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■女たちの結婚事情(8)

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2021年4月。
 
京平は幼稚園の年長さんになった。貴司は1年ぶりにバスケット活動に復帰したが、板橋の練習場や、浦和の一軒家に作り込んだ練習場でかなり千里と練習を重ねていたことから
「31歳とは思えない動きの良さだ」
と監督に言ってもらえた。今年はコロナによる長期間の活動自粛の影響で思ったように身体が動かない選手が多い。
 
「心は21歳で頑張ります」
「うん。頑張ってね」
 
貴司は「自分は新入りだから」と言って、積極的に雑用を引き受けたので、チームメイトからも暖かく受け入れてもらった。
 

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そして千里は昨年はコロナの影響で月給15万(年俸180万)に抑えられていたのが、今年は昨年のお詫びと期待料も含めて90万(年俸1080万)に増額してもらった。
 
「今年は東京オリンピツクもあるし、頑張ってね」
と監督は言っていた。
 
年俸が1000万円を超す国内の女子バスケ選手は千里の他には数人しか居ない。その中の1人が千里の永遠のライバル・佐藤玲央美である。ふたりは日本のリーグと同時にフランスのリーグにも属している(向こうの方が給料も高い)が、昨年はふたりともどちらの国でも活動できなかった。
 
そして千里はレッドインパルスのキャプテンに任命された。
 
千里が「キャプテン」なるものをやるのは実に初めてである。千里は中学でも高校でもキャプテンはしていないし、ローキューツではキャプテンは石矢浩子、40 minutesではキャプテンは秋葉夕子が務めていた。実はキャプテンにされそうになる前に逃げ出していた。
 
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「えー!?私、人望無いですよぉ」
と言ったのだが
 
「世界の3P女王が何言っている?」
と今季から引退してコーチ登録になった前キャプテン・広川妙子(36歳)が言う。広川は年齢は36歳でも動きはまだ20代だ。しかし昨年1年間コロナで試合から遠ざかり、実戦感覚を取り戻しきれないと自覚して引退した。
 
「私より年上の人もいるし」
「でもチームに加入してからは6年経ってる」
「サンは敵を作らない性格だからキャプテンにいいと思う」
「絶対に諦めない性格もいいよね」
「単に諦めが悪いだけなんだけど」
 
「みんなサンのこと尊敬してますよ」
と28歳のポイントガード湊川妃菜乃は言った。(サンは千里のコートネーム)
 
「尊敬してるし頼りにしてるよね。負けててもサンが居るから絶対挽回できると信じてプレイしてるもん」
と26歳のスモールフォワード鹿島深月。
 
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「前半30点差付けられたのひっくり返したこともありましたね」
と23歳のセンター春野さくら。
 
それで千里は初めてのキャプテンを潔く(?)引き受けたのであった。
 

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2021年4月上旬、阿倍子さんのお母さんから電話があり、阿倍子さんが5日に子供を出産したと報せてきた。
 
「京平にも関わることだから伝えておかないといけないと思って」
とお母さん。
 
「おめでとうございます。男女どちらでした?」
「男の子でした」
「じゃ、賢太君たちにとっても、京平にとっても弟ですね」
「ええ。でも私、孫たちの相互関係がなんだかよく分からなくなって来た」
 
「ああ。取り敢えず全員『孫』という分類でいいですよ」
「そうよね!」
 
「でも千里さんと貴司さんが再婚したと阿倍子から聞いて私はびっくり」
「すみませーん」
「私、最初、抗議すべきじゃないかと阿倍子に言ったら、慰謝料を4000万円増額するというので手を打ったと言われて。そんなに払ってくれるのならいいかと思って」
 
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この人もなかなか正直だ。
 
「まあそれで結局は2012年春の状態に戻っただけです」
と千里は言う。
 
「その話も私、今回初めて聞いたの。元々あなたと貴司さんが婚約して式場も予約していたところに阿倍子が割り込んだのね」
 
「ええ。でも古い話ですよ」
「なんかそれだと阿倍子の方が慰謝料払わないといけなかったんじゃないかいう気もして」
「その時、私が慰謝料もらってたら、私と貴司の復縁は無かったでしょうね」
「そうかもね。でもたぶん千里さんが貴司さんと切れてたら、阿倍子と貴司さんの結婚生活は1年もってなかったかもと阿倍子が言ってました」
 
