うまい。
 
「しかしこの雨は助かる。また旱(ひでり)になるのではと少し心配していた」と父。
「でも昨夜は一時期凄い降り方でしたね」
 
「うん。今朝連絡があったけど、**さんの家が流されたらしい。家族は全員逃げて無事だったらしいけど」
「無事だったら良かったですね」と母。
 
「でもこの雨、いつまで降り続くんだろう。数日止みそうにもないけど」と父。
 
「7日たったら止むよ」と志摩は言った。
「へー!」
 
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「鏡をきちんと祠に納めたとたんのこの慈雨。やはり鏡を持って来たのが良かったのでしょうね」
 
村の主だったものの集まりで世話役の一人が言った。
 
「7年前の旱の時も志摩ちゃんが地下水を見つけてくれた。今度は鏡を取ってきて、雨を呼んでくれた。志摩ちゃんはこの村の守り神ですね」
 
「それでですね」
と禰宜(ねぎ)が言う。
 
「御神託で言われたことを志摩ちゃんは成就したので、秋の祭の巫女舞では扇の要(かなめ)を舞ってもらいますが、要を舞った子はどっちみちその年で巫女舞からは引退する決まりになっています。その後なのですが、年明けてからでもいいので、志摩ちゃんに神社の成年巫女になってはもらえないかと思うのですが」
 
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「ああ、それは良い」
「志摩ちゃん、失せ物とか見つけるのも得意だし」
「うんうん。うちも何度かお世話になった」
「あの子、病気を治したりもできますよね。うちの婆さんが昨年危なかったのを志摩ちゃんのお陰で乗り切った」
 
集会で、志摩の巫女就任には異論が出なかった。もはや誰も志摩が男の子だとは考えていなかった。
 
「あの子、声変わりも来る気配が無いし」
「むしろ女らしくなって来た感じですよね」
「いや、私でさえあの子、本当は女の子なのではと思いたくなる感じです」
と志摩の父まで言う。
 
「ところでこの雨、どのくらい続くのでしょうね。あんまり良く降ってるから、降りすぎると、今度は日照不足にならないかと心配で」
 
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と一人が言った。すると志摩の父は答えた。
 
「志摩は7日で止むと言っています」
「ほほぉ!」
 
そして雨は本当に7日で止み、またまた村人の志摩に対する信頼は高まった。
 

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それで秋のお祭りでは、志摩は扇の要(かなめ)の位置で巫女舞を舞った。要を舞った娘はその年限りで引退する決まりなので、これが志摩の最後の巫女舞ということになる。
 
その年、志摩が舞う姿はとても神々しく、見物していた村人たちは思わずひざまずいて、その姿に見とれていた。
 
「あんな美しい舞は、生まれて初めて見た」
「やはり志摩ちゃんって、神に愛された子なんだ」
 
志摩は巫女舞からは引退したものの、年明けて13歳になったのを機に、村人たちの同意にもとづき、神社に成年巫女として奉職することになった。志摩が日々の儀式をこなしていると、「神様のご機嫌が良い」ことに禰宜は気付いた。この娘、本当に神様に愛されているんだなと彼は思った。
 
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志摩のことは村の青年達の間でもしばしば話題になった。
 
「志摩ちゃん、本当に女らしい」
「全然男っぽくならないよね」
「志摩ちゃん、まだあそこの毛も生えてないらしいよ」
「神様に愛されて、娘の姿のまま留め置かれているのかも」
「志摩ちゃん、美人だし、いっそお嫁さんに欲しいかも」
 
実際に志摩の所に夜這いに来る男たちも居たが、志摩はごめんなさい。心に決めた人がいるのでと言って断っていた。しかしラブレターの返事は丁寧に書いていたので、その文の交換だけを楽しみにしている男達もいた。志摩もそういう交流では少し心が火照るような気分であった。
 

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2年後658年、斉明天皇4年。志摩は十五歳になる。当時としては成人年齢である。男子であれば冠を付け男子の礼服である袍(ほう)を着て、親戚や村の顔役たちに挨拶に回るところであるが、志摩は他の女子と同様、髪に笄(こうがい)を付け、女子の礼服である裳(も)を着て、挨拶回りをした。
 
そして内輪の宴などもした。二人の兄も奥さんや子供を連れて来て祝ってくれたし、昨年お嫁に行っていた姉の夏衣も夫と伴に実家に戻り「妹」の成人を祝ってくれた。
 
「いや、志摩ちゃん、袍を着るのか裳を着るのかって、疑問に思ってたけど、裳でいいと思うよ」
と夏衣の夫も言ってくれた。
 
「まあ、この子はこういう子なんでしょうね。志摩に袍を着せた所を想像したら私笑っちゃった」
などと母は言っていた。
 
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ふたりの兄の奥さんたちは小さい頃の志摩と一緒に神社などで遊んだ仲であったが、「志摩ちゃん可愛い。やはり志摩ちゃんは女の子として成人しちゃったね」
と優しく言ってくれた。
 

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その成人式の夜、宴が終わって、裳を脱ぎ、普段着になってから自分の部屋に戻ると、光理(ひかり)が来ていた。
 
「いつ来たの?」
「さっき。これ男たちから来た恋文?」
 
と言って、志摩に言い寄ってきた男達からのラブレターを読んでいる。
 
「勝手に見ないでよ。人の手紙を」
「志摩、こんなのに返事書いてたの?」
「だって折角お手紙くれたのに返事しないのは悪いと思って」
 
「もう返事する必要はない。これ全部燃やしちゃうよ」
と言った次の瞬間、恋文の束は一瞬にして燃え上がり、灰になってしまう。
 
「あ・・・・」
「必要だった? 僕が居るというのに」
 
志摩は微笑んで首を振った。
 
「ううん。要らない。ひかちゃんがいれば何も要らない」
 
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「志摩、今日大人の女になったんだろ? もう結婚できるんだよね?」
「うん」
「じゃ、僕と結婚してよ」
 
「私・・・の身体があれであることを承知で?」
「どうせ僕、マグワイ(性交)できないからね」
「ああ、そんなこと言ってたね!」
 
「返事は?」
 
志摩は微笑んで光理(ひかり)の目を見つめて答えた。
 
「謹んで、お受けします。あなたの妻にしてください」
「よし」
 
ふたりは抱き合った。
 

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神婚伝説・神社創始編(3)

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