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ある時、志摩は自宅で、佐都が垣根越しにボーイフレンドと歌のやりとりをして遊んでいるのを微笑ましく見ていた。あまた居た佐都への求愛者の中で最終的に佐都の心を射止めたのは、平凡な農家の青年だった。やや華奢ではあったが、とても真面目な男であったので、みんなが応援してくれていた。
いつの間にかそばに光理(ひかり)が来ていた。
「なんか、ああいうのいいなあ。私も子供が産めたら娘のあんな様子を見ることができたのかなあ」
などと志摩は言った。
「ん?志摩、子供が欲しいの?」と光理(ひかり)。
「女として生きるんだということを心に決めた日からそれは諦めてるけどね」
と志摩。
「なぜ諦めるの?」
「だって私は子供産めないし、生ませる機能は放棄したし」
「ああ、男の機能は預かってるだけだから、戻せば使えるよ」
「へ?」
「戻してあげようか?」
「で、でも、私には光理がいるから、他の女の人とマグワイするなんて、したくないよ」
「だから僕とすればいい」
「え?」
「僕は元々性別が無いから、いつもは男の格好してるけど、女にもなれるよ」
「でも生殖能力は封印されているのでは?」
「封印されているのは男としての生殖能力だけ。女としての生殖能力はいつでも使える」
と光理(ひかり)は言う。
「えーーー!?」
「だから、志摩が男に戻って、女の僕とマグワイすれば、ちゃんと子供はできる」
「全然知らなかった」
「やってみる?」
「で、でも私、男としてまぐわいするなんて、できるかしら?」
「志摩、僕がタマタマを取っちゃう前、ひとりでおちんちんを大きくして遊んだりしてた?」
「してない。したくなった時期はあったけど我慢した。だってあんなのに触りたくないもん」
「僕のにはいつも触ってるじゃん」
「好きな人のには触れるけど、自分のには触りたくないよぉ」
「そっかぁ。そういう経験が無いんなら、いざ男に戻しても、ちゃんとできないかも知れないなあ」
「なんか、そんな気がする」
「それにあれだよなあ。志摩を男に戻しちゃうと、男みたいな声になっちゃうし、ヒゲも生えてるだろうし、胸とか足とかにも毛がうじゃうじゃしてるだろうし、そういう志摩は見たくない気がする」
「ちょっと待って。私が男に戻るとそうなっちゃうの?」
「そうだよ。そうならないようにタマタマを取っちゃったんだから、戻せば、最初からずっとタマタマがあったかのような身体に変化してしまう」
「いや!それ絶対いや!!!」と志摩は言う。
「うん、僕もやはり嫌だって気がしてきた」と光理(ひかり)も言う。
「じゃ、やはり子供は諦めるかなあ・・・・」
志摩は少し疲れたように言った。そんな志摩を光理(ひかり)はじっと見つめていた。
「どうしても、志摩、子供が欲しい?」
「どうしてもという訳じゃないけどね」
「じゃ、こうしようか。志摩からタマタマだけ預かってるけど、おちんちんも僕にちょうだいよ」
「うん。おちんちんは別に要らないから、あげるよ」
「それでさ。僕が志摩のおちんちんとタマタマを使って、志摩とマグワイする」
「え?」
「だから志摩をもう完全な女の子に変えてしまう。変えられるの嫌?」
「ううん。むしろ変えられたい」
「じゃ、問題なし。それなら、マグワイできるね」
「ちょっと待って。それだともしかして、私、自分のおちんちんで、自分のツビ(女性器のこと)とマグワイすることになるの?」
「ああ、それやると、志摩と志摩の間の子供が出来ちゃうね。どうせなら僕と志摩の間の子供が欲しい」
「私もそうしたい」
「じゃ、こうしよう。マグワイする時だけ、僕のツビを志摩に預ける」
「へ?」
「だから、僕の身体に付いている志摩のおちんちんと、志摩の身体に付いている僕のツビとでマグワイする」
「ちょっと面白いかも。でもそうすると、どちらが妊娠する訳?」
「えっとね。妊娠するのは僕のツビだから、僕の身体に戻しちゃうと僕が妊娠するけど、志摩に預けたままにしておけば、志摩が出産することになるね」
「ふーん。私出産してみたいな」
「じゃ預けっぱなしにするか」
「でも妊娠中はたぶん私、巫女の仕事ができなくなるよね」