「私が貴司の浮気をことごとく潰してましたからね。こちらとしてはこれ以上ライバル増やされてはたまらんから排除しながらドロップキャッチ狙いだったのですが、美事最後は他の子にさらわれたから、私も間抜けです」
 
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と千里も苦笑いしながら答えた。
 

その日はお昼くらいに高岡から桃香の母・朋子が出てきた。
 
「あら、桃香は?」
「買物に出てるんですよ。夕方までには戻ると言ってました。貴司さんは試合です」
「へー」
「実際には桃香さんは秋花ちゃんとのデートだと思いますが」
と千里が言うと、朋子は顔をしかめる。
 
「あの子、まさか新婚早々浮気してんの?」
「昔から桃香さんは土日は他の女の子と会ってますけど、私は見ぬ振りしてます」
と千里は言う。
 
「ごめんねー。節操の無い子で」
「そういうのも含めて好きになったから」
「達観してるね!」
 
「青葉、忙しいんでしょ?」
と千里は訊く。
 
「そうそう。無茶苦茶忙しそう。オリンピックまでは全く時間がなくて、テレビ局にも全く出社できない状態が続いているみたい」
「まあオリンピツクまではどうにもなりませんね」
 
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しばらく朋子は千里と話していたのだが、やがて顔をしかめる。
 
「あんた本当に千里ちゃんだっけ?」
「すごーい。お母さんは分かるんですね?。桃香さんにはバレたこと無いのに」
「あの子、勘が悪いもん。あんた誰?」
「きーちゃんとでも呼んで下さい。私は本当は千里の守護神です」
 
「精霊みたいなものかな?」
 
「まあそんな感じですね。できたら青葉さんや桃香さんには内緒で」
「うんいいよ」
 
「私はある人から千里を守護するように命じられています。子供の世話なんてのは、本来サービス品目に入ってないんですけど、便利に使われていますね。本物の千里はついさっきバスケットの練習に出て行ったんですよ」
 
「へー。きーちゃんか。いや以前から千里ちゃんって何人かいるのではという気がしてた。おっぱいあげてるのは本当の千里ちゃんで、絶対にあげないのが身代りだ」
 
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「着眼点がいいですね。私は赤ちゃん産んでないから、おっぱいは出ません。あとさすがにバレるから私は青葉さんの前には出ませんよ」
 
「なるほど。でも千里ちゃんは赤ちゃん産んだんだっけ?」
「ふたり産みましたよ」
「どの子とどの子?」
「それは言ってはいけないことになってるので」
「まあいいや」
 
「その付近、千里本人もよく分かってないんですけどね。この4人の子供の中には桃香さんの遺伝子上の子供が2人、貴司さんの法的な子供が2人いますが、4人とも実は何らかの形で千里の子供なんですよ」
 
「へー!」
「千里は桃香さんの妻と貴司さんの妻を兼ねているから」
「なるほど、それはそれで合理的だ!」
 
「早月ちゃんが産まれた頃に、千里と桃香さんは、親って何だろう?って議論していたんですよね。法的な親・制度としての養親、遺伝子上の親、出産した母親。いろいろあるけど、結局は育てた人が本当の親なんじゃないかって結論に達したんですよ。千里と桃香さんはこの4人を育てて行くから、ふたりがこの4人の親だってふたりは思っています」
 
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といいながら、《きーちゃん》は早月は多分離脱かな?と思っていた。由美についてはどうするのだろうか?
 