「ああ、その間は巫女の仕事は、佐都にさせよう。あの子、充分霊的な力を持っているよ。志摩ほどじゃないけどね。不足する部分は僕も愛命(あめい)もサポートするし」
「そうしようか」
その話を夏衣と佐都にしたところ、佐都は志摩の妊娠中の巫女代行はやってよい。むしろやってみたいと言った。佐都は今付き合っているボーイフレンドとそう遠くない時期に結婚しようかというのも考えていたのだが、志摩の出産まで待ってくれることになった。その件は彼の方にも話して了承を得た。
「ふーん。じゃ、とうとうあんた本当の女になっちゃうんだ?」
と夏衣は志摩に言った。
「うん。やっと完全な女にしてもらえることになった」
「あんた、やはり男っぽい身体にならなかったのは、色々してもらってたからなのね?」
「うん。12歳で光理(ひかり)と出会った時に、タマタマは取ってもらったから」
「ああ、なるほどね。おっぱいはいつ作ってもらったんだっけ?」
「成人式の日だよ。そしてその日、光理(ひかり)と結婚した」
「なるほど、結婚するのに胸を大きくした訳か」
「うふふ」
「そして子供を産むのに、完全に女にしてもらうのね」
「うん。産むの大変そうだけど頑張る」
「すっごく痛いから」
「うーん。覚悟はしてるけど、大変だろうな」
「まあ、頑張りな」
「ありがとう」
そして、その夜になった。
「じゃ、志摩、完全に女の子にしちゃうよ。もう男の子には戻れないよ」
「うん、それでいい」
次の瞬間、志摩のお股から、長い間志摩にとって大きなコンプレックスの元にもなっていた、男の子の印が消滅し、女の形に変化した。わぁ・・・ちょっと感激。
「じゃ、僕のツビをそちらにくっつける」
「うん」
何かが光理(ひかり)から飛んできた気はしたが、身体の外見に変化は無かった。
「えっと僕の方は・・・・今志摩のおちんちん・タマタマと自分のおちんちん・タマタマがあるから、何だか面倒くさいな。間違わないようにつないで。よし、これでOK」
神様もなにやら大変な様子である。
「じゃ、マグワイしよう」
「うん」
ふたりは口付けして一緒に寝具の中に入った。
いつものように抱き合うが、抱かれていて志摩はそれまで感じたことの無かった感覚が湧いてくるのを感じた。わあ・・・これが女の感覚なのかなあ・・・
そしてやがて熱く太いものが身体の中に侵入してくるのを感じる。きゃー。なんか凄いよぉ、これ。ちょっと気持ちいいじゃん!
熱い時間はあっという間に過ぎて行った。志摩は放心状態で身体を横たえていた。光理(ひかり)と出会ってから19年、結婚してから16年にして初めてふたりは真に結ばれたのであった。考えてみると、今日のような結合は今まででもいつでも出来たはずなのに、こういうことを思いつかなかったのも不思議だなという気がした。志摩はとても幸せな気分だった。
志摩は妊娠した。正確には志摩の身体に預けられている光理(ひかり)の女性器が妊娠したのである。要するに、今志摩の身体の中には女性器が2系統あるということらしかった(但し外陰部は重ね合わせていると言われた)。光理(ひかり)の方も男性器が2系統あり、片方は機能が封印されているが、片方は使用可能である。
「入れ方を間違わないようにしないと、下手すると、志摩、両方のツビで妊娠しちゃうな」
と光理(ひかり)は言う。
「それはさすがに勘弁して〜」
そんなことをいいながら、二人は妊娠中のマグワイを楽しんだ。
志摩と夏衣の「夫」がふたりとも都の貴人である、というのは以前から村人には示唆していたので、志摩が妊娠しても変には思われなかったし、妊娠中は佐都が巫女の仕事を代行しますし、重要な問題については志摩もちゃんと対応します、ということで了承してくれた。
ところで、志摩は女の身体になって間もなく、月経が来るようになった。最初あそこから血が出てきた時は驚いたし、お腹の中の子に異常でも起きたかと思いヒヤっとしたが、志摩は女性器を2系統持っているので、その片方が妊娠中であっても、もう片方は普通の状態なので月経が起きるのである。
月経の始末の仕方、期間中の過ごし方は夏衣から教えられたが、夏衣は
「これが来るということが女の証なのさ」
と言った。そう言われると、志摩はちょっと嬉しい気がした。月経自体は辛いんだけど!