「貴司さんは?」
「子育てに参加する意志がまるでないですね」
「ああ、男ってそんなものか」
「ですです」
 
「でも親とは何かという問題は青葉見ていても思ったなあ」
「あの子、あまり語らないけど、きっと悲しい思いをたくさんしてきているでしょうね」
 
「でもさっきから見てるけど、緩奈ちゃんはどこをどう見ても女の子だね」
「でしょ? 緩菜の戸籍上の性別なんて、誰も忘れてますよ」
 
と言いつつ《きーちゃん》は自分が“実行犯”なので、少し後ろめたい。
 
「私はその付近の問題については桃香でそもそも常識をぶち壊されて、青葉と千里ちゃんも見ていて、理解せざるを得なくなったけど、世間ではなかなか理解されないよね」
 
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「まあでも理解してくれる人が増えてきただけ、少しだけ居心地が改善されたかも」
 
結局、朋子は本物の千里が帰ってくるまで孫たちと遊んでいた。千里(千里A)は朋子が来ているとは知らずに玄関を開けてしまい、朋子と千里Bが並んでいるのを見て「きゃーっ」と叫んでしまったが、朋子は
 
「本物の千里ちゃん、練習お疲れ様〜、きーちゃんと一緒に御飯作っておいたよ」
と笑顔で言った。
 

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4月下旬、千里が日本代表の合宿を終えて帰宅すると、庭にプランターが並んでいて、桃香が水をあげていた。
 
「あ、お帰り。お疲れ様」
「桃香、お花でも植えたの?」
「そうそう。緩菜がさ『お花ほしい』と言うんだよね。切り花買ってきてみたんだけど、どうも違うみたいで、それで京平が緩菜のことばを翻訳してくれたのでは、お花を育てたいということみたいなんだよ。それでプランターと土と種と活力剤と買ってきた。
 
「それはいいけど、桃香育てられるの?私、桃香が鉢植えとかでも育ててる所見たことない」
「うん。私も自信無い。千里は?」
 
「私はサボテンを枯らす女だよ」
「それではお先真っ暗だ」
 
「じゃ緩菜が言い出したんなら、緩菜を水やり係にするといいよ」
「そうするか」
「京平は緩菜を管理する係で」
「ああ、それがいいかも」
 
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「たぶん早月や由美はこの手のものダメって気がする」
「ああ、するする」
と言ってから桃香は
「それ、私の娘はダメってことか?」
などと言っていた。
 

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「でもなんで緩菜はお花を育てたいとか言い出したのかね?」
とお茶を飲みながらクッキーを摘まみつつ話す。
 
すると京平が
「かんな、たねまいてそだてたいといった」
と言う。
 
千里は、波留のお姉さんが、信次は死ぬ直前にあちこちの女に種を撒いたなどと言っていたことを思い起こした。
 
「自分が子供を残せないことを知ってて、代わりに花を育てたいのかもね」
と貴司が言う。
 
「そうだね。男の子なら自分の子供を産めないから」
 
千里の微妙な言い方に貴司も桃香も気づかなかった。
 
「クロスロードには、和実にしても冬子にしても千里にしても自分の子供を作った非常識な男の娘が多い」
と桃香が言う。
 
「和実ちゃんって、男の娘なのに子供2人産んだんだっけ?」
と貴司。
 
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「そうそう。ひとりは代理母だけど、ひとりは自分で産んだ」
「それって実際には半陰陽だったわけ?」
 
「あの子はハイティング陰陽と自分では言ってたね」
「何それ?」
と貴司。
 
「説明を聞いたけど分からんかった」
と桃香。
 
「だけど最近は体外受精とか代理母とかで、出産した人が必ずしも遺伝子的に母とは限らなくなってしまったよね」
と貴司が言う。
 
「うん。そういう事態を想定していない民法は前提が崩れている」
と千里が言うと、桃香が
 
「遺伝子上の母と出産の母を区別すべきなら、遺伝子上の父と突っ込んだ父を区別すべきかもね」
などと言い出す。
 
「何それ?」
「だって女の股から出てくるのの反対は、女の股に突っ込んだのだろ?入れたから出てくるんだよ」
と桃香。
 
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「うーん・・・」
 
「でも桃香さん、射精した本人と精子の所有者が違うってことあるんですか?」
「出産した本人と卵子の所有者が違うことがあるんだし」
 
「状況を想像できないなあ」
と貴司は言った。
 
この時、千里は桃香の言葉を理解できなかった。
 
 
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