「でもこれ、私、出産が終わったら2系統の女性器が各々勝手に月経を起こして月に2回ずつ月経になったりしないかしら?」
などと志摩は心配したが、光理(ひかり)があっさり否定する。
「月経ってさ『うつる』んだよ。今志摩は月経が始まったばかりだから独立して動いてるけど、その内、夏衣ちゃんと同じ周期になっちゃうから。志摩のふたつの女性器もお互い影響しあって、連動して月経を起こすようになる」
「ちょっと待って。それって、もしかして月のものの痛みも倍あるのでは?」
「まあ、頑張ってね」
「きゃー」
幸いにも妊娠中大きな問題は起きず、無事、675年(天武天皇4年)乙亥年、志摩と光理(ひかり)の間の娘・瑞葉(みずは)が生まれた。
瑞葉(みずは)は佐都にとっては従妹になるが、14歳も年下の従妹で、ほとんど自分の娘のように可愛がってくれた。恐らく数年後に佐都も赤ちゃんを産めば、この子と姉妹あるいは姉弟のようにして育つのだろう。
しかし出産は大変だった。夏衣は「痛いし苦しいから覚悟してなさい」と言ったがほんとに辛かった。最初少しあった羞恥心とかはどこかに行ってしまった。
身体のバランスが保てず、これ死ぬのでは何度も思った。それは喩えれば・・・でっかいウンコがなかなか出てこなくて、苦しむような感覚だった!
陣痛は明け方頃始まり、丸1日苦しみ続ける。我ながらよくここまで苦しんでも死なないものだと自分を見直す気にさえなる。夏衣、そしてそろそろかもということで数日前から来てくれていた母、更には女性体に示現した光理までも手を握ってくれたり、お腹をさすってくれたりする中、結局真夜中にやっと出てきて「おぎゃー」という声を聞いた時は・・・・
終わった!
疲れた!
眠りたい!
と思った。「女の子ですよ」と産婆さんから言われて、すぐに抱っこさせてもらって、おっぱいに吸い付かせたものの「眠いー」と言ったら、「うん、寝てなさい、寝てなさい」と言われ、ほんとに眠ってしまった。
お乳も最初はほんとにちょっとしか出なかった。お乳がよく出るようにというので、産婆さんから乳房を無茶苦茶揉まれて、思わず「いたたたたた!」と悲鳴をあげてしまった。お股の方は出産時にあちこち破れまくっていて、座ることもできない状態の中、乳房も産婆さんに揉まれ、赤子にきつく吸い付かれ自分という存在がどこにあるのか定まらないような気持ちになった。
実際この時期、志摩の魂はけっこうフラフラしていたようで、光理(ひかり)が
「おーい、ちょっと魂が身体とずれてるぞ」
と言って、手で押さえてきちんと「中心合わせ」してくれたりもしていた。
「痛かった?」と光理。
「痛かったよー、というか今でもずっと痛い」
「辛かった?」
「辛かった、というか今でもまだ辛い」
「良かった−。僕が自分で産まなくて」
「うん。私が産みたいって言ったんだもん」
光理(ひかり)はこういう出産の時の痛さに効くという薬草を採ってきてくれて、それを飲むことで結構改善される感じはあったものの、それでもお産自体の傷が癒えるのに1ヶ月以上掛かった。その間、志摩はほとんど寝て暮らしていた。当時はトイレに行くのも辛かった